産業医の意見書とは?効力は?面談別の目的やフォーマットを紹介

産業医による意見書

  • 「産業医の意見書と診断書の違いは?」
  • 「意見書が必要なタイミングはいつ?」
  • 「そもそも、意見書は何のために必要?」

上記のような疑問はありませんか?
結論から述べると、産業医の意見書は診断書とは異なるもので、労働者の継続的な就業のために産業医が事業者に意見を述べるために作成する、重要な書類です。

もし、意見書の意味や目的を正しく理解せず、結果的に労働者の健康を害することになれば、事業者は法律上の責任を問われる可能性があります。

そこで本記事では、産業医の意見書の意味や目的、必要になるタイミングについて詳しく解説します。記事内で意見書のフォーマットも紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

そもそも産業医とは?

産業医とは、企業内で労働者の健康と安全を守る役割を果たす医師のことです。ただし、すべての医師が産業医業務を行なえるわけではありません。ここでは、産業医になれる要件や職務内容について解説します。

産業医とは?

産業医とは、企業で働く従業員の身体的・精神的な健康管理と職場の作業環境について、専門的立場から指導や助言を行なう医師のことです。企業の従業員が健康的で安全に仕事を続けられるよう、医学的立場からサポートをするのが産業医です。

例えば、健康診断が労働安全衛生法第66条に基づき正しく実施されているかどうかは、会社の衛生管理者の方も確認できますが、健康診断の結果を医学的に理解し、従業員が健康的に仕事を続けていくための対応を考えるには、医学的な専門知識と経験が必要です。

労働安全衛生法第13条第2項では、「産業医は労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない」と規定されています。

ここで定められている要件とは、以下のとおりです。

(1)厚生労働大臣が定める産業医研修の修了者。これに該当する研修会は日本医師会認定の産業医学基礎研修と産業医科大学の産業医学基本講座があります。
(2)労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)に合格した者。
(3)大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者。
(4)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者。

出典:労働安全衛生規則第14条第2項)|e-Gov法令検索

産業医は、医師免許を取得するだけでなく、上記のようなカリキュラムを修了することで、産業医資格を取得して活動できるようにります。

産業医のおもな職務内容

産業医は、基本的に事業場に赴いて産業保健活動に関連する業務を行ないます。くわえて、労働安全衛生法に基づき、事業場や労働者に対して心身の健康や安全に関する指導や助言をします。

事業場内に診療所が設置されている場合を除いて、産業医は診断や投薬などの治療を行なわないため、必要に応じて医療機関への受診を勧めます。

ただし、産業医が医師として勤務している病院や診療所などに、労働者が患者として赴いた場合は、医療法に基づき、病気の診断や治療をすることが可能です。

少し複雑ですが、産業医には事業場で働く労働者の健康と安全を守るための指導や助言を行なう役割があり、診療所登録のある事業場を除いて、事業場における医療行為は原則できないことを押さえておくとよいでしょう。

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産業医面談の目的

産業医面談の目的は、企業で働く労働者の勤務時間や疲労の蓄積具合、心身の状況を確認し、労働者の疾患発症のリスクを減少させることです。

そのため、企業は労働安全衛生法に基づいて、必要時には産業医面談を実施する義務があります。産業医面談の実施が必要になるのは、以下の場合です。

  • 長時間労働があり、かつ疲労の蓄積が認められる者から面談希望があった場合(労働安全衛生法第66条の8、労働安全衛生規則第52条の2)
  • ストレスチェックで高ストレス者から面談希望があった場合(労働安全衛生法第66条の10)

また、以下の場合にも産業医面談を実施することが望ましいとされています。

  • 健診結果で、特に健康の保持に努める必要があると認められる場合
  • 休職、復職時
  • その他、従業員が希望した場合

ただし、労働者に産業医面談を受ける義務はないため、面談の実施を断られる場合があります。

企業は「産業医面談は、労働者本人の心身の健康を守るために行なうものであること」「面談の内容によって、不利益が生じる心配はないこと」などをしっかり説明し、面談を受けてもらうように努めましょう。

