働き方改革によって産業医の役割が注目されつつある
働き方改革関連法が施行されたことにより、産業医の機能が強化されています。具体的には、企業における産業医の独立性や中立性の強化、産業医への情報提供の充実などが図られました。
これにより、労働者の健康管理、企業における安全配慮義務(労働者が安全かつ健康に労働できるよう、企業に課せられた義務)の遵守には、産業医の役割がより一層重要になったといえます。
産業医のおもな役割は、「企業側・労働者側のどちらにも属さず、医学的な専門家として中立の立場で、企業と労働者をサポートする」ことです。
産業医が労働者の健康管理に注力することで、労働者一人ひとりが自身の能力を発揮できるようになれば、結果として、生産性向上や企業の業績アップにつながるでしょう。
企業は、労働者が健康的に働ける環境を整える必要があり、それには産業医のサポートが欠かせません。その重要性は、産業医機能が法律で強化・整備されたことからもうかがえます。
産業医の役割・業務内容とは?
ここでは、産業医の具体的な役割を詳しく紹介します。
産業医の役割(1)健康診断
健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条に企業の義務として定められていますが、実施するだけが目的ではありません。実施後は、産業医が結果を確認し、労働者や企業に対して助言・指導を行ないます。
産業医は、労働者が就業を継続できるかどうかを、
判定により、業務調整や休職などが必要と判断された場合、企業は労働者の実情と産業医の意見を考慮しつつ、実際の対応を検討します。
業務調整や休職などの最終決定は企業が行ないますが、安全配慮義務の観点から、労働者の健康と安全を考えた判断をする必要があるでしょう。
産業医の役割(2)ストレスチェック
ストレスチェックとは、労働者が記入したストレスに関する選択回答式の質問票を集計・分析することで、ストレス要因やストレス反応などを調べる検査です。
労働安全衛生法の改正により、2015年12月から労働者が常時50人以上いる職場では、年1回、常時使用する労働者に対してストレスチェックを実施することが義務付けられました。
※所定労働時間が通常労働者の4分の3未満または、契約期間が1年未満の労働者は対象外
ストレスチェックでの産業医の役割は「実施者」です。実施者とは、ストレスチェックを実施する人で、企画や結果の評価などを行ないます。
なお「実施者」になれるのは、医師(産業医が望ましい)、保健師、厚生労働大臣の定めた研修を修了した看護師・精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師です。
産業医の役割(3)職場巡視
職場巡視とは、産業医が直接職場へと足を運び、現場の状況把握を行なうことです。産業医の職場巡視は原則として月に1回以上行なうことが義務でしたが、2017年の法改正で、所定の条件を満たせば2ヵ月に1回以上とすることも可能になりました。
所定の条件とは以下の2つです。
- 衛生管理者が週1回以上行なう作業場などの巡視結果や、時間外労働が月80時間超えの労働者に関する情報など、衛生委員会などの調査審議で提供が定められた情報を産業医に報告する
- 産業医の意見に基づき、衛生委員会などで審議を行なったうえで企業の同意を得る
産業医は職場巡視の際に、職場内で危険なところがないか、衛生面や作業環境で気になる箇所がないかを確認し、あれば指摘します。また、職場巡視の記録作成も必要です。
産業医の役割(4)衛生委員会への参加
衛生委員会とは、従業員の健康管理・健康障害を起こす危険性のある職場環境や内容について、審議する場です。
労働安全衛生法第18条、および、労働安全衛生法施行令第9条に基づき、常時使用する労働者数が50人以上の職場では、衛生委員会の設置が義務付けられています。衛生委員会には、産業医も積極的な参加を求められます。
衛生委員会に産業医が参加することで、医学的な立場からのアドバイスを得られたり、職場の状況や課題を理解してもらったりする機会にもなります。
産業医の役割(5)高ストレス者への面談
先述したストレスチェックは、労働者が感じているストレスの度合いを数値化するものです。ストレスチェックの結果、高ストレスと判定され、申し出た労働者に対しては産業医による面談が実施されます。
面談は、企業・職場の状況や労働者の業務内容をよく理解している産業医が行なうことが望ましいとされています。結果を見ながら労働者本人へ助言や指導をするほか、必要であれば企業に業務調整や配置変更などを依頼するのも産業医の役割です。
産業医の役割(6)長時間労働者に対する面談
産業医による長時間労働者への面談は、時間外労働・休日労働が月80時間を超えていて、疲労の蓄積が認められる場合、労働者からの申し出によって行なわれます。
長時間労働は脳疾患や心疾患、精神疾患の発症と関係性が強く、放置してしまうと労働者の健康障害を引き起こす要因になりかねません。
