職場巡視は、産業医の義務として法律で定められている
そもそも産業医は、常時使用する労働者が50人以上の事業場で選任することが法律で義務付けられています。(労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令5条など)
選任された産業医の役割は「労働者の健康と安全に関して、専門的な立場から助言や指導を行なうこと」です。業務の一つである職場巡視は、産業医の役割を果たすため、確実に行なわれなければなりません。
産業医の定期巡視については、「労働安全衛生規則第15条」で以下のように定められています。
(産業医の定期巡視)
第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、ただちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
出典:労働安全衛生規則第15条
産業医の職場巡視にはどのような目的・意味がある?
産業医の職場巡視には、以下のような目的があります。
- 企業や従業員のことを理解する
- 安全面や衛生面の課題を見つけて、指摘する
- 従業員の業務内容や労働環境を理解する
職場巡視において、産業医は企業の事業内容やそれにともなう従業員の労働状況を把握し、心身へ悪影響を与える部分がないかをチェックします。加えて、職場内で危険な箇所がないか、衛生面で気になる点はないかなどを確認し、意見や指摘を行なうのも目的の一つです。
また、産業医が実際に現場を観察し、従業員と積極的にコミュニケーションをとることで、環境面や健康面の問題を解決できるケースも少なくありません。
このように、職場巡視は産業医の役割を果たすために欠かせない業務と言えます。
産業医の職場巡視は「2ヵ月に1回」でも可能に
これまで、産業医の職場巡視は月1回とされていましたが、2017年の法改正により、以下の条件(1)(2)を満たすことで、2ヵ月に1回へ変更できるようになりました。(労働安全衛生規則第15条)
条件(1)産業医に対して「所定の情報」が毎月提供されなければならない
まず、産業医に対して「所定の情報」が毎月提供される必要があります。所定の情報は、以下のとおりです。
ア:衛生管理者が少なくとも毎週1回行なう作業場等の巡視の結果
・巡視を行なった衛生管理者の氏名、巡視の日時、巡視した場所
・巡視を行なった衛生管理者が「設備、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるとき」と判断した場合における有害事項及び講じた措置の内容
・その他労働衛生対策の推進にとって参考となる事項イ:アに掲げるもののほか、衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
ウ:休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合における、その超えた時間が1ヵ月当たり100時間を超えた労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医制度に係る見直しについて」
条件(2)事業者の同意を得なくてはならない
産業医の判断だけで、職場巡視を「月1回」から「2ヵ月に1回」に変更することはできません。必ず、事業者の同意が必要です。
反対に、事業者の判断だけで「2ヵ月に1回」に変更することもできません。職場巡視を2ヵ月に1回にする場合、事業者は産業医の意見に基づいて、衛生委員会などでの話し合いを行なったうえで同意する必要があります。
また、職場巡視を2ヵ月に1回にすると決まった場合にも、変更する期間を定めなければなりません。その期間終了後には、産業医の意見を確認しながら、2ヵ月に1度の頻度で問題ないか、改めて検討する調査審議が不可欠です。
例えば、職場巡視を4〜9月の6ヵ月間は2ヵ月に1回と決定した場合、10月の衛生委員会内で再び職場巡視の頻度について話し合います。
職場巡視の頻度を抑えるのは、単に訪問回数や業務負担を減らすことが目的ではありません。あくまで多様化する産業医の業務に対応できるよう、時間をより効率的・効果的に使うための変更です。頻度が少なくなっても、職場巡視が重要な業務であることに変わりはありません。
【産業医の職場巡視】基本的な流れと注意するポイント
職場巡視をより効果的なものにするためには、実施前に一連の流れを押さえておくことが大切です。
1回の職場巡視ですべての課題を見つけ、改善することは難しいですが、実施前にできる限りの準備をし、実施と改善を行なっていけば一つずつ課題を克服できます。これから職場巡視を始める企業も、すでに始めている企業も、ぜひ確認してみてください。
職場巡視の事前準備(職場巡視計画・チェックリストの作成)
まずは、職場巡視の参加メンバー(産業医、衛生管理者、衛生委員会の参加者など)の日程調整を行ないます。
