産業医の職場巡視とは?義務・頻度・罰則・進め方を人事労務担当者向けに解説

産業医 職場巡視

執筆者

産業看護職兼ライターとして活動しています!

2017年に4年生大学を卒業し、看護師として循環器・呼吸器の急性期病棟に就職しました。最先端の治療を行なう医療機関のため、重症の患者様が入院されることも多く、状態の変化が激しいため、チームの一員として患者様の看護や治療の補助にあたり、時には命に関わる救命処置を行なうこともありました。

その中で、入退院を繰り返す患者様を多く見てきたため、退院後の患者様の生活や地域での医療と福祉に興味を持ち、地域包括支援センターの保健師として勤務しました。

忙しくも充実した毎日を過ごしていましたが、私自身が神経系の難病を患ったため、保健師を退職したのち、「今の自分にできることは何か」を考え、産業看護職兼ライターとしての仕事を始めることになりました。

2021年からライターとして活動を始め、産業保健分野を中心に、法律に基づく企業の法令遵守項目や産業保健活動の内容について、80本以上の記事を執筆しています。
記事を読んだ方がすぐに活用・実践できるような内容になるよう、意識して作成しています。

ライターの仕事は、文章を書く楽しさと知識が深まる嬉しさがあるので、今後も経験を重ね、産業保健分野の専門家として、「読んでよかった」と感じていただける文章を目指していきます。

趣味はストレッチ、家計管理、野球・サッカー観戦、ゲームです。どうぞよろしくお願いします!

監修者

元々臨床医として生活習慣病管理や精神科診療に従事する中で、労働者の疾病予防・管理と職業ストレス・職場環境の密接な関係認識するに至り、病院からだけでなく、企業側から医師としてできることはないかと思い、産業医活動を開始しました。

また、会社運営の経験を通じ、企業の持続的成長と健康経営は不可分であること、それを実行するためには産業保健職の積極的なコミットメントが必要であると考えるに至りました。

「頼れる気さくな産業医」を目指し、日々活動中しています。
趣味は筋トレ、ボードゲーム、企業分析です。

【保有資格】
・日本医師会認定産業医
・総合内科専門医
・日本糖尿病学会専門医
・日本緩和医療学会認定医

産業医を選任している事業場では、職場巡視の頻度や、実施できていない場合に会社へ罰則があるのかを確認する場面があります。産業医の職場巡視は労働安全衛生規則第15条で定められた産業医の職務で、原則として毎月1回、一定の条件を満たす場合は少なくとも2か月に1回とされています。また、定期巡視は厚生労働省の通達で、産業医が実地で行う必要があるとされています。

実務では、巡視の日程調整に加えて、衛生管理者の巡視結果や衛生委員会の審議を経た情報の整理など、人事労務担当者側の準備が必要になります。この記事では、根拠となる条文、頻度と2か月に1回にできる条件、罰則の考え方、オンラインで代替できない理由、進め方とチェック項目を、一次情報にもとづいて整理します。

    この記事でわかること


  • 【1】産業医の職場巡視の根拠条文と目的

  • 【2】毎月1回が原則の頻度と、2か月に1回にできる条件

  • 【3】巡視を行わない場合の罰則の考え方

  • 【4】定期巡視をオンラインで代替できない理由

  • 【5】衛生管理者の週1回巡視との違い

  • 【6】巡視の進め方とチェック項目

産業医の職場巡視は労働安全衛生規則第15条で義務づけられている

産業医の職場巡視とは、労働安全衛生規則第15条で定められた、産業医が作業場等を巡視する職務です。条文は「産業医は」を主語に、少なくとも毎月1回の巡視を求めています。

条文は次のとおりです。

第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 第十一条第一項の規定により衛生管理者が行う巡視の結果
二 前号に掲げるもののほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であつて、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの

労働安全衛生規則|e-Gov法令

括弧書きは、産業医が事業者から毎月1回以上、次の一号・二号の情報の提供を受けており、かつ事業者の同意を得ているときに限って、巡視を少なくとも2か月に1回とできる例外です。条件の詳細は、次の章で整理します。

