安全配慮義務違反とは?訴訟事例と違反しないための4つのポイントを解説

安全配慮義務違反とは?訴訟事例と違反しないための4つのポイントを解説_イメージ

そもそも安全配慮義務とは?基本情報をおさらい

まずは、安全配慮義務の意味や根拠について解説します。安全配慮義務を根本から理解すれば、自ずと義務を果たすことができるようになるでしょう。

また、似たような言葉である自己保健義務・自己安全義務についても併せて説明します。

安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは、事業者が使用する労働者の生命・身体の安全について配慮する義務のことです。労働契約法第5条に下記の規定があり、労働者の数を問わず、すべての事業者に義務付けられます。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法第5条|e-Gov法令検索

自社の従業員はもちろん、自社の下請け企業で働く従業員や派遣社員、海外勤務者なども安全配慮義務の対象者にあたります。労働契約に関係なく、自社の管理がおよぶ範囲で働いている労働者はすべて対象者にあたると認識しておきましょう。

また、安全に対する配慮が必要な範囲としては、「職場環境」や「労働者の心身の健康」があります。具体的には、施設や備品の整備、セクハラ・パワハラなどの各種ハラスメントの発生予防、健康診断の実施、メンタルヘルス管理の徹底などが挙げられます。

業種や自社の特徴・課題に合わせて、「労働者が健康で安全に働くための配慮をすること」が、事業者に課せられた義務なのです。

自己保健義務とは?

自己保健義務とは、労働者が自分の健康管理に努め、安全に働けるように行動する義務のことです。事業者の義務である安全配慮義務とは異なり、自己保健義務は、労働者自身の義務となります。

自己保健義務の根拠となるのは、労働安全衛生法第69条です。労働安全衛生法第69条第2項では、労働者自身が健康の保持増進に努める必要がある旨、以下のとおり明記されています。

(1)事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
(2)労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。

出典:労働安全衛生法第69条(第一項・第二項)|e-Gov法令検索

労働者は、企業が実施する健康診断や保健指導を受けるだけでなく、健康保持のための体調管理や病気の際の療養など、自主的な健康管理も実施する必要があります。なお、労働者が自己保健義務を守らなかったとしても、特に罰則などはありません。

自己安全義務とは?

自己安全義務とは、労働者が安全に業務にあたれるよう注意を払う義務のことです。

自己保健業務と名前が似ていますが、自己安全業務は「労働中の安全」に対する義務であり、プライベートは義務の範囲に含まれません。

安全配慮義務違反による罰則はないが、民事訴訟が起きるケースがある

安全配慮義務違反による罰則は、労働契約法には定められていません。しかし、事業者が安全配慮義務を怠ったことで労働者が損失を被った場合、民事訴訟に発展するケースもあります。

本章では、企業の安全配慮義務に関連する訴訟事例を2つ紹介します。

ボーダフォン(ジェイホン)事件

うつ病に罹患していた従業員が自殺したことを受けて、訴訟が起きたケースです。従業員に対して異動の打診と説得を繰り返した結果、従業員が自殺に至ったとして、遺族が安全配慮義務違反で使用者を提訴しました。

しかし、正常な精神状態である者への異動の説得が自殺のきっかけとなることは、予見できるとは言い切れず、従業員がうつ病であったことを使用者は知らなかったため、予見可能性がないとみなされました。その結果、使用者の安全配慮義務違反は認められませんでした。

ただし、使用者が異動を命じる際の言動や説得状況によっては、安全配慮義務違反にあたる可能性があるとされています。したがって、使用者は従業員の状況や心情にも十分に配慮することが求められます。

上記のケースは、安全配慮義務違反にあたらなかったものの、従業員のうつ病の発症や自殺に対してまったく関連がなかったとは言い切れず、一人の命を失うという、本人・遺族・企業ともに悲しい結末をむかえる事件となりました。

参考:あかるい職場応援団『【第63回】 「異動を命じられた労働者が自殺した事案において、使用者の安全配慮義務違反が否定された例」 ―ボーダフォン(ジェイホン)事件』|厚生労働省

