安全配慮義務とは?義務の範囲や違反となるケース、具体的な対策法を解説!

安全配慮義務とは?義務の範囲や違反となるケース、具体的な対策法を解説!

  1. 「安全配慮義務違反に罰則はある?」
  2. 「安全配慮義務違反を防ぐには、具体的に何をしたらいい?」
  3. 「そもそも、安全配慮義務とは?」

上記のような疑問はありませんか?

「安全配慮義務」という言葉は、企業経営に携わる方なら耳にする機会が多いはずです。内容を詳しく知らないまま安全配慮義務を怠ると、労働者の命が失われる最悪の事態に発展する可能性も否定できないため、注意が必要です。

そこで本記事では、安全配慮義務の意味や違反時の罰則、実際に起きた例、法律違反を防ぐために企業がすべき対策などについて、徹底解説します。

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そもそも「安全配慮義務」とは?

安全配慮義務とは、労働者の健康と安全を守るように必要な配慮を行なうことを使用者に定めた義務です。

安全配慮義務については、企業と従業員の労使関係を対等に保つための法律である「労働契約法」において、下記のように規定されています。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

出典:労働契約法 | e-Gov法令検索

労働契約法第5条における「必要な配慮」は、従業員の職種や業務内容、作業環境などによって異なるため、個々の従業員の状況に応じた対応が求められます。

過重労働への対策や業務災害の防止はもちろんのこと、妊産婦や障害のある従業員に対する配慮なども、安全配慮義務に含まれます。

「労働基準法や労働安全衛生法に違反していなければ大丈夫では?」と思う方もいるかもしれませんが、これらの法律を遵守しているだけでは、安全配慮義務を十分に果たしているとはいえない可能性があります。

企業には、日頃から従業員に起こり得る災害を予測したうえで、その災害を防ぐための対策を講じることが求められているのです。

また、安全配慮義務は原則として、事業場の規模や従業員の雇用形態などに関わらず発生します。パートタイムや有期雇用の従業員、派遣社員などに対しても、企業側は安全配慮義務を負います。

安全配慮義務制定の背景

安全配慮義務が制定された背景は「陸上自衛隊事件(昭和50年2月25日最高裁第3小法廷判決)」や「川義事件(昭和59年4月10日最高裁第3小法廷判決)」などの事件が挙げられます。

「陸上自衛隊事件」とは、陸上自衛隊員が車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した事件です。また、「川義事件」とは、宿直勤務中の従業員が盗賊に襲われ殺害された事件です。

これまで安全配慮義務を明文化する規定は存在していませんでした。しかし、どちらの事件も雇用する側が職場における危険を未然に排除、または低減し、従業員が安全に勤務できるように配慮する義務(安全配慮義務)がある、と最高裁で示されました。

つまり、陸上自衛隊事件では国が国家公務員に対して、川義事件では民間企業と労働者の間の労働契約に対して安全配慮義務を認める結果となりました。

その後も国や民間企業に対する安全配慮義務が問われる判例が積み重なったことで、平成20年、労働契約法第5条に安全配慮義務が明文化されるに至りました。

安全配慮義務違反に罰則はある?

安全配慮義務違反について、現状では罰則に関する規定は設けられていません。しかし、企業が安全配慮義務に違反した場合には、従業員やその家族から、多額の損害賠償を請求されるおそれがあります。

安全配慮義務違反によって訴訟が起きた場合、判決の根拠となるのは民法です。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 (使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

引用:民法 | e-Gov法令検索

企業側の不法行為責任や使用者等の責任、債務不履行責任などを根拠に、安全配慮義務違反が認められた事例は数多く存在しており、なかには1億円を超える賠償額の支払いを命じられた企業もあります。

安全配慮義務違反の事例

労働者の不調や健康障害のリスクを把握していながら、適切な対応をとらなかった場合には、安全配慮義務違反を問われて訴訟問題になるケースが少なくありません。

ここでは、実際にあった安全配慮義務違反の事例を2つ紹介します。

安全配慮義務違反の事例(1)電通事件

電通事件とは、過重労働による企業の安全配慮義務違反が認められた事例です。

2年目の若手社員Aは、長時間労働が常態化していたことが原因でうつ病の罹患や自殺に至ったとして、家族が企業に損害賠償を請求しました。

最高裁の判決では、「上司は長時間労働によるAの健康状態の悪化を認識していたにもかかわらず、負担軽減の措置をとらなかったことに過失がある」とみなされ、企業に対し、民事損害賠償義務を認めました。

