健康診断における産業医の役割とは?意見聴取や報告書の提出も!

健康診断における産業医の役割とは

執筆者
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心理カウンセラー兼ライターとして活動しています。

弘前学院大学を卒業後、精神科病院の依存症デイケアにて勤務する中で精神看護の学びを深めたいと思いました。精神科の訪問看護ステーションに転職し、働きながら札幌医科大学大学院に入学しました。

大学院を卒業後、心理学を独学で学びながら地域の保健師として、地域の方々が身体的にも精神的にも良い方向に行けることを目指して支援してきました。

看護師・保健師・精神看護学修士の資格を持っています。
ライターとしてはまだまだ駆け出しですが、エビデンスのある情報を参考に記事を作成することを心がけて、読者の方々から信頼を得られるライターになりたいです。

健康オタクなので、調べたヘルスケアの情報を実践することが趣味です。興味を持ったことについて深く調べることが好きなので、持ち前の探求心をライターとしての仕事に活かしていければと思っています。

【略歴】
2011年3月 弘前学院大学看護学部卒業 看護師・保健師の資格を取得
2020年3月 札幌医科大学大学院精神看護学専攻卒業
2012年4月 精神科病院 依存症デイケア勤務
2016年2月 精神科訪問看護ステーション勤務
2020年10月 地域包括支援センター勤務
現在 保健師ライター兼心理カウンセラーとして活動中

監修者

元々臨床医として生活習慣病管理や精神科診療に従事する中で、労働者の疾病予防・管理と職業ストレス・職場環境の密接な関係認識するに至り、病院からだけでなく、企業側から医師としてできることはないかと思い、産業医活動を開始しました。

また、会社運営の経験を通じ、企業の持続的成長と健康経営は不可分であること、それを実行するためには産業保健職の積極的なコミットメントが必要であると考えるに至りました。

「頼れる気さくな産業医」を目指し、日々活動中しています。
趣味は筋トレ、ボードゲーム、企業分析です。

【保有資格】
・日本医師会認定産業医
・総合内科専門医
・日本糖尿病学会専門医
・日本緩和医療学会認定医

「そもそも健康診断の実施が義務か知りたい」
「産業医が健康診断結果の確認をいつのタイミングで、どのように行なうのか知りたい」
「産業医の意見聴取や健康診断報告書の作成について知りたい」

本記事では上記のような疑問を解決します。また、健康診断実施後の大まかな流れや、産業医の保健指導の内容、面談・指導を拒否する方への効果的な対応などについても解説しているため、事業者や人事・労務担当者の方は必ず押さえておきたい内容です。ぜひ最後までご参照ください。

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健康診断での産業医の役割

健康診断での産業医の役割は、診断結果に基づき、労働者の健康上の課題を改善することです。本来、健康診断は実施が目的ではなく、健康診断の結果から労働者の健康状態を把握し、労働者がより健康的に働けるように支援することが目的です。

そのため、冒頭で述べたように産業医は企業・事業場と連携し、労働者の健康状態の把握と改善に取り組むことが健康診断での大きな役割と言えます。

健康診断における産業医の仕事の多くは健康診断後ですが、産業医の選任義務のある事業場(基本的には労働者50名以上の事業場)では、健康診断実施前に健康診断の計画や実施上の注意について企業や事業場に助言する必要があります。

詳しくは、このあと解説しますので、しっかり確認していきましょう。

産業医の主要な5つの役割:健康経営の要

企業の経営にとって、従業員が健康に働けているのかということはとても重要です。

健康診断の目的は、産業医と連携して従業員の病気を早期発見することから始まります。また、従業員が現在の仕事で問題なく健康に働いて行けることを確認し、支援が必要な従業員に対しては、適切に支援をしていくためにも健康診断の結果を活用します。

産業医の役割は、健康診断が始まる前から企業の健康診断の計画立案に携わります。健康診断の実施後は、産業医を通して結果の確認と分析をします。企業と産業医は連携しながら従業員の労働について適切な対応をしていきます。

