従業員数の拡大局面にある企業では、これまで嘱託契約で対応してきた産業医の体制を見直すタイミングが訪れます。1,000人・500人・3,000人といった人数基準に自社が該当するかどうかを正確に把握しないまま放置すると、選任義務違反として是正勧奨や罰則の対象になりかねません。一方で、専属産業医は報酬水準が高い傾向にあり、コスト負担への懸念も無視できません。本記事では、専属産業医の定義から嘱託産業医との違い、選任基準、探し方、コスト負担まで、人事労務担当者が実務判断に使える形で整理します。
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この記事でわかること
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【1】専属産業医の定義と、嘱託産業医との具体的な違い -
【2】専属産業医の選任義務が生じる従業員数・業務の基準 -
【3】専属産業医のメリット・デメリットとコスト負担の考え方 -
【4】専属産業医の探し方と、確保できない場合の代替策
専属産業医とは?常駐の実態と定義を解説
専属産業医とは、事業場に常勤し、その事業場の労働者だけを担当する産業医のことです。
「専属」という言葉から週5日のフルタイム勤務を想像しがちですが、法令上「専属」は他の事業場を兼務せず特定の事業場の産業医活動に専念することを指すもので、勤務日数そのものを直接定めた規定ではありません。実務上は、対象となる労働者数や業務量に応じて週3〜5日程度の勤務形態がとられるケースが一般的です。ここでいう「専属」と、次章で説明する「嘱託」との違いを正しく理解しておくことが、選任基準を読み解くうえでの前提になります。産業医全般の役割や面談・報酬相場については、産業医の役割や面談・報酬相場を解説した記事もご覧ください。
専属産業医と嘱託産業医の違いは?
専属産業医と嘱託産業医の最大の違いは、選任が義務づけられる労働者数の基準と、勤務形態です。
専属産業医は特定の事業場に常勤し、その事業場の労働者のみを担当します。嘱託産業医は複数の事業場と契約し、月に数回程度の訪問で対応する形態が一般的です。どちらも労働者の健康管理という役割は共通していますが、常駐性と担当できる事業場数、報酬水準の3点で性質が異なります。
| 比較項目 | 専属産業医 | 嘱託産業医 |
|---|---|---|
| 選任が必要になる労働者数 | 常時1,000人以上、または有害業務に常時500人以上従事させる事業場等 | 常時50人以上の事業場(専属の基準に満たない場合) |
| 勤務形態 | 特定の事業場に常勤(週3〜5日程度が一般的) | 複数事業場を兼務し、月1〜数回の訪問が一般的 |
| 担当できる事業場数 | 原則として1事業場 | 複数事業場 |
| 報酬水準 | 嘱託産業医と比べて高い傾向 | 専属産業医と比べて抑えやすい傾向 |
自社が専属産業医の選任義務を負うかどうかは、次の「選任基準」の章で人数基準に沿って確認できます。ここでの比較を踏まえたうえで、自社の該当性を判断してください。
専属産業医と専任産業医は何が違う?
「専任」という言葉は労働安全衛生法令上の正式な用語ではなく、一般的な文脈で使われる表現です。
法令が定めているのは「専属」であり、「専任」は日常的な言い回しとして「専属産業医」とほぼ同じ意味で使われることが多い表現です。求人票や実務資料で「専任産業医」という表記を見かけた場合も、法令上の要件は本記事で解説する「専属」の基準に従って確認することをおすすめします。
専属産業医の選任基準は?対象となる企業の条件を解説
専属産業医の選任義務は、従業員数や有害業務への従事者数に応じた人数基準によって決まります。
そもそも産業医の選任義務自体は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に生じます。
法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。
この50人以上という基準を満たす事業場のうち、規模がさらに大きい事業場では、産業医を「専属」で選任することが求められます。
常時千人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時五百人以上の労働者を従事させる事業場にあつては、その事業場に専属の者を選任すること。
さらに、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場では、産業医を2人以上(いずれも専属)選任する必要があります。ここでいう有害業務とは、坑内における業務や異常気圧下における業務、著しい騒音を発する場所での業務など、労働安全衛生規則が定める14区分(イ〜カ)に該当する業務を指します。自社の従業員数がこれらの基準に近い場合は、産業医の選任義務そのものについても改めて確認しておくと安心です。詳しくは、産業医の選任義務についてまとめた記事もご覧ください。
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専属産業医の選任率は?事業場規模別の統計データ
事業場規模が大きくなるほど、産業医の選任率は着実に高くなっています。