この裁判は、労働者が過重労働により自殺に至った、という因果関係を最高裁が初めて認めた裁判として、重要な意味を持っています。

安全配慮義務違反の事例(2)山田製作所事件

山田製作所事件とは、長時間労働および昇格にともなう業務負担の増大による自殺との因果関係や予見可能性等について検討された事例です。

長時間労働とリーダー昇格による心身への負担から自殺に至ったとして、家族が企業に対して損害賠償を請求しました。一審で熊本地裁は、企業に約7,400万円の損害賠償を命じましたが、企業側は不服として控訴し、取り消しを求めました。

二審の福岡高裁では、業務と自殺の因果関係、企業側の安全配慮義務違反の有無(予見可能性があったか)、従業員の性格や家族の対応などによる賠償金額の減額事由の考慮等について、再検討されました。

そして最終的に、業務と自殺との因果関係や企業側の安全配慮義務違反が認められ、減額するような要素もないと判断されました。企業側は上告しましたが受理されず、損害賠償が確定しました。

安全配慮義務が適用される範囲

安全配慮義務を遵守するためには具体的な状況に応じた対策が必要です。そのための軸となるのが「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」です。

健康配慮義務とは、業務遂行にあたり使用者が労働者の心身の健康に配慮する義務のことです。過重労働対策や健康診断とストレスチェックの実施、産業医の選任などがあり、身体面だけではなく精神面への配慮が求められます。

職場環境配慮義務とは、使用者が労働者に対して快適で安全な職場環境の提供のために配慮する義務です。労働者が安全に使用できるような機械のメンテナンスや導入・教育、作業環境における有害因子の除去・低減、職場のいじめやパワハラ防止措置などが挙げられます。

安全配慮義務の適用範囲となる従業員

安全配慮義務は自社の正社員以外も適用範囲です。雇用形態にかかわらないのはもちろん、労働契約を直接結んでいない労働者も対象に含まれます。適用範囲となる従業員は以下のとおりです。

  • 直接労働契約を結んでいる従業員
  • 派遣社員
  • 自社で働いている下請け会社の従業員
  • 海外勤務者 など

自社で働いているすべての従業員に対して安全配慮義務は適用されると認識したうえで、それぞれの状況にあわせた必要な配慮を行なうことが大切です。

メンタルヘルス対策と安全配慮義務

安全配慮義務のなかには、メンタルヘルス対策も含まれます。メンタルヘルス対策とは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために行なう、各種取り組みのことを指します。

メンタルヘルスに不調をきたした労働者に対しては、職場環境の現状把握や改善などを行ない、休職した場合には職場復帰しやすいようにサポートする必要があります。

メンタルヘルス不調が疑われる労働者や、すでにメンタルヘルス不調を訴えている労働者に対して、企業側が何の対策も講じなかった場合には、安全配慮義務違反に問われる可能性があるのです。

安全配慮義務の遵守を怠った場合のリスク

社内で十分なメンタルヘルス対策を行なわず、安全配慮義務の遵守を怠った場合は、企業側にさまざまなリスクが生じます。

例えば、労働者や家族から慰謝料を請求されたり、訴訟を起こされたりすることで、企業の社会的信用が低下するでしょう。

過重労働やハラスメントなどが社内で起こっているとわかれば、企業に対する労働者の信頼も失われます。「労働者の健康や安全を守ってくれない会社だ」と判断されれば、退職者の増加につながるかもしれません。

さらに、新しい人材の確保が難しくなることも考えられるため、安全配慮義務違反によって企業の存続そのものが危ぶまれるおそれもあります。

安全配慮義務を守るために、企業がすべきメンタルヘルス対策5選

労働者に対する安全配慮義務を遵守するためには、企業としてどのような対策をとればよいのでしょうか。ここでは、企業がとるべき5つのメンタルヘルス対策について紹介します。

ストレスチェックを実施する

ストレスチェックとは、労働者の精神的負担の程度を把握するために行なう簡単な検査のことです。労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、1年以内ごとに1回のストレスチェック実施が義務付けられています。

実施したストレスチェックの結果は労働者本人へ通知されます。企業側は労働者に対して、どの程度のストレスが蓄積されているかを把握させるとともに、積極的にストレスに対するセルフケアを行なうことを勧めましょう。

また、ストレスチェックで高ストレス状態と判断された労働者がいた場合、面接指導の対象者である旨が該当の労働者に通知されます。そして、高ストレス者から面接を希望する申し出があった際には、医師による面接指導を実施しなければなりません。