健康診断の実施前から、実施後まで産業医と連携を密にすることが健康経営のために必須です。

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1. 健康診断計画の策定と助言

健康診断の中でも最も代表的な定期健康診断は、業務内容にかかわらず一年に1回実施する必要があります。
定期健康診断の項目には以下のものがあります。

  • 既往歴及び業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  • 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  • 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  • 血圧の測定
  • 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  • 肝機能検査 (AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP)
  • 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコ レステロール、血清トリグリセライド)
  • 血糖検査
  • 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  • 心電図検査

若年者など、医師が必要ないと認められる場合には省略可能な項目もあります(心電図検査・喀痰検査など)。産業医は、健康診断の計画を立てる際に従業員の年齢・性別や作業環境、過去の健康診断の結果などのポイントを考慮した上で、健康診断の種類や項目を企業に提案する役割があります。

2. 健康診断結果の確認と分析

健康診断の結果は、「A異常なし」「B軽度異常」 「C要経過観察・生活改善」「D要医療」「E治療中」などの診断区分がついた状態で返却されるケースが多いです。

企業は異常所見がある従業員に対して、適切な措置を講じる必要があるとされています。

専門的な知識がなければ、どこからが「異常所見と診断された」とすればよいのか、「適切な措置」はどのようにすればよいのかはわかりません。

各健診項目が、基準値より大きく超過していなかった場合でも、これまでの健診結果の数値によっては何らかの疾患が疑われることもあります。産業医と情報を共有し、意見を求めることで、企業が何らかの対応を要するレベルなのか、対応は必要のないレベルなのかを判断してもらうことができます。

3. 就業判定と事後措置の提案

産業医が対応が必要と判断した場合は、経過観察や治療をしながら通常勤務でよいのか、休業させる必要があるのか、一定の就業制限が必要なのかといった就業上の措置に関する意見をもらいましょう。「通常業務」「就業制限」「休業」に振り分けることを就業区分といいます。

就業区分を検討する際には、従業員の業務に関する情報が重要となります。該当する労働者の作業環境、労働時間、作業負荷の状況、危険業務・深夜業等の回数・時間数などの詳細な情報は、産業医と積極的に共有していくことが重要です。

4. 特定健診・特定保健指導との連携

特定健診では、40歳~74歳の労働者を対象に、腹囲やBMI、血液検査では脂質(中性脂肪・HDLコレステロール・LDLコレステロール)などのメタボリックシンドロームに着目した健診を実施します。

メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪が蓄積し腹囲が男性で85cm、女性で9cm以上で、なおかつ高血圧・高血糖・脂質異常症の3つのうち、2つは基準値から外れている状態です。放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなります。

特定保健指導とは、メタボリックシンドロームが改善するように生活習慣の見直しについて保健師から指導を受けることのできる制度で、無料で受けることができます。産業医や産業保健師と連携して、該当する従業員が特定保健指導が受けられるようにすることが望ましいです。

5. 労働衛生の3管理の推進

労働衛生対策の基本は、就業に関わる労働災害や健康障害を予防し、企業として従業員に対する安全配慮義務を遵守することです。基本となる考え方が労働衛生の3管理と言われます。

労働衛生の3管理は、「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つです。
作業環境管理とは労働者が働く環境を適切に管理することで、作業管理は働き方自体を適切に管理することを言います。作業環境管理と作業管理の土台を盤石にした上で、健康管理を行うことが期待されます。

産業医のお仕事は健康診断前から始まる!重要なのは結果がでてから!

