産業医に不満があって変更したいのに、期限と報告先が分からず、動き出せずにいませんか。
産業医を変更するときに事業者が行う手続きは、後任の産業医の選任、労働基準監督署への報告、衛生委員会への報告の3つです。後任の選任は、辞任や解任などがあった日から14日以内に行う決まりです。
ただ、手順を知っていても迷いやすい点があります。たとえば、選任の期限を数え始めるのはいつなのか、2026年8月から義務になった辞任・解任・退任の報告(辞任等の報告)は後任の選任報告とどう関係するのか、衛生委員会には何を報告するのか、といった点です。
この記事では、産業医の変更を考える主な理由から、3つの手続きの期限と報告先、引き継ぎ、後任選びのポイントまでをご紹介します。
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この記事でわかること
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【1】産業医の変更で事業者が行う3つの手続き -
【2】後任の選任期限と、選任義務の対象になる事業場 -
【3】労働基準監督署への報告(選任報告と、辞任・解任・退任の報告〔辞任等の報告〕)の内容と、電子申請の扱い -
【4】衛生委員会への報告の内容 -
【5】引き継ぎで確認しておきたいことと、後任選びのポイント
産業医を変更するときに必要な手続きは3つある
産業医を変更するときに事業者が行う手続きは、後任の産業医の選任、労働基準監督署への報告、衛生委員会への報告の3つです。産業医が辞任したときや事業者が解任したときに、この順番で進めると、何をいつどこへ出すのかの見通しが立ちます。
労働基準監督署への報告には、後任を選任したときの選任報告と、産業医の辞任等(辞任・解任・退任)があったときの報告があります。これらの報告は、労働安全衛生規則第13条と、辞任等の報告について示した厚生労働省の基発0428第4号で義務として定められています。宛先ごとに期限や内容が異なるため、担当者が一人で全体を管理しようとすると負担が大きくなりやすい部分でもあります。

(図:産業医の変更で事業者が行う3つの手続き)
(編集部作成)
産業医を交代したいと考える主な理由
産業医の交代を考えるきっかけは、大きく2つに分けられます。1つは、期待した職務を担ってもらえないこと、もう1つは、企業の課題や進め方が産業医と合わないことです。交代を考えた理由を整理しておくと、後任に求めることも言葉にしやすくなります。
面談やストレスチェックの実施者など、期待した職務を担ってもらえない
面談を先延ばしにされる、職場巡視に来てもらえない、ストレスチェックの実施者を引き受けてもらえない。こうした場面で、産業医の交代を考える方もいるのではないでしょうか。
まず押さえておきたいのは、面接指導を実施する義務は産業医ではなく事業者にあることです。労働安全衛生法第66条の8第1項は、事業者が、厚生労働省令で定める要件に当てはまる労働者に対して、医師による面接指導を行わなければならないと定めています。
面接指導の対象は、原則として、休憩時間を除いて1週間当たり40時間を超えて働いた時間が1か月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者です(労働安全衛生規則第52条の2第1項)。
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に定められています。健康診断の実施とその結果に基づく措置、面接指導、ストレスチェック、作業環境の維持管理、作業の管理、労働者の健康管理、健康教育や健康相談、衛生教育、健康障害の原因の調査と再発防止などが挙げられており、いずれも医学に関する専門的知識を必要とする事項です。
ストレスチェックの実施者になれるのは、労働安全衛生規則第52条の10第1項の列挙によると、医師、保健師、そして検査に必要な知識についての研修(厚生労働大臣が定めるもの)を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師です。実施者になれる人の範囲は産業医に限らないため、産業医以外の人が実施者になる場合もあります。
面接指導の実施義務は事業者にあるため、産業医が動いてくれないときは、代わりの手配や日程の調整を人事労務担当者が抱え込みやすくなります。
企業の課題や進め方が産業医と合わない
産業医にも専門分野があり、精神科や内科など、これまでの経験は人によって異なります。そのため、企業が求める職務の内容と、産業医の経験が合わないことがあります。
また、企業の方針や進め方を産業医に伝えきれず、意思疎通が一方通行になってしまう場合もあります。後任選びを焦って進めると、同じようなすれ違いが起こりやすくなります。前任とのすれ違いを言葉にしておくことが、次の選任での確認事項になります。
産業医が役割を果たせていないと感じるときの整理は、産業医への不満の整理の記事で詳しく解説しています。
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後任の産業医は14日以内に選任する
産業医を選任すべき事由が発生したら、その日から14日以内に後任を選任する決まりです。労働安全衛生規則第13条第1項第1号が、この期限を定めています。3つの手続きのうち、日数が決まっているのはこの選任です。
選任していた産業医が辞任したときや、事業者が解任したときなど、辞任等があった場合は、辞任等があった日から14日以内に新たな産業医を選任する必要があります。厚生労働省のリーフレットにも、そのように示されています。
