産業医面談で不調の相談をしたら、会社に漏れて退職や転職を勧められないだろうか
産業医から「少し休んだほうがいい」「復職はもう少し待ったほうがいい」と言われ、退職勧奨されているように感じる
(人事・労務担当者)産業医から休職者やメンタルヘルス不調者に退職勧奨することは可能?
上記のような不安や疑問はありませんか?「クビにされるかも」と考え、産業医面談を受けることに不安な労働者は少なくないでしょう。産業医面談において、産業医から退職勧奨されたと感じたときはどうしたら良いのでしょうか。
また、メンタルヘルス不調者の対応に困った人事・労務担当者の方のなかには「産業医面談で従業員に退職勧奨をしてほしい」と依頼したくなるかもしれません。
そこで本記事では、産業医面談における退職勧奨について、労働者と人事・労務担当者の双方から詳しく解説します。
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【企業の人事・労務向け!】産業医面談で退職勧奨することは可能なのか
では、メンタルヘルス不調等で復職が厳しい状況であったり、復職後も欠勤を繰り返している従業員がいた場合、企業が「産業医面談で退職を勧めてほしい」と産業医に依頼して退職勧奨を行ってもらうことは可能なのでしょうか?
産業医が産業医面談で従業員に退職勧奨することは違法
結論から言うと、産業医面談で退職勧奨をすることは違法になります。
「退職勧奨」とは「退職してほしい、やめてほしいと従業員へ勧めること」です。産業医はあくまで企業と従業員の間に立つ中立な立場であり、従業員の健康管理のために助言や指導を行い、健康的に働き続けることができるように支援することが産業医の職務です。
休職や退職に関して実施される産業医面談も、心身の不調がある従業員の就業に関して、企業が適切な判断を行うために、安全配慮義務の観点から医学的専門家である産業医の意見を聴取する必要があるため、行っているものになります。
そのため、産業医には従業員に退職勧奨をする権限はありません。また、従業員も退職勧奨に従う必要はありません。
産業医には退職勧奨の意図はなく、従業員の心身を気遣った際の発言であっても、「退職を強制されている」と従業員に間違って捉えられたり、退職を執拗に迫ると退職「強要」として裁判に発展する実例もあります。
このような事態になる可能性があるため、産業医に依頼して退職勧奨を行ってはいけませんし、仮に行ってしまった場合、従業員のメンタルにさらなるダメージを与えてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
また、退職勧奨や退職強要について従業員の間で広まることで、従業員が安心して企業側に相談できる環境が無くなってしまい、結果として企業側も従業員のケアや支援が行いにくくなり、安全配慮義務を果たすことができない状況になりかねません。
休職中の従業員の復職への見通しが立たず、就業規則における休職期間がすぎる場合や休職と復職を繰り返してしまう従業員に対しては、産業医による退職勧奨を行うのではなく、就業規則に基づいて解雇も検討し、不当解雇とならないよう企業と従業員が慎重に話し合いをしていくことが重要になるでしょう。就業規則に休職について定めていない場合は、対応に困らないよう事前に就業規則や社内ルールを決めておくことをお勧めします。
メンタルヘルスケアは意味ある?産業医面談で何を話すべきか
職場で働く従業員にとってメンタルヘルスケアはとても重要です。
そもそもメンタルヘルスケアとは、以下のような意味があります。
「全ての働く人が健やかに、いきいきと働けるような気配りと援助をすること、およびそのような活動が円滑に実践されるような仕組みを作り、実践すること」
(1)健やかにいきいきと働いている健康な人
(2)勤務はしていても過剰なストレス状態にある半健康な人
(3)ストレス関連疾患に罹ったり、精神障害の症状を呈している人
上記の全ての人にその状態にあったケアをするもの
(厚生労働省 こころの耳ホームページ メンタルヘルスケアとその実践の意義より)
メンタルヘルスケアは上記のように現在の状態に関わらず全ての人が対象ですが、メンタルヘルスケアを行う目的は「ケアを行うことで、すべての働く人が健やかに、いきいきと働くことができるようになること」です。
