上記のような疑問はありませんか?
結論から述べると、産業医の意見書は診断書とは異なるもので、労働者の継続的な就業のために産業医が事業者に意見を述べるために作成する重要な書類です。
もし、意見書の意味や目的を正しく理解せず、結果的に労働者の健康を害することになれば、事業者は法律上の責任を問われる可能性があります。
そこで本記事では、産業医の意見書の意味や目的、必要になるタイミングについて詳しく解説します。記事内で意見書のフォーマットも紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
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産業医の意見書とは?
「産業医の意見書」とは、労働者の健康状態や業務遂行能力就業能力を評価し、事業者に対して必要な就業上の措置や職場環境の改善について助言を行なうために産業医が作成する報告書です。
常時使用する労働者が50人未満の事業場では産業医の選任が義務付けられていないため、「産業医意見書」ではなく「医師意見書」と呼ばれることも多いですが、その役割や重要性は変わりません。
この意見書は、労働者の健康と安全を守りつつ、適切な就業管理を行なうために重要な役割を果たします。事業者は、意見書をもとに労働者の健康管理を適切に行ない、労働者の就業可否や必要な配慮事項を明確にすることで、業務を円滑に進めるための対応が可能となります。
産業医意見書の定義と目的:労働者の健康を守る重要文書
産業医意見書は、働く人の健康を守るための医師の提案書です。作成するおもな目的は、労働者の健康維持と労働災害の予防、そして、適切な就業環境の確保です。
産業医が健康診断の結果や面談内容をもとに作成する意見書には、労働時間の制限や作業環境の改善点、必要な健康配慮などが具体的に示されます。事業場はこの内容に沿って、職場環境の改善や業務調整を行なうことで、労働者の健康維持と労働災害の予防を図れます。
産業医意見書が作成される5つのおもな場面
ここでは、産業医意見書が作成されるおもな場面を5つ紹介します。以下の場面での意見書は、労働者の健康維持と安全な職場環境の実現のための重要な指針となります。
- 高ストレス者の面談後
ストレスチェックで高ストレス者と判定された労働者の面談結果をもとに、メンタルヘルス対策を提案します。 - 職場復帰のとき
休職者の円滑な職場復帰のために、勤務時間や業務内容の調整など、具体的な復職プランを示します。 - 長時間労働者の面談後
過重労働による健康障害を防ぐため、労働時間の制限や業務負担の軽減策を提示します。 - 体調不良時
健康診断の結果や体調不良を訴える労働者への面談後に、必要な就業上の配慮を具体的に示します。 - メンタルヘルス不調時
精神面の問題を抱える労働者の状況を面談で評価し、必要な就業上の制限や職場環境の調整を提案します。
産業医意見書に記載される4つの重要項目
産業医意見書には、労働者の健康を適切に管理するために以下の4つの重要項目が記載されています。
- 労働者の健康状態
会社から提供された事前情報と面談で得られた情報から、労働者の健康状態に関する考察が示されます。これをもとに産業医は就業に関する具体的な対応を検討します。 - 就業区分
労働者の健康状態に応じて、就業制限や要休業などについて示します。就業区分を明確にすることにより、労働者の負担を軽減し、健康状態の悪化を防ぎます。 - 就業制限の具体的な内容と配慮事項
就業時間の制限や作業場所の変更、業務内容の制限など、業務負担軽減のための具体策を示します。この他、職場に周知すべき事項や健康状態把握に関する定期的な指示など、具体的な配慮事項を示します。 - 医療機関受診の要否
産業医が医療機関への受診が必要と判断した場合には、その旨が示されます。医療機関への受診をためらいがちな労働者も、産業医から説明を受けることで受診の必要性を理解することが可能となります。その場合は、治療担当医に宛てた情報提供書が作成されることもあります。
「産業医の意見書」と「主治医の診断書」の違い
産業医の意見書と主治医の診断書の違いは、評価するポイントにあります。具体的には、産業医の意見書は労働者の業務遂行能力就業能力や職場環境に焦点を当てていますが、主治医の診断書は患者(労働者)の疾病や日常生活の安定性に重点を置いています。
さらに、産業医の意見書を作成する目的は、労働者が「具体的な業務を継続的に遂行する際に体調やメンタルヘルスに問題がないか」を評価することや、職場環境における個別具体的な対応を提案することにあります。
一方で主治医の診断書では、およそ復職による業務負荷に耐えうる程度まで病状が回復してるか、大まかな業務負荷の調整は必要かどうか、などはについて示されていますが、労働者の個別具体的な業務内容や、細かい配慮事項などについては記載されられないのが一般的です。主治医の診断書は「日常生活に支障がないか」を評価することを中心としており、個々の患者(労働者)の生活の質を重視して書かれます。
産業医の意見書と主治医の診断書の視点は異なりますが、労働者の健康と安全を守るためにはどちらの視点も重要です。企業側は両方を確認し、慎重に判断する必要があります。
産業医意見書の法的位置づけと効力
ここからは、産業医意見書の法的位置づけと事業者の対応について解説します。
産業医意見書には直接的な法的拘束力はありませんが、事業者には労働者の健康と安全を守る「安全配慮義務」があります。そのため、産業医意見書の内容を無視して労働者に健康被害が生じた場合、事業者は安全配慮義務違反を問われるかもしれません。