選任義務の対象は、労働安全衛生法施行令第5条が定める、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。
14日の間に、後任の候補を探し、条件を調整し、選任まで終えるとなると、前任への連絡と並行して動くことになり、慌ただしくなりがちです。
労働基準監督署へ産業医の変更を届け出る
後任を選任したら、遅滞なく(遅れることなく)、所轄の労働基準監督署長(事業場を管轄する労働基準監督署の長)に、産業医の選任報告を出さなければなりません。労働安全衛生規則第13条第2項の定めで、電子申請で行うのが原則です。
報告には、医師免許証の写しなどを添えます。あわせて、後任が産業医の要件を満たしていることも必要です。要件は労働安全衛生規則第14条第2項に定められており、厚生労働大臣が指定する法人の研修の修了者や、産業医科大学などの卒業者、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)の合格者などが当てはまります。
選任報告の様式は、厚生労働省が公表しています。記載項目の細かい内容と書き方は、産業医の選任報告の書き方と記入例の記事で詳しく解説しています。
辞任・解任の報告も2026年8月1日から義務になっている
産業医の辞任、解任、退任があった場合に、事業者が労働基準監督署へ報告する義務は、2026年8月1日(令和8年8月1日)から生じています。厚生労働省の基発0428第4号は、この報告を新たに義務づけるものとして示しており、改正省令の施行日を令和8年8月1日としています。
報告するのは事業者で、報告先は所轄の労働基準監督署長です。遅滞なく、電子申請で、産業医の氏名や辞任等の年月日などを報告します(労働安全衛生規則第13条第5項)。後任の選任報告だけでなく、辞任等の報告も対象になります。
後任の選任報告と同時に提出すれば辞任等の報告は不要
後任の選任報告と辞任等の報告を同時に行う場合、辞任等の報告は不要です。厚生労働省のリーフレットでは、辞任等の報告は令和8年8月1日から義務づけられるものの、新たな産業医の選任と前任の辞任等を同時に報告した場合は、これまでと同様に辞任等を別に報告しなくてよいと示されています。
労働安全衛生規則第13条第5項にも、後任の選任報告をもって辞任等の報告に代えることができるという定めがあります。後任が決まった状態で交代するなら、新たな産業医の選任と前任の辞任等を同時に報告する、と整理しておくと分かりやすいでしょう。
産業医の選任報告は電子申請が原則
産業医の選任報告は、2025年1月1日から、電子申請が原則として義務になっています。厚生労働省の案内では、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者と並んで、産業医の選任報告が対象に挙げられています。
電子申請は、e-Gov電子申請のほか、厚生労働省の入力支援サービス(労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス)からも申請できます。
書面で提出できる経過措置もあります。令和6年厚生労働省令第45号の附則第2条は、改正前の労働安全衛生規則第13条第2項の適用について、当分の間、これまでの例によることができると定めています。ただ、「当分の間」の扱いです。
事業場が50人未満になった場合の辞任等の報告の扱い
事業場の労働者数が50人未満になり、産業医の選任が法令上義務づけられなくなった場合の辞任等の報告は、義務づけられていません。ただし、基発0428第4号は、労働基準監督署で産業医の選任状況を適切に把握するため、この場合も報告を行うことが望ましいとしています。義務ではなくても、報告が望ましいとされている点は見ておきたいところです。
50人未満の事業場での産業医の扱いそのものは、50人未満の事業場での産業医の扱いの記事にまとめています。
ここまでの選任報告の準備として、記入例を見ながら進めたい方は、次の案内から届出書の記入例を確認できます。
「産業医選任届出書(記入例有)」をご希望の方は下記よりダウンロード
衛生委員会へ辞任・解任の理由を報告する
産業医が辞任したとき、または解任したときは、事業者が、遅滞なく、その旨とその理由を衛生委員会(または安全衛生委員会)に報告しなければなりません。労働安全衛生規則第13条第4項の定めです。労働基準監督署への報告とは別に、社内の委員会にも報告する点が特徴です。
報告の対象も、手続きごとに少し違います。労働基準監督署への報告が辞任・解任・退任を対象にするのに対し、衛生委員会への報告は、条文の上では、辞任したときと解任したときが対象です。宛先と対象が手続きごとに異なるため、混同しやすい点でもあります。
衛生委員会の運営の詳細は、衛生委員会における産業医の役割と法令の記事で詳しく解説しています。
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産業医の引き継ぎで確認しておきたいこと
産業医が交代しても、面談や職場巡視が途切れないよう、前任から後任へ引き継いでおきたい実務が4点あります。何を伝えるかが決まっていないと、後任がどこから動けばよいか分からなくなりがちです。
産業医が不在の期間を作らないためには、後任の候補探しを早めに始めることが大切です。引き継ぎの具体的な進め方は事業場によって異なるため、前任と後任の産業医に相談しながら決めていくと良いでしょう。
すぐに変更できないときは産業医の2名体制を検討する
