労働者のメンタルヘルス不調の原因は、さまざまありますが、労働者だけで解決することが難しい場合も少なくありません。メンタルヘルスケアは、産業医の業務のなかでも重要な仕事の一つです。産業医は、労働者が心身ともに健康に働けるよう指導や助言を行ない、効果的なメンタルヘルスケアを実施しています。
本記事では、メンタルヘルスにおける産業医の役割やメンタルヘルスケアの進め方、注意点について解説していますので、最後までご覧ください。
産業医訪問・オンライン面談、ストレス予防から
休職・復職者のアフターフォローまで対応
職場におけるメンタルヘルスケアとは?産業医の大事な仕事の一つです!
私たちは、日々、さまざまなストレスとともに生活しています。職場で感じるストレスは、業務内容に関連するものや、人間関係によるものが挙げられます。プライベートで感じるストレスが仕事に影響する場合もあり、同じ環境で仕事をしていても、ストレスを強く感じる人とそうでない人がいます。
メンタルヘルスとは、文字通り「心の健康」のことです。メンタルヘルス不調とは、労働者が仕事やプライベートで強いストレスを感じ、その状態が続くことで、自分だけでは対処しきれなくなり、心身に不調をきたしてしまうことです。
メンタルヘルス不調の原因は人それぞれですが、職場にはさまざまなストレス要因があり、労働者だけで取り除くことが難しい場合も多く、企業による積極的なメンタルヘルスケアが不可欠です。
メンタルヘルスケアとは、すべての労働者を対象に、健やかでいきいきと働けるような気配りと援助を行なうこととされています。企業がメンタルヘルスケアを行なうことで、労働者の健康保持増進、事業場の健康リスクマネジメント、職場の活性化と生産性の向上など、さまざまなメリットがあります。
メンタルヘルスケアにおける産業医の役割は?
産業医は、労働者が心身ともに健康で働ける状態かどうか評価したうえで指導や助言を行ないます。そして、企業内で効果的なメンタルヘルスケアを実施できるように支援を行なっています。産業医は労働者の健康管理を行なう医師であり、メンタルヘルスケアは産業医の業務のなかでも重要な仕事の一つとなっています。

一般的な医師との違い
産業医は、一般的な医師と同様に医師免許を持っていますが、役割や活動場所が異なります。
医師は病気やけがの診察・治療を行なう専門家で、患者に対して医療行為を行ない、おもな活動の場は医療機関です。
一方、産業医は企業で働く人の健康を守る専門職です。労働者や事業者に対して、中立的な立場から健康管理や職場環境の改善に関する助言や指導を行ない、おもに企業で活動します。
診察や投薬といった医療行為は原則行ないませんが、必要に応じて医療機関への受診を促す役割を担っています。
産業医と精神科医(心療内科医)の違い
産業医と精神科医(心療内科医)のおもな違いは、「医療行為を行なうかどうか」です。精神科医(心療内科医)は、心身の不調を抱える患者に対して診察を行ない、薬物療法や認知行動療法などの医療行為を通じて治療を行ないます。
一方、産業医は診察や治療を原則行なわず、必要に応じて医療機関の受診を勧める立場です。職場での支援や環境調整などを通じて、メンタルヘルス不調の予防や再発防止をサポートします。
なお、メンタルヘルス対応に強い産業医を求める企業も増えているなかで、「産業医と精神科医(心療内科医)の両方に携わる医師がどれくらいいるのか」は気になるところかもしれません。
あくまで推定人数ではありますが、産業医かつ精神科医(心療内科医)の目安は下記のとおりです。
医師の資格 | 推定人数 | 補足 |
---|---|---|
医師全体 | 約34万人 | 日本国内の医師数(2022年) |
精神科医・心療内科医 | 約1.7万人 | 医師全体の約5.1% |
産業医 | 約3万人 | 登録は約9万人、実働は約3万人と推定 |
産業医かつ精神科医(心療内科医) | 約1,530人 | 産業医3万人のうち5.1%で単純推計した目安。実際はさらに少数と想定。 |
参考:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
参考:現行の産業医制度の概要等|厚生労働省

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産業医による労働者のメンタルヘルスケアの進め方!
