産業医の変更・交代はできる?方法と変更できないときの対処法

産業医の変更・交代をするには?方法と変更できないときの対処法

執筆者

看護師ライターとして活動しています。

総合病院で消化器外科、消化器内科、ICUを経験し、看護師歴7年です。手術や内視鏡手術を行う患者さんに接する機会が多く、術前術後の看護、日常生活のサポート、患者さんやご家族の心のケアなどを行なってきました。

結婚を機に病院を退職し、現在は二児の母です。子育てをしながら医療にも携わっていきたいと看護師ライターを始めて、もうすぐ5年になります。これまで学んできた「患者さんの気持ちに寄り添うことの大切さ」をライティングにも活かせるように精進する毎日です。

読んでいる人が飽きることなく最後まで読める文章づくりを目指し、「読んでよかった」と思っていただけるようなライティングを心がけています。

患者さんの些細な変化に気付くため五感を駆使していたので、おでこや首に触れてその人の体温を当てるのが得意です。

監修者

働く人の心身の健康管理をサポートする専門家です。従業員の皆さんと産業保健業務や面談対応から健康経営優良法人の取得などのサービスを通じて、さまざまな企業課題に向き合っています。私たちは、企業経営者・人事労務の負荷軽減と従業員の健康を実現するとともに、従業員に対する心身のケア実現を通じ、QOL向上と健康な労働力人口の増加への貢献を目指しています。

産業医の変更にお困りな方

職場巡視や面談指導をしてくれない、企業の課題と産業医の専門スキルがマッチしないなどの事情から、産業医を変更したいと思っている企業担当者の方は少なくありません。しかし、産業医を変更するには、さまざまな手間と労力がかかります。

本記事では、産業医の変更を検討している方や変更手続きについて知りたい方向けに、産業医の変更に必要な手続きや変更できない場合の対処法、自社に合う産業医を選任するコツについて解説します。

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「産業医を変えたい……」企業の悩みあるあるを紹介

本章では、よくある産業医にまつわる悩みを紹介します。

(1)面談指導をしてくれない

労働安全衛生法第66条に基づき、企業は適宜、医師による面談指導を実施する義務があります。

しかし、産業医によっては「本業の業務が忙しく、産業医面談に手が回らない」「精神科医ではないので、メンタル面でのケアは難しい」といった理由で、産業医面談を先延ばしにしたり、引き受けてくれなかったりする場合もあります。

しかし、産業医面談の実施は、企業に課せられた義務です。このような産業医の対応を目の当たりにし、産業医の変更を検討する企業もあります。

(2)ストレスチェックの実施者を務めてくれない

ストレスチェックを実施するには「実施者」が必要です。ストレスチェックの実施者は、労働安全衛生規則第52条の10に基づき、医師や保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士などのなかから選ぶ必要があります。

基本的には、企業が選任した産業医がストレスチェックの実施者を務めるのが望ましいとされています。しかし、ストレスチェックが義務化されたのは2015年12月とごく最近のことであり、産業医がストレスチェックの重要性や目的、実施の流れについて正しく把握していないケースもあるかもしれません。

そのような産業医のなかには、ストレスチェックの実施者になることを断る者もいるでしょう。

(3)コミュニケーションがうまくいかない

企業は産業医選任後、その産業医とうまく連携をとりながら業務を進めていく必要があります。企業のニーズを産業医にしっかり伝え、労働者や職場について理解を深めてもらわない限り、産業保健活動はスムーズに進まないでしょう。つまり、産業医と企業、双方の歩み寄りが重要といえます。

しかし、適切な歩み寄りができず、両者の思いが一方通行になってしまうと、産業医の重要な職務である「労働者の安全と健康を守るための指導や助言をする」ことができなくなってしまいます。

したがって、産業医とのコミュニケーションがうまくいかない場合には、コミュニケーションの取り方を見直したり、産業医の変更を検討したりする必要があるでしょう。

(4)企業の課題と産業医の専門スキルがマッチしていない

産業医にも医師としての専門分野があるため、精神科経験が豊富な産業医もいれば、内科経験が豊富な産業医もいます。そういった知識や経験のミスマッチによって、企業が求める産業医の職務を果たせないケースもあります。

産業医の専門と自社のニーズについて十分に検討せず、焦って選任を進めてしまった場合などに、こういった問題が起こりやすくなります。そして、ミスマッチによる問題が深刻な場合には、自社の課題解決に適任の産業医への変更を検討する企業が多いです。

(5)産業医としての職務・役割を果たしていない

産業医の職務は、健康診断の実施やその結果に基づく措置、ストレスチェックの実施、長時間労働者への対応、職場巡視など多岐にわたります。しかし、産業医の立場について正しく理解していない者や、意図的に役割を果たさない者もいるため、注意が必要です。

例えば、産業医は中立の立場で、企業と労働者双方に指導や助言を行ないます。しかし、産業医がどちらか一方に肩入れしてしまい、労働者に不利な取り扱いが起こったり、企業の方針と対立することになったりすることもあります。

このほか、「たまに事業場に顔を出すだけで、しっかりと業務を行なってくれない」「新型コロナウイルスの感染者が出た際の対応について、適切な助言をもらえなかった」といったトラブルも少なくありません。

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産業医の変更に必要な手続き

産業医を変更する場合、労働安全衛生規則第13条に基づき、新しい産業医の選任を14日以内に行なわなければなりません。そして、「産業医選任報告」の書類を遅延なく、所轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。