健康診断自体はそれぞれ病院やクリニックなどで受診しますが、健康診断結果が企業に届いた後は産業医の本格的な出番です。ここでは、健康診断実施から実施後まで、大まかな流れを紹介します。

  1. 健康診断の実施(健康診断の計画や実施上の注意点の助言)
  2. 健康診断結果の確認
  3. 産業医からの意見聴取
  4. 就業上の措置の判定
  5. 健康診断結果に基づく保健指導

では、1つずつ解説していきます。

健康診断前の産業医の役割:3つの重要ポイント

健康診断前の産業医の役割には、3つの重要ポイントがあります。
1つ目は、定期的な健康診断の企画・立案に関する助言です。健康診断の種類や項目が適切なものになるように、また実施の時期などについても専門的な立場から助言を行います。

2つ目は、雇用形態、労働態様等に着目した定期的な健康診断以外の健康診断の実施です。特定の作業環境に置かれる労働者は、労働により健康が害されていないか定期的に確認する必要があります。

3つ目は、健康診断機関を利用する場合は適切な健康診断機関の選定を行うことです。また、選定した健康診断機関と連携して業務を行います。

健康診断後の産業医の重要な4つのステップ

【STEP1】健康診断結果を共有する

健康診断の結果が届いたら、個人情報に十分注意した上で産業医と結果を共有します。産業医は従業員の詳細な健康診断結果を把握したうえで、健康面に異常や、健康改善を行う必要はないかなどを専門的な視点から判断します。

【STEP2】産業医から意見を求める

健康診断の結果で何らかの異常が認められた場合、企業は労働者に対し、適切な対応をする必要があります。しかし、専門知識がない場合、診断結果から対応を判断するのは難しいでしょう。対応の必要性や、どのような対応をするべきかなどを産業医の意見を求めます。また、産業医の意見聴取は、速やかに行うことが望ましいです。

【STEP3】産業医と従業員の面談

健診結果のみで産業医が判断することが難しい場合もあります。そのような場合は従業員と面談の機会を設けましょう。面談を行うことで従業員の現状をより詳しく把握できます。

【STEP4】結果に基づき、対応する

産業医は健康診断の結果で異常があった場合、通常業務で良いか、就業を制限する必要があるか、休業する必要があるかの3つの就業区分に当てはめて、判断をします。

企業は産業医と連携しながら、就業の制限などの対応を必要に応じて実施します。また、対象の従業員には受診や保健指導を推奨します。

1.健康診断の実施(健康診断の計画や実施上の注意点の助言)

基本的に年に1回行なわれる健康診断ですが、実は「受けるのは各自の自由」と考えている労働者はたくさんいます。

そのため、「忙しいから」「特に体調が悪くないから大丈夫」などの理由で受診しない労働者がいるのが現状です。

しかし労働安全衛生法第66条には『労働者は、事業者が行なう健康診断を受けなければならない』と定められています。労働者には健康診断を受ける義務があり、企業には健康診断を受けさせる義務があります。

この法律を知らない企業や労働者も多くいるので、産業医は企業や労働者に対して健康診断の必要性や注意点、健康診断の種類をしっかり説明することが健康診断の実施前における重要な仕事です。

2.健康診断結果の確認

健康診断で受診先の病院やクリニックで医師の診察もありますが、なぜ再度結果の確認が必要なのでしょうか?その理由として、産業医が労働者の健康状態や業務内容を詳細に把握しやすいことがあげられます。

健康診断検査の結果と普段の業務や環境に基づいて、検査数値や項目を確認し、増悪傾向にないか、改善の必要性がないかなどを判断することができるため産業医による確認は必要になります。

ちなみに、産業医の選任義務がない(基本的に事業場の労働者数が49名以下)場合でも、労働者の健康管理等を行なうのに必要な医学に関する知識を有する医師等から意見を聞くことが適当であるとされていて、地域産業保健センター事業の活用を勧めています。

健康診断は実施後の確認がなにより重要です。健康診断を実施するだけにならないよう、注意しましょう。

3.健康診断後の措置

健康診断結果の確認が終わると、すみやかに必要な措置をとります。それが、「産業医からの意見聴取」と「就業上措置の決定」です。順番に解説していきます。

まず、「産業医からの意見聴取」です。これは健康診断が行なわれた日もしくは労働者が健康診断結果を事業者に提出した日から3月以内に行なうことが労働安全衛生規則で定められています。期限をすぎないよう、すみやかに行ないましょう。

