常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が労働安全衛生法で義務付けられています。ストレスチェックの実施には、資格要件を満たす「実施者」の選任が欠かせませんが、社内に医師や保健師がおらず、誰を実施者にすればよいか判断がつかない企業担当者も少なくありません。本記事では、ストレスチェックの実施者になれる人の要件と、厚生労働大臣が定める研修の対象科目・時間数・免除規定を整理したうえで、社内で研修を受けさせるか外部委託するかを判断するための材料を解説します。
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この記事でわかること
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【1】ストレスチェックの実施者になれる人の資格要件(医師・保健師・所定研修修了者) -
【2】実施者研修で学ぶ科目と時間数、免除されるケース -
【3】実施者が社内にいない場合の外部委託という選択肢と判断材料
ストレスチェックの実施体制と、実施者に求められる要件
ストレスチェック実施者研修とは、医師・保健師以外の人が実施者になるために修了が必要な、厚生労働大臣が定める研修です。ストレスチェックを実施するには、事業者・ストレスチェック制度担当者・実施者・実施事務従事者という役割分担のもとで体制を整える必要があります。中心となるのが「実施者」ですが、誰でもなれるわけではなく、資格要件が法令で定められています。まずは実施体制全体の役割分担を確認したうえで、実施者になれる人の要件を見ていきます。
事業者はストレスチェックの実施責任者
事業者には、ストレスチェック制度の実施責任があります。ストレスチェックを実施する方針を表明したうえで、実施者・実施事務従事者・ストレスチェック制度担当者を選定するのが最初のステップです。安全衛生計画の策定や新年度の経営方針表明と合わせて、労働者への周知を行うと社内に浸透しやすくなります。
ストレスチェック制度担当者は実務の管理者
ストレスチェック制度担当者は、実施計画の策定や実施の管理を担う実務担当者です。衛生管理者や、事業場内メンタルヘルス推進担当者がこの役割を兼ねることが望ましいとされています。外部の実施者代行サービスを利用する場合でも、委託先との連絡調整を担う社内窓口として、この担当者の存在が欠かせません。
ストレスチェックの実施者になれるのは誰?資格要件を解説
ストレスチェックの実施者になれるのは、医師・保健師のほか、労働安全衛生規則第52条の10が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。条文は次のとおりです。
(検査の実施者等)
第五十二条の十 法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
一 医師
二 保健師
三 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
条文の第2項にあるとおり、労働者の解雇・昇進・異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、実施者にはなれません。人事権を持つ立場の担当者が実施者を兼ねることはできないため、選任時にあわせて確認が必要です。ストレスチェックの実施者研修と混同されやすい認定産業医研修については、こちらの記事もご覧ください。

(図:ストレスチェックの実施者になれる資格)
(編集部作成)
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実施事務従事者は実施者の指示のもとで補助業務を行う
実施事務従事者は、産業保健スタッフや事務職員などが選ばれ、実施者の指示のもとで調査票の回収やデータ入力などの補助業務を行います。実施者が複数いる場合は「共同実施者」、そのなかで代表する者を「実施代表者」と呼び、いずれも明示する必要があります。
実施の事務に従事した者には、労働安全衛生法第105条により秘密保持義務が課されます。
(健康診断等に関する秘密の保持)
第百五条 第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
実施者・実施事務従事者のいずれも、ストレスチェックの結果という機微な個人情報を扱う立場である以上、資格要件だけでなく守秘義務・利害関係の両面から選任を検討する必要があります。社内にこれらの要件を満たす人材がいない場合の対応については、後述の実施者研修と外部委託の章で解説します。
ストレスチェック実施者研修とは?対象科目・時間・免除規定の要点
医師・保健師以外の人が実施者になるには、厚生労働大臣が定める「ストレスチェック実施者養成研修」の修了が必要です。この研修は法令上の位置づけ・対象科目・時間数・免除規定が細かく定められており、社内で受講させる場合はあらかじめ内容を把握しておく必要があります。
研修の受講が必要なのは、医師・保健師以外で実施者になる人
前章の条文(安衛則第52条の10第一号〜第三号)のとおり、医師・保健師は研修を受けなくても実施者になれます。一方、歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師がストレスチェックの実施者になるには、厚生労働大臣が定める研修(平成27年厚生労働省告示第251号)の修了が必要です。
研修で学ぶ3つの科目と、それぞれの時間数
