ストレスチェックが会社で義務化?内容や手順は?

ストレスチェックで会社がやるべき事

執筆者

看護師ライターとして活動しています。

総合病院で消化器外科、消化器内科、ICUを経験し、看護師歴7年です。手術や内視鏡手術を行う患者さんに接する機会が多く、術前術後の看護、日常生活のサポート、患者さんやご家族の心のケアなどを行なってきました。

結婚を機に病院を退職し、現在は二児の母です。子育てをしながら医療にも携わっていきたいと看護師ライターを始めて、もうすぐ5年になります。これまで学んできた「患者さんの気持ちに寄り添うことの大切さ」をライティングにも活かせるように精進する毎日です。

読んでいる人が飽きることなく最後まで読める文章づくりを目指し、「読んでよかった」と思っていただけるようなライティングを心がけています。

患者さんの些細な変化に気付くため五感を駆使していたので、おでこや首に触れてその人の体温を当てるのが得意です。

監修者

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労働安全衛生法の改正により、労働者が日々の業務にどのくらいストレスを感じているか把握するため、常時使用する労働者が50人以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務化されました。

労働者のメンタルヘルスを守るためには、企業はストレスチェックの実施手順や会社で行なうべき取り組みの内容を知っておかなければなりません。

本記事では、ストレスチェックの基礎知識や実施手順、高ストレス者と判断された労働者への対応などについて解説します。

2015年、労働者50人以上の事業場でストレスチェックが義務化された

労働安全衛生法の改正により、常時使用する労働者が50人以上の事業場では、2015 年12月から、年に1回ストレスチェックを実施することが義務付けられています。ストレスチェックは、労働者の心理的な負担を把握し、労働環境を見直すことを目的に行なわれます。

ただし、義務化の対象はストレスチェックの実施であり、労働者に受検義務はありません。また、契約期間が1年未満の労働者や短時間労働者(労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満)は義務の対象外です。

ストレスチェックとは?

ストレスチェックは、ストレスに関する質問票の記入を労働者に対して実施し、結果を分析することで労働者のストレス状態を調べる検査です。うつやメンタルヘルス不調を未然に防ぐには、労働者が日々の業務にどのくらいストレスを感じているか把握する必要があります。

ストレスが高い状態と判断された労働者に対しては、医師の面接を受けさせたり、業務の負担軽減や配置転換など、ストレスをためすぎないための対策を講じたりします。ストレスの度合いを把握することは、会社にとっても労働者自身にとっても大切なことです。

ストレスチェックは、以下のような流れで実施します。
ストレスチェック実施の流れ

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ストレスチェックの会社における実施者とは?

ストレスチェックを会社で実施する場合、「実施者」「実施事務従事者」「面接指導医師」の役割を担当する人材が必要です。複数の役割を1人で担うこともあります。

実施者は、医師、保健師、または実施者になるために必要な研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師のなかから選ぶ必要があり、外部への委託も可能です。

実施事務従事者が行なうのは、質問票の回収やデータ入力、結果の送付などのアシスタント業務であるため、社内の人材でも構いません。しかし、ストレスチェックの結果によって、労働者が不利益な取り扱いを受けないようにするためにも、人事権のある者が担当になることはできません。また、実施事務従事者は実施者と同じく個人情報を扱うため守秘義務が課されています。ストレスチェックの結果の取り扱いに十分配慮する必要があります。

そして、高ストレスという結果が出た労働者に対しては、面接指導医師による面接を受けさせる必要があります。面接指導医師は、当該事業場の産業医または事業場において産業保健活動に従事している医師が担当するのが望ましいです。

人材 役割 担当者
実施者 ストレスチェックを実施する 医師や保健師、または厚生労働大臣が定める研修を受けた看護師、精神保健福祉士など
実施事務従事者 ストレスチェックの補助を行なう 総務課などに所属する、人事権のない労働者
面接指導
医師
ストレスチェック後の面談を行なう 当該事業場の産業医または事業場において産業保険活動に従事している医師など

ストレスチェック義務化の背景と法改正のポイント

ストレスチェック義務化の背景には、仕事のストレスによる精神障害の労災請求件数が増加していることが挙げられます。
その他、労働災害を防止する仕組みの充実のための改正法のポイントは以下のとおりです。

  1. 化学物質管理のあり方の見直し
  2. ストレスチェック制度の創設
  3. 受動喫煙防止対策の推進
  4. 重大な労働災害を繰り返す企業への対応
  5. 外国に立地する検査機関等への対応
  6. 規制・届出の見直し等

