ストレスチェックの目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあります。令和10年4月からは常時50人未満の事業場にも義務化が拡大される制度改正も控えており、いま改めて目的を正しく理解しておくことが重要です。
ストレスチェックを毎年実施しているものの、従業員から「なぜこれをやるのか」と聞かれたときにうまく説明できない、という声は少なくありません。実施自体は制度対応できていても、目的が伝わらないまま形だけの運用が続けば、受検率の低下や心理的な抵抗につながりかねません。本記事では、この目的を労働者本人の視点と企業・組織の視点の両方から整理したうえで、従業員への伝え方まで解説します。
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この記事でわかること
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【1】ストレスチェックの目的(労働者本人の視点・企業の視点の両方) -
【2】一次予防・二次予防・三次予防という予防医学モデルにおける位置づけ -
【3】常時50人未満の事業場にも義務化が拡大される制度改正の内容 -
【4】目的を従業員へ伝える際に気をつけたいポイント
ストレスチェックとは?目的を理解する前に知っておきたい基本
ストレスチェックの目的は、労働者自身にストレスへの気づきを促すとともに、職場環境の改善を通じてメンタルヘルス不調を未然に防止(一次予防)することです。まずは制度そのものの輪郭を押さえておきます。
ストレスチェックは、労働者のストレスの状態を調べるための検査です。労働安全衛生法に基づき、常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回、定期に実施することが定められています。対象となる事業場の規模要件や実施頻度の詳しい根拠は法令に定められていますが、本記事では目的の理解を主眼とするため、対象者の細かい要件については割愛します。詳しくは、ストレスチェック制度の対象者・義務化の要件を解説した記事もご覧ください。
ストレスチェック制度の義務化はいつから?50人未満の事業場への拡大(令和10年4月〜)も解説
ストレスチェック制度は、平成26年6月25日公布の労働安全衛生法改正により創設され、常時50人以上の労働者を使用する事業場では2015年12月から実施が義務化されました。一方、常時50人未満の事業場については、法律の附則により当分の間は努力義務にとどめる特例が設けられています。

(図:ストレスチェック義務化の範囲 現行制度と令和10年4月以降)
(編集部作成)
この「50人未満は努力義務」という枠組みを見直す法改正が、すでに成立しています。常時50人未満の事業場への適用除外を定めた附則の規定そのものを削除する改正(令和七年法律第三三号)が成立しており、施行日は公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令が定めることとされています。厚生労働省が公表している周知用リーフレットでは、具体的な施行時期として令和10年4月1日が示されています。つまり、これまで努力義務だった常時50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務として課される見込みです。現行の努力義務は、この削除改正が施行されるまでの間は引き続き適用される関係にあります。
なお、施行後の経過措置の詳細(すでに努力義務として対応していた事業場への移行の扱いなど)は、本記事執筆時点で一次情報を確認できていません。対応方法は今後の政省令等の公表を待つ必要があり、判断に迷う場合は産業医への相談をおすすめします。
ストレスチェック制度が義務化された理由・背景
制度化の背景には、職場のメンタルヘルス不調に関する統計上の傾向があります。厚生労働省が公表している「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」によると、精神障害の労災補償における支給決定件数は、令和3年度の629件から令和4年度710件、令和5年度883件、令和6年度1,056件、令和7年度1,082件へと、直近5年度で増加傾向にあります。