くわえて、企業側は労働者のストレスチェックの結果をもとに、集団分析を行なうことが努力義務となっているため、できる限り実施しましょう。

集団分析の方法は使用する調査票によって異なりますが、「仕事の量的負担がどの程度あるのか」「上司や同僚の支援を受けられているか」といったことについて、部署や職種ごとに分析するのが一般的です。

集団分析からは、労働者のストレス要因だけではなく、全国平均との比較によって、自社でどのような健康問題の発生リスクがあるかがわかります。過去の集団分析結果などとも比較しながら、施策の有効性の確認や職場環境のさらなる改善に活かしましょう。

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EAP(従業員支援プログラム)を活用する

従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)とは、メンタルヘルスに不調を抱える従業員をサポートするための仕組みです。

EAPには、企業内の産業保健スタッフなどによる「内部EAP」と、メンタルヘルスサービスを提供する外部機関による「外部EAP」があります。

常駐する産業保健スタッフがいない企業では内部EAPの実施が難しいため、外部EAPを活用するのがよいでしょう。

外部EAPでは、メンタルヘルス関連の研修の開催やメンタルヘルス不調者への対応、ストレスチェックの実施、休職者への職場復帰支援などを行ないます。

外部EAPが提供するメンタルヘルスサービスは機関によって内容が異なるため、企業が求める支援内容や予算などに応じて選びましょう。

ハラスメント防止対策を行なう

厚生労働省が発表した「令和3年度過労死等の労災補償状況」によると、精神障害での支給決定のなかで最も件数が多かったのが、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」というケースでした。

パワハラに限らず、セクハラやマタハラといった職場内でのハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調を引き起こす大きな要因です。

ハラスメントに関する相談件数は年々増加しており、令和元年にはパワハラ対策が「改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)」として法制化され、企業側にパワハラ防止対策の実施などが義務付けられました。この法令は令和2年6月1日から施行され、中小企業に対しては令和4年4月1日から義務化されています。

企業はこの法令に則り、ハラスメントの予防や解決などに関する規定を設けたり、社内に相談窓口を設置したりするなどして、ハラスメント防止対策を徹底する必要があります。

その他、ハラスメントに対する関心や理解が深まるよう、労働者に定期的な研修を実施することや、「社内の人には相談しにくい」という労働者のために、外部の相談窓口の存在を周知させておくことも有効です。

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労働時間を把握する

労働安全衛生法では、「時間外労働や休日労働が月80時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合」には、医師による面接指導の実施が義務付けられています。

長時間労働はメンタルヘルス不調の要因となることが多いため、労働者の時間外労働や休日労働の実態は正しく把握しておきましょう。労働者に対して、労働時間を正確に申請するよう周知させることも大切です。

産業医に相談する

産業医とは職場の健康管理を担う医師のことで、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。安全配慮義務違反を防ぐためには、労働衛生の専門知識を有する産業医との連携が重要です。

メンタルヘルスに不調を抱える労働者がいる場合には、まず産業医に相談したうえで対応していくのが望ましいでしょう。

産業医の稼働実態に要注意

産業医を選任していれば安心、というわけではありません。産業医が企業を訪問していないなど、稼働実態を把握していないと企業側の違反リスクが高まるため注意が必要です。

近年、問題視されているのが「名義貸し産業医(名ばかり産業医)」です。名義貸し産業医とは、産業医として選任されているものの、実際にはほとんど稼働していない、もしくは十分な責務を果たしていない産業医のことを指します。

産業医が業務を適切に行なっていない場合は労働安全衛生法違反とみなされ、社会的信用を失うリスクがあります。労働基準監督署の調査で発覚し、追加調査によりさらに広範囲の調査やそれにともなう賠償問題が発覚するおそれもあります。

産業医選任の際には、産業医の業務や法定義務に関する知識を深めたうえで、確実に業務を実施してくれる産業医を選ぶようにしましょう。

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まとめ

安全配慮義務は、労働者の安全や健康を守るために職場環境を整えることを義務付けるものであり、事業者には労働者一人ひとりに合わせた配慮が求められます。

罰則規定はありませんが、必要な配慮を怠って労働者に健康障害などが生じると、安全配慮義務違反とみなされます。その場合、多額の損害賠償請求をされたり、社会的信用を失ったりするおそれがあるでしょう。

労働者の健康を守るために、労働衛生の専門家である産業医と連携し、ストレスチェックやハラスメント防止対策、労働時間の把握などの安全配慮義務を遵守することが重要です。

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