より詳細な改正法の内容は下記の出典先にてご確認ください。
出典:「労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号)の概要」|厚生労働省

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ストレスチェック実施の基本の流れ

ストレスチェックは以下の手順で実施します。

【STEP1】会社としてストレスチェックを実施する旨を方針として示す
【STEP2】衛生委員会などでストレスチェックの実施方法について話し合う
【STEP3】社内規程を作成して、労働者へ周知する
【STEP4】実施体制と役割を明確にする(実施者や実施事務従事者、面接指導をする医師など)
【STEP5】ストレスチェックシートの準備をする
【STEP6】労働者によるストレスチェックシートへの記入と回収
【STEP7】高ストレス者の選定
【STEP8】医師による面接指導が必要な者の選定
【STEP9】ストレスチェック結果の通知
【STEP10】ストレスチェック結果の保存

【STEP1】会社としてストレスチェックを実施する旨を方針として示す

まずは、実施する事業場の労働者に対して、ストレスチェックの実施を表明しましょう。厚生労働省が出しているストレスチェック制度実施マニュアルで推奨されている方法としては、安全衛生(健康)計画や、新年度に向けての経営陣の経営方針と同時に発表することがあげられています。

【STEP2】衛生委員会などでストレスチェックの実施方法について話し合う

次に、衛生委員会などでストレスチェックの実施方法について話し合いましょう。衛生委員会とは、企業として取り組むべき労働者の健康確保や、必要な対応についての調査審議などを行なう委員会のことで、労働安全衛生法第18条で定められています。

話し合うおもな事項としては、以下のような項目があげられます。

  • ストレスチェックは誰に実施させるのか
  • ストレスチェックはいつ実施するか
  • どんな質問票を使ってストレスチェックを実施するのか
  • どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか
  • 面接指導の申し出は誰にすれば良いのか
  • 面接指導はどの医師に依頼して実施するのか
  • 集団分析はどんな方法で行うのか
  • ストレスチェックの結果は誰が、どこに保存するのか

なお、事業場の常時使用する労働者数が50人以上の場合、事業場ごとに衛生委員会を設置することが労働安全衛生法第18条・労働安全衛生法施行令第9条で定められているため、こちらも併せて確認しておくとよいでしょう。

【STEP3】社内規程を作成して、労働者へ周知する

衛生委員会などで話し合い、決まった内容は社内規程として明文化し、労働者へ周知しましょう。社内規程を作成する際は、以下のリンクを参考にするとよいでしょう。社内でしっかり話し合いを行なったうえで、必要に応じて加除修正しながら、事業場に合わせた社内規程を作成しましょう。

参考:ストレスチェック制度実施規程(例)|厚生労働省

【STEP4】実施体制と役割を明確にする(実施者や実施事務従事者、面接指導をする医師など)

ストレスチェックを実施するにあたって、実施者、実施事務従事者、面接指導を担当する医師、そして会社におけるストレスチェックの担当者を明確にしましょう。

ストレスチェック制度担当者以外の役割については、人事権がある人物が担うことはできないため、しっかり確認しておきましょう。

・実施者
ストレスチェックを実施する者で、医師(産業医が望ましい)や保健師、(厚生労働大臣の定める研修を受けた)看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師のなかから選ぶ必要があり、外部委託も可能です。

・実施事務従事者  
実施者の補助をする者で、質問票の回収、データ入力、結果送付など、個人情報を取り扱う業務を担当することになります。こちらも外部委託が可能です。

・面接指導をする医師
面接指導を実施する医師は、ストレスチェックを実施する事業場の産業医または産業保健活動に従事している医師が推奨されています。また、外部の医師に委託することも可能ですが、その場合も産業医資格を有する医師に委託することが望ましいとされています。

また、常時使用する労働者数が50人未満で産業医を選任していない事業場の場合は、お近くの地域産業保健センターに相談して依頼するのもよいでしょう。

・ストレスチェック制度担当者 (実務担当者)
ストレスチェック全体の管理をする担当者で、計画作りや進捗状況を把握したり、管理したりする者です。会社における担当者であるため、労働者の健康を確保するためのさまざまな業務を取り仕切る「衛生管理者」や、産業医などの助言・指導を得ながらメンタルヘルス推進の実務を行なう「事業場内メンタルヘルス推進担当者」などが担うことが望ましいとされています。