労働安全衛生法第66条では、健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について医師の意見を聴かなければならないと明記されています。

ここでは、健康診断を受けた労働者全員が対象ではなく、あくまで診断結果に異常の所見が見られた労働者に対して行なう、というところがポイントです。

しかし、診断結果に異常の所見が見られた労働者というのは、企業側が判定するのはとても難しいため、産業医に判定してもらう必要があります。

なぜなら、健康診断結果で各検査項目に「要治療」などの異常判定がなかった場合も、これまでの健康診断結果の推移や本人の労働状況によっては健康上の問題が疑われることもあるからです。

健康診断結果だけでなく、日頃の労働状況や労働環境なども含めて全体的に目を通し、企業として何らかの対応をする異常所見のレベルか、対応は必要のないレベルなのかを産業医の視点で振り分けてもらいましょう。

意見聴取の方法については、のちほど説明していますので、ぜひ最後まで確認してください。

産業医への意見聴取の内容は、就業区分と作業環境や方法の変更等についてです。意見内容についてはこのあと詳しく説明しますので、ここでは流れをおさえておきましょう。

次に「就業上の措置の決定」です。産業医の意見に応じた措置を決定します。具体的には、休業や就業場所の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等で、対象の労働者の健康と安全を守るために行ないます。

必要な措置を行ない、労働者が健康的に就業できるようにすることで、労働者が職業生活の全期間を通して健康で働くことができます。健康診断実施の際は、結果に基づいた必要で適切な措置を行なうことが一番重要です。企業・産業医間で連携し、しっかり行ないましょう。

また、このときに勝手に措置を決めるのではなく、措置の対象の労働者の意見もしっかり聴き、十分な話し合いを行なうことも重要なポイントです。

「就業上の措置」は、健康診断を実施する目的として1番重要であり、労働者にとってより健康的に就業していくための大きな1歩といえます。しっかり行なっていきましょう。

4.健康診断結果に基づく保健指導

継続的な健康管理が必要な労働者には、産業医による保健指導を実施します。労働者それぞれの検査結果や勤務状況や作業内容、年齢・性別などの個人情報、生活習慣、本人の考え方など個人に合った指導をしていきます。

労働者一人ひとりを尊重し、かかわりながら健康管理のために課題の発見やそれを解決するために必要なことを見つけたり、労働者自身に健康管理の重要性や必要性を理解し、改善してもらうためにとても大切です。

保健指導は法律上、努力義務とされています。保健指導を行なうことで、疾患の予防や再発防止ができたり、生活習慣が改善したり、労働者のストレスが軽減されたりとメリットは多くあるため、ぜひ実施していきましょう。

また、産業医が労働者と直接かかわる機会にもなりますので、ぜひ取り入れていきましょう。

産業医が行なう保健指導内容は?

事業者は一般健康診断(定期健康診断や雇入時の健康診断など)の結果、特に健康の保持に努める必要があると認めた労動者に対して、医師(産業医)または保健師による「保健指導」を行なうように努めなければなりません。(労働安全衛生法第66条の7第1項)

「保健指導」とは、個人の健康維持・増進や生活習慣病の予防を目的とした、専門的な指導と支援を行なう活動です。

産業医による保健指導では、健康診断結果をもとに、生活習慣の改善や適切な医療の受診を促すアドバイスを提供します。ここでは、産業医が行なう具体的な保健指導内容について解説します。

1. 栄養指導:バランスの取れた食生活のアドバイス

健康診断の結果から、血糖値が高い場合は糖質を抑えた食事をとる、血圧が高い場合は塩分を控えて出汁やスパイスなどで風味をつけるなど、一人ひとりに合った栄養指導を行います。現在の食習慣や食行動の評価と改善の指導を行います。

