「うちは従業員数が50人未満だから、産業医は必要ない」と思っていませんか?しかし実際には、すべての労働者に対して健康管理や安全配慮を行なう責任が事業者にはあります。
本記事では、産業医の役割や設置が義務付けられる条件に加え、安全配慮義務の基本や、設置しない場合の対応方法など、企業として知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
産業医選任やオンライン・訪問面談、職場巡視、
衛生委員会の立ち上げ・運営など産業医と産業看護職2名体制で支援
産業医の役割やメリット
労働安全衛生法第13条では、企業が常時50人以上の労働者を雇う場合に産業医の選任を義務づけています。そこで、産業医にどのような役割があり、選任することでどのようなメリットがあるのかを紹介します。
産業医の役割は労働安全衛生法の第14条において定められています。一例として労働者の健康状態や労働環境を把握し、専門的な立場から助言や指導を行なうことがあげられます。
健康診断やストレスチェックは、労働者の健康状態の把握と異常の早期発見を目的として実施されます。その結果に基づいて面談や指導を行なうのが産業医の役割です。必要に応じて治療や休養などを提案することや、本人の同意を得たうえで企業側に配置転換などの助言を行なうこともあります。
労働者の働く環境を確認し、助言を行なうことも産業医の役割の一つです。例えばパソコン作業の多い事業場では、VDT症候群の予防のため作業に合わせた照明やモニターなどの作業環境を整えることが必要です。また、機械や化学物質を取り扱うなどケガや労働災害が発生するリスクが高い事業場では、安全面の巡視を行なう必要があります。
ほかにも休憩できる環境があるか、水回りやトイレは衛生的か、分煙対策は十分かなど、労働者が安心して働ける環境が整っているかを巡視して確認します。
近年では長時間労働やストレスチェックなどへの関心も高まっており、メンタルヘルスケアへの取り組みも注目されています。長時間労働などが原因となり労働者の心身に症状が表れる場合には、面談を行ない、状況を改善していくことも産業医の役割の一つです。高ストレス者に産業医面談を実施する場合には、企業へのストレスチェックの結果開示について同意が必要となります。
また、休職中や復職希望者がいる場合には、企業側の状態を理解している立場として主治医と連携しつつ、復職の可否を企業に助言することもあります。
では、企業には産業医を選任することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。最大のメリットは、専門的な助言を得ることで問題に早急に対応できることです。心身の不調者がいた場合、産業医がいれば労働環境の特性を理解しているため、労働者それぞれに適した助言や指導を行なうことが可能です。
早期に課題を把握することができるため、その後の対策もとりやすく、結果的に労働災害の発生を未然に防ぐことにつながるのです。
産業医設置の条件は事業所人数で決まる?
労働安全衛生法第13条では、事業者は常時50人以上の労働者を雇うに至ったときから14日以内に産業医を選任しなければならないとされています。
この際に基準となるのが事業場であり、支社、店舗、工場などの拠点を1事業場と考えます。事業場ごとに常時50人以上の労働者がいる場合、それぞれの事業場の条件に応じて産業医を選任する必要があります。
なお、労働安全衛生法120条では産業医を選任しない場合、50万円以下の罰金が課せられるという罰則も定められているため注意が必要です。従業員が50人以上になる可能性がある場合には、早めに産業医を見つけておく必要があるでしょう。
従業員50人未満でも”安全配慮義務”が課されている
事業者には、労働者の健康や働く環境に対して配慮する義務があります。労働者数が50人未満で産業医の選任が努力義務の場合でも、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)と定められており、安全配慮義務はすべての企業に課されているのです。
引用:労働契約法|e-Gov法令検索
例えば、長時間労働を放置すれば、うつ病や過労による脳・心臓疾患の発症、事故のリスクが高まり、企業側に損害賠償責任が生じる可能性もあります。そのため、労働者数にかかわらず、事業者には職場環境や労働者の健康に対して十分な配慮を行なうことが求められます。
なお、すべての企業で課される産業保健上の法的義務は以下のとおりです。
- 定期健康診断の実施
労働者を一人でも雇っている場合は、年に1回の定期健康診断を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第44条)。定期健康診断にかかる費用は、企業側が負担することが望ましいとされています。 - 医師からの意見聴取
事業者は、健康診断の結果に異常所見が見られた労働者について、その健康を守るために必要な措置をとる際、医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。 - 長時間労働者の面接
月80時間を超える時間外・休日労働を行なった労働者のうち、疲労の蓄積がみられ、面接指導を申し出た場合には、医師による面接指導を行なわなければなりません(労働安全衛生法第66条の8)。
出典:労働安全衛生法|e-Gov法令検索