産業医の選任が必要なのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。労働安全衛生法第13条第1項が産業医の選任を定め、労働安全衛生法施行令第5条が対象を常時50人以上の労働者を使用する事業場としています。選任義務の詳細は、産業医の選任義務について解説した記事もご覧ください。

選任された産業医の役割は、労働者の健康と安全について、専門的な立場から助言や指導を行うことです。職場巡視は、この役割を果たすための業務のひとつです。実務では、巡視の日程を確保し、巡視の対象となる作業場や必要な情報を産業医へ共有する調整が、人事労務担当者に生じます。

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職場巡視の目的は法令上の目的と実務上の目的の2つ

職場巡視の目的は、法令上の目的と実務上の目的の2つに分けて整理できます。厚生労働省の資料「産業医ができること」も、この2つを区別して説明しています。

法令上の目的:作業方法や衛生状態に有害のおそれがないかを見つけ、改善につなげること
実務上の目的:復職可否や適正配置を検討する際に、労働者の健康状態とあわせて業務内容を職場で直接確認すること。職場の雰囲気やコミュニケーションの様子、掲示物から現在の取り組みを知ることもできる

同資料は、同じ健康状態でも業務内容によって判断が異なることがあるため、業務内容を直接確認できる巡視は重要な機会だと述べています。職場側にとっては、産業医が現場の実態を把握したうえで意見を述べる土台になると考えられます。

ただし、実務上の目的を生かすには、復職者や配置の予定など、産業医が確認したい事情を、個人情報の取扱いに配慮しながら事前に共有しておく必要があります。

産業医の職場巡視は原則毎月1回、条件を満たせば2か月に1回にできる

産業医の職場巡視は、原則として毎月1回です。産業医が事業者から毎月1回以上、所定の情報の提供を受けていて、事業者の同意を得ている場合に限り、少なくとも2か月に1回とできます。条文の文言上、情報の提供が続いていることが前提になるため、情報が届かない月がある場合は、条件を満たしているかを確認する必要があります。

回数を減らすこと自体が目的ではありません。巡視の質を保てる運用かどうかを産業医と確認したうえで、頻度を判断することが前提です。

2か月に1回にできる条件は「情報の提供」と「事業者の同意」の2つ

2か月に1回にできる条件は、労働安全衛生規則第15条の括弧書きにある2つです。1つ目は、産業医が事業者から毎月1回以上、所定の情報の提供を受けていること。2つ目は、事業者の同意を得ていることです。

情報の提供:産業医が事業者から、毎月1回以上、次の2項目の情報の提供を受けている
衛生管理者が行う巡視の結果(規則第11条第1項にもとづく巡視)
上記のほか、労働者の健康障害を防止し、または健康を保持するために必要な情報で、衛生委員会または安全衛生委員会の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
事業者の同意:条文が求めるのは「事業者の同意」

同意するのは事業者であり、産業医ではありません。条文の文言は「事業者の同意を得ているとき」です。

産業医の巡視は毎月1回が原則で、情報の提供と事業者の同意の2条件で2か月に1回になる図
(図:産業医の巡視は毎月1回が原則、2つの条件で2か月に1回)
(出典:労働安全衛生規則|e-Gov法令)

なお、労働安全衛生規則第14条の2は、一月当たり80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間に関する情報を、産業医へ提供する事項に挙げています。ただし、第15条が2か月に1回の条件として掲げる情報は上記の2項目であり、80時間を超えた労働者の情報は第15条の条文中には挙げられていません。

実務上は、衛生管理者の巡視結果を毎月産業医へ届け、衛生委員会等で提供する情報を決めておく運用が必要です。この運用を維持する工数が、2か月に1回への見直しを検討する際のハードルになります。

2か月に1回への見直しは規則の括弧書きで認められている

頻度の見直しは、規則の括弧書きで認められています。原則は毎月1回で、産業医が事業者から毎月1回以上の情報提供を受け、事業者の同意を得ている場合に限り、少なくとも2か月に1回とできます。この見直しは、情報が継続して産業医に届く体制があることが前提です。事業場の状況に応じた頻度の判断は、産業医に相談してください。

産業医が職場巡視を行わない場合、会社に罰則はある?