ここからは厚生労働省の「「職場における心の健康づくり」をもとに、メンタルヘルスケアの進め方における4つのポイントを紹介します。
1つ目は、メンタルヘルスケアを推進するための教育研修や情報提供をします。労働者、管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等に対し、それぞれの職務に応じた教育研修や情報提供をします。
提供する具体的な内容は、自社のメンタルヘルスケアに関する方針や、ストレスおよびメンタルヘルスケアの基礎知識、事業場内外の資源に関する情報などです。対象者によって、セルフケアやラインケアの内容を入れ込むと効果的です。必要に応じて、事業場外資源が実施する研修などに参加する機会を作ってもよいでしょう。
2つ目は、職場環境などの把握と改善です。労働者の心の健康には、作業環境や作業方法、労働時間、仕事の量と質など、さまざまな要因が影響を与えます。日頃から労働者の意見を聞くほか、ストレスチェック制度を活用しましょう。ストレスチェックの集団分析結果や面接指導の結果を参考に、職場環境の問題点の把握と改善に努めることが大切です。
3つ目は、メンタルヘルス不調への気付きと対応です。メンタルヘルス不調にならないための予防策はもちろん大切ですが、万が一メンタルヘルス不調者が発生した場合には、早期発見と適切な対応が必要になります。
そのために、労働者が自ら相談できる窓口を設けるなどの環境整備をしたり、管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等による対応体制の構築を図ったりします。場合によっては受診勧奨も必要ですので、管理監督者や事業場内産業保健スタッフはよく連携しながら対応にあたりましょう。
ただし、管理監督者がメンタルヘルス不調への対応に慣れていないと、いざ発生したときにどうしたら良いかわからず、悩んでしまうかもしれません。管理監督者に対してラインケア研修を実施することで、管理監督者が自信をもって適切な対応をできるように支援しましょう。
4つ目は、職場復帰における支援です。メンタルヘルス不調により休業した労働者が、円滑に職場復帰し、就業を継続できるよう職場復帰支援プログラムを策定します。プログラム策定にあたっては、衛生委員会などで調査審議し、産業医の助言などを受けながら作り上げていきましょう。
また、メンタルヘルスケアにおいては、これから説明する3つの予防策や4つのケアについて意識することも大切です。
参考:職場における心の健康づくり|厚生労働省
一次予防
労働者がメンタルヘルス不調を発症することを未然に防ぐ予防的なかかわりが重要です。ストレスチェックを活用し、労働者が自身のストレス状態を知ることで、メンタルヘルスに対する意識を高めていきます。ストレスを抱えている労働者には、希望によって産業医面談を実施し、業務調整などの予防措置を検討します。
二次予防
メンタルヘルス不調が疑われる労働者に対しては、早期に気付き対応することが重要です。メンタルヘルス不調を自覚する労働者へは早期に産業医面談を実施することで、業務負担の軽減などの対応へとつなげます。
三次予防
メンタルヘルス不調によって休職していた労働者が復職する際には、産業医面談を実施し、復職後の業務調整などを検討する必要があります。
また、職場のなかでメンタルヘルスケアを進めていく際、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「事業場外資源によるケア」の4つのケアを継続的かつ計画的に行なうことも必要とされます。
セルフケア
文字通り労働者自身が行なうケアのことです。セルフケアでは、まず自身のストレスに気付くことから始めます。自身のストレスに気付くためには、ストレスチェックを活用しながら、ストレスやメンタルヘルスに対しての正しい知識を持つ必要があります。
メンタルヘルス不調は誰にでも起こりうる出来事であり、特別なことではありません。正しい知識により適切な対処法を身に付けることで、心身を健康に保つことができます。
企業はセルフケアの重要性について、労働者が身近な問題として考えられるように産業医と連携しながら支援を行なうことが必要です。例えば、セルフケアについての研修を行なう際には、具体的に日常業務と関連づけて行なうと効果的です。また、セルフケアの対象はすべての労働者とされており、管理監督者も対象として含まれます。