出典:労働安全衛生規則|e-Gov法令検索 - 社会保険・労働保険の加入
常時労働者を使用する法人事業所(事業主のみの場合を含む)や、常時5人以上の労働者が働く事務所・工場・商店などの事業所は、健康保険と厚生年金保険への加入が義務付けられています。ただし、サービス業の一部(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業など)や、農業・漁業などの業種はこの限りではありません。
また、労災保険への加入は労働者を一人でも雇用すれば必須です。さらに、雇用保険は労災保険加入者のうち、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある者は加入させなければなりません。
出典:事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき|日本年金機構
出典:ひとりでも労働者を雇ったら、労働保険(労災・雇用)に入る義務があります。|(一社)全国労働保険事務組合連合会広島支部・労働保険事務組合 - ストレスチェックの実施
これまでは、常時50人以上の労働者を使用する事業場でのみストレスチェックの実施が義務化されていましたが、2025年3月の労働安全衛生法改正の閣議決定により、50人未満の事業場にも義務付けられる方針が示されました。
2025年4月現在は準備期間とされており、公布から3年以内に施行される予定です。
出典:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要|厚生労働省
従業員50人未満で設置しない場合は”安全衛生委員会”が必要
労働安全衛生規則の第23条において「事業者は、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「委員会」という。)を毎月一回以上開催するようにしなければならない」と定められています。この規則に基づき、従業員が50人以上の事業場では、安全衛生委員会などの実施が義務づけられています。
また、同規則第23条の2では「委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない」と定めています。従業員が50人未満であっても、この規則により安全衛生懇談会など労働者の意見を聴く機会を設けることが義務づけられています。
安全衛生懇談会の目的は、実際に働いている労働者から直接意見を聴くことで作業環境などの問題点を見つけ出し、労働環境を向上させることです。そのため、管理者だけでなく幅広い立場の人たちから意見を聴けるような機会を設ける必要があります。
内容としては安全衛生委員会などと同様に、作業環境の改善策、安全衛生教育、従業員の健康保持・増進などがあげられます。まずはその事業場の安全衛生管理の現状について確認し、それに応じて優先順位をつけながらテーマを設定するとよいでしょう。
従業員が50人になる前に、産業医紹介サービスを活用しましょう
前述のように労働安全衛生法に基づき、従業員が50人を超えた場合、企業は14日以内に産業医を選任しなければなりません。さらに、衛生管理者の選任、衛生委員会の設置も義務付けられており、月1回は衛生委員会を実施する必要があります。
また、年に1回の健康診断やストレスチェックの実施も義務となり、いずれも所轄の労働基準監督署への報告が必要になります。
このように従業員が50人を超えると、産業保健にかかわる業務が大幅に変わり、やらなければいけないことが増大します。50人を超えてから取り組もうとしても、産業医や衛生管理者がすぐに見つからなかったり、従業員への周知が不足して理解が得られなかったりとトラブルが起きてしまう可能性もあります。
特に産業医は選任までの期間が14日以内と短いため、人員の採用計画と照らし合わせながら、従業員が50人を超える前に産業医紹介サービスで産業医を見つけておくと安心です。また、紹介サービスでは産業保健の導入に向けて情報提供やアドバイスをしてもらえることもあるので上手に活用しましょう。
なお、厚生労働省の産業保健活動総合支援事業の一環として「小規模事業場産業医活動助成金」があります。従業員50人未満の小規模事業場が、産業医等と契約して産業医活動等を行なった場合、最大60万円の助成金が受けられるというものです。
助成金を活用すれば、コストを下げつつ時間に余裕をもって産業保健に取り組むことができるので、導入に向けて早めのご検討がおすすめです。
※2023年1月6日現在の情報では2022年11月9日を持って企業や事業所ごとで申請する形での新規申請は廃止となることが独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)から発表されました。今後は、これらの助成金の代わりに、協同組合などの団体から申請できる「団体経由産業保健活動推進助成金」の申請が開始されました。
※こちらは2023年1月6日現在の情報です。最新情報については、独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)の「団体経由産業保健活動推進助成金の手引き」をご確認ください。

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