安全配慮義務とメンタルヘルス対策に関しては、こちらのコラムも併せてご確認ください。

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東芝事件

従業員のメンタルヘルス不調により訴訟に発展し、安全配慮義務違反が認められたケースです。従業員は入社10年目にリーダー職に就きましたが、不眠症などの体調不良を訴えて業務量の調整を申し入れます。しかし、業務の軽減を受け入れてもらえなかったために体調が悪化し、うつ病を発症して休職に至り、休職期間の満了後に解雇となりました。

解雇された従業員は、うつ病を発症したのは多すぎる業務が原因だとして、解雇の無効や慰謝料などを求めて提訴しました。当初、東京高裁は安全配慮義務違反を認めたものの、うつ病で医療機関に受診していることを企業に報告しなかったとして、損害賠償額減額の判断を出しました。

しかし最高裁では、従業員が申告していなくても業務量の配慮は必要であるとして、損害賠償額減額を認めず、東京高裁へ差し戻しています。

このケースでは、従業員がメンタルヘルス不調に関する情報を企業に報告していなかったことを過失として、安全配慮義務違反と相殺し、損害賠償額を減額することはできない、という判例となりました。そのため、安全配慮義務について、あらためて各企業が考えるきっかけとなった事件といえます。

参考:確かめよう労働条件|厚生労働省

安全配慮義務違反に関する4つのポイント

安全配慮義務は企業が負う重要な責務ですが、具体的な対策を示しているわけではないため、気付かないうちに違反となるケースも少なくありません。本章では、安全配慮義務違反にならないよう、違反か否かを判定する基準となる4つのポイントを紹介します。

予見可能性(帰責性)があったか?

前項の事例でも述べたとおり、「企業や組織が、従業員の心身の健康を害することを予測できた可能性」が、違反を判断するうえで重要なポイントとなります。

裁判ではさまざまな観点から当時の状況を詳細に調べるため、「病気だとは知らなかった」「ケガをするとは思わなかった」といった釈明では、責任を逃れるには不十分なケースが多いです。

安全配慮義務違反とケガ・病気に因果関係があったか?

労働者のケガや病気と企業の安全配慮義務違反との間に因果関係があるかどうかも、判断の基準となるポイントです。例えば、過度な飲酒や喫煙など、労働者のプライベートでの過ごし方が原因で疾患を発症した場合、その責任は労働者自身にあります。

しかし、長時間労働の常態化や健康診断・メンタルヘルス対策の未実施など、疾病と企業の対応に因果関係が認められる場合は、安全配慮義務違反にあたる可能性が高いでしょう。

果たすべき義務を果たしていたか?

企業がしかるべき義務を果たしていなければ、安全配慮義務違反とみなされます。具体的には、労働安全衛生法などの法律で義務付けられている対応をしていないことなどが挙げられます。

また、感染症の流行を把握していながら対策を怠った場合も、安全配慮義務違反にあたる可能性が高いでしょう。事業者や企業担当者の方は、法律や社会の変化を把握し、必要とされる対策を積極的かつスピーディーに取り入れることが大切です。

労働者側に何らかの過失があったか?

労働者側に過失があった場合は、たとえ企業の安全配慮義務違反があっても、損害賠償金額が減額されるケースがあります。これを「過失相殺」といいます。

例えば、健康診断で精密検査を受けるよう指示があったにもかかわらず、検査を受けていなかった労働者が、過重労働により重篤な疾患を発症した、といった場合には、企業側・労働者側の双方に原因があるとみなされ、過失相殺となる可能性があります。

まとめ

安全配慮義務は、自社にかかわる従業員が健康で安全に働き続けられるよう、事業者に課された大切な義務です。一方で、従業員への配慮を怠ったために労災などの損失が発生した場合は、安全配慮義務違反として、多額の損害賠償を請求されるおそれがあります。

安全配慮義務違反を防ぐためには、法律に基づく産業保健活動に取り組むことが重要です。

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