ラインによるケア
労働者と日常的に接する管理監督者(上司)が行なうケアのことです。ラインによるケアでは、労働者の変化を早期発見することが重要です。
そのため、日頃から労働者とコミュニケーションを取るように心がけることで、いつもと違う変化に気付くことができます。例えば、遅刻が増えた、突然の無断欠勤、または、ミスが目立つなどにより、労働者の変化がわかります。
労働者の変化に気付いたときは、まず管理監督者が声をかけ、話を聞くように心がけましょう。管理監督者が日頃から積極的に声をかけることによって、労働者にとって相談しやすい雰囲気がつくられます。労働者のSOSに管理監督者がいち早く気が付き、速やかに産業医へと連携することでその後の労働者への細やかな対応が可能になります。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師が行なうケアのことです。産業医は、事業場外資源との窓口となったり、管理監督者と連携し労働者と面談を行なったりするなど、職場のメンタルヘルスケアが効果的に実施できるよう、職場環境や業務内容に合わせて、中心的に支援を行なっています。
事業場外資源によるケア
事業場に産業保健スタッフがいない場合や、相談内容を社内の人に知られたくない場合など、さまざまな理由によって活用されています。
産業医による労働者のメンタルヘルスケアに注意点はある?
事業場がメンタルヘルスケアを行なう際に、注意すべき点がいくつかあります。産業医や企業担当者は、特に以下の点について配慮しましょう。
労働者のメンタルヘルスケアを行なう際は、客観的な事実に基づき、冷静な判断を下すことが重要です。労働者と企業、周囲の人間の三者間それぞれの意見を尊重し、間をとって最良の判断と提案を行なう必要があります。そのうえで、労働者と企業、周囲の人間それぞれに対して、産業医が行なうことを明確にしましょう。
このとき、メンタルヘルスケアを行なう一つの手段としてコーチングツールが有用です。上手に活用することで、労働者や周囲の人間から潜在的な気持ちや能力を引き出し、最大限にパフォーマンスできるよう導けます。
なお、労働者から聞いた個人情報については、守秘義務および報告義務があるため、情報の取り扱いには十分気を付けましょう。
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産業医によるメンタルヘルスケアのための面談を拒否された場合の対処法
産業医面談は、労働者にとってさまざまなメリットがありますが、労働者が産業医面談をためらってしまう、または、拒否してしまうときはどのように対処したらよいのでしょうか。
産業医面談を拒否する理由の一つとして、病気と診断されてしまうのではないか、人事評価に影響するのではないか、などのネガティブなイメージが先行していることが考えられます。
そのため、日頃から、産業医面談を従業員に身近に感じてもらえるような取り組みが必要です。
産業医面談は、従業員の身体的・精神的負担が大きくなって、働くことができなくなってしまう前に、自身の健康管理のために受けるものだと正しく認識してもらいましょう。
産業医面談を受けたことが人事評価に影響しないことを、従業員が正しく理解できるように周知していくことも重要です。
さまざまな理由によって企業内で産業医面談を行なうことに抵抗がある場合は、企業外にある窓口を活用する方法もあります。企業の外に相談窓口を置くことで、従業員は相談内容や人事評価などを気にすることなく、産業医と面談を行なえるメリットがあります。
窓口としては、社員支援プログラム(EPA)や、労災病院や診療所、独立行政法人労働者安全機構が運営している産業保健総合支援センター(さんぽセンター)、または、同法人が運営している地域産業保健センター(地さんぽ)などがあります。
メンタルヘルス不調は誰にでも起こりうる出来事であり、特別なことではありません。企業は従業員が安心して相談できる環境を整備するとともに、従業員がメンタルヘルス不調について正しい知識が持てるように、産業医をはじめとする産業保健スタッフと連携し教育することが重要です。