前述のとおり、産業医の職場巡視は月に1回、もしくは2ヵ月に1回であり、あまり頻度は高くありません。数少ない職場巡視の機会を利用して、詳しく状況を把握するためには、衛生管理者や現場の責任者など、職場環境について理解している人が同行することが望ましいです。その場で職場環境の課題や改善点といった情報も共有できるため、出来る限り日程調整をし、衛生管理者や現場の責任者が同行できるようにしましょう。
ただし、1回の職場巡視ですべての職場環境を確認することは難しいのが現実です。そこで、毎月の職場巡視において、どこをどのような順番で巡視していくか、という内容をまとめた「職場巡視計画」を作成し、メンバー間で共有しておくとよりスムーズです。
さらに、事業所の特徴や職場環境を考慮し、毎月の職場巡視においてどのような点に気をつけて確認すべきか、事前に把握してチェックリストを用意するようにします。産業医・衛生管理者など職場巡視の担当者が、「従業員の健康障害につながるリスクを早期発見するために、どこに重点をおいて巡視すべきか」を話し合いながらチェックリストを作成すると、より効率的かつ効果的に職場巡視を行なえます。
職場巡視計画やチェックリストの内容は、企業や業種、時期などによっても異なります。職場巡視を繰り返していく中で、産業医・衛生管理者それぞれが気になった点などを都度情報共有しながら、各事業場に合った内容に適宜更新していくことも重要です。
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職場巡視の当日の進め方
職場巡視当日、最初に行なうのは、参加メンバー間で巡視予定の場所や状況などの情報を共有することです。巡視中は該当場所の管理者や担当者などが説明しながら、産業医と一緒に職場の状況を確認し、職場巡視のチェックリストを記入していきます。
また、職場巡視をする際には、積極的に従業員とコミュニケーションをとることも重要です。それにより、職場の問題点が見つかったり、産業医の存在を従業員に知ってもらったりするきっかけになります。職場巡視を行なう目的の一つとして、従業員と産業医とのコミュニケーションの時間を作るようにしましょう。
職場巡視の結果報告
職場巡視を終えたら、産業医が職場巡視の結果を企業側に報告します。その後の情報共有のため、巡視記録を作成してもらうとなおよいでしょう。
その場で改善できそうな問題については、直接対象部署にフィードバックして改善を促します。その際、産業医より改善すべきと指摘された箇所に対し、誰が、いつまでに、どのような改善方法を行なうのか(行なったのか)を、職場巡視報告書に記載しておくようにします。
そして、職場巡視報告書をもとに、安全衛生委員会で結果を報告します。ここで衛生委員会のメンバーである産業医にも、職場巡視後に状況が改善されたかどうか、といった情報が共有されます。
問題点や課題があまりに大きく、対象部署だけでは対応ができない、という場合にも、取り急ぎ応急処置を講ずると共に、安全衛生委員会での審議を通して、抜本的な解決を目指すための対策を模索します。
なお、職場巡視報告書は関係者全員と共有することが大切です。産業医、衛生管理者、管理監督者、そして事業者も含めて確実に内容を確認するようにしましょう。
産業医の職場巡視に関するQ&A
最後に、産業医の職場巡視に関するよくあるQ&Aを紹介します。
産業医の職場巡視はオンラインでも行なえる?
衛生委員会や安全衛生委員会、面接指導など、産業医の業務もオンライン化が進んでいます。しかし、職場巡視は現場を直接チェックすることで課題や改善点を把握するため、オンライン化は困難でしょう。
なお、リアルタイムの配信サービスやスマートフォンでのビデオ通話などは職場巡視の代わりにはなりませんが、状況把握の補助としてなら使用できます。
産業医の職場巡視を行なわない場合、罰則はある?
職場巡視は、労働安全衛生規則第15条に定められている産業医の義務です。そのため、職場巡視を行なわなければ50万円以下の罰金を科されるおそれがあります。
産業医を選任していても、法律で定められている業務を行なっておらず名義貸し状態であれば、それは法令違反に当たります。
なかには、「職場巡視のために訪問しているが、少し雑談だけをして帰る」といった例もあり、企業や産業医が気付いていないだけで、実は義務を果たしていないケースも存在します。
また、職場巡視を適切に行なわず、労働災害が発生した場合には、「安全配慮義務違反」とされる可能性もあるでしょう。
職場巡視を怠ると企業と産業医の双方に責任が問われるため、必ず適切に実施しましょう。
まとめ
職場巡視は原則、月に1回行なわれますが、事業者の同意を得て決められた情報を産業医に毎月提供することで訪問頻度を2ヵ月に1回へと変更できます。
しかし、それは業務負担を減らすための措置ではなく、産業医が担う他の業務(面接指導、ストレスチェック、健康診断、健康教育など)とかけ合わせて、職場環境の改善を推進することが目的です。
職場巡視で改善するべき課題を見つけ、そのあとの職場巡視で課題の改善が確認できるといったサイクルになるよう、あらためて職場巡視の方法を見直してみましょう。
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