産業医面談の実施後は産業医に意見書を作成してもらい、その内容に基づいて、業務時間や作業内容の変更、休職などの措置を検討します。内容によっては意見書が不要な場合もあるため、その都度確認が必要です。

なお、意見書自体に強制力はありませんが、企業の責務である安全配慮義務の観点から、企業は意見書をもとに適切な対応をとることが望ましいでしょう。

産業医面談の目的を果たすためにも、企業は面談の推奨に加えて、労働者が面談を受けやすい環境の整備(オンライン面談など)を行ない、不調者の早期発見・早期対応に努めることが大切です。

産業医のオンライン面談については以下の関連記事で詳しく述べているので、ぜひ参考にしてください。

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産業医の意見書とは?

産業医の意見書とは、産業医が労働者へ面談を行なったあと、就業上の措置を適切に講じられるよう、事業者に対して意見を述べるために作成する報告書のことです。

産業医面談が必要なケースは先述したとおりですが、産業医の意見書はそれぞれのケースに合わせて作成する必要があります。

例えば、健康診断後の意見書では、健康診断の結果を踏まえて就業上の措置に関する意見をまとめます。また、労働者の復職時に作成する意見書は「職場復帰に関する意見書」と呼ばれ、主治医の診断結果に基づいて産業医が意見を記載します。

このように、労働者に対して産業医面談や面接指導を行なうだけではなく、事業者が適切な措置を行なえるよう意見を表明するのが、産業医の意見書の役割です。

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「産業医の意見書」と「主治医の診断書」の違い

産業医の意見書と主治医の診断書は、似たものとして混同されやすいですが、その役割は異なります。

産業医の意見書は、労働者の就業への意欲や体力、職場における業務遂行の安定性などを総合的に判断し、「継続的な就業が可能か」「復職をして問題ないか」といった点について意見を述べるためのものです。

一方の主治医の診断書は、患者の疾病や日常生活の安定性についての所見を記載したものです。あくまでも日常生活の安定性についての所見であり、業務遂行の安定性は含まれていないため、主治医の診断書だけでは復職が可能であるか判断することはできません。

労働者の復職の可否などについては、産業医の意見書と主治医の診断書の両方を確認のうえ、総合的に判断することが重要です。

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産業医の意見書に法的な効力はある?

結論から述べると、産業医の意見書に法的な効力はありません。産業医の意見書は、企業に対して意見や助言を提示するものであるため、事業者が産業医の意見や助言を無視したとしても、法令違反にはなりません。

しかし、産業医の助言を聞き入れなかった結果、労働者が健康を害した場合は、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

さらに、企業が労働衛生の専門家である産業医の意見を無視した場合、それだけで安全配慮義務を怠ったとみなされる場合もあるため、可能な限り産業医の意見書は尊重しましょう。

産業医にはどのような権限がある?

2019年に改正労働安全衛生法が施行されたことで、産業医の権限が強化・具体化されました。ここでは、事業者が知っておくべき産業医の権限や勧告権について詳しく解説します。

事業者・総括安全衛生管理者に勧告する権限

労働安全衛生法第13条第5項により、産業医は労働者の健康管理について、事業者に対し意見を述べる権限(勧告権)があります。また、労働安全衛生規則第14条第3項に基づき、産業医は統括安全衛生管理者への勧告権も有しています。

事業者は産業医の勧告をもとに、労働環境の改善措置を決定します。そして、勧告の内容や実施の有無に関して衛生委員会に報告したうえで、記録しなければなりません。その記録は、3年間保存する必要があります。