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メンタルヘルスケアの効果を高めるための産業医の選び方
職場のメンタルヘルスケアを効果的に進めるためには、産業医選びが重要です。ここからは、企業担当者が産業医を選任する際に注目すべき「コミュニケーション能力」「知識・スキル」「主体性・当事者意識」の3つの視点について解説します。
①コミュニケーション能力
産業医は、企業の担当者や外部の医療機関とも連携しながら、従業員の健康を支える役割を担っています。なかでも、従業員との産業医面談では、丁寧に話を聞き、信頼関係を築いたうえで適切な助言や判断を行なう力が求められます。
コミュニケーション能力が不十分な場合、従業員との間に不信感が生まれ、必要なサポートが届かなくなるおそれがあります。そのため、社内外と円滑にかかわる力を備え、傾聴や対話を大切にできる産業医を選ぶことが重要です。
②知識やスキル
産業医には、従業員の健康を支えるうえで、医学的な専門知識とスキルも求められます。職場環境の改善や健康課題への対応について助言を行なうためには、実践的かつ幅広い知識・スキルが欠かせません。
労働安全衛生法第13条第2項でも、「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。」と定められており、その専門性は法的にも位置づけられています。
特にメンタルヘルス不調への対応では、産業医面談や職場復帰支援などで、個別の状況に応じた適切な見立てと助言が重要です。産業医を選ぶ際は、こうした専門知識や経験があるかどうかにも着目するとよいでしょう。
引用:労働安全衛生法|e-Gov法令検索
③主体性・当事者意識
産業医には、専門知識だけでなく、「主体性」や「当事者意識」も求められます。企業と協力して職場環境の改善や従業員の健康づくりを効果的に進めるには、課題に気付き、産業医が積極的に提案・行動できる姿勢が大切です。
単に医学的な視点から意見を述べるだけでは不十分で、企業に対して能動的に働きかける姿勢があってこそ、迅速かつ効果的な改善が可能になります。
また、従業員との産業医面談では、親身に話を聞き、必要に応じて企業へ配慮を働きかける姿勢が、従業員の安心感にもつながります。受け身ではなく、自分ごととしてかかわれる産業医かどうかを意識して選ぶことが重要です。
メンタルヘルスケアに取り組む際の産業医の探し方
おもな産業医の探し方は以下の5つです。企業規模や状況にあわせた最適な探し方を検討しましょう。
探し方 | メリット | デメリット |
---|---|---|
①医師会からの紹介 | 無料で産業医を紹介してもらえる 地域の事情に精通した産業医を紹介してもらえる |
産業医の選択肢が限られる 医師会によっては紹介サービスを行なっていないこともある |
②定期健康診断の契約医療機関からの紹介 | 健診と合わせて依頼しやすく、連携がスムーズに行なうことができる | 産業医の選択肢が限られる 自社のニーズと合致しない場合がある |
③自社の人脈を活用 | 相談相手から産業医選任の流れやノウハウを教えてもらえる可能性がある/連携がしやすい | 紹介者の範囲に選択肢が限られる 紹介者との関係性から、合わない場合でも断りづらい・交渉しにくい |
④地域産業保健センターの利用 | 小規模事業場(労働者数50人未満)なら無料でサービスを受けられる | 小規模事業場(労働者数50人未満)しか利用できない/利用回数に制限がある |
⑤産業医紹介サービス | ニーズに合った産業医を効率よく探せる 交渉や手続きの代行サポートが充実している/産業医の変更も相談しやすい |
仲介手数料や紹介料がかかり費用が高くなる傾向がある |

まとめ
産業医は、労働者が心身ともに健康に働けるよう、メンタルヘルスケアや職場環境の改善など、専門的な立場から助言や指導を行なう存在です。
労働者のメンタルヘルス不調を改善することは離職防止や生産性向上にもつながるため、ニーズに合う産業医と出会うことは企業の経営に影響を与える重要な要素の一つといえるでしょう。
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