(図:事業場の規模別産業医及び衛生管理者の選任状況_産業保健の現状と課題に関する参考資料|厚生労働省)
(出典:産業保健の現状と課題に関する参考資料|厚生労働省)
厚生労働省の調査(令和2年労働安全衛生調査)によると、常時1,000人以上の事業場における産業医の選任率は99.4%に達しています。この統計は専属・嘱託を区別せず産業医の選任状況全体を示したものですが、規模の大きい事業場ではほぼすべてが何らかの形で産業医を選任していることが読み取れます。専属産業医の選任義務がある1,000人以上の規模の事業場では、選任を怠ることが実務上ほとんど許容されない状況にあると言えます。
専属産業医の要件(選任できる医師の条件)
専属産業医として選任できる医師には、法令上定められた4つの要件のいずれかを満たす必要があります。
具体的には、①厚生労働大臣が指定する研修を修了した者、②産業医科大学等で所定の課程を修め実習を履修した者、③労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)に合格した者、④大学で労働衛生に関する科目を担当する、常勤の教授・准教授・講師の職にある(あった)者、のいずれかに該当することが求められます。自社が候補として検討している医師がこれらの要件を満たすかどうかは、選任前に必ず確認が必要です。詳しくは、産業医の選任義務や要件を解説した記事もご覧ください。
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専属産業医のメリットとデメリット
専属産業医を選任するかどうかを判断するには、メリットとデメリットの両面を把握しておく必要があります。
専属産業医を選任する5つのメリット
専属産業医を選任する最大のメリットは、常勤ゆえに従業員の健康状態を継続的かつ迅速に把握できることです。特に以下の5点は、嘱託産業医では得にくい専属ならではの効果として挙げられます。
- 従業員の健康状態を日常的に把握できる
- 体調不良や異変への迅速な対応ができる
- 経営層と直接連携し、産業保健施策を推進しやすい
- 中長期的な健康管理戦略を立案しやすい
- 職場環境の改善に継続的に関与できる
これらのメリットは、いずれも「常勤」であることから得られるものです。次の章では、その常勤ゆえに生じるコスト面の負担について解説します。
専属産業医のデメリットとコスト負担
専属産業医の最大のデメリットは、嘱託産業医と比べて報酬水準が高い傾向にあり、コスト負担が大きくなりやすい点です。
厚生労働省の調査(労働者健康状況調査報告)によると、産業医としての活動形態に関するアンケートで「専属産業医」と回答した人は139人(全回答者に占める割合は約5%)でした。この調査からは、産業医のうち専属という形態で活動している割合自体は決して高くないことがうかがえます。専属産業医は特定の事業場に常勤するという性質上、嘱託産業医よりも報酬水準が高くなる傾向があり、また候補となる医師の絶対数も限られるため、人材確保そのものが難しいという課題もあります。具体的な年収水準や報酬相場については、確度の高い一次情報を確認できなかったため、本記事では具体的な金額を示さず、契約前に候補医師や紹介元に直接見積もりを確認することをおすすめします。報酬相場についてさらに詳しく知りたい方は、産業医の報酬相場を解説した記事もご覧ください。
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専属・嘱託・アウトソースのコスト比較シミュレーション
専属産業医・嘱託産業医・産業保健サービスへのアウトソースは、コストの発生の仕方そのものが異なります。
専属産業医は常勤の人件費に加えて社会保険料などの負担が発生するため、契約形態の中では相対的にコストが大きくなりやすい選択肢です。嘱託産業医は月額の契約報酬が中心で、専属よりも負担を抑えやすい一方、常勤ではないため対応できる範囲に限りがあります。産業保健サービスへのアウトソースは、月額3万円〜から利用できるプランが用意されている場合があり、専属・嘱託のいずれとも異なる費用構造で、必要な機能を組み合わせて利用できる点が特徴です。自社の従業員規模や求める対応範囲に応じて、どの契約形態が総合的に見合うかを比較検討することをおすすめします。
| 契約形態 | 費用の発生の仕方 | 対応範囲の目安 |
|---|---|---|
| 専属産業医(直接雇用) | 常勤の人件費+社会保険料等 | 特定の事業場に常駐し幅広く対応 |
| 嘱託産業医 | 月額契約報酬(規模に応じて変動) | 月1〜数回の訪問対応が中心 |
| 産業保健サービスへのアウトソース | 月額3万円〜のプラン利用料 | サービス内容に応じた対応範囲 |
専属産業医の探し方4選
専属産業医を探す方法は、大きく分けて4つあります。自社での採用活動が向いている企業もあれば、地域の医師会や紹介サービスを頼るほうが効率的な企業もあり、自社の体制やスピード感に応じて適した探し方を検討するとよいでしょう。
- 地域の医師会に相談する
- 産業医と接点のある医療機関に相談する
- 健診機関に相談する
- 産業医紹介サービスを利用する
