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そもそも「安全配慮義務」とは?
安全配慮義務とは、従業員の安全や健康を守り、心身の負担が大きくならないよう職場環境を整えることです。
安全配慮義務については、企業と従業員の労使関係を対等に保つための法律である「労働契約法」において、下記のように規定されています。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法第5条における「必要な配慮」は、従業員の職種や業務内容、作業環境などによって異なるため、個々の従業員の状況に応じた対応が求められます。
過重労働への対策や業務災害の防止はもちろんのこと、妊産婦や障害のある従業員に対する配慮なども、安全配慮義務に含まれます。
「労働基準法や労働安全衛生法に違反していなければ大丈夫では?」と思う方もいるかもしれませんが、これらの法律を遵守しているだけでは、安全配慮義務を十分に果たしているとはいえない可能性があります。
企業には、日頃から従業員に起こり得る災害を予測したうえで、その災害を防ぐための対策を講じることが求められているのです。
また、安全配慮義務は原則として、事業場の規模や従業員の雇用形態などに関わらず発生します。パートタイムや有期雇用の従業員、派遣社員などに対しても、企業側は安全配慮義務を負います。
安全配慮義務違反に罰則はある?
安全配慮義務違反について、現状では罰則に関する規定は設けられていません。しかし、企業が安全配慮義務に違反した場合には、従業員やその家族から、多額の損害賠償を請求されるおそれがあります。
安全配慮義務違反によって訴訟が起きた場合、判決の根拠となるのは民法です。
民法では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という不法行為責任(民法第709条)や、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」といった使用者等の責任(民法第715条)などが認められています。
企業側の不法行為責任や使用者等の責任、債務不履行責任などを根拠に、安全配慮義務違反が認められた事例は数多く存在しており、なかには1億円を超える賠償額の支払いを命じられた企業もあります。
メンタルヘルス対策と安全配慮義務
安全配慮義務のなかには、メンタルヘルス対策も含まれます。メンタルヘルス対策とは、従業員の心の健康を守るために、メンタルヘルスの不調を未然に防いだり、早期に発見したりする取り組みのことを指します。
メンタルヘルスに不調をきたした従業員に対しては、職場環境の現状把握や改善などを行ない、休職した場合には職場復帰しやすいようにサポートする必要があります。
メンタルヘルスの不調が疑われる従業員や、すでにメンタルヘルスの不調を訴えている従業員に対して、企業側が何の対策も講じなかった場合には、安全配慮義務違反に問われる可能性があるのです。
安全配慮義務の遵守を怠った場合のリスク
社内での十分なメンタルヘルス対策を行なわず、安全配慮義務の遵守を怠った場合には、企業側にさまざまなリスクが生じます。
例えば、従業員や家族から慰謝料を請求されたり、訴訟を起こされたことで企業の社会的信用が低下したりするでしょう。
過重労働やハラスメントなどが社内で起こっているとわかれば、企業に対する従業員の信頼も失われます。「従業員の健康や安全を守ってくれない会社だ」と判断されれば、退職者の増加につながるかもしれません。
さらに、新しい人材の確保が難しくなることも考えられるため、安全配慮義務違反によって企業の存続そのものが危ぶまれるおそれもあります。
安全配慮義務を守るために、企業がすべきメンタルヘルス対策5選
従業員に対する安全配慮義務を遵守するためには、企業としてどのような対策をとれば良いのでしょうか。ここでは、企業がとるべき5つのメンタルヘルス対策について紹介します。
ストレスチェックを実施する
ストレスチェックとは、従業員の精神的負担の程度を把握することで、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐための検査です。労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する企業に対して、1年以内ごとに1回のストレスチェック実施が義務付けられています。
実施したストレスチェックの結果は従業員本人へ通知されるため、どの程度ストレスが蓄積されているのかを把握したり、ストレスに対するセルフケアについて考えたりすることを推奨しましょう。
また、ストレスチェックで高ストレス状態だと判断された場合、面接指導の対象者であることも通知されます。高ストレス者からの申し出があった際には、医師による面接指導を実施しましょう。