多忙な業務の中だとしてもメンタルヘルスケアを疎かにしてしまうと、仕事に関する不安や悩み、ストレスを強く感じてしまい、ストレス関連疾患や精神障害の症状を発症し、最悪の場合、命に関わる事態になりかねません。
メンタルヘルス対策することで企業が得られるメリットとしては、従業員の健康維持をすることで、従業員のうつ病やストレスによる脳疾患などを未然に防止することができます。その結果、従業員の健康状態が安定し、仕事の生産性が向上し、業績アップにつながっていきます。
そのため、日頃から従業員の心身のケアを行うことでメンタルヘルスケアの意義が高まっていくので重要です。
それでは、事業場のご担当者は職場におけるメンタルヘルス対策について知っていますか?定期的な職場巡視やストレスチェックの実施等、職場のメンタルヘルス対策はさまざまありますが、ここでは産業医と1対1で話せる場である産業医面談について説明していきます。
産業医面談は以下のような場合に実施されます。
- メンタルヘルス不調により就業に影響がある場合
- 健康診断の結果、異常の所見がみられた場合(基準値からの逸脱等)
- ストレスチェックで高ストレスと判定された場合
- 長時間労働となった場合
- 休職中のフォローや復職について検討する場合
上記のような場面で、事業場は産業医面談が必要と判断された従業員に対し、面談希望の有無を確認し、実施することになります。もちろん、場合によっては緊急で面談を行うこともありますが、基本的には従業員本人の了承が必要となります。
産業医面談ではどんなことを話すのでしょうか?まず大前提ですが、産業医には「守秘義務」が課せられているため、正当な理由なく業務上知り得た情報は他人に漏らしてはいけないことになっていて、罰則規定もあります。
そのため、産業医面談で話しても、企業や上司に話が漏れることはないため安心してください。従業員本人の同意がない場合には、産業医が面談内容を企業側に報告することはありません。それを踏まえて、産業医面談で話す内容を説明していきましょう。
- 現在の仕事の状況や悩み
- 生活は規則正しく送れているか
- 心身の調子について
- 人間関係や環境について
- その他(気になることや悩み、不安等)
基本的には上記のような内容を産業医から質問されることが多いですが、話したいことを素直に話していきましょう。話をしていく中で、自分の中で整理がついたり、ストレスや不安の原因に気づけることもあります。
「産業医面談だから」、「メンタルヘルス不調で面談をしているから」と話す内容を気にするのではなく、今の状況や感情を素直に話すことが大切ですので、緊張せず、リラックスして面談を受けるようにしましょう。
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従業員が産業医面談で退職勧奨されたと感じる瞬間とは
では、従業員はどのような場面で退職勧奨されたと感じるのでしょうか。実際に産業医に言われて、「退職を勧められている?」と感じるのは、なかなか復職を進めてもらえなかったり、仕事が合っていないのではと言われた時です。
また、転職の話をされた時も退職を勧められていると感じるでしょう。産業医は医学的所見から判断し、従業員の健康を考えて助言をしていることがほとんどであり、本人の状態や考え、意思等を知るために質問を行っているだけの場合もあります。
休職者本人が復職を強く希望しているにも関わらず、思うように進まないと感じる場合には、実際にはまだ療養が必要な状態であるが、復職への焦りから無理をしてしまっているということも考えられます。
退職を勧められているような内容を言われた時は、自身の状態や働き方について落ち着いて考え直してみると良いでしょう。
なぜ従業員が産業医面談で思わず退職を勧められたと感じてしまうのか
従業員が休職中や復職の準備をしている中、なぜ産業医に退職を勧められたと感じるケースが発生してくるのでしょうか?
例えば、以下のようなケースの場合には、「産業医に退職を勧められた」と感じやすくなるかもしれません。
-
例)
・就業規則上の休職可能期間が残り僅かとなっているのに、産業医がなかなか「復職可能」の判断を出してくれない
・復職の意欲はあるのに、何度産業医面談を受けても「復職可能」の判断を出してくれない
では、なぜ、産業医は「復職可能」の判断をだしてくれないのでしょう?