このうち、候補者を効率的に見つけたい場合は紹介サービスの活用が有力な選択肢です。自社での採用活動や地域の医師会経由での依頼が向いている企業もありますが、候補者探しに時間をかけられない企業にとっては、外部の産業保健サービスの活用も現実的な選択肢の一つです。
専属産業医の契約形態(直接雇用と業務委託)
専属産業医の契約形態には、大きく分けて直接雇用と業務委託があります。
直接雇用は、自社の従業員として産業医を雇い入れる形態です。業務委託は、医師個人または医療機関と業務委託契約を結び、専属に近い形で常勤してもらう形態です。どちらを選ぶかによって、社会保険料の負担や契約の柔軟性が変わってきます。業務委託の詳細については、産業医への業務委託の仕組みや費用感を解説した記事もご覧ください。詳しくは、産業医との契約形態を整理した記事もご覧ください。
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専属産業医を探す際に確認すべき3つのポイント
専属産業医を選ぶ際は、資格や実績だけでなく、自社との相性も重要な判断材料になります。契約後のミスマッチを防ぐために、次の3つのポイントを事前に確認しておきましょう。
- 企業側の事情や現場の実態を理解しようとする姿勢があるか
- 自発的に職場巡視や情報収集に動いてくれるか
- 人事労務担当者や現場の管理職と円滑にコミュニケーションが取れるか
これらは面談や事前のヒアリングを通じて確認できる項目です。契約後にミスマッチが判明すると体制の再構築に時間がかかるため、契約前の段階でできるだけ具体的に確認しておくことをおすすめします。
専属産業医を選任したら行う手続き
専属産業医を選任したあとは、労働基準監督署への報告手続きが必要です。
産業医の選任そのものには期限があり、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任することが定められています。一方、選任した後に行う産業医選任報告書の提出については「遅滞なく」報告するよう定められているのみで、具体的な日数の定めはありません。この2つの期限を混同すると、社内のスケジュール管理が曖昧になりがちなので、選任そのものの期限と報告の期限を分けて管理することをおすすめします。報告書の様式や記入例については、選任報告書の書き方をまとめた記事もご覧ください。
専属産業医が確保できないときのリスクと対処法
専属産業医の候補が見つからないまま選任義務の期限を迎えると、法令違反のリスクが現実味を帯びてきます。
選任義務がある事業場が専属産業医を確保できないまま放置すると、選任義務違反として是正勧奨の対象になる可能性があります。人材確保が難航している場合の代替策としては、産業医紹介サービスの活用や、産業保健業務全体を外部にアウトソースする方法が一般的です。自社での採用活動や地域の医師会経由での依頼が向いている企業もありますが、候補者探しに時間をかけられない、あるいは専属での確保が難しい企業にとっては、リモートで対応できる産業保健サービスを選択肢に加えることが現実的な対処法になります。
よくある質問
専属産業医に関して人事労務担当者からよく寄せられる質問をまとめました。
- Q,専属産業医は工場や事業場に常に常駐している必要がありますか?
- A
「専属」は他の事業場を兼務しないという意味であり、24時間常駐を義務づけるものではありません。実務上は週3〜5日程度の勤務形態がとられることが多く、具体的な勤務日数は事業場の規模や業務量に応じて決まります。
- Q,専属産業医の配置義務はどのような企業に生じますか?
- A
常時1,000人以上の労働者を使用する事業場、または有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場に生じます。常時3,000人を超える事業場では、専属の産業医を2人以上選任する必要があります。
- Q,専属産業医は自社の別の事業場も担当できますか?
- A
専属産業医は、選任された特定の事業場の労働者を担当することが前提です。複数の事業場を横断的に担当させたい場合は、事業場ごとに専属産業医を選任するか、他の事業場については嘱託産業医を選任するなど、体制を分けて検討する必要があります。
- Q,専属産業医は他社の産業医と掛け持ち(兼務)できますか?
- A
専属産業医の兼務の可否について、明確な公的規定は確認できていません。実務上は、専属である以上、他の事業場の産業医業務との兼務は基本的に想定されていないと考えられますが、個別の事情によって扱いが異なる可能性があるため、断定はできません。自社での対応に迷う場合は、契約前に産業医本人や紹介元、必要であれば専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
専属産業医の選任は、従業員数や有害業務従事者数の基準を満たす企業にとって法令上の責務です。
嘱託産業医との違いを理解したうえで自社の該当性を確認し、選任基準・コスト負担・探し方のそれぞれを踏まえてパートナーとなる産業医を選ぶことが重要です。専属での確保が難しい場合には、紹介サービスの活用や産業保健業務のアウトソースも現実的な選択肢になります。自社に合った体制を検討する際は、産業医への相談もあわせて進めることをおすすめします。



