政府主導の働き方改革とは?法改正による8つの変化、3つの課題を徹底解説

政府主導の働き方改革とは?法改正による8つの変化、3つの課題を徹底解説

そもそも働き方改革とは?

新聞やニュース、雑誌など、さまざまなメディアで取り上げられ、なにかと話題になる「働き方改革」ですが、そもそもどのような内容なのでしょうか。まずは「働き方改革」の意味と目的について紹介します。

2019年、働き方改革関連法が施行された

働き方改革とは、労働者が各々の事情に合わせて、多様な働き方を自分で選択できるようにするための改革のことです。働き方改革を促進する一環として、国は「働き方改革関連法」を制定し、各種労働関連の法律の改正を行なっています。

働き方改革関連法は2019年4月1日から順次施行されています。ただし、すべての内容が一度に導入されたわけではありません。詳しくは後述しますが、導入時期は企業規模に応じて異なります。

事業場や企業の担当者は法改正の内容だけではなく、自社の規模に応じた施行時期も押さえておきましょう。

働き方改革の目的

働き方改革は、現在の日本社会が抱えている以下のような課題を解決するために行なわれています。

少子高齢化による労働力人口の減少
労働者の生活スタイルの多様化と、働き方に対するニーズの変化

上記の課題を解決するためには、それぞれが自分たちに合った働き方を選べる、働きやすい社会であることが必要です。また、ライフステージに合わせて健康的に長く働き続けられれば、就業機会の拡大と労働力人口の減少の抑制が期待できます。

働きたい人が働きやすい環境を整えることで、企業が人手不足の解消や生産性の維持・向上を実現できれば、日本経済の活性化につながります。

働き方改革は、働くすべての人が、心身ともにより豊かな状態で働き続けることを目指す取り組みです。実現すれば、個人・企業・国のすべてに有益な政策といえます。

働き方改革関連法の施行にともなう8つの変化

働き方改革を推進するために、国は働き方改革関連法を制定しました。働き方改革関連法には、労働基準法をはじめとする各種労働関連法の是正や措置内容が示されています。

ここからは、働き方改革関連法にともなう変化を8つ紹介します。事業場や企業の担当者は必ずチェックしておきましょう。

働き方改革による変化(1)時間外労働の上限規制

これまで法律上での時間外労働の上限規制はなく、大臣告示による上限が設定されているのみでした。しかし、働き方改革関連法にともなう法改正により、時間外労働の上限規制が初めて制定されました。

残業時間の上限は特別な事情がない限り、原則月45時間、年360時間を超えることはできません。なお、月45時間の残業時間を一日あたりに換算すると、約2時間に相当します。

また、特別な事情があり、労使が同意している場合であっても、以下の上限を超えることはできません。

  • 年720時間
  • 複数月平均80時間(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)

この時間外労働の上限規制は、2019年4月1日から大企業で施行、2020年4月1日から中小企業で施行されています。ただし、適用を猶予・除外する事業・業務(自動車運転業務、医師、建設事業など)があるため、関係する事業場は注意が必要です。

働き方改革による変化(2)割増賃金率の引き上げ(月60時間超の残業分)

月60時間超の残業分についての割増賃金率は、これまで大企業で50%、中小企業で25%でしたが、改正後は大企業・中小企業ともに50%となりました。

つまり、中小企業における、月60時間超の残業時の割増賃金率が引き上げられます。この内容は2023年4月1日から施行予定です。

働き方改革による変化(3)勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度とは、勤務終了時間から翌日の始業時間までの間に、一定以上のインターバル(休息時間)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保する制度です。

勤務間インターバル制度は2019年4月1日から施行され、努力義務となっています。十分なインターバルを設けるには、残業した日の翌日の始業を遅らせる、ある時刻以降の残業を認めないなど、労働者に合わせた工夫をすることが必要です。

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働き方改革による変化(4)高度プロフェッショナル制度の導入

高度プロフェッショナル制度とは、一定以上の年収があり、職務の範囲が明確な労働者が高度な専門知識を必要とする業務に従事する場合に、労働基準法で定められた以下の規定を適用しない制度です。

  • 労働時間
  • 休憩や休日
  • 深夜の割増賃金

ただし前提として、本人の同意や労使委員会の決議、本人の健康確保措置の実施が必要です。

この制度は2019年4月1日から施行されています。高度プロフェッショナル制度に適用できる具体的な業務の内容については、以下の資料を確認しましょう。

参考:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説|厚生労働省

働き方改革による変化(5)フレックスタイム制の見直し

フレックスタイム制とは、一定期間において所定の労働時間の範囲内で、始業・終業時刻や一日に働く時間を調整できる制度のことです。

労働者が自分で出勤・退勤時間や労働時間を決められるため、生活や業務の状況に応じて働くことができます。

2019年4月1日からフレックスタイム制の内容が拡充され、労働時間の清算期間(時間の調整が可能な期間)が1ヵ月から3ヵ月になりました。

清算期間が3ヵ月になることで時間調整に余裕が持てるようになり、子育て、介護、自身の勉強やリフレッシュなどと両立させながら、より柔軟に働くことができます。

働き方改革による変化(6)年次有給休暇の取得促進

2019年4月1日から、すべての企業で10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。なお、対象者には有期雇用労働者や管理監督者も含まれます。