産業医の巡視が行われなかったことだけを理由に、労働安全衛生規則第15条の違反として会社に罰金や懲役が科されるとは断定できません。労働安全衛生法の罰則規定を、条文ごとに切り分けて確認します。

罰則の根拠は、条文ごとに切り分けて確認する必要があります。労働安全衛生法の該当条文は次のとおりです。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。

労働安全衛生法|e-Gov法令

同条第一号が列挙する条項には、産業医の選任義務に関する第十三条第一項が含まれています。産業医を選任すべき事業場で、この規定に違反した場合は、50万円以下の罰金の対象となる違反行為に入ります。なお、列挙の中にある「第十五条第一項」は労働安全衛生法の条文(統括安全衛生責任者)であり、労働安全衛生規則第15条(産業医の定期巡視)とは別の条文です。

第百二十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

労働安全衛生法|e-Gov法令

従業者などが法人の業務に関して第百二十条の違反行為をした場合は、行為者に加えて、法人に対しても罰金刑が科されると定められています。

一方、労働安全衛生規則第15条が定める産業医の巡視そのものについて、罰金額を直接定めた条文は、確認できていません。「巡視をしなければ罰金や懲役」と受け取れる表現は避け、個別の事案については産業医や社会保険労務士などの専門家に確認してください。

巡視が滞っている場合は、産業医と日程を調整し、実施した内容と指摘への対応を記録に残すところから始めます。産業医の巡視が十分に行われていないと感じた場合の見直しの考え方は、産業医が期待どおりに機能しない場合を扱った記事もご覧ください。

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産業医の巡視や法令義務を含む産業保健体制を整えたい方へ

産業医の巡視は、事業場が対応する労働安全衛生関係の法令義務のひとつです。選任、巡視、記録といった義務の全体像を先に整理したい場合には、労働安全衛生法の法制度と、事業所が行わなければならないことを解説した、産業保健師監修のガイドブックがあります。

はじめての労働安全衛生法ガイドブック_産業保健お役立ち資料
【関連お役立ち資料】

産業医の定期巡視はオンラインでは代替できない

産業医の定期巡視は、オンラインでは代替できず、産業医が実地で実施する必要があるとされています。厚生労働省の通達(令和3年3月31日基発0331第4号)が、そのように定めています。

同通達は、情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項を示したものです。定期巡視については、次のとおり記載されています。

産業医の定期巡視については、少なくとも毎月1回(安衛則第15条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回)、産業医が実地で実施する必要があること。

情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について(令和3年3月31日基発0331第4号)|厚生労働省

このため、ビデオ通話などで巡視の代わりとする運用は、通達が認める範囲には含まれません。情報通信機器を用いて実施する産業医業務の整理は、産業医面談をオンラインで行う場合のポイントを扱った記事をご覧ください。

実務では、産業医の訪問日と巡視する作業場の日程を合わせる必要があります。事業場が複数ある場合は、その分だけ訪問の調整が必要になる点が、担当者の負担になりやすいところです。

産業医の巡視と衛生管理者の週1回巡視はどう違う?

産業医の巡視は少なくとも毎月1回(条件を満たす場合は少なくとも2か月に1回)、衛生管理者の巡視は少なくとも毎週1回と、頻度が異なります。衛生管理者の巡視については、労働安全衛生規則第11条第1項が次のとおり定めています。

第十一条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

労働安全衛生規則|e-Gov法令

両者の条文の違いを表にまとめます。

項目 産業医 衛生管理者
根拠条文 労働安全衛生規則第15条 労働安全衛生規則第11条第1項
巡視の頻度 少なくとも毎月1回(産業医が事業者から毎月1回以上の情報提供を受け、事業者の同意を得ているときは、少なくとも2か月に1回) 少なくとも毎週1回
巡視する場所 作業場等 作業場等
有害のおそれを確認する対象 作業方法又は衛生状態 設備、作業方法又は衛生状態
有害のおそれがあるとき 直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じる 直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じる