また、産業医意見書で指摘された問題について改善が見られない場合、産業医は労働安全衛生法に基づく勧告を行なうことが可能です。この勧告には法的な拘束力はありませんが、いくつもの段階を経て行われる勧告は、事業者にとっては「重いもの」であるため従う必要があります。
事業者は産業医意見書を単なる助言として軽視せず、労働者の健康管理のための重要な指針としてとらえ、適切に対応することが推奨されます。これは社会的責任であり、リスク管理としてもとても重要です。
産業医意見書の法的位置付け:努力義務の実態
産業医意見書には法的な強制力がないためく、事業者は自主的に労働者の健康を守るための措置を講じるよう努めることが求められています。具体的には、労働安全衛生規則で定められている、面接指導の結果に基づく医師の意見聴取(第52条の7)の内容です。このような「努力義務」により、事業者が職場の条件に応じて柔軟に労働者の健康維持に努めることを目指しています。
(面接指導の結果についての医師からの意見聴取)
第五十二条の七 法第六十六条の八の面接指導の結果に基づく法第六十六条の八第四項の規定による医師からの意見聴取は、当該法第六十六条の八の面接指導が行われた後(同条第二項ただし書の場合にあつては、当該労働者が当該法第六十六条の八の面接指導の結果を証明する書面を事業者に提出した後)、遅滞なく行わなければならない。
引用:労働安全衛生規則|e-Gov法令検索
事業者の対応義務と罰則の有無:法的拘束力の真相
産業医意見書は、事業者に対して「法的な拘束力」はありませんが、労働者の健康を守るための重要な位置づけとなっています。意見書の提案を無視し、労働者に健康被害が発生すれば、事業者は「安全配慮義務違反」として法的責任を問われる可能性があります。
つまり、産業医意見書は、具体的な罰則こそないものの、リスク管理のうえで重要なツールなのです。企業は、労働者の健康と安全を最優先に考え、産業医の専門的な助言を真摯に受け止め、できる限り対応することが大切です。
産業医の意見書の作成方法・記載される内容
産業医は、労働者の健康状態や職場環境を考慮し、客観的かつ具体的な意見を記載することが求められます。そして、事業者は産業医の意見書を参考に、適切な就業上の措置を講じる必要があります。
ここでは、厚生労働省が提供している意見書のフォーマットに基づき、その記載内容を紹介します。意見書を作成する際のポイントを確認できるので、ぜひご参照ください。
産業医の意見書のフォーマット
産業医の意見書のフォーマットは、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。また、同ホームページには疲労蓄積度や健康状況、生活状況を把握するチェックリストなども掲載されているため、参考資料として活用できます。
参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【高ストレス者用】|厚生労働省
参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【長時間労働者用】|厚生労働省
参考:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル【兼用】|厚生労働省
また、厚生労働省・中央労働災害防止協会による、職場復帰に関する意見書もダウンロード可能です。様式例を参考に、衛生委員会などで審議を行ない、実態に即した内容にするのが望ましいでしょう。
【ケース別】産業医の意見書の役割
ここでは、産業医の意見書の役割をケースごとに紹介します。
労働者の健康診断結果に異常所見がみられた労働者へ面談を実施した場合
労働安全衛生法第66条の5に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を行なわなければなりません。
健康診断の結果、異常所見が認められた場合、まず健康診断個人票に就業区分(通常勤務、就業制限、要休業)が記載されます。これは健康診断結果に基づく一次的な判断です。
その後、産業医は異常所見のある労働者と面談を行ないます。この面談では、健康診断の結果だけでなく、労働者個人の就業状況や作業内容を詳しく確認することになります。産業医はこれらを総合的に考慮したうえで、意見書を作成するのです。
意見書には、就業上の措置に関する具体的な提言(労働時間の短縮、作業内容の変更、作業環境の改善など)が記載されます。これにより、事業者は労働者の健康状態に応じた適切な措置を講じることができます。
長時間労働が発生している場合
労働安全衛生法第66条の8第5項に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を講じるほか、産業医の意見を衛生委員会などで報告しなければなりません。
具体的には、産業医面談を実施し、所定の様式に就業上の措置にかかわる意見書を作成し、事業者へ提出します。意見書の内容は、就業区分(通常勤務、就業制限、要休業)、就業上の措置(労働時間や作業内容、措置期間などより詳細な意見)、医療機関への受診配慮などです。
ストレスチェックで高ストレス者と判定された場合
労働安全衛生法第66条の10に基づき、事業者は必要がある場合、労働者の実情を考慮したうえで適切な措置を講じるほか、産業医の意見を衛生委員会などで報告しなければなりません。
具体的には、長時間労働があった場合と同様に、産業医面談を行ない、所定の様式に就業上の措置にかかわる意見書を作成し、事業者へ提出します。意見書の内容は、長時間労働の場合の内容に加えて、職場環境の改善に関する意見も含まれます。
産業医の意見書に法的な効力はある?