2. 運動指導:適切な運動習慣の提案

現在の体重から、まずは減量の目標を決めます。また、運動器疾患がある場合は足腰に負担をかけないような運動の方法をとることや、高血圧の場合は血圧の高いときは運動を控えるなど、その人に会った運動の方法や運動量を指導していきます。
働いている人はなかなか運動習慣を作ることが難しい場合が多いです。通勤の際に一駅分は歩く、階段を利用するようにするなど生活に取り入れやすい運動を提案します。

3. 生活習慣の指導:健康的な生活リズムの構築支援

お酒やたばこの習慣があるかどうか、睡眠時間は適切かなどについて指導します。普段の生活習慣は、生活習慣病という言葉通り健康に影響します。また、睡眠不足やお酒の飲みすぎなどは仕事のパフォーマンス低下にもつながるため、お酒やたばこを控える、十分な睡眠をとるなど健康的な生活を送るためのアドバイスをします。

産業医による保健指導のメリット

産業医による保健指導は、個人の健康保持・増進や生活習慣病の改善を目的とした専門的指導であるため、結果的に企業全体へ良い影響をもたらします。おもなメリットは以下のとおりです。

  • 労働者の健康改善につながる
  • ストレスの軽減につながる
  • 病気発症等の予防につながる

ここからは、上記内容について具体的に解説します。

1. 労働者の健康改善につながる:個別化された指導の効果

健康診断により病気の早期発見、早期治療につながれば、将来的に病気のために仕事ができなくなるかもしれない状況を防ぐことができます。
労働者の現在の生活習慣が望ましくないものであるとしても、それを把握し、指導することで改善につながる可能性もあります。
労働者の生活習慣や健康が改善すれば、仕事のパフォーマンスが向上する可能性もあります。

2. ストレスの軽減につながる:メンタルヘルスケアの重要性

労働者は日々の生活の中でなんらかのストレスを抱えています。特に職場の人間関係は同じ職場の人には話しにくいものです。

産業医は労働者のメンタルヘルスについても、専門的知識があり、職場の環境にも配慮しながら関わっていきます。産業医につながることで従業員のストレスが軽減されることが期待できます。

3. 病気発症等の予防につながる:早期発見・早期対応の実現

健康診断により病気の早期発見、保健指導により病気の発症を予防することが期待できます。

そうすることで、将来的な従業員の休業や就業制限を予防することにもつながり、人材不足や個人の仕事のパフォーマンス低下を防ぐことにつながり、企業全体にとっても望ましいことだと考えられます。

産業医の指導・面談を拒否する人に対してはどうする?

産業医の指導や面談を拒否する労働者への対応は、企業にとって重要な課題です。拒否の理由はさまざまですが、安全配慮義務を負う企業にとって、放置できない問題でしょう。

とはいえ、拒否する労働者に対して面談を強制できないため、労働者の気持ちに配慮しつつ、適切な対応を行なうことが大切です。ここでは、産業医の指導や面談を拒否する労働者への効果的な対応方法について解説します。

理由・背景のヒアリング

産業医の指導・面談を拒否する方に対する対応の第一歩は、理由や背景を丁寧にヒアリングすることです。労働者が指導や面談を拒否する理由はさまざまであるため、個々のケースに応じた対応が求められます。

例えば、「忙しい」や「面倒」などのほかに、プライバシーへの懸念や過去の経験からの不安、指導・面談への疑問なども考えられます。丁寧なヒアリングを通じて、労働者の気持ちや状況を理解し、信頼関係を築くことが大切です。