産業医と衛生管理者の巡視の根拠条文・頻度・確認対象の違いを対比した図
(図:産業医と衛生管理者の巡視の違い)
(出典:労働安全衛生規則|e-Gov法令)

衛生管理者が行う巡視の結果は、産業医の巡視を2か月に1回とするための情報のひとつとして、規則第15条に挙げられています。衛生管理者が毎週巡視し、その結果を産業医へ毎月届ける運用を維持できるかが、頻度の見直しを検討する際のハードルになります。衛生管理者の職務全般は、産業医と衛生管理者の違いを解説した記事もご覧ください。

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産業医の職場巡視の進め方

産業医の職場巡視は、年間計画の作成から改善の確認まで、次の流れで進めます。巡視当日だけでなく、事前の計画と事後の確認までを一連の運用として設計しておくことで、巡視の指摘を改善につなげやすくなります。

産業医の職場巡視の流れ

ステップ1

年間計画の作成:全職場をもれなく巡視できる計画を立てる


ステップ2

チェックリストの用意:確認する観点を分野別に整理する


ステップ3

巡視の実施:チェックリストに沿って現場を確認し、記録を残す


ステップ4

報告書の作成:指摘事項や良好事項を報告書にまとめる


ステップ5

改善の確認:指摘事項が改善されたかを確認する

各段階の詳細は、以降の項目で解説します。労働者健康安全機構の職場巡視のポイントも、進め方を確認する際の資料になります。

巡視前に年間計画とチェックリストを用意する

巡視前の準備の中心は、年間計画とチェックリストです。厚生労働省の資料「産業医ができること」は、大規模な工場では1回の巡視で全体を確認できないため、年間計画の中ですべての職場をもれなく巡視できるように計画することを勧めています。小規模な事業場では、今回は重量物の取扱い、次回は化学物質というように、同じ職場でも観点を変えて巡視する方法が考えられるとしています。

計画には、次の点を産業医や関係者と共有しておくと、当日の調整が円滑になります。

巡視対象:巡視する場所や作業を具体的に決める
巡視者:目的や対象に応じて適切なメンバーを選ぶ
巡視日程:作業や職場の状況に応じて日程を調整する
巡視経路:巡視の範囲と役割分担(撮影・記録など)を決めておく

チェックリストは、作業環境・作業方法・健康管理の分野別に項目を整理し、過去の巡視での指摘事項や、気になる設備を優先項目に置きます。項目の例は、後述のチェックリストの章で示します。年間計画と巡視日程は産業医の訪問日と調整する必要があり、拠点が複数ある場合は調整の工数が増える点が実務上の課題です。

職場巡視当日の進め方(5ステップ)

巡視当日は、事前準備から報告までを5つのステップで進めると、確認の順序を整理しやすくなります。労働者との対話は、職場の状況を正確に把握するうえで大切な要素です。

巡視当日の5ステップ

ステップ1

事前準備:巡回する部署、時間、チェックリストを確認する


ステップ2

現場到着:担当者へ挨拶し、巡回の目的を伝える


ステップ3

巡回:チェックリストに沿って作業環境、安全対策、労働者の様子などを確認し、写真やメモで記録を残す


ステップ4

意見交換:担当者と意見を交わし、課題や改善点を共有する


ステップ5

報告:巡回結果を記録して報告し、必要があれば改善策を提案する

意見交換では、「作業台の高さは調整できますか」「適切な休憩時間が取れていますか」といった具体的な質問が、現場の声を引き出すきっかけになります。労働者から負担の訴えがあった場合は、状況を詳しく確認し、調整や改善の方法を職場側と一緒に検討します。

巡視後は報告書に記録し、指摘事項の改善まで確認する

巡視の結果は報告書に記録し、指摘した事項が改善されたかまで確認します。報告書は、概要・指摘事項・改善提案・進捗確認の構成で作成する例があります。

厚生労働省の資料「産業医ができること」は、巡視報告書には指摘事項だけでなく良好事項の記載も望まれるとしています。各職場の良好事例を他の職場へ広げる(水平展開)ことにつながるためです。