くわえて、企業側は従業員のストレスチェックの結果をもとに、集団分析を行なうことが努力義務となっているため、できる限り実施しましょう。
集団分析の方法は使用する調査票によって異なりますが、「仕事の量的負担がどの程度あるのか」「上司や同僚の支援を受けられているか」といったことについて、部署や職種ごとに分析するのが一般的です。
集団分析からは、従業員のストレス要因だけではなく、全国平均との比較によって、自社でどのような健康問題が発生するリスクがあるかわかります。過去の集団分析結果などとも比較しながら、職場環境の改善に活かしましょう。
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EAP(従業員支援プログラム)を活用する
従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)とは、メンタルヘルスに不調を抱える従業員をサポートするための仕組みです。
EAPには、企業内の産業保健スタッフなどによる「内部EAP」と、メンタルヘルスサービスを提供する外部機関による「外部EAP」があります。
常駐する産業保健スタッフがいない企業では内部EAPを実施するのは難しいため、外部EAPを活用するのがよいでしょう。
外部EAPでは、メンタルヘルス関連の研修の開催やメンタルヘルス不調者への対応、ストレスチェックの実施、休職者の職場復帰支援などを行ないます。
外部EAPが提供するメンタルヘルスサービスは機関によって内容が異なるため、企業が求める支援内容や予算などに応じて選びましょう。
ハラスメント防止対策を行なう
厚生労働省が発表した「令和3年度過労死等の労災補償状況」によると、精神障害での支給決定のなかで最も件数が多かったのが、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という出来事でした。
パワハラに限らず、セクハラやマタハラといった職場内でのハラスメントは、従業員のメンタルヘルスの不調を引き起こす大きな要因です。
ハラスメントに関する相談件数は年々増加し続けており、令和元年にはパワハラ対策が法制化され、企業側にパワハラ防止対策の実施などが義務付けられました(令和2年6月1日施行)。
企業はこの法令に則り、ハラスメントの予防や解決などに関する規定を設けたり、社内に相談窓口を設置したりするなど、社内でのハラスメント防止対策を徹底する必要があります。
ハラスメントに対する関心や理解が深まるよう、従業員に定期的な研修を実施することや、「社内の人には相談しにくい」という従業員のために、外部の相談窓口を周知させておくことも有効です。
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労働時間を把握する
労働安全衛生法では、時間外労働や休日労働が月80時間を超え疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合には、医師による面接指導の実施が義務付けられています。
長時間労働はメンタルヘルス不調の要因となることが多いため、従業員の時間外労働や休日労働の実態は正しく把握しておきましょう。従業員に対して、労働時間を正確に申請するよう周知させることも大切です。
産業医に相談する
産業医とは職場の健康管理を担う医師のことで、常時使用する労働者数50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられています。安全配慮義務違反を防ぐためには、労働衛生に関する専門知識を有する、産業医との連携が重要です。
メンタルヘルスに不調を抱える従業員がいる場合には、まず産業医に相談したうえで対応していくのが望ましいでしょう。
まとめ
メンタルヘルス対策は企業が行なうべき安全配慮義務であり、メンタルヘルスに不調を抱える従業員への適切な対応を怠った場合などには、訴訟に発展する可能性があります。
安全配慮義務に違反しないよう、ストレスチェックの実施やハラスメント対策などを徹底し、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことが大切です。
しかし、産業医を選任していない場合や、社内に産業保健スタッフがいない場合には、効果的なメンタルヘルス対策の進め方がわからずに困ることもあるでしょう。
そのような場合におすすめなのが「リモート産業保健」の利用です。リモート産業保健では、産業医の選任やストレスチェックの実施など、産業保健に関わるさまざまなサービスを提供しています。まずは下記のフォームより、お気軽にご相談ください。
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