「産業医選任報告」の書類は、以下の方法で入手することができます。

  • 労働基準監督署で直接もらう
  • 厚生労働省ホームページよりダウンロードして印刷する
  • 厚生労働省ホームページの入力支援サービスを利用する

入力支援サービスとは、インターネット上で報告書を作成できるサービスのことです。登録や事前申請なしで使用でき、誤入力や未入力などを防止できる機能もついており便利です。また、過去のデータも保存されるため、産業医の交代や追加時の報告をする際、スムーズに届け出を行なうことができます。

提出方法には、直接提出、郵送提出、電子申請の3つのパターンがあります。

直接提出
所轄の労働基準監督署の窓口へ直接提出する方法です。受付時間や休日に注意しましょう。
郵送提出
所轄の労働基準監督署へ郵送で提出する方法です。労働基準監督署の受領印がある選任報告書の控えが欲しい場合には、選任報告書2部、返信用封筒(切手貼付、宛名記入)を忘れずに同封しましょう。
電子申請
電子申請では、24時間365日いつでも手続き可能です。e-Gov電子申請で、必要書類を電子ファイルにして提出します。稀にサーバーメンテナンスが入ったり、システムの不具合が起こったりする場合もあるので、時間に余裕をもって申請しましょう。

産業医選任報告で必要書類は2つ

産業医選任報告をする際には、医師免許証のコピー、産業医証明書類を添付する必要があります。産業医証明書類とは、以下のいずれかに該当することを証明する書類のことです。

  • 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
  • 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの
  • 労働衛生コンサルタントで試験区分が保健衛生である者
  • 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師の職にあり又はあつた者
  • 労働安全衛生規則第14条第2項第5号に規定する者
  • 平成8年10月1日以前に厚生労働大臣が定める研修の受講を開始し、これを修了した者
  • 上のいずれにも該当しないが、平成10年9月30日において産業医としての経験年数が3年以上である者

引用:「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」別表|厚生労働省

産業医に連絡し、書類を準備しておいてもらうと、スムーズに手続きが進みます。

産業医選任報告書に記載する内容

産業医選任報告書を入手またはダウンロードしたら、実際に記入を行ないます。

産業医選任報告書の記載内容は、次のとおりです。

  1. 労働保険番号
  2. ページ数
  3. 事業場の情報(名称、所在地、電話番号)
  4. 事業の種類
  5. 事業場の労働者数
  6. 産業医の情報
  7. 産業医選任年月日
  8. 選任種別
  9. 産業医の医籍番号
  10. 辞任・解任について
  11. 参考事項
  12. 届出日・届出先名・事業者職氏名・捺印

産業医選任報告書の記載内容は、次のとおりです。産業医選任報告書の詳しい記入方法や提出に関する情報は、以下の記事でまとめていますのでご確認ください。

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「書き方がよくわからない」という場合には、以下のページより記入例をダウンロードしてご活用ください。

「産業医選任届出書(記入例有)」をご希望の方は下記よりダウンロード

産業医選任届け出書(記入例有)

産業医が変更できない場合の対処法

実際に産業医を変更したいと考えても、「現職の産業医との関係が長いため、切り出しにくい」「産業医変更にともなう労力をかけたくない」といった事情で変更が難しいケースもあるでしょう。

そのようなときは、産業医の2名体制を検討してみましょう。2名体制にすることで、スケジュールや得意分野に合わせて業務を分担することができます。

産業医の選任人数は、以下のように定められていますが、人数の上限は設けられていないため、必要に応じて産業医を増やすのは自由です。

常時使用する労働者数 産業医の選任人数
常時使用する労働者数1~49人 ➡︎産業医の選任は努力義務
常時使用する労働者数50~999人 ➡︎嘱託または専属産業医1名を選任
常時使用する労働者数1,000~3,000人 ➡︎専属産業医1名を選任
常時使用する労働者数3,001人~ ➡︎専属産業医2名を選任

※労働安全衛生規則第13条第1項第3号に明記されている有害業務を行なう事業場は、常時使用する労働者数が500人以上で専属産業医が必要。

ただし、新しく産業医を選任することで、現職の産業医とのトラブルに発展したり、名義貸しの疑いをかけられたりする可能性もあるため、関係者間でしっかり話し合いを行なったうえで、体制の変更を進めましょう。

自社に合う産業医を選任するコツ

産業医に求める業務は、企業によって様々です。したがって、自社のニーズをしっかりと整理してから、産業医選びを行なうようにしましょう。

例えば、労働者の休職が続出しており、メンタルヘルス対策に力を入れたい企業は、精神科を専門とする産業医や、メンタルヘルス対策の経験が豊富な産業医を選ぶと良いかもしれません。また、女性の労働者が多い事業場では、女性の産業医を選任するのが良いケースもあるでしょう。

産業医としての専門性や経験年数はもちろん、人柄、コミュニケーション力、これまで担当した企業の業種・特徴なども、併せてチェックしておきたいところです。

産業医の選び方、探し方については、以下の関連記事でまとめていますので、ぜひご確認ください。

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まとめ

産業医の変更には、大きな手間と労力がかかります。さらに、新たな産業医を選任する際には、14日以内という期限があるため、迅速に企業のニーズとマッチする産業医を探さなければなりません。

産業医選びに失敗しないためには、事前の情報収集と信頼できる相談先の確保が重要です。ずっと付き合っていく産業医だからこそ、自社と相性の合う人材かどうかを慎重に見極めましょう。

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