報告書を改善につなげるために、次の3点を押さえます。

巡視で見つけた問題に優先順位をつける
写真やメモで、誰が見ても分かるように具体的に記録する
問題点とあわせて、解決策を具体的に提示する

報告後は、指摘された問題の改善状況を定期的に確認します。改善が進んでいない項目は、その原因を整理して代替案を検討し、確認する頻度や時期は事業場の状況に応じて産業医と決めます。誰がいつ改善状況を確認するかが決まっていないと、報告書だけが蓄積して改善が進まない状態になりやすい点が、実務上のハードルです。

巡視の指摘を衛生委員会で共有する場合の法令上の位置づけは、衛生委員会における産業医の役割と法令を整理した記事もご覧ください。

巡視記録の保管期間は法令で明確に定められていない

巡視記録の保管期間は、法令で明確には定められていません。厚生労働省の資料「産業医ができること」は、次のように説明しています。

産業医や衛生管理者が行う職場巡視に関しては、保管期限が法的には明確にはなっていませんが、上記に準じた取扱いが望ましいでしょう。

産業医ができること|厚生労働省

同じ段落では、一般定期健康診断や雇入れ時の健康診断の記録の保存期限は5年、衛生委員会の記録は3年と説明されています。巡視記録の具体的な保管年数は、これらを参考に社内で定めたうえで、産業医に相談することをおすすめします。

産業医が職場巡視で確認する項目のチェックリスト

産業医が職場巡視で確認する項目は、事業場の業種や課題によって異なります。ここでは、巡視で確認する項目の例として、次の6つについて、巡視で見る観点と、事前に整理しておきたい情報を表にまとめます。各項目の基準の詳細は、関係する規則や産業医の助言にもとづいて、事業場の実態に合わせて確認してください。

項目 巡視で見る観点 事前に整理しておきたい情報
作業環境 照明、温度、湿度、換気などが、業務に支障のない状態で管理されているか 前回巡視での指摘事項、作業場のレイアウト
休息施設 休憩室や仮眠設備など、休養をとれる環境が整い、清潔・安全に維持されているか 夜勤の有無、休憩室・仮眠室の設置状況
4S(整理・整頓・清掃・清潔) 必要なものが決まった場所に置かれ、通路や作業場が清潔に保たれているか 前回巡視からの改善状況
VDT作業 作業姿勢、画面と目の距離、机や椅子の高さ、連続作業時間などに無理がないか 対象部署の業務内容、画面作業の時間
従業員のメンタル管理 勤務時間、休暇の取得状況、健康診断の実施状況などから、過重労働や不調のサインが見逃されていないか 産業医へ事前に共有する事項(守秘に配慮する)
救急用具 設置場所、管理状況、内容が、職場で起こりうるリスクに合っているか 設置場所の周知状況、用具の点検記録

巡視で使うチェックリストの入手は、資料ダウンロードページをご確認ください。

項目ごとに現場の状態を確認するため、現場担当者が事前に状況を把握していないと、巡視当日に確認が進まないことがあります。従業員の健康状態に関わる事項は、守秘に配慮したうえで産業医に共有し、最終的な判断は産業医に相談してください。

オフィスと工場では確認する項目が変わる

同じ職場巡視でも、工場と事務所では重点を置く観点が異なります。職場の実態に合わせて、チェックリストの項目を入れ替える必要があります。

工場の例:作業場の明るさや温度・湿度の管理は適切か。工具や器具は所定の場所に置かれているか。作業着などは清潔か
事務所・オフィスの例:換気や空調の調節は適切か。受動喫煙対策は適切か。避難経路の確保や地震対策はできているか。電気器具のコード類は安全に配線されているか