それまでは、年次有給休暇は労働者本人が申請しなければならなかったため、「そもそも申請しにくい」といった声が多く挙がっていました。

しかし、年次有給休暇は労働者が心身をリフレッシュして、健康を維持し、生活の質を向上させる機会として確実に設けなければなりません。

改正後は、使用者側から労働者に年次有給休暇についての希望を聴取し、可能な限り労働者の希望に添った時期に取得できるように年5日の取得を義務付けました。

仮に取得させなかった場合は労働基準法違反とみなされ、30万円以下の罰金を科される可能性があります。

参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省

働き方改革による変化(7)正規・非正規の待遇差の是正

働き方に関わらず、労働者が納得して働き続けられるように、同一企業内で雇用形態による待遇差(基本給や賞与など)をつけることが禁止されました。

2020年4月1日から派遣会社や大企業で適用、2021年4月1日から中小企業で適用となっています。「同一労働同一賃金」が基本であり、正社員と非正規雇用労働者の間に、不合理な待遇差を設けてはいけません。

非正規雇用労働者の待遇改善に取り組む際は、全国47都道府県に設置されている働き方改革推進支援センターに相談しましょう。

参考:働き方改革推進支援センターのご案内|厚生労働省

働き方改革による変化(8)産業保健の機能強化

2019年4月1日から、産業医・産業保健機能に関する内容が強化されました。

これまで以上に、産業医の活動環境の整備や産業医と衛生委員会の関係性の強化、産業医への情報提供と報告期限の明確化、労働者からの健康相談体制の整備などが求められています。

産業保健の機能強化は、労働者の健康維持と労働環境の改善につながり、労働者のモチベーションや生産性のアップが期待できます。

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働き方改革を推進するうえで、知っておきたい3つの課題

働き方改革を速やかに進めることは重要ですが、起こりうる課題を事前に確認して対策をとっておかなければ、多くの問題に直面することになりかねません。

そこで最後に、事業場や企業の担当者が知っておきたい働き方改革の課題を3つ紹介します。

働き方改革の課題(1)生産性が上がるとは限らない

働き方改革を始めたからといって、すぐに生産性が向上し、企業の成長につながるとは限りません。既存の仕事の進め方を変えないまま、残業時間を削減しようとしても仕事は終わらず、かえって生産性が低下する事態にもなりかねません。

さらに、働き方改革の一環として多様な人材を採用した結果、研修や教育に時間をとられ、労働者の負担増につながるリスクもあります。労働者一人ひとりの生産性が低下して企業の経営に支障が出ると、リストラや倒産などの大問題に発展するおそれもあり、そうなってしまっては働き方改革どころではありません。

働き方改革は労働時間などの見えている部分だけではなく、これまで当たり前に行なっていた企業経営、業務運営の構造から見直していく必要があることを理解し、進めることが望ましいでしょう。

働き方改革の課題(2)かえって負担が増えるおそれがある

働きやすい環境を整えるために行なった施策が、かえって労働者の負担を増やしてしまうこともあります。

たとえ時間外労働を規制したとしても、社内の業務量が変わるわけではありません。そのため、一部の人に業務が集中する、サービス残業や持ち帰りが増えるなど、新たな問題が発生することも考えられます。

労働時間を減らしても、業務量や業務内容に変化・工夫がなければ、業務負担やサービス残業が増えるばかりで、結果的に働き方改革は失敗に終わるでしょう。

企業が一丸となって働き方改革に取り組むには、担当者だけではなく、労働者の理解が重要です。現場にしかわからない事情もあるため、企業・管理監督者・労働者それぞれが意見を出し合い、現状を把握しましょう。

業務の効率化や無駄な作業の徹底削減、定期的な労働者のフォローなどを通して、課題の把握と改善を繰り返していくことで、「かえって負担が増える事態」を防げます。

働き方改革の課題(3)人件費などのコストがかかる

正規・非正規の格差是正、年次有給休暇の取得義務、残業代の割増賃金率の引き上げによって、企業の人件費の負担は増大します。また、労働環境の改善のための勤怠管理システムや効率化を図るツールを導入する場合にも、少なからずコストが発生します。

したがって、企業として目指す体制を構築するのにどの程度のコストがかかるのかを的確に見極め、本当に必要なものを取捨選択し、優先順位をつけて導入を進めることが重要といえるでしょう。

まとめ

今回は、働き方改革の概要と施行による変化、そして改革を進めるうえで知っておきたい課題について解説しました。

働き方改革は、労働力人口の減少と働き方のニーズの多様化に対応するために、政府主導で進められています。企業の大切な資産である人材を守り、企業経営の維持・向上を図るためにも、積極的に取り組んでいきたいところです。

働き方改革を推進するには、「産業医」の存在が欠かせません。しかし、自社と相性の良い産業医を探したり、交渉して選任したりするのは、想像以上に時間と手間がかかります。

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