厚生労働省・警察庁が公表している「令和6年中における自殺の状況」によれば、自殺の動機に関する統計も、職場環境との関連をうかがわせます。令和6年中の自殺について原因・動機が特定された者のうち、健康問題を動機とするものが12,029件(約65.6%)、勤務問題を動機とするものが2,564件(約14.0%)で、合わせると全体の約79.6%を占めています(1人につき複数の動機が計上されるため合計は延べ数です)。こうした背景から、労働者自身が自分のストレス状態に早期に気づき、必要に応じて専門家につながる仕組みとして、ストレスチェック制度が設けられました。
背景となる数値は増加や高い割合を示していますが、数値の解釈や個々の労働者への当てはめは専門的な判断を要するため、断定的な評価は避け、気になる場合は産業医に相談することをおすすめします。
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ストレスチェックが義務化された背景を押さえたところで、実務でどう活用し、どのような点に注意すればよいのかも気になるところではないでしょうか。ストレスチェックは、労働者のメンタルヘルスを把握し、健康経営につなげるための重要なツールです。このセミナーでは、ストレスチェックの義務や必要性、効果的な利用方法、注意事項、現場でうまく活用できた事例などをご紹介します。
ストレスチェックの目的は「メンタルヘルス不調の未然防止」
ここからは、労働者本人にとってストレスチェックがどのような目的を持つのかを、3つの視点で整理します。次章で扱う一次予防・二次予防・三次予防という組織・制度側の視点とは異なる観点から説明します。

(図:ストレスチェックの目的3つの視点)
(編集部作成)
労働者本人が自身のストレスに気づき、セルフケアにつなげるため
ストレスチェックの目的の一つは、労働者本人が自分自身のストレスの状態に気づき、セルフケアにつなげることです。日々の業務の中では、自分のストレスの蓄積に気づきにくいことがあります。ストレスチェックの結果を通じて自身の状態を客観的に把握することは、早めのセルフケアの第一歩になります。
高ストレス者を早期の医師面接指導につなげるため
もう一つの目的は、高ストレスと判定された労働者を、早期に医師による面接指導につなげることです。面接指導は労働者本人の申し出に基づいて実施されるものであり、事業者が一方的に指定するものではありません。申し出をためらう労働者もいるため、申し出をしても不利益な扱いを受けないという安心感を伝えることが重要になります。
職場環境の問題点を洗い出すため(集団分析の活用)
3つ目は、個人の結果を部署・職場単位で集計・分析し、職場環境の問題点を洗い出すことです。この分析は一般に「集団分析」と呼ばれ、個人の結果だけでは見えにくい職場単位の傾向を把握し、環境改善につなげる目的で行われます。集団分析の具体的な手法や活用の流れは、ストレスチェックの集団分析を解説した記事にまとめています。
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ストレスチェックの集団分析とは?やり方・見方・開示範囲まで解説
メンタルヘルスケアの3段階「一次予防・二次予防・三次予防」とストレスチェックの位置づけ
前章が労働者個人にとっての目的だったのに対し、ここでは予防医学モデルという組織・制度側の視点から、ストレスチェックの位置づけを整理します。

(図:メンタルヘルスケアの3段階とストレスチェックの位置づけ)
(編集部作成)
一次予防:メンタルヘルス不調を未然に防ぐ
一次予防は、メンタルヘルス不調そのものを未然に防ぐ取り組みを指します。ストレスチェックの実施自体が、労働者に自身のストレス状態への気づきを促す一次予防に位置づけられます。
二次予防:不調を早期に発見し、適切に対処する
二次予防は、不調の兆候を早期に発見し、適切に対処する取り組みです。ストレスチェックの結果に基づく面接指導や、産業医・相談窓口の整備は、この二次予防の中心的な取り組みにあたります。
三次予防:休職者の職場復帰を支援し、再発を防ぐ
三次予防は、休職に至った労働者の職場復帰を支援し、再発を防ぐ取り組みです。職場復帰支援プログラムの整備や、管理職向けの研修も三次予防に含まれます。三次予防を含めたメンタルヘルスケア全体の考え方は、産業医によるメンタルヘルス対応を解説した記事で詳しく取り上げています。
ストレスチェックの実施の流れ(全体像)
ストレスチェックは、事前準備、実施、結果通知・面接指導、集団分析・職場改善という4つのステップで進みます。各ステップの詳細な手順を理解しておくと、目的を見失わずに運用しやすくなります。