職種別の詳細な項目は、職場巡視のチェックリストに関する記事もご覧ください。

巡視を形だけにしないためのポイント

巡視を形だけにしないためには、確認する観点、現場との対話、記録、改善の追跡の4点を、毎回の巡視に組み込みます。

巡視を形だけにしない4つのポイント
  1. 重点項目を決める:過去の指摘事項や、気になる設備を優先して確認する
  2. 現場の声を聞く:具体的な質問で、職場の課題を引き出す
  3. 記録を残す:写真やメモで、改善の進み具合を確認できるようにする
  4. 指摘を追う:指摘事項の改善状況を確認し、未解決の課題は次回巡視の重点項目にする

これらを毎月続けるには、産業医の訪問日以外にも、記録の整理や改善状況の確認を担う担当者が必要になります。担当者の工数が確保できないと、巡視が実施の記録だけで終わるおそれがあります。

産業医の選任や交代を含めて体制を見直したい方へ

産業医の巡視は、産業医の訪問日程の調整、衛生管理者の巡視結果や衛生委員会の審議を経た情報の整理、指摘事項の改善確認まで、人事労務担当者の工数がかかる業務です。自社で産業医を採用している企業や、地域の産業医と契約して運用が回っている企業は、現在の体制を続けることが合理的な場合があります。

一方で、産業医の選任や交代を検討している企業や、選任後の産業保健業務の体制構築に負担を感じている企業にとっては、産業医面談やストレスチェック、衛生委員会の支援などをリモートで対応する選択肢も現実的です。リモート産業保健は、産業医と産業看護職の2名体制で、産業医面談、ストレスチェック、衛生委員会の支援に対応するサービスで、基本プランは月額3万円〜です。サービスの内容と料金は、資料でご確認ください。

リモート産業保健サービス資料
【関連お役立ち資料】

産業医の職場巡視に関するよくある質問

ここでは、産業医の職場巡視について寄せられることの多い質問に、本記事の内容をもとに短く答えます。詳細は各章をご覧ください。

Q,職場巡視の役割と責任は、産業医と事業者でどう分担しますか?
A
産業医は、労働安全衛生規則第15条により、作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じる立場です。事業者は、巡視を2か月に1回とする場合に、産業医へ情報を提供し、同意を行う主体です。
Q,職場巡視で確認される主なポイントは何ですか?
A
作業環境、休息施設、4S、VDT作業、従業員のメンタル管理、救急用具などが挙げられます。詳細は本記事のチェックリストの章で解説しています。巡視の前に、過去の指摘事項と現在の課題を含めたチェックリストを準備しておくと、確認漏れを減らしやすくなります。
Q,職場巡視の頻度はどれくらいですか?
A
原則は毎月1回です。産業医が事業者から毎月1回以上、所定の情報の提供を受け、事業者の同意を得ているときは、少なくとも2か月に1回とできます。同意するのは事業者です。
Q,産業医の職場巡視はオンラインで行えますか?
A
定期巡視は、厚生労働省の通達(令和3年3月31日基発0331第4号)で、産業医が実地で実施する必要があるとされています。通達に、オンラインで巡視を代替する運用を認める記載はありません。
Q,産業医が職場巡視を行わない場合、罰則はありますか?
A
労働安全衛生規則第15条の巡視の未実施について、罰金や懲役が直接定められているとは断定できません。労働安全衛生法第120条は産業医の選任義務に関する第十三条第一項の違反などを罰金の対象として列挙しており、第122条には両罰規定があります。条文ごとの整理は、罰則の章をご覧ください。

産業医の職場巡視は法令に沿った実施と記録が基本

産業医の職場巡視は、労働安全衛生規則第15条で定められた産業医の職務で、原則として毎月1回、産業医が事業者から所定の情報の提供を受け、事業者の同意を得ているときは少なくとも2か月に1回とされています。罰則は条文ごとに切り分けて確認する必要があり、巡視の未実施そのものへの罰則は断定できません。定期巡視は通達により産業医が実地で実施する必要があるとされているため、オンラインでの代替は前提にできません。年間計画とチェックリスト、報告書、改善の確認を回しながら、判断に迷う点は産業医に相談してください。

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