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産業医になる要件とは?
産業医は、企業に属する労働者が心身ともに健康で働くことができるように、職場の状況に合わせて指導や助言を行っています。産業医の存在は、労働者にとってはもちろんですが、企業にとってもさまざまなメリットがあります。
しかし、産業医については、病院やクリニックなどで診察している医師と、どのような違いがあるのかわからない、あるいは、医師の資格があれば業務を行うことができる、と思っている方も多いのではないでしょうか。
産業医は、病院やクリニックで診察をしている医師と同様に医師の資格を持っていますが、それだけでは産業医としての業務を行う事はできません。
産業医として業務を行うためには、職場で働く労働者の心とからだの健康管理や、職場の安全対策などについて、法律で定められた養成課程のある大学や、医師会の研修を修了するなど、厚生労働省が定める産業医の要件を満たす必要があります。
実際に産業医の資格を持つ医師は約10万人程であり、医師全体でみると3割ほどしかいません。
ただし、資格を持っている産業医の全てが業務を行っているわけではありません。
産業医の実働数は推計約3万人とされており、医師全体の1割とさらに少なく、選任が必要な時にすぐに見つけられない場合があります。産業医の選任が必要となった時に慌てないように、早い時期から準備を行う必要があります。
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産業医の選任義務はいつから?従業員の数が50名を超えたら必ず選任!
では、実際に産業医の選任が必要となるのはいつからでしょうか。
産業医の選任については、労働安全衛生法により定められており、常時使用する労働者の数が50人以上の事業場で選任する義務があります。なお、常時使用する労働者にはアルバイトやパート従業員の人数も含まれます。
ここで注意が必要なのは、常時使用する労働者が「50人以上」の事業場ということです。そのため、常時使用する労働者が50人となった時点で産業医を選任する義務が生じます。
もう一つ注意しなければならないのは、常時使用する労働者が50人以上の「事業場」で、産業医を選任するということです。事業場とは、原則として同じ場所で相関連する組織的な作業を行う場所のことを指しており、離れている場所は別の事業場とされます。
例えば、本社と支店がある場合、本社と支店それぞれを1つの事業場として考えます。本社には既に産業医がいる場合でも、支店で常時使用する従業員が50人を超えていれば、支店にも産業医を選任する必要があります。このように、産業医の選任は、事業場単位で考えていきます。
ただし、同じ事業場であっても、事務作業と工場の作業など、労働状態が違う場合には、労災を防ぎ労働者の安全を守る目的で、それぞれを事業場として分けて考えることが必要です。
例えば、本社の中に食堂や医務室がある場合、本社、食堂、医務室をそれぞれ1つの事業場として考える必要があり、本社には事業場が3つあることになります。
それでは、常時使用する労働者が「50人未満」の事業場では、産業医を選任しなくても大丈夫なのでしょうか。
常時使用する労働者が50人未満の事業場においても、安全配慮義務が課せられます。
安全配慮義務とは、労働者が安全で健康に働けるように、企業側が負う義務であり、作業環境を安全に整え、労働者の健康管理を行うためには、産業医を選任することが望ましいとされています。
特に事業の拡大などにより、労働者数が50人以上となることが予測される場合には、早めに産業医を選任することをお勧めいたします。
嘱託産業医と専門産業医、どちらを設置する?産業医の設置要件
常時使用する労働者が50人以上の事業場では、産業医を選任する義務があることについてお話ししてきましたが、産業医の雇用形態には、「嘱託産業医」と「専属産業医」があります。どちらを選択したらよいのかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
嘱託産業医と専属産業医のどちらを選任する必要があるのかなど、産業医の設置要件についても労働安全衛生法で定められています。また、産業医の業務内容についても同法により定められています。
常時使用する労働者が50人以上、999人以下の事業場では、「嘱託産業医を選任」する必要があります。一方、常時使用する労働者が1000人以上の事業場、または有害業務に従事している労働者が500人以上になる事業場では、「専属産業医を選任」する必要があります。
では、嘱託産業医と専属産業医ではどのような違いがあるのでしょうか。
嘱託産業医は、非常勤の産業医のことです。病院やクリニックの医師が、日常の業務の傍らで事業場を訪問し、産業医の業務を行っています。複数の企業で嘱託の産業医業務を兼任し行っている場合もあります。
それに対して専属産業医は、文字通り専属の産業医のことです。嘱託産業医と違い、企業の中で産業医としての業務を専門に行っています。
嘱託産業医と専属産業医は、雇用形態の違いはありますが、業務内容については、労働安全衛生法で定められており、大きな違いはありません。そのため、常時使用する労働者が50人以上となるようであれば、まず嘱託産業医の選任が必要です。
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産業医の設置基準とは?何人以上から必要?
職場における産業医の必要人数は?事業所の規模によって変わります!
嘱託産業医と専属産業医の違いについてお話ししてきましたが、実際に産業医を選任することになったら、何人、必要となるのでしょうか。
事業場に何人の産業医を選任する必要があるのかなどについても、労働安全衛生法で定められています。
常時使用する労働者が50人以上、999人以下の事業場では、「嘱託産業医を1名以上選任」する必要があります。一方、常時使用する労働者が1000人以上の事業場、または、有害業務に従事している労働者が500人以上になる事業場では、「専属産業医を1名以上選任」する必要があります。
常時使用する労働者が1000人以上の事業場では、その後労働者の人数が増えても専属産業医の選任は1名のままで大丈夫なのでしょうか。
労働安全衛生法では、労働者の人数が多くなるほど選任する産業医が増えることが定められています。そのため、常時使用する労働者が3000人以上の事業場では、専属産業医を2名以上選任する必要があります。
労働者の人数を増やす予定がある場合には、産業医の人数とともに、産業医の雇用形態についても見直しが必要です。
とはいえ、企業の産業保健担当の方が、日常業務を行いながら事業場の労働者数を確認し、産業医の必要人数や雇用形態を見直すことは、慣れない作業となるため、間違えてしまう事もあるかもしれません。そんな時、産業医の必要人数を語呂合わせで覚える方法もあります。
産業医の必要人数の覚え方として、
労働者が1000人(せんにん)になったら、専任(せんにん)
労働者が3000人(さんぜんにん)になったら、再専任(さいせんにん)
などと覚えることもできますので、ご参考になさってください。
産業医を選任しない場合の罰則
では、産業医を選任していなかった場合に罰則などはあるのでしょうか。
労働安全衛生規則では、常時使用する労働者が50人を超えてから14日以内に産業医の選任を行うことが定められています。そのため、常時使用する労働者が50人以上となり、選任が必要となった時点で、速やかに産業医を選任し、所轄の労働基準監督署へ選任報告書を提出する必要があります。
産業医の選任は労働安全衛生法で定められた法的義務です。
例えば、産業医を選任する必要があるにもかかわらず怠ってしまう、または、専属産業医の選任が必要な事業場で、嘱託産業医を選任している場合などは違法行為となってしまいます。違反してしまうと、50万円以下の罰金が科せられることとなりますので、注意が必要です。
なお、嘱託産業医、専属産業医ともに、必要とされる人数より多く選任しても罰則はありません。
むしろ産業保健に積極的に取り組みたい、または、労働者の健康管理をより充実させることなどを考えて、産業医の人数を多く選任している企業もあります。
企業として法的義務を果たすためには、労働者の人数に合わせて、事業場ごとに産業医の人数と雇用形態に間違いがないか、常に見直すことが重要なポイントとなります。

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