
この記事の監修者
産業医や産業保健師など産業保健分野で活躍する専門家チーム
サンチエ編集部
産業医とは何をする人?役割と選任するメリット
近年、働き方改革で企業からも注目を集めている産業医。どのような役割があり、なぜ企業に必要とされているのかをご紹介します。
そもそも産業医とは、企業で働く人たちが適切な環境で働けるように健康状態や労働環境を把握し、専門的な立場から助言や指導を行う医師のことです。
たとえば、健康診断は労働者の健康状態の把握と異常の早期発見を目的として実施されます。産業医はその結果に基づき、生活指導や助言を行います。必要に応じて治療や休養を促したり、就業環境が影響する場合には配置転換などの助言を行うこともあります。
また、職場が働く環境として適切かを確認し、助言を行うことも役割のひとつです。労働者の働く環境の良し悪しは労働災害の発生に影響を及ぼすため、危険な環境で働く職業のみならず、作業環境の把握は重要とされています。
デスクワークが中心の企業の場合でも、労働者がストレスを感じない温度管理がされているか、職場の分煙対策はどうしているか、パソコンを使用する職場では照明の明るさは適切かなど、さまざまな視点から快適な環境を整えるために働きかけます。
定年後の再雇用などの影響で労働者の高齢化が進んでいることや、長時間労働やハラスメントによりメンタルヘルスへの取り組みが注目されており、健康管理は今後一層重要視されていくことが考えられます。
では、産業医を選任するとどんなメリットがあるのでしょうか。最大のメリットは、専門的な助言を得ることで課題に対して素早く対応できることです。とくにメンタルヘルスについては、産業医と面談を行いながら一人ひとりに応じて適切な意見を求めることができます。それにより、休職に限らず治療を行いながら仕事と両立していくなど、その人の状態にあわせて多くの選択肢を提示することができるのです。
なお、産業医は医師であることに加えて以下のいずれかの要件を満たさなければならず、より専門的な知識が必要とされます。
【引用:厚生労働省 産業医の要件】
(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
(2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
産業医の勤務形態は専属と嘱託の二種類!その違いとは?
産業医には、専属産業医と嘱託産業医の2種類があります。それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
勤務形態 | 働き方(例) | |
---|---|---|
専属産業医 | 常勤 | ひとつの事業場で、一週間に数日勤務することが基本 立地が近いなどの一定の要件を満たす場合には、嘱託産業医との兼務が可能 |
嘱託産業医 | 非常勤 | 月に1~2回企業に訪問して勤務する |
専属産業医とは、ひとつの事業場で産業医の業務に従事する医師のことをいいます。いわゆる企業に勤務している産業医のことであり、一週間で数日勤務することが基本とされていることから、企業の担当者と連携をとりやすく深く関わることができます。
専属産業医は、常時1000人以上の労働者がいる事業場と、有害業務に従事している労働者が常時500人以上いる場合に選任しなければなりません。さらに常時3000人を超える事業場では、専属産業医を2人以上選任する必要があります。
一方で、嘱託産業医は月に1~2回企業に訪問して、従業員の面談や健康診断などを行います。嘱託産業医は常時50人以上、999人以下の労働者を使用する事業場において選任しなければなりません。
産業医を選任する基準となっている「事業場」とは、企業全体ではなく、支社、支店、工場、営業所など、事業が行われている個々の場所を指します。そのため、専属産業医は大企業や有害業務を取り扱う企業が中心であり、日本の産業医はほとんどが嘱託産業医といわれています。
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産業医はいつから義務になる?選任義務化の条件を解説!
それでは、企業において産業医が必要となった場合、どのタイミングで産業医を選任しなければならないのでしょうか。
労働安全衛生法では、事業者は常時50人以上の労働者を雇うに至った時から14日以内に産業医を選任しなければならないとされています。もしも産業医を変更する場合にも、産業医の選任期間は14日しかありません。なお、事業場の規模や業務内容により産業医の人数は以下の表のように変化します。
産業医の選任義務 ※有害業務に500人以上の労働者を従事させる場合は専属産業医が必要
従業員数 | 1~49人 | 50~999人 | 1000~3000人 | 3000人以上 |
---|---|---|---|---|
義務の有無 | 選任義務なし (医師等による健康管理等の努力義務) |
産業医 (嘱託可) |
専属産業医 | 2人以上の専属産業医 |
なお、基準となるのは事業場であり、それぞれの事業場の条件に応じて選任する必要があります。
中小企業も注意!労働者数50人未満でも産業医が必要になる例!