現在の産業医に切り出しにくい、すぐに変更する余力がない。そうしたときの方法として、産業医の2名体制を検討する方法があります。2名の産業医で、スケジュールや得意分野に合わせて業務を分担できます。
産業医の人数や種類が条文で決まっている区分もあります。労働安全衛生規則第13条第1項は、常時使用する労働者数が3,000人を超える事業場では、2人以上の産業医を選任すると定めています。また、常時使用する労働者数が1,000人以上の事業場や、有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医(その事業場だけを担当する産業医)を選任します。
2名体制にする前に、現在の産業医を含む関係者と話し合っておくと良いでしょう。産業医が2人になれば、日程の調整や連絡の窓口も2人分になります。選任人数の考え方は、産業医の選任人数の記事で詳しく解説しています。
後任の産業医を選ぶときのポイント
後任選びは、前任の産業医に感じた不満や、交代を考えた理由から、自社が求める産業医像を言葉にするところから始めると進めやすくなります。条件があいまいなまま候補を探すと、比べる基準が定まりません。
たとえば、メンタルヘルス対策に力を入れたい企業なら、精神科の経験やメンタルヘルス対策の経験があるかを確かめます。女性の労働者が多い事業場では、女性の産業医も選択肢に入れると良いでしょう。人柄やコミュニケーション力、これまで担当した企業の業種や特徴も、あわせて確かめたい観点です。
前提として、後任は産業医の要件を満たす医師である必要があります。条件に合う候補を探して比べるには、時間がかかります。
探し方は産業医の探し方、紹介を受ける場合は産業医の紹介、精神科医を選ぶ場合は精神科医の産業医の選び方の記事で、それぞれ詳しく解説しています。
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産業医の探し方や必要書類など、選任の基礎から確認したい場合に役立つガイドブックもあります。
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産業医の探し方や必要書類などの産業保健基礎知識をつけたい方はこちら
産業医の切り替えで体制を見直した企業の事例
産業医の切り替えのきっかけは、手続き上の事情だけではありません。リモート産業保健の導入事例には、契約していた産業医が法令に関わる業務を行っていないことが分かり、体制を見直した企業が紹介されています。
この企業は、自動車関連品目を製造するメーカーです。事例ページには、グループ全体で1,600名を超える従業員が在籍していると記載されています(最終更新日は2023年10月31日)。切り替えの背景は、契約していた産業医が法令に関わる業務を行っていないことが分かり、労働基準監督署から指摘を受けたことです。あわせて、従業員のメンタル不調などによる産業医面談や、休職者への対応も行われていませんでした。
切り替え後は、産業医による職場巡視や衛生委員会への参加といった産業保健業務が行われるようになりました。グループ内の各法人、各工場で統一した法令対応を取れるようになり、本社でも管理しやすくなったと紹介されています。
契約している産業医が実際にどの職務を行っているかを、あらためて見直すきっかけとして読めます。このほかの事例は、導入事例の一覧で紹介しています。
産業医の変更に関するよくある質問
手続きの期限、選任義務に違反した場合、辞任等の報告の扱い、すぐに変更できない場合の4点が、迷いやすいところです。
- Q,産業医を変更するときの手続きの期限はいつまでですか
- A
事業者は、産業医を選任すべき事由が生じた日から14日以内に後任を選任します。選任したら、遅滞なく、所轄の労働基準監督署長に選任報告を出します。
- Q,産業医の選任義務に違反するとどうなりますか
- A
産業医の選任を定めた労働安全衛生法第13条第1項に違反したときは、労働安全衛生法第120条第1号により、50万円以下の罰金が定められています。選任義務の詳しい内容は、産業医の選任義務の記事で解説しています。
- Q,辞任等の報告は後任の選任報告と別に出すのですか
- A
後任の選任報告と同時に行う場合は、辞任等の報告は不要とされています。新たな産業医の選任と前任の辞任等を同時に報告すれば、辞任等を単独で報告する必要はありません。
- Q,すぐに産業医を変更できない場合はどうすればよいですか
- A
すぐに変更できない場合は、産業医の2名体制を検討する方法があります。スケジュールや得意分野に合わせて、業務を分担できる点が特徴です。
産業医の変更は選任と2つの報告を順に進めるのが基本
産業医の変更は、後任の産業医の選任、労働基準監督署への報告、衛生委員会への報告を順に進めるのが基本です。後任の選任は、辞任等があった日から14日以内に行います。
後任を選ぶときは、前任に感じた不満から、求める産業医像を整理しておくと進めやすくなります。すぐに変更できない場合には、産業医の2名体制という方法もあります。
期限や報告先を押さえても、日程の調整や書類の準備、後任の候補探しまでを担当者だけで進めるのは負担が重いと感じるときは、産業医と産業看護職の2名体制で産業保健業務を支えるサービスに相談するのも、選択肢の1つです。
産業医と産業看護職の2名体制による支援で、産業医面談やストレスチェック、衛生委員会の支援に対応し、人事労務担当者様の産業保健業務の負荷を軽減し、従業員の健康をサポートします。産業医の選任・交代をご検討の企業にもおすすめの1冊です。


