適応障害は、日常の出来事や環境にうまく適応できないストレスから、心身のバランスを崩し、さまざまな症状が表れる疾患です。休職が必要になるケースもあり、発見や治療が遅れると企業の損失にもつながりかねません。
労働者に適応障害の可能性がある場合、産業医と連携して迅速に対応することが重要です。
そこで本記事では、適応障害の原因や症状、うつ病との違いを詳しく解説します。また、労働者が適応障害を発症したときの対応方法についても解説していますので、企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。
適応障害とは?
適応障害とは、日常生活の出来事や環境の変化に適応できず、心身のバランスを崩してしまう疾患のことです。長時間労働、ハラスメントなどによる心理的負担が原因となり、適応障害を発症する方も少なくありません。
適応障害になると、不安や抑うつ、頭痛、不眠などの心身の不調が起こるほか、家事ができない、仕事に行けないなど、生活のあらゆる場面に支障をきたすおそれがあります。
適応障害の症状について
適応障害の症状は不安や抑うつ、頭痛など人によってさまざまです。遅刻や無断欠勤など、行動的な症状が表れる場合もあり、対人関係や社会生活に悪影響が出るケースもあります。
適応障害のおもな症状は以下のとおりです。
- 情緒的な症状
抑うつ、不安、焦り、緊張、意欲の低下、イライラ、悲壮感、神経の過敏、思考力や集中力の低下など - 身体的な症状
倦怠感、不眠、急に涙が出て止まらない、動悸、めまい、発汗、過呼吸、食欲不振、肩こり、頭痛など - 行動的な症状
早退、遅刻、無断欠勤、対人関係の悪化、アルコールの多飲、暴食、無謀な運転、ひきこもりなど
強いストレスがかかる環境下で上記のような症状が表れ、仕事や家庭に支障が出た場合、適応障害と診断される可能性があります。
適応障害とうつ病の違い
前項で紹介した適応障害の症状は、ほとんどがうつ病の症状と同じです。
しかし、適応障害とうつ病では、根本的な原因が異なります。また、ストレス因子を除去した際の、症状の改善の有無にも違いがあります。
適応障害 | うつ病 | |
---|---|---|
原因 | ・ストレス因子に対するストレス反応 ・明確なストレス因子がある |
・セロトニン不足による脳の不調 ・明確なストレス因子がないことがある |
症状 | ・ストレス因子から距離を置くと症状が改善する | ・2週間以上にわたり症状が継続する |
治療 | ・ストレス因子を取り除くための環境調整を行なう | ・抗うつ薬などの投薬治療を行なう |
適応障害は、日常生活の出来事や環境の変化に対する「ストレス反応」です。ストレスとなる要因や出来事などがはっきりしているので、多くの場合、ストレス因子から距離を置くことで症状の改善がみられます。
例えば、仕事上の問題がストレス因子になっている場合、出勤の日は憂うつで不安が強く、緊張したり、手が震えたりするなどの症状が表れます。しかし、休日になると憂うつな気分が軽くなり、趣味はいつもどおり楽しめるといった様子がみられるのが特徴です。
適応障害の治療は、ストレス因子の除去が基本です。投薬治療を行なうこともありますが、根本的な解決にはなりません。ストレスの原因からうまく離れることが最重要です。
一方、うつ病はストレス因子の有無や環境の変化にかかわらず発症するため、治療を始めても症状がすぐに改善することはほとんどありません。うつ病は、セロトニン不足による「脳の不調」であるため、ストレス因子がなくても症状が長期にわたり継続します。
症状は適応障害と似ていますが、不眠や興味・関心の喪失、食欲の低下などが2週間以上続く場合は、うつ病の可能性があるため注意が必要です。うつ病は、抗うつ薬などの投薬治療で改善が期待できます。
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適応障害は、就職や転職、転勤、結婚、離婚などの環境の変化が原因で発症します。就職や結婚などの喜ばしいライフイベントも、人体にとっては大きなストレスになり得るのです。
職場では、新入社員が配属されたときや、人事異動・昇進などで職場の環境に変化があったときなどに、適応障害を発症しやすくなります。
また、上司や同僚との対人関係や、モラハラ・パワハラなどのハラスメントが引き金になる場合もあります。
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【STEP1】産業医への相談を促す
労働者に適応障害の兆候がみられる場合、まずは産業医への相談を促すようにしましょう。
適応障害の症状を改善するには、ストレスとなっている原因の除去が必要ですが、根本的な原因が何なのか、労働者本人がわかっていないケースもあります。そのような場合には、第三者である産業医に相談し、ストレス因子を特定することが重要です。