よくあるケースとして、「心身の状態の回復が不十分である」「治療の状況などが安定していない」「復職しても精神疾患やその他の病気が再発する可能性が高い」などの状況から、上記のように産業医が復職を認めないということがあります。
いずれにせよ、産業医が退職を勧めるのは従業員の健康を考えてのことでしょう。体調悪化のリスクが高い状態で復職をするよりも、退職して十分に休養をした後に、より適した職場で働く方が本人にとって良いのではないか、という意味で退職を勧められた、と感じてしまうことがあるでしょう。
産業医の役割は「企業で働く従業員の健康と安全を守ること」です。健康でなければ働き続けることは本人にはとても大変なことです。実際には退職勧奨をしているのではなく、本人の状態が回復していないと客観的に判断しているだけかもしれないので、新しい道へのきっかけとして、落ち着いて考えてみることが必要です。
従業員必見!もし産業医面談で退職勧奨されたと感じた時の対処法をご紹介
産業医面談で退職勧奨された時の対処法は主に以下の通りです。
- 転職を検討する
- 異動や業務量の調整を相談し、復職する(退職勧奨に応じない)
- 労働組合や総合労働相談センターに相談する(執拗に迫られるなどの場合)
詳しく説明していきます。
転職を検討する
先述している通り、産業医面談で実際には退職勧奨をしているのではなく、産業医が従業員本人の疾患や人生のことを考えて行っている場合が多いです。もし、退職勧奨とまではいかなくても、退職を勧められていると感じた場合、一度立ち止まって仕事のことやこれからのことを考えるきっかけにしてみてもいいでしょう。
また、転職のことを考えていると前向きに考えられても、復職のことを考えると症状が現れる場合は、産業医も転職を勧めざるを得ないこともあります。自身の健康があっての生活や仕事ですので、健康で元気に仕事をしていくためにも、転職を検討してみても良いかもしれません。
異動や業務量の調整を相談し、復職する(退職勧奨に応じない)
退職勧奨は応じないことも可能です。もちろん、復職の際は主治医や産業医、企業と話し合いを行い、職場復帰支援プログラムをこなしながら、疾患の再発をしないように慎重に行う必要があります。
退職勧奨をされたからといって、無理にすぐ復職するのではなく、症状の再発や悪化をしないよう、自身の健康をしっかり考えて行動するようにしましょう。
労働組合や総合労働相談センターに相談する(執拗に迫られるなどの場合)
そもそもの問題になりますが、産業医が「退職勧奨」を行ってはいけません。「退職勧奨」とは「従業員に対して退職を勧めること」ですが、産業医は職場で働く従業員の健康管理全般を担う立場であり、退職や復職等を決めるのは労働者自身にあるため、退職を勧めることは本来行ってはいけません。
しかし、実際の産業医面談では、退職や転職について従業員から産業医に相談する場合もあります。そのため、面談を受ける中で、従業員が退職を勧められていたり、背中を押されているように感じることもありますが、基本的には産業医は「退職勧奨」を行っているのではなく、本人の発言や相談に合わせて助言を行う形で面談を行っています。
もしも執拗に退職について求められる等の退職勧奨をされた場合は違法行為にあたりますので、労働組合や総合労働相談センターに相談しましょう。
まとめ
産業医面談はメンタルヘルス対策としてとても重要な役割を担っています。産業医には守秘義務が課せられているため、個人情報を他者に口外してはいけないことになっています。そのため、面談を行う従業員は「会社に話が漏れるかも」と心配せず、素直に相談してみましょう。
また、産業医は本来退職について勧める行為を行ってはいけませんが、面談を通して、現在の仕事を続けることが本人に大きな健康被害を与えていると判断した場合、医師として見過ごすことができず、退職勧奨のような発言があるかもしれません。
その際は、自身の働き方について考えるきっかけと捉えると良いかもしれません。あくまで、本人の健康の改善を考えて、産業医面談を行っていることを理解しておきましょう。
また、企業側は産業医に退職勧奨を依頼してはいけないことを押さえておきましょう。執拗に退職勧奨を行うと、裁判に発展する可能性もあるため、注意が必要です。
ぜひ、企業の方も従業員の方も産業医面談について理解し、職場で健康にいきいきと働いていける職場環境づくりと働き方を見つけていきましょう。
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