また、労災認定の要件にも含まれているため、企業は長時間労働の危険性や長時間労働者が発生した際の対応を理解しておく必要があるでしょう。
産業医は、労働者本人の状態や職場環境・業務内容などを確認し、企業へ医学的な専門家として改善点や対応などについて意見を述べます。このように、長時間労働による労働者の健康障害を防止するために働きかけるのも、産業医が担う役割の一つです。
産業医の役割(7)休職面談・復職面談
メンタルヘルスの不調を抱えていて業務に支障が出ている労働者、休職を申し出ている労働者に対して、産業医が休職面談を行なう場合があります。また、労働者が復職希望を出している際も同様で、産業医が復職面談を行ない、復職の可否について意見を述べたり、復職時に必要な職場対応について助言したりします。
特に復職面談の際には、たとえ本人に復職意欲があっても、心身の回復が十分でなく、業務内容・環境によっては再発や悪化の可能性がある、といったケースも少なくありません。
そのため、主治医の診断書と労働者の本人の実情を踏まえ、企業へ「どこまでの業務であれば復職可能なのか」「どのような環境であれば就労可能なのか」などを助言します。企業はそれをもとに、復職の判断と必要な対策を検討するのが一般的です。
産業医を選任するメリット
ここからは、産業医を選任するメリットを「企業側」と「労働者側」に分けて説明します。
企業側のメリット
企業側のメリットは以下のとおりです。
労働者のモチベーションや生産性の向上
労働者の健康を維持することで、業務へのモチベーションアップや生産性の向上につながります。また、労働者が自身の健康状態と向き合える機会を得て、「いつもと違う状態」にいち早く気付くことができれば、心身の不調による休職者や退職者を減らすことにもなるでしょう。
経営維持と発展
労働者一人ひとりの生産性の向上は、結果的に企業の業績向上につながります。
健康状態に不安があると、継続して仕事ができなくなったり、不調によるストレスの増大で精神疾患になってしまったりすることも考えられるでしょう。そのようなケースが増えれば、人手が足りなくなる、職場環境や人間関係が悪化する、といった事態をまねきかねません。
産業医と連携し労働者の健康を維持していくことは、企業経営を維持したり、発展させたりしていくために重要なプロセスの一つです。
企業のイメージアップ
企業側が労働者の健康管理に向き合うことで、「社員の健康を守る会社」として外部からの評価も上がるでしょう。「ホワイト企業」「ブラック企業」という言葉が示すように、労働者にとって働きやすいかどうかが、企業イメージに大きく影響します。
産業医を選任し、企業全体で労働者の健康維持と管理に努めることで、社内だけでなく社外・世間での企業イメージ向上につながるでしょう。
労働者側のメリット
労働者側のメリットは以下のとおりです。
健康意識が高まる
産業医による面談や健康教育をとおして労働者の健康意識が高まることで、小さな心身の不調に気が付きやすくなります。
労働者の健康を維持するには、企業や産業医が健康管理に取り組むだけでは不十分です。労働者一人ひとりが適宜、自分自身を見つめ直し健康的な行動を習慣とすることで、心身の不調を未然に防ぐことができます。
産業医の日々の業務や定期的な声かけなどにより、労働者は自分の健康という問題について、より身近に感じられるようになるでしょう。
病気の予防行動が取れる
産業医が健康リスクを適切に管理することで、重大な病気を未然に防げる可能性が高まるという点もメリットの一つです。
実際、労働者が自身の不調を自覚していても「大丈夫だろう」と自己判断して、その裏にある重大な病気に気付かないまま命に関わる事態に発展するケースも珍しくありません。
産業医に相談できる環境があれば、気軽に健康に関する相談ができ、必要に応じて専門機関を紹介してもらうことも可能です。
また、早急に医療機関への受診が必要と産業医が判断した場合は、受診時間を確保できるよう企業へ働きかけることもできるため、労働者は速やかに医療機関を受診できます。早期に産業医に相談することで、現時点の心身の不調に対処するだけでなく、将来的に体調を崩して長期に仕事ができなくなるリスクを避けることができるでしょう。
産業医の選任には企業側・労働者側の双方にメリットがあるため、法律で義務付けられている企業はもちろん、その他の企業も産業医の選任を検討することをおすすめします。
まとめ
産業医は、企業と労働者どちらの立場にも立たず、独立性を保って適切な助言や指導を行ないます。企業にとっては労働者の健康と安全を守るために、労働者にとっては自分自身の健康を守り、仕事を続けていくために、産業医は大きな役割を果たすでしょう。
重要な役割を持つ産業医ですが、日本における産業医の実働数は推計約3万人であり、医師全体の1割にしか満たないのが実情です。「いざ選任したくても、良い先生がなかなか見つからない……」と頭を抱える企業担当者の方も少なくないかもしれません。
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