産業医への相談を促す際には、強制するのではなく、あくまでも本人の意思を尊重しましょう。産業医の面談を受けることで、不利益が生じることがない旨などを丁寧に説明すると、相談に前向きになってくれるかもしれません。
ただし、産業医は臨床医と立場が異なる存在であるため、企業側は以下の点についてあらかじめ理解しておく必要があります。
- 産業医は治療や診断を行なわない
- 産業医は企業と労働者の間の中立的な立場からアドバイスを行なう
ただし、労働者の相談を受けた産業医が、専門の臨床医による診察が必要であると判断した場合には、労働者に受診を促すことができます。
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適応障害への対応では、ストレスの原因を取り除くことが最重要ですが、その原因によって対処法は異なります。
人間関係が原因の場合
就職や転職、異動などで新しい環境に身を置いた際に、人間関係になじめないことがストレスになることは少なくありません。
職場の人間関係が原因で労働者が適応障害を発症した場合には、以下のようなサポートをしましょう。
- 仕事に関して疑問点や不安がないか、こまめに確認する
- 業務を適宜フォローする
- 定期的に1on1ミーティングを行なう
また、職場でのハラスメントが原因で、適応障害を発症するケースもあります。
ハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、人格権を侵害する行為です。さらに、職場環境の悪化、労働者のモチベーション・生産性の低下、休職・退職などに発展すれば、企業の損失は避けられません。
職場におけるハラスメント対策については、厚生労働省が指針を公表しています。ハラスメントを防止するため、2022年4月から、ハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。
職場におけるハラスメント対策として、まずはハラスメントを許容しない方針をあらためて明確化し、労働者に周知して啓発を促します。
くわえて、ハラスメントを受けた労働者が相談しやすい体制を整えることも大切です。プライバシーの保護に留意し、不利益な取り扱いが起こらないよう、十分に配慮しましょう。
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業務量や業務内容、労働環境がストレスになり、適応障害を発症するケースもあります。具体的には、以下のような状況の変化が原因になり得ます。
- 苦手な仕事を任された
- 初めての管理職で管理業務が負担になっている
- 人員不足で残業が急激に増えた
業務内容や労働環境がストレスの原因になっていると考えられる場合には、まずは産業医に相談し、業務量や業務内容が適切かどうか、あらためて検討しましょう。
産業医は、業務における労働者の心理的な負担の程度や心身の状態を把握し、業務の継続が困難な場合は、企業側へ配置転換や人員補充などの措置を提案します。症状の悪化を防ぐためにも、速やかな対策が必要です。
また、労働者がメンタルヘルス不調に陥るのを未然に防ぐ、という視点も忘れてはいけません。問題が発生する前に、定期的に業務量や労働時間の見直しなどを行ない、労働環境改善に努めるのが理想的でしょう。
【STEP3】休職を勧める
適応障害の症状により業務を継続できない、または症状が悪化する可能性がある労働者には、休職を勧めます。休職を勧める際には、直属の上司よりも人事部や総務部などから提案してもらうほうが、労働者の心理的な負担が軽くなります。
なお、休職は法律で定められている制度ではないため、企業の就業規則などのルールに沿って、対応を進めましょう。
メンタルヘルス不調は周囲に気付かれにくいため、無理に働き続けて対応が遅れると、さらなる悪化を招きかねません。産業医がいる場合は、産業医と相談しながら休職の準備を進めるとよいでしょう。
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試し出勤を行なう場合には、以下の点に注意しましょう。
- 勤務時間を調整する
最初からフルタイムで復帰するのではなく、短時間勤務でのリハビリ期間を設けます。少しずつ勤務時間を長くすることで、労働者の不安が緩和され、スムーズな復帰につながります。 - 業務内容を見直す
ストレスの原因が業務内容にある場合、業務量を減らしたり、人員を補充したりするなどの措置が必要です。 - 職場の上司や同僚の協力を得る
プライバシーに十分配慮したうえで、労働者の復職における注意点などを上司や同僚と共有します。周囲の理解と協力を得ながら、職場の環境に慣れていけるよう支援します。 - 主治医や家族と連携する
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