それぞれのステップで必要な準備や実務上の注意点は多岐にわたり、初めて担当する場合は戸惑う場面も少なくありません。具体的な手順は、ストレスチェックの実施の流れを詳しく解説した記事で確認できます。
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ストレスチェックの実施方法を8ステップで解説|対象事業場から費用・注意点まで
ストレスチェックの目的を達成するには、従業員への周知が大切
ストレスチェックは、業務命令として受検を強要しないことが前提の制度です。目的を正しく理解してもらえなければ、従業員が形式的に回答するだけになり、本来の目的である気づきや職場改善にはつながりません。
周知で気をつけたいポイント
周知の際は、次の3点を実務的な注意点として押さえておくと伝わりやすくなります。
- 口頭での案内とポスター掲示を併用し、繰り返し周知する
- 「診断」ではなく「気づきのための検査」であることを明示する
- 受検の有無や結果を理由に不利益な取り扱いをしないことを約束する
このような周知をどこまで丁寧に行うかは企業によって差が出やすく、担当者だけで説明資料や運用ルールを一から整えるのは負担が大きい作業でもあります。
職場におけるさまざまなストレス要因が増加する中、ストレスチェックを活用することで、労働者のメンタルヘルス不調にいち早く対応することが重要です。
ストレスチェックの実施を検討中のご担当者様に向けて、産業保健師が監修した「はじめてのストレスチェックガイドブック」をご提供しますので、ぜひご活用ください。
よくある質問(FAQ)
ストレスチェックの目的に関して、担当者からよく寄せられる質問をまとめました。
- Q,ストレスチェックは意味がないと言われることがあるのは本当ですか?
- A
未受検や形だけの運用が続くと、結果が活用されず「意味がない」という声につながることがあります。運用上の課題と対策については、ストレスチェックが意味ないと言われる理由と職場改善の方法を解説した記事で詳しく解説しています。
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- Q,ストレスチェックの結果によって不利益な取り扱いを受けることはありませんか?
- A
労働安全衛生法では、面接指導の申出をしたことを理由とした不利益な取り扱いが禁止されています。受検の拒否や結果提供への不同意を理由とした不利益な取り扱い、面接指導の結果を理由とした解雇・雇止め・退職勧奨なども禁止行為とされています。
- Q,常時50人未満の事業場でも義務化されるのですか?(令和10年4月改正)
- A
はい。附則第4条を削除する改正がすでに成立しており、厚生労働省の周知用リーフレットでは令和10年4月1日から常時50人未満の事業場にも義務化されると案内されています。対象となる要件や現行の努力義務との関係は、常時50人未満の事業場における産業医対応を解説した記事も参考になります。
ストレスチェックの目的を従業員に説明できるようになったら、次は実施体制そのものを見直すタイミングかもしれません。産業医の切り替えや選任を検討中の企業向けに、WEB版ストレスチェック(57項目)を無料で提供しており、実施者代行にも対応しています。メールアドレスの有無やデバイスも選択でき、過去データを遡って確認できるため経年比較も可能です。高ストレス者への面談に加え、産業看護職が高ストレス者以外のメンタルヘルス不調者にも面談・相談を行い、早期の対応につなげます。
まとめ
ストレスチェックの目的は、労働者本人がストレスに気づきセルフケアにつなげること、高ストレス者を早期の面接指導につなげること、そして職場環境の問題点を集団分析によって洗い出すことの3点にあります。制度全体としては、メンタルヘルス不調の未然防止という一次予防に位置づけられる取り組みです。加えて、常時50人未満の事業場にも義務化が拡大される見込みであり、対応を検討する事業場は準備を早めに進めておくと安心です。
こうした目的や制度改正への対応、従業員への周知資料の整備まで自社の人事労務担当者だけで抱えるのは負担が大きく、産業医契約や自社採用で十分に対応できている企業がある一方、体制構築の途中にある企業も少なくありません。多くの企業にとっては、産業医と産業看護職の2名体制を月額3万円〜から利用できる、リモートで対応するという選択肢も現実的です。制度対応と従業員への説明の両方に悩んでいる場合は、一度検討してみることをおすすめします。



