産業医の勧告権の流れや、無視された場合の対処法について解説

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過労やストレスでの休職者が増えている

コロナ禍において、テレワークの導入による環境の変化や労働時間の増加、上司からのメールなどによる過度の確認行為、新型コロナウイルスに感染したことによる人格否定やパワハラ、非正規労働者のコロナ不況による契約更新の不安等々の理由で、メンタルヘルスの不調を訴えて休職を余儀なくされる人が増えています。

厚生労働省が実施しているメンタルヘルスに関する調査結果によると、メンタルヘルス上の理由で休職者がいる事業所の割合は年々増えています。OECD(経済協力開発機構)が実施した「メンタルヘルスに関する国際調査」によると、メンタルヘルスに支障をきたす割合がコロナ前の平成25年の7.9%から昨年は17.3%と2倍以上に増えています。

そんな現状だからこそ、産業医の勧告権が注目されています。長時間労働が習慣化している部署に残業を減らすように勧告したり、適性ではない仕事についている従業員を別の部署に異動させるよう勧告したりすることで、労働者の心身の健康を守ることができます。

産業医の勧告権って?労働安全衛生法の内容も解説!

労働安全衛生法第13条において、「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。」と定められています。

労働安全衛生法第13条には、「事業所は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。」とされています。平成30年には労働安全衛生法の改正が行われ、事業者は勧告を尊重した上で、その内容を衛生委員会や安全衛生委員会への報告義務が加わりました。

つまり、今までは産業医からの勧告があった場合は、事業者はそれを尊重すればよかったので、尊重しても現状では変えられないという場合もありました。しかし、現在は産業医の勧告権が強化されていますので、勧告を受けたら「何をしたか」「何をしなかったか」、その理由も含めて明確に文書に残さなくてはなりません。更に、衛生委員会に報告を上げなくてはならなくなりました。

勧告の具体的な流れ

産業医が事業所に勧告を行う前には、事業者の意見を求めるようになりました。産業医が事業者に対して改善が必要だと思ったときは、そのすべてに勧告を行うことはなく、まず衛生委員会で改善内容を提言したり、衛生管理者に指導や助言を行ったりして改善を図ります。そして、衛生や健康へ深刻な問題を与える場合にのみ、事業者に対して勧告を行います。

産業医は毎月の衛生委員会に参加し、企業に衛星や健康に関する問題点がある時には、問題点と改善案を提言します。労働安全衛生法第14条には「産業医は、第一項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる」とされています。

それでも改善が見られない場合に、事業所に勧告するというのが一般的な勧告の流れとなります。産業医の意見が必ずしも正しいとは限らず、的外れな勧告をすることもあり得るため、法改正にはこれを回避するという側面もあるようです。

以上のような流れで勧告が行われます。産業医が勧告を行おうとした場合は、必ず事業者側、企業側の意見を求めることになっています。産業医が事業者(企業)、労働者双方の意見や事情を聴いた上で、勧告すべきか否かを判断できるということです。

以前のように健康診断の結果のみで判断する、労働者の意見だけを聞いて勧告するといったようなことはなくなりました。つまり、状況をしっかりと判断し、調整する力のある産業医が求められていると言えます。

産業医からの勧告書の具体例

産業医の勧告の具体的な例として、一例を挙げてみます。
過重労働者の健康管理によるものです。ある企業で、長時間労働者等に対する面接指導が実施されておらず、時間外や休日の労働時間が月に100時間を超える長時間労働者に対する面接指導の実施を求めました。80時間を超える労働者に対しても、面接指導が望ましいことも勧告されています。

同時に、労働時間が100時間を超えた長時間労働者の氏名や長時間労働に対する情報の提供も勧告されました。そして、面接指導の実施体制の構築や実施、意見書の作成などが行われました。

その他の例としては、繰り返し指導を行ったにもかかわらず、上司のパワハラが原因でうつ病を発症した労働者が続出、長時間労働が続いても改善されなかった、法令で定められた有害物に対する環境測定や排気装置の設置が行われなかった、赤字で人件費削減のために人手不足に陥り労働環境が厳しいなどがあります。

これらの例のように、労働者の健康が害されようとした時に、産業医による勧告(就業制限=ドクターストップ)が行われます。事業者は産業医の勧告を尊重しなければなりませんので、まずはその前に、産業医から勧告を受けることがないような職場の環境づくりに取り組むことが大切です。

産業医の勧告権が無視された場合訴訟される可能性も!?

産業医からの勧告を受けたにもかかわらず、これを無視した場合は、事業者は懲役や罰金を課せられることになってしまいます。休職者が職場復帰を望んだ場合は、その可否について産業医が判断をします。この場合も、事業者が産業医の判断を無視すると、やはり懲役や罰金の対象となります。

メンタルヘルスは、目には見えにくいものですので、素人による判断は難しく、誤った判断をしてしまう可能性が大きいです。そのため、産業医の意見を重視し、労働者が健康で働けるような配慮や環境づくりが必要となります。

産業医の勧告権の強化を徹底解説

平成31年1月27日に行われた「政策法制度委員会」において、産業医の権限強化に関する答申が行われました。これに先立って始まった「第13次労働災害防止計画」にて、産業医・産業保健機能の強化が謳われ、働き方改革関連法の成立を受けて「労働安全衛生法」「労働安全衛生規則」が改正されています。

これにより、前述したように事業者は衛生委員会への報告義務が、罰則はついていないものの強制規定で課されました(改正労働安全衛生法第13条第6講)。

事業者が衛生委員会に報告すべき内容は、

(1)勧告の内容
(2)勧告を踏まえて講じた措置または講じようとする措置の内容
(3)措置を講じない場合は、講じないこととその理由である(改正労働安全衛生法第14条の3第4項)
とされています。

この強化により、事業者が勧告を単に尊重するだけではなく、その内容を真摯に受け止め取り組むということを促す方向に向いていると言えます。

今回の改正では、産業医に対しても「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない」(改正安全衛生法第13条の3)、「産業医は、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない」(改正安全衛生法第14条7項)という内容も加えられました。

まとめ

コロナ禍で労働者のメンタルヘルスについて課題が多い中、産業医の勧告権が強化されたことは非常によい流れであると言えます。事業者、労働者がともに健康管理を行うことは当然ですが、両者の間に入る産業医がしっかりとその機能を果たすことで、健康で快適な職場づくりを一層進めていきましょう。

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