医師・保健師以外の人がストレスチェックの実施者になるには、厚生労働大臣が定める研修の修了が必要ですが、研修と一口に言っても学ぶ内容は1つではありません。研修告示(平成27年厚生労働省告示第251号)は、研修で扱う3つの科目とそれぞれの時間数を次のように定めています。自社で研修を受けさせる場合は、日程調整のためにも各科目の所要時間をあらかじめ把握しておくことが重要です。
一 次のイからハまでに掲げる科目について、それぞれイからハまでに定める時間以上行われるものであること。
イ 労働者の健康管理 二時間
ロ 事業場におけるメンタルヘルス対策 一・五時間
ハ 事業場における労働者の健康の保持増進を図るための労働者個人及び労働者の集団に対する支援の方法 一・五時間
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル|厚生労働省
| 科目 | 時間数 | 学習内容の範囲(要約) |
|---|---|---|
| 労働者の健康管理 | 2時間 | 労働衛生関係法令、産業保健スタッフの役割・職務、労働者の健康情報の取扱いなど |
| 事業場におけるメンタルヘルス対策 | 1.5時間 | メンタルヘルス対策の基本的考え方、不調の予防・対応、職場復帰支援、職場環境改善など |
| 労働者個人及び集団に対する支援の方法 | 1.5時間 | 職場における健康教育の知識と技法、労働者との面接の知識と技法、集団への支援の知識と技法など |

(図:研修で学ぶ3つの科目)
(編集部作成)
なお、厚生労働省のQ&Aでは、「事業場におけるメンタルヘルス対策」の科目には自殺対策も含まれると説明されています。「労働者の心の健康の保持増進のための指針」における「メンタルヘルス不調」の定義に自殺が明記されていることが根拠とされています。
研修が免除される2つのケース(実務経験と資格)
前章で紹介した研修は、対象となる人全員が一律に受講しなければならないわけではありません。研修告示の施行通達では、一定の実務経験や資格を持つ人について、研修の全部または一部を免除する規定が設けられています。該当する人がいれば、研修の受講にかかる時間や費用の負担を軽減できるため、選任前に確認しておくとよいでしょう。
- 実務経験による免除:
改正省令の施行日の前日(平成27年11月30日)時点で、3年以上労働者の健康管理等の業務に従事した経験を有する看護師または精神保健福祉士は、研修を受けなくても実施者になれます。厚生労働省のQ&Aによると、3年以上企業健診に従事した者は原則としてこの要件に該当しますが、問診票の点検・採血業務のみを担当していた場合や住民健診に関する業務は該当しません。3年以上、労働者への特定保健指導に従事した看護師は該当するとされています。 - 資格保有による科目免除:
衛生管理者免許を受けた者は「労働者の健康管理」科目が免除され、労働衛生コンサルタント免許を受けた者は全科目が免除されます。
実務経験の該当範囲については判断に迷うケースもあるため、詳しくは厚生労働省のストレスチェック制度Q&Aもあわせてご確認ください。
研修の受講費用と、主な実施団体
ストレスチェック実施者養成研修は、中央労働災害防止協会(JISHA)、株式会社ウェルネット、一般社団法人日本遠隔カウンセリング協会(JTA)、一般社団法人クライシス・カウンセリング協会など、複数の団体が開催しています。受講費用は実施団体によって異なるため、受講を検討する際は各実施団体に最新の料金を直接確認することをおすすめします。
なお、研修を実施した団体には、毎事業年度経過後3か月以内に、実施科目・講師名・実施回数・修了者数などを厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課に報告する義務が課されています。
研修受講と外部委託、どちらが自社に合うか
社内で実施者要件を満たす人材を育成する(研修を受講させる)方法と、外部の実施者代行サービスを利用する(外部委託する)方法には、それぞれコスト・期間・手間の面で特徴があります。断定的にどちらが優れているとは言えないため、自社の状況に合わせて判断材料を整理します。
| 観点 | 研修を受講させる | 外部委託する |
|---|---|---|
| コスト | 研修受講費用が発生(実施団体により異なる) | サービス利用料が発生(月額制のサービスもある) |
| 準備期間 | 研修の開催日程・受講者の調整が必要 | 契約後、比較的短期間で開始できることが多い |
| 社内の手間 | 研修修了後も実施者としての運用が社内で継続的に発生 | 実施の事務の多くを委託先に任せられる |
| 向いている企業 | すでに候補者がおり、継続的に自社で運用したい企業 | 実施者候補が社内におらず、早期に体制を整えたい企業 |

(図:研修受講と外部委託どちらが合うか)
(編集部作成)
実施者を外部委託できるかどうかの詳しい要件については、こちらの記事もご覧ください。
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ストレスチェックの外部委託とは?費用相場・業者選定9つのポイント・50人未満の義務化まで解説
社内に実施者要件を満たす人材がおらず、研修を受けさせるか迷っている企業向けに、リモート産業保健のストレスチェックサービスは実施者代行に対応しています。WEB版ストレスチェック(57項目)を無料で提供し、メールアドレスの有無やデバイスを選択可能です。過去データを遡って確認できるため経年比較もでき、実施後は高ストレス者への面談に加え、産業看護職が高ストレス者以外のメンタルヘルス不調者にも面談・相談を行います。産業医の切り替え・選任を検討中の企業にもおすすめです。
ストレスチェックの「実施の事務」を行なえない人とは?