ヒアリングの際は、プライバシーに配慮したうえで、労働者の話をじっくりと聞くための「時間」と「場所」を用意しましょう。

ヒアリングを行なって拒否する理由を把握し、適切な対応をすることで、保健指導を受けてもらいやすくなります。

保健指導のメリットの伝達

保健指導のメリットを明確に伝えることも重要です。労働者が保健指導に対して前向きな姿勢を持てるよう、以下の3点を強調して伝えましょう。

  1. 保健指導は労働者の健康維持・向上を直接サポートするものであること
  2. 産業医による個別のアドバイスは、一人ひとりの健康状態やライフスタイルに合わせてカスタマイズされるため、より効果的なサポートが受けられること
  3. 一人ひとりの健康管理が進むことで、職場環境の改善や生産性の向上ができるため、職場全体の働きやすさが向上すること

上記3点を具体的かつわかりやすく説明し、労働者が保健指導のメリットを理解することで、指導や面談を受け入れる動機づけを強化できます。

産業医を労働者に認知してもらう

「産業医がどのような人かわからないため不安」という労働者もいるかもしれません。そのため、産業医を労働者に認知してもらうことが重要です。

まず、産業医の役割やその重要性を労働者に周知するため、社内掲示板やメールなどで定期的に産業医のプロフィールや人柄、専門分野、実績を紹介します。また、産業医が職場で労働者と顔を合わせる機会を定期的に設け、親しみやすさと信頼関係を構築することも効果的です。

さらに、産業医が講師として健康セミナーを行ない、労働者が産業医の専門知識に直接触れる機会を増やすのもよいでしょう。

上記の取り組みを繰り返し実施し、最終的に産業医の指導が労働者の健康維持やパフォーマンス向上に寄与することを全社的に共有します。その結果、指導や面談に対する抵抗感を減らすことが期待できるでしょう。

健康診断後に決める就業区分

「産業医への意見聴取の内容」で述べた就業区分とは、健康診断実施後の就業上における措置を判定する区分をいいます。

健康診断の検査結果は病院やクリニックごとの基準に基づき、医学的な判定をしますが、就業区分は健康診断結果と労働者ごとの就業状況や作業内容をもとに産業医が判定します。

健康診断結果と就業区分は違うことを押さえておきましょう。
では、どのように区分されるのでしょうか?就業区分は、通常勤務・就業制限・要休業の3区分で判定します。それぞれの内容は以下の通りです。

通常勤務:通常の勤務でよいもの
就業制限:勤務に制限を加える必要があるもの(労働時間の短縮、出張の制限、就業場所の変更等)
要休業:勤務を休む必要のあるもの(療養のため、休暇や休職により一定期間勤務させない)

ここではほとんどの人が通常勤務に区分されます。就業制限や要休業に当てはまる場合は、労働者の健康診断結果や現在の就業状況、労働者本人の状況などの情報を踏まえたうえで制限をかけていかなければなりません。

また、健康診断の結果、作業環境管理及び作業管理について見直す必要があれば、産業医から意見聴取する必要があります。その際には、作業環境測定の実施をして施設や設備の設置や整備、作業方法の改善とその他適切な措置の必要性を聴取します。

就業区分の4つのカテゴリー

健康診断の結果、たとえば高血圧と診断された従業員に対しては残業時間の制限を提案する場合もあります。また、重量物を扱うなど業務の内容によっては作業の制限を提案することも考えられます。
産業医は、これらの判定と提案を「健康診断個人票」に「医師の意見」として記載します。企業はこれを受けて、必要な措置を行うことが望ましいです。

1. 通常勤務

健康診断の結果で異常が認められたとしても、業務に支障をきたすような健康障害がないケースが多いと考えられます。要経過観察、要治療、要再検査などの判定があり、経過観察や治療をしながら通常の業務が可能な場合がほとんどでしょう。

2. 就業制限

就業制限では、労働者の健康状態が悪化しないように、労働による身体の負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、作業転換、就業場所の変更、深夜業務の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じていきます。

3. 要休業

労働者が現在の健康状態では業務につくべきではないと判断された場合は、療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じます。