【STEP5】ストレスチェックシートの準備をする

ストレスチェックは、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つに関する項目を含む必要があります。

事業場ごとに独自で項目を選定することも可能ですが、上記の3項目をすべて含まなければならず、選定する項目を点数化することで高ストレス者の判定が行なわれるため、項目には一定の科学的根拠が必要になります。

すべての項目を企業だけで検討するのは困難になる可能性があるため、ストレスチェックシートを準備する際は、以下に記載されている厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」を活用するとよいでしょう。

参考:ストレスチェック制度 導入マニュアル「職業性ストレス簡易調査票」|厚生労働省

また、ITシステムを活用して、オンラインで実施することもできます。近年はテレワークをしている事業場の数が増えているため、オンラインで実施できるように準備することも必要になるでしょう。その際は、以下の「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を活用することもできます。

参考:厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム|厚生労働省

ストレスチェックの実施は、初めて実施する事業場や担当者にとって大変な業務ですが、事前に準備する内容や方法を知ることで、負担を軽減し、よりスムーズに進めることができます。

【STEP6】労働者によるストレスチェックシートへの記入と回収

前項で紹介したストレスチェックシートの例を参考に質問票を作成し、労働者に配布して回答してもらいましょう。もちろん、オンラインでの実施も可能です。

ただし、ストレスチェックの実施は事業場の義務または努力義務ですが、ストレスチェックの受検は労働者の義務ではないため、強制をしてはいけません。

社内規程の作成や周知を行なう際にも伝えておくとよいですが、ストレスチェックの趣旨や目的を労働者へしっかり説明し、理解を得たうえで受検してもらうのが望ましいでしょう。

回答が終わった質問票は、個人情報の保護と労働者への不利益な取り扱いを防止するため、実施者(または実施事務従事者)が回収し、回答者本人と実施者・実施事務従事者以外は回答内容を見てはいけません。

【STEP7】高ストレス者の選定

高ストレス者の選定を実際に行なうのは実施者です。しかし、高ストレス者を選定するための基準は、会社内の衛生委員会などで定めておく必要があります。その際に基本となる考え方は以下のとおりです。

  • 「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い者、もしくは、「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」に関する項目の評価点の合計が著しく高い者
  • 上記に該当する者の割合については、以下の評価基準の例ではおおむね全体の10%程度としているが、各事業場の状況により、該当者の割合を変更することが可能

ストレスチェックを一度実施し、その結果により次回以降の高ストレス者の基準を変更することも可能です。詳細な選定方法としては、厚生労働省の以下の資料を参考にするとよいでしょう。

参考:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法|厚生労働省

【STEP8】医師による面接指導が必要な者の選定

面接指導の対象となる労働者は、ストレスチェックの結果、高ストレス者に該当し、実施者が面接指導を受ける必要があると判断した人です。(労働安全衛生規則第52条の15)

もちろん、医師の面接指導が必要な労働者について、会社側は知ることができません。

【STEP9】ストレスチェック結果の通知

ストレスチェックの結果は、実施者から直接労働者本人へ通知されます。通知する内容は、個人のストレスへの程度を数値化や図式化したもの、高ストレス者に該当するかどうか、面接指導の対象かどうか、という3点です。

また、できる限り通知することが望ましい内容は、労働者本人が行なうセルフケアへの助言、事業者への医師の面接指導の申し出方法や窓口、面接指導以外の相談方法や窓口などがあげられます。

事業者は、労働安全衛生法第66条の10第2項、労働安全衛生規則第52条の12に基づき、実施者からストレスチェック受検者へ、遅延なくストレスチェックの結果が通知されるようにしなければならないため、結果の通知は漏れなく、速やかに行ないましょう。

【STEP10】ストレスチェック結果の保存

ストレスチェック結果の保存は、実施者(または実施事務従事者)が担当しますが、保存方法や場所などは事業場内の衛生委員会などで調査審議します。

紙媒体の場合は事業場内の保管場所、データの場合は企業内ネットワークのサーバー内などにも保管可能であるほか、外部委託している外部機関に保存を依頼することもできます。ただし、実施事務従事者が責任を持ってセキュリティの確保などの必要な措置を講じることが重要です。

また、労働者の同意があり、実施者から会社側へ提供されたストレスチェック結果の記録があれば、会社側はこれを5年間保存しておくことが労働安全衛生規則第52条の13第2項に記載されているので、こちらも押さえておく必要があるでしょう。