平成31年4月、働き方改革関連法により長時間労働者に対する面接指導が強化されました。面接指導とは、問診などにより心身の状況を把握して必要な指導を行うことです。
長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患などの発症との関連性が問題視されています。これらの発症を予防するため、時間外・休日労働時間が1月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者には、申し出により面接指導やそれに準ずる措置が義務づけられています。
研究開発業務労働者の場合は、時間外・休日労働時間が1月あたり100時間を超えた場合には、労働者からの申し出がなくても面接指導を行う必要があります。そのため、50人未満の職場においても産業医との面談が必要になる場合があり注意が必要です。長時間の残業が慢性化している企業はこれらの義務に該当する可能性があり、労働者の健康を守るためにも時間外労働の算定をしっかりと行うことが大切です。
また、健康診断の結果について異常所見があると診断された場合には、医師等からの意見聴取が義務付けられています。産業医の選任義務がない50人未満の事業場においては、医師等が労働者の健康管理などについて無料で相談に応じる地域産業保健センターを活用することができます 。
平成27年からは、労働者が常時50名以上の事業場において年1回のストレスチェックが義務となりました。労働者自身のストレスへの気づきを促し、事前に対策を講じることでメンタルヘルスの不調を防ぐことを目的として導入されています。
そのため、高ストレスの労働者から申し出があった場合には、速やかに医師の面接指導を受けさせなければなりません。面接指導の結果により、必要に応じて医師の意見をもとに措置を講じることも義務付けられています。
必要な書類や手続きは?産業医の選任方法!
実際に企業で産業医を選任した場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。提出が必要な書類や手続き方法について解説します。
産業医を選任した場合、所轄の労働基準監督署に産業医選任報告書を提出します。提出は産業医を選任しなければならなくなった日から14日以内に完了させる必要があります。
産業医選任報告書の提出は、紙の書類で提出する方法と e-Govによる電子申請で行う方法があります。書類の場合は、所轄の労働基準監督署に受け取りに行くか、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
なお、専属産業医の場合は一般社員と同様の雇用契約が行われることが多く、嘱託産業医の場合は業務委託契約として業務の範囲や報酬などを細かく取り決めて契約をすることが多いとされています。医師はほかの勤務先で副業をすることが一般的であり、契約時には働き方についてよく確認することが大切です。
産業医との契約締結後は、所轄の労働基準監督署に産業医選任報告書、医師免許証の写し、産業医であることの証明になるものを提出する必要があります。
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義務違反には罰則も!産業医の選任はお早めに!
もしも期限までに産業医の選任をしなかった場合、企業にはどんなリスクがあるのでしょうか。義務違反をした場合の罰則について解説します。
労働安全衛生法第13条第1項では、企業の事業場の従業員数が50人を超えたときは14日以内に産業医を選任しなければならないと規定されています。違反した場合には、労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金に処するという厳罰規定が定められています。
このように、産業医の選任が必要になった場合には早急な対応が必要です。従業員数が50人を超えると衛生管理者の選任や衛生委員会の設置など、産業医の選任以外にも必要な手続きがあります。そのため、従業員数が50人を超える前から産業保健体制について企業内で検討していくことが大切です。
選任する産業医がいない?産業医を探す方法と報酬の相場
産業医を選任したいけれど身近に産業医がいない場合もありますよね。そんな時はどのように産業医を探せばよいのでしょうか。産業医の報酬の相場とあわせて紹介します。
産業医が見つからない場合の探し方には大きく3つの方法があります。
1つ目は健康診断を実施している機関に産業医の資格を持つ医師がいないか確認する方法です。もし親会社やほかの事業場で産業医を選任している場合は、その方を産業医として選任できないか相談してみてもよいでしょう。
2つ目は事業場のある地域の医師会に相談する方法です。各地の医師会はその地域の開業医を把握しているため、近くの産業医を紹介してもらえるメリットがあります。
3つ目は、医師の紹介会社に相談する方法です。紹介会社では産業医との契約やその後のサポートまで行っている場合もあり、選任に関する手間が軽減されるというメリットがあります。一方で、紹介手数料などが発生するため、ほかの方法と比べて初期費用がかかる場合があるので注意が必要です。
産業医と契約した場合、どれくらいの報酬が相場なのか気になりますよね。産業医の報酬は専属産業医と嘱託産業医とで変わりますので、しっかり確認しておきましょう。
一般的に大企業勤務の専属産業医の平均年収は、週1回の勤務で年収300万円から400万円程度といわれています。報酬は一週間の勤務日数が多いほど高くなりますので、週5日勤務であれば年収1500万円をこえて高額となるでしょう。
嘱託産業医の場合は業務内容や勤務時間により変動し、従業員数が多いほど報酬も高額になります。日本医師会では産業医の基本月額報酬について調査している地域があるので参考にしてみましょう。
一例として、日本橋医師会では労働者50人未満の場合は基本報酬月額75,000円以上、最大人数である600~999人では250,000円以上との資料が公開されています。
なお、これらの報酬の中にはストレスチェックや健康診断、予防接種などは含まれていないため、実施される時には別途料金がかかるのが一般的です。一括りに設定するのではなく、条件に合った報酬を設定することが大切です。