4. 要精密検査

健康診断の結果、産業医が精密検査を要すると判断した場合は、要精密検査となります。従業員が精密検査に行けるように、早退や休日について配慮する必要があります。

産業医の意見聴取の方法!必要に応じて労働者への聴取も必要

健康診断後の産業医の意見聴取の内容は、健康診断個人票の「医師の意見」に記入します。
健康診断個人票とは、会社が行なった健康診断の結果を記録するためのものです。

企業による健康診断個人票の作成は労働安全衛生規則によって定められていますが、健診機関によっては作成してもらえる場合もあります。医療機関によって異なるので、あらかじめ確認が必要です。

たまに、産業医の記入欄がない健診機関もありますが、一般的に産業医による意見聴取の内容は「医師の意見」に記入してもらうことを覚えておくとよいでしょう。記入欄がない場合は追記する必要があります。

また、厚生労働省のホームページには健康診断個人票の様式がありますので、必要時にはチェックしておくとよいでしょう。

もちろん、企業で作成することも可能ですが、その場合は労働安全衛生規則第51条に示されている様式第5号にある項目が記載されている必要があります。

「医師の意見」に記載されている内容が不明確な場合、記載した産業医に確認を行なう必要がありますので注意しましょう。また、意見聴取はできる限り速やかに行ない、措置の決定に遅れがでないように気を付けましょう。

措置の決定時は労働者本人から意見を聴くことも必要です。
これはとても大切なポイントで、事業者は健康診断の結果や産業医による就業判定で勝手に措置を決めるのではなく、措置の対象の労働者の意見もしっかり聴き、十分な話し合いを行なうことが必要です。

そのため、就業区分などの産業医の意見に応じた就業上の措置を決定する場合には、必要に応じて事業場側と労働者の話し合いに産業医も同席したり、労働者と産業医面談を行なったりすることも検討します。

労働安全衛生法に基づく健康診断結果措置指針にも、就業区分に応じた就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ労働者の意見を聴いて、話し合いを通じて労働者の了解が得られるように努めることが適当であるとの明記もあります。

産業医の意見聴取と労働者の意見聴取、どちらももれなく行ないましょう。

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産業医との効果的な意見交換の3つのポイント

産業医との効果的な意見交換を行うためのポイントは以下の3つです。

一つ目は、産業医に従業員の詳細な情報を共有することです。従業員の過去の健康診断の結果、作業環境、就業時間、業務の内容などの必要な情報は、できるだけ多く共有することで産業医の判断材料になります。

2つ目は、できるだけ早く意見を求めることです。産業医からの意見聴取は健康診断から3か月以内が良いとされていますが、従業員の状況によっては早く対応した方が良い場合もあります。

3つ目は、優先順位を相談することです。多くの従業員が一度に産業医と面談することはできないため、専門的知識のある産業医と相談しながら対応の優先順位を決めていきましょう。

労働者からの情報収集:健康状態の正確な把握

労働者からの情報収集も重要です。現在の健康状態について本人がどう考えているのかについて話を聞くことも健康状態の正確な把握の一つの判断材料になります。

また、本人が今後どうしていきたいのかについてもよく話を聞くことが大切です。

意見聴取結果の文書化:記録の重要性

産業医が企業に対して、健康診断結果の管理方法について助言を行う場合もあります。
健康診断の結果は5年間の保存義務があります(労働安全衛生規則第51条)。鍵付きの保管場所で、どこに、いつの、誰の健康診断結果が保管されているのかが、わかりやすいように管理する必要があります。

健康診断の報告が押印なしの電子申請でも可能に!