ストレスチェックで高ストレス者が出た際の対処法

先述したとおり、ストレスチェックの結果は実施者から直接労働者本人へ通知されるため、高ストレス者に該当しているかどうか、医師の面接指導の対象者に該当しているかどうかは、実施者や本人しか知ることができません。

このことを踏まえ、高ストレス者が出た際の会社の対処法としては、おもに以下の2つがあげられます。

1 「医師による面接指導の対象者」から面接指導を受けたいとの申し出があった際は、おおむね1ヵ月以内に医師による面接指導を実施する

ただし、会社側が強制的に受けさせることはできません。そのため、対象者が気軽に面接指導を受けられるよう、ストレスチェックの目的や申し出の方法、個人情報の取り扱いなどについてしっかりと案内を行ない、できる限り受けるよう促すことが大切です。

2 ストレスチェックの集団分析の結果を踏まえて、職場環境の改善を図る

実施者が集団ごとに集計・分析した結果をもとに、事業者は職場環境の改善を図りましょう。なお、職場環境の改善に取り組む際は、下記のリンクをご参考ください。
参考:職場環境改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)|厚生労働省

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結論から述べると、回答した労働者本人が同意しない限り、ストレスチェックの結果が上司や会社関係者に見られることはありません。これには、2つの理由があります。

1つ目の理由は、「人事権を持つ者」はストレスチェックの実施に携わることができないためです。これは、労働安全衛生規則第52条の10により定められています。

「人事権を持つ者」とは、直接人事を決定する権限を持つ者や、人事を判断するうえでの意見や助言を述べることができるなどの一定の権限を持つ者のことを指します。

ストレスチェックの結果によって労働者が不利益な扱いを受けないよう、ストレスチェックの実施に携わることができるのは、医師(産業医)や保健師などの医療従事者が担う「実施者」と、人事権のない労働者が担う「実施事務従事者」だけです。

そしてもう1つの理由は、「実施者」と「実施事務従事者」、そして面接を行なう医師には守秘義務が課されているからです。これに違反すると、労働安全衛生法第119条に基づき、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

医師や保健師などには、刑法や保健師助産師看護師法で資格ごとに守秘義務が定められています。また、「実施事務従事者」も個人情報を取り扱うため、守秘義務が課せられていることを押さえておきましょう。

上記2つの理由を労働者に丁寧に伝え、理解を得ながらストレスチェックを進めていくことで、受検率のアップ、高ストレス者向けの医師の面接指導の実施率アップにもつながります。

ストレスチェックに関するよくあるQ&A

最後に、ストレスチェックの開示や閲覧範囲に関するQ&Aをまとめました。

【Q1】ストレスチェックの個人結果は誰が知っている?
ストレスチェック後には、「個人のストレスへの程度を数値化・図式化したもの」「高ストレスに該当するかどうか」「面接指導の対象かどうか」を通知しますが、その結果の閲覧範囲は回答した労働者本人と実施者のみです。

【Q2】医師の面接指導に申し出を行なった場合は、個人結果が会社に見られる?
面接指導の申し出をすれば、原則、労働者は情報開示に同意したことになります。

ただし、開示したストレスチェックの結果や面接指導後の医師の意見書(医師による事業者に対する就業上の措置や必要な対応などが記載された書類)を受けての不利益な取り扱いは禁じられているので、事業者側は十分注意しましょう。

【Q3】集団分析を行なう場合は、個人結果が会社に見られる?
集団分析の結果は、集団ごとの回答を分析したものであり、個人を特定することはできません。したがって、個人のストレスチェックの結果は、回答者本人と実施者しか知り得ません。

まとめ

ストレスチェックは、労働者が日々の業務にどのくらいストレスを感じているか把握する検査です。平成26年に、「胆管がんの労災事案の発生」と「精神障害の労災認定件数の増加」を理由に労働安全衛生法が改正され、平成27年より、常時使用する労働者数が50人以上の事業場でのストレスチェックが義務付けられました(労働者数が50人未満の事業場は努力義務)。

ストレスが高い状態と判断された労働者に対しては、医師との面談や、業務の負担軽減・配置転換など、ストレスをためすぎないための対策を講じることが必要です。しかし、具体的にどのような対応をしたらいいかわからないと悩む人事労務担当者の方もいるでしょう。

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