労働者の健康管理に必要な情報を収集する権限

労働安全衛生規則第14条の4により、産業医には、労働者の健康管理などの活動を実施するために必要な情報を収集する権限が認められています。

産業医から情報提供を求められた場合、事業者は産業医に対し、すみやかに情報を提出しなければなりません。提供する情報は下記のとおりです。

1 健康診断で異常所見が見られた労働者・長時間労働者・高ストレス者などに対する面接指導の実施後に事業者が講じた、または講じようとしている措置に関する情報(措置を講じない場合は、その旨と理由)
2 労働者の業務に関する情報(作業環境、労働時間、作業様態、作業負荷の状況、深夜業などの回数・時間数など)
3 時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えた労働者の氏名と超えた時間に関する情報(高度プロフェッショナル制度対象労働者については、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた時間について、1月当たり80時間を超えた者の氏名と超えた時間に関する情報)

情報提供を行なう際には、認識に違いが出ないよう、書面や磁気ディスクなどに記録して提出し、提供した情報は記録・保存しておきましょう。

ただし、労働者の個人情報が含まれるため、受け渡し方法をあらかじめ検討し、万が一にも情報が漏れないよう、取り扱いは慎重に行なう必要があります。

労働者の健康確保に必要な緊急措置を指示する権限

労働者の健康にかかわる問題があり、緊急の措置が必要な場合、労働安全衛生法規則第14条の4により、産業医は事業者に指示できる権限を持ちます。

なお、緊急措置が必要なケースについては、厚生労働省の通達で以下のように記されています。

「労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合」とは、保護具等を使用せずに、有害な化学物質を取り扱うことにより、労働災害が発生する危険のある場合のほか、熱中症等の徴候があり、健康を確保するため緊急の措置が必要と考えられる場合などが含まれる。

出典:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について|厚生労働省 労働基準局

職場巡視・緊急的措置を実施する権限

労働安全衛生規則第15条により、産業医は原則として月1回以上の職場巡視に加え、作業方法や衛生状態に有害なリスクがある場合は、緊急の措置を講じる必要があります。
そのため、事業者は産業医に対し、職場巡視および緊急措置の権限を与えなければなりません。

なお、産業医に衛生管理者の巡視結果などの情報を毎月提供し、事業者の同意を得ている場合は、産業医の職場巡視を2ヵ月に1回にすることが可能です。

衛生委員会などに対し調査審議を求める権限

働き方改革関連法による「産業医と衛生委員会の関係強化」に基づき、産業医は衛生委員会などに調査審議を求めることができます。(労働安全衛生規則第23条第5項)

衛生委員会は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置の義務があります。衛生委員会とは、労働者の危険や健康障害の防止を図るための対策を調査審議する場です。産業医は衛生委員会の構成メンバーであり、基本的に出席することが求められます。

専門的な立場から、産業医は労働者の健康管理や安全衛生に必要な措置について、衛生委員会で積極的に提案できる権限を持ちます。これにより衛生委員会が活発になり、課題の解決に向けた効果的な措置が検討できます。

【ケース別】産業医の意見書の役割

ここでは、産業医の意見書の役割をケースごとに紹介します。

労働者の健康診断結果に異常所見が見られた場合

労働安全衛生法第66条の5に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を行なわなければなりません。

具体的には、健康診断個人票の「医師の意見」の項目に、健康診断の結果と労働者個人の就業状況や作業内容を鑑みたうえで、産業医が就業区分(通常勤務、就業制限、要休業)を判定し、記入します。

長時間労働が発生している場合

労働安全衛生法第66条の8第5項に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を講じるほか、産業医の意見を衛生委員会などで報告しなければなりません。

具体的には、産業医面談を実施し、所定の様式に就業上の措置にかかわる意見書を作成し、事業者へ提出します。意見書の内容は、就業区分(通常勤務、就業制限、要休業)、就業上の措置(労働時間や作業内容、措置期間などより詳細な意見)、医療機関への受診配慮などです。

ストレスチェックで高ストレスと判定された場合

労働安全衛生法第66条の10に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を講じるほか、産業医の意見を衛生委員会などで報告しなければなりません。