労働者数が50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の結果(定期健康診断結果報告書)を管轄の労働基準監督署に遅延なく提出しなければなりません。

これまでは、産業医に押印または署名(電磁的記録で保存する場合は電子署名)を依頼する必要があり、それだけでも手間と時間がかかっていました。

また、会社で保管する健康診断個人票にもこれまでは押印(電磁的記録で保存する場合は電子署名)が必要でした。しかし、令和2年の法改正に伴い、これまで必要だった定期健康診断結果報告書や健康診断個人票への押印等が不要になり、記名のみでよいことになりました。

これにより、健康診断の担当者や人事のみでの処理が可能になりました。どの産業医が担当したか記録するため、記名は必要で、無記名の場合は提出時に認められないため注意しましょう。

ここで説明している定期健康診断結果報告書や健康診断個人票は厚生労働省のホームページ(HP)から様式を取得できますので、ぜひ活用してください。

健診DXサポートサービス資料
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電子申請のメリット:効率化と迅速化

企業は、定期健康診断などの結果について、報告書を労働基準監督署へ提出する義務があります。

以前は、電子申請をする際に医師や産業医による押印・署名が必要でしたが、2020年より、押印・電子署名が不要になりました。そのため、電子申請が使いやすくなり担当者の負担軽減につながっています。

電子申請の手順:3ステップで簡単申請

電子申請の手順は以下の3ステップです。


ステップ1

e-Govアカウント登録およびアプリケーションのインストール


ステップ2

【手続名称から探す】で「健康診断」と検索し、該当の報告書を選択


ステップ3

必要事項を入力して提出

注意点:セキュリティ対策の重要性

電子申請におけるセキュリティ対策の重要性と具体的な注意点について説明してください。
健診結果のデータは、従業員の大切な個人情報です。適切なセキュリティ対策を怠ると、情報が漏洩する危険性があります。

それ相応のセキュリティソフトを導入することや、個人情報の記載のある画面を開いたまま離席しないことなどに注意しましょう。

よくある質問

健康診断における産業医の役割に関する一般的な疑問について、Q&A形式で3つ程度の質問と回答を記載してください。
健康診断における産業医の役割について、よくある質問をQ&A形式で説明します。

Q.産業医と主治医どちらの判断が優先されますか?
A.主治医は現在の病状でどの程度普段の日常生活が送れるかという基準で回復の度合いを判断する場合が多いです。職場における判断は、作業環境を把握している産業医を優先するべきだと考えられます。しかし、疾病が産業医の専門外の場合もあるため、主治医の意見も十分考慮する必要があります。
Q.産業医の健康相談は義務ですか?
A.基本的には産業医の面談自体に法的な義務はありませんが実施することが望ましいです。長時間労働者など一定の要件を満たしている場合は産業医の面談が義務となります(労働安全衛生法66条)。
Q.産業医のできないことは何ですか?
A.産業医は基本的には診断や治療などの医療行為を行うことはできません。医療が必要と産業医が判断した場合は適切な医療機関を紹介してくれます。

健康診断における産業医の役割とは?

産業医は健康診断の前から、計画に関わり企業に助言をする役割があります。健康診断実施後は、健康診断の結果を分析して従業員が就業可能かどうか就業区分を判断したり、従業員と面談したりします。

産業医は診断をしてくれますか?

産業医は、医学的な立場から労働者の健康保持増進や職場環境の改善などについて企業に助言することで、 より働きやすい職場を作り上げていくことが職務であり、診断や処方などの医療行為は基本的には行いません。

健康診断結果を産業医に提出する期限は?

健康診断結果で何らかの異常があった従業員については、3か月以内に産業医から意見を聞く必要があるとされています(労働安全衛生法第 66 条)。産業医と優先順位を相談して、面談の日程を決めましょう。

まとめ

健康診断は労働者の健康を守り、より元気に働けるように支援ができる大切な機会です。会社の労働者が健康で元気に働くことは、仕事における生産性もあがり、会社に利益をもたらします。

また、健康診断における産業医の役割や流れを知っておくことで連携がとりやすくなったり、労働者の健康管理を支援しやすくなったりするため、健康診断をすることでの利益をさらに高めることにつながります。

健康診断の実施とその後の措置はとても大変ですので、効率的・効果的にできるようにすすめていきましょう。

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