結論から述べると、産業医の意見書に法的な拘束力効力はありません。産業医の意見書は、企業に対して意見や助言を提示するものであるため、事業者が産業医の意見や助言を無視したとしても、法令違反にはなりません。
しかし、産業医の助言を聞き入れなかった結果、労働者が健康を害した場合は、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
さらに、企業が労働衛生の専門家である産業医の意見を無視した場合、それだけで安全配慮義務を怠ったとみなされる場合もあります。また、労働安全衛生法上では問題がないとしても、民事裁判や労働裁判において不利な立場に置かれる可能性があります。
そのため、可能な限り産業医の意見書は尊重することが重要です。
産業医にはどのような権限がある?
2019年に改正労働安全衛生法が施行されたことで、産業医の権限が強化・具体化されました。ここでは、事業者が知っておくべき産業医の権限や勧告権について詳しく解説します。
事業者・総括安全衛生管理者に勧告する権限
労働安全衛生法第13条第5項により、産業医は労働者の健康管理について、事業者に対し意見を述べる権限(勧告権)があります。また、労働安全衛生規則第14条第3項に基づき、産業医は統括安全衛生管理者への勧告権も有しています。
事業者は産業医の勧告をもとに、労働環境の改善措置を決定します。そして、勧告の内容や実施の有無に関して衛生委員会に報告したうえで、記録しなければなりません。その記録は、3年間保存する必要があります。
労働者の健康管理に必要な情報を収集する権限
労働安全衛生規則第14条の4により、産業医には、労働者の健康管理などの活動を実施するために必要な情報を収集する権限が認められています。
産業医から情報提供を求められた場合、事業者は産業医に対し、すみやかに情報を提出しなければなりません。提供する情報は下記のとおりです。
1 | 健康診断で異常所見が見られた労働者・長時間労働者・高ストレス者などに対する面接指導の実施後に事業者が講じた、または講じようとしている措置に関する情報(措置を講じない場合は、その旨と理由) |
2 | 労働者の業務に関する情報(作業環境、労働時間、作業様態、作業負荷の状況、深夜業などの回数・時間数など) |
3 | 時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えた労働者の氏名と超えた時間に関する情報(高度プロフェッショナル制度対象労働者については、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた時間について、1月当たり80時間を超えた者の氏名と超えた時間に関する情報) |
情報提供を行なう際には、認識に違いが出ないよう、書面や磁気ディスクなどに記録して提出し、提供した情報は記録・保存しておきましょう。
ただし、労働者の個人情報が含まれるため、受け渡し方法をあらかじめ検討し、万が一にも情報が漏れないよう、取り扱いは慎重に行なう必要があります。
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産業医の意見書に関する注意点
産業医の意見書は、労働者の健康管理と職場環境の改善に重要な役割を果たします。そのため、以下の注意点を踏まえて、適切に作成・管理することが求められます。
- 産業医の意見書は事業者側で用意すること
- 産業医の意見書は5年間保管が義務付けられていること
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
産業医の意見書は事業者側で用意すること
産業医の意見書は事業者側で用意することが望ましいです。意見書は、必要な情報をすべて含み、法律で定められた要件を満たさなければなりません。そのため、基本的には厚生労働省のフォーマットを使用することが推奨されます。
意見書は産業医が作成しますが、事業者側がテンプレートを用意することで、必要な情報の漏れを防ぐことができます。
また、自社の状況に合わせて意見書をカスタマイズする場合は、法的要件を満たしているかを確認し、産業医や専門家と事前に協議することが重要です。
つまり、通常の状況においては、産業医の意見書のフォーマットを事業者が用意することで、より効果的で法的にも適切な意見書の作成と活用が可能になります。
産業医の意見書は5年間保管が義務付けられていること
産業医の意見書の保管期間は、労働安全衛生規則第52条の6により、5年間と定められています。保管は紙媒体でも電子データでも可能ですが、適切に管理されていない場合、労働基準監督署から罰則を受ける可能性があります。
各企業の判断となりますが、労働災害や健康障害が発生した際の証拠として有用であるため、必要に応じて、法定の保管期間(5年間)を超えた保管を検討することも一つの選択肢です。
ただし、意見書には個人の健康情報が含まれるため、個人情報保護法に基づく適切な管理と見直しが求められます。保管期間後に破棄する場合は、適切な方法で行ないましょう。
このように、事業者は意見書における5年間の保管期間を遵守し、適切に意見書を管理しなければならない点に注意が必要です。
まとめ
事業者や企業担当者の方が産業医の意見書の役割や目的を十分に理解し、労働環境や就業内容に反映することで、より良い企業づくりが期待できます。ただし、そのためには相性の良い産業医選びが何より重要です。
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