具体的には、長時間労働があった場合と同様に、産業医面談を行ない、所定の様式に就業上の措置にかかわる意見書を作成し、事業者へ提出します。意見書の内容は、長時間労働の場合の内容に加えて、職場環境の改善に関する意見も含まれます。

休職者・復職者が発生した場合

事業者には労働契約法第5条に基づき、安全配慮義務が課せられているため、安易な判断は禁物です。産業医の判断を仰ぐなどして、慎重に対応することが求められます。

休職者が出た際の対応

休職時には、労働者の主治医が作成した診断書が必要です。産業医の意見書については必要との法的明記はありませんが、産業医面談を行なう場合は診断書や本人の状況を確認し、作成するのが望ましいでしょう。

産業医面談を実施し産業医に意見書を作成してもらうことで、企業側は休職者の体調や業務への配慮を行ないながら、スムーズな復職への支援が可能です。

復職者が出た際の対応

復職時も休職時と同様に、主治医の診断書に加えて、「職場復帰に関する意見書」を作成してもらいましょう。労働者が復職するにあたって、産業医は通常どおりの業務が可能か、就業上の措置が必要かどうかなどを意見書にまとめて、事業者へ提出します。

そして、事業者は主治医の診断書と産業医の意見書、本人の実情を考慮し、最終的な復職可否の判断を行ないます。

なお、休職の判断基準や休職までの流れ、休職者の産業医面談については、下記の関連記事で詳しく解説しています。

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労働者の体調不良が続いている場合

体調不良が続いていて、通常どおりの業務を行なえない労働者に対しては、産業医面談を実施することが望ましいでしょう。早期に面談を実施することで、問題に対して早めの対処ができます。

面談の結果、何らかの対処が必要と判断された場合、産業医は企業に対して、時短勤務・休職などの措置が必要であるとの意見書を提出します。

メンタルヘルス不調が発生した場合

メンタルヘルス不調は、本人も周囲も気付かないまま、悪化していくケースがあります。長時間労働や職場での人間関係などによるメンタルヘルス不調の兆候が見られる労働者に対しては、早期の産業医面談と手厚いサポートを実施しましょう。

面談では、産業医がストレスへの対処法を指導したり、医療機関への受診を勧めたりします。就業上の配慮が必要と判断された場合には、その旨を記載した意見書を企業に提出する場合もあります。

メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応のためには、事業者や企業担当者・管理監督者の方も不調のサインを知ることが大切です。関連記事を参考に、スムーズに対応できる体制や心構えを確認しましょう。

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産業医の意見書の作成方法

産業医の意見書は面談内容に応じて所定のフォーマットがあるため、ダウンロード・印刷して、産業医に作成を依頼しましょう。このとき、基本的に医療行為を行なえない産業医は診断書を作成できないため、書類を混同しないように注意が必要です。

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産業医の意見書のフォーマット

産業医の意見書のフォーマットは、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。また、同ホームページには疲労蓄積度や健康状況、生活状況を把握するチェックリストなども掲載されているため、参考資料として活用できます。

高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【高ストレス者用】|厚生労働省

参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【高ストレス者用】|厚生労働省

長時間労働者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル|厚生労働省

参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【長時間労働者用】|厚生労働省

長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【兼用】|厚生労働省

参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【兼用】|厚生労働省

また、厚生労働省・中央労働災害防止協会による、職場復帰に関する意見書もダウンロード可能です。様式例を参考に、衛生委員会などで審議を行ない、実態に即した内容にするのが望ましいでしょう。

職場復帰における意見書| 職場復帰支援の手引き【職場復帰に関する意見書】|厚生労働省

まとめ

事業者や企業担当者の方が産業医の意見書の役割や目的を十分に理解し、労働環境や就業内容に反映することで、より良い企業づくりが期待できます。ただし、そのためには相性の良い産業医選びが何より重要です。

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