ストレスチェックの結果に直接関わる「実施の事務」を担当するスタッフを選ぶ際は、資格の有無に加えて、立場や権限を確認する必要があります。ここでは、どのような人が「実施の事務」を行えないのかを解説します。
「実施の事務」と「その他の事務」の違いとは
ストレスチェックに関わる事務作業は、「実施の事務」と「その他の事務」に分けられます。「実施の事務」は、調査票の回収や結果を通知する際の封入作業など、実施者の補助として労働者の健康情報を取り扱う業務を指します。一方「その他の事務」は、実施計画の策定やスケジュール管理、労働者への周知や受検の勧奨など、個人の健康情報を取り扱わない周辺業務を指します。
「実施の事務」を行えるかは人事権の有無で判断する
社長・専務・人事部長のように、労働者の解雇・昇進・異動に関する人事権を持つ立場の人は、ストレスチェックの「実施の事務」を担当できません。結果が人事上の不利益な取り扱いにつながらないよう、細心の注意が求められるためです。一方、個人の健康情報に関わらない「その他の事務」は、人事権を持つ者でも従事できます。
ストレスチェックの実施者に関するよくある疑問
ここでは、実施者が担う具体的な役割や、社内に適任者がいない場合の対応など、ストレスチェックの実施者に関してよく寄せられる疑問を解説します。
実施者はストレスチェック指針でどんな役割を担うと定められている?
実施者の役割は、厚生労働省のストレスチェック指針で定められています。具体的には、調査票の選定や高ストレス者の選定基準の決定などについて事業者に専門的な見地から意見を述べること、ストレスチェックの結果から労働者が医師の面接指導を必要とするかを判断すること、実施の事務を実施事務従事者に行わせることが挙げられています。事業者は、これらの実施が円滑に進むよう実施事務従事者の選任などの措置を講じる必要があります。
実施者は産業医が望ましいとされる理由
ストレスチェックは、事業場で働く労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的に行われます。そのため、事業場の状況を日頃からよく把握している産業医などが実施者になることが望ましいとされています。外部委託する場合も、事業場の産業医が共同実施者として関わることで、ストレスチェックの目的をより効果的に果たせます。
社内に実施者がいない場合はどうする?
ストレスチェックの実施義務がある事業場は、必ずストレスチェックを実施しなければなりません。労働安全衛生法第100条に基づく労働基準監督署への報告を怠った場合、同法第120条第5号により罰則の対象となります。実施義務の対象となる事業場の範囲や罰則の詳細については、こちらの記事もご覧ください。社内に産業医など実施者になれる人がいない場合や、実施者を頼める人がいない場合でも、外部の紹介機関や日本医師会などに相談し、確実に実施することが必要です。実施者になれる人がいない場合の対応については、こちらの記事もご覧ください。
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ストレスチェックの実施者は外部委託できる
ストレスチェックの実施者といえば産業医が代表的ですが、適任の産業医を自社だけで見つけられないケースもあります。そのような場合は、ストレスチェックの実施者を外部に委託することも可能です。自社の実施体制に不安がある場合は、早めに外部委託も選択肢に入れて検討するとよいでしょう。外部委託の具体的な要件や進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ストレスチェック実施者に関するQ&A
ここでは、ストレスチェックの実施者に関して検索されることの多い質問に、それぞれ直接回答します。
- Q,ストレスチェックの「実施の事務」は誰でも担当できますか?
- A
社長や人事部長など、人事権を持つ立場の人は担当できません。結果が人事上の不利益な取り扱いにつながることを防ぐためです。
- Q,社内にストレスチェックの実施者になれる人がいない場合はどうすればよいですか?
- A
外部の紹介機関や日本医師会などに相談し、確実に実施する必要があります。実施義務のある企業が報告を怠ると、罰則の対象となるおそれがあります。
- Q,実施者研修はオンラインで受けられますか?
- A
実施団体によっては、遠隔授業形式で研修を受けられる場合があります。開催形式は実施団体ごとに異なるため、受講前に各団体へ直接ご確認ください。
- Q,実施者になるための資格は、どうすれば取得できますか?
- A
医師・保健師であればすでに実施者要件を満たしています。それ以外の職種(歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師)は、厚生労働大臣が定める研修(ストレスチェック実施者養成研修)を修了することで実施者になれます。
- Q,看護師や精神保健福祉士も実施者になれますか?
- A
看護師・精神保健福祉士は、厚生労働大臣が定める研修を修了すれば実施者になれます。ただし、改正省令の施行日の前日(平成27年11月30日)時点で3年以上労働者の健康管理等の業務に従事した経験がある場合は、研修を受けなくても実施者になることが可能です。
自社の状況に合ったストレスチェック実施者を選任しよう
ストレスチェックを行ううえで、中心的かつ重要な役割を果たすのが「実施者」です。実施者になれる人の資格要件、研修の内容・免除規定、そして外部委託という選択肢まで確認したうえで、自社に合った体制を検討してください。
判断に迷う場合は、実施体制を自社だけで抱え込まず、専門家に相談することも選択肢の一つです。最終的な就業上の判断や体制構築については、産業医への相談も検討してください。
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