産業医に関する定めは、労働安全衛生法・同施行令・同規則の3つに分かれており、令和8年8月には産業医の辞任等の報告義務化も施行されました(基発0428第4号)。選任の要否や人数、職務、勧告への対応など、産業医に関する自社の対応が法令に沿っているかを確かめるには、どの法令のどの条文を見ればよいかを把握しておくことが望ましいです。各項目は、条文の根拠を示しながら確認できます。
産業医に関する定めは、選任・職務・事業者の義務・罰則・法改正の5点で整理できます。条文の表現に沿って各点を確認すると、事業場の規模ごとの選任の要否や人数、選任や報告の期限、法改正で変わった点まで、自社の状況と照らし合わせて点検できます。選任の手順や費用など、条文の外にある実務は、それぞれの関連記事で確認すると良いでしょう。
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この記事でわかること
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【1】産業医に関する定めが、労働安全衛生法・施行令・規則のどこに置かれているか -
【2】産業医の選任が必要な事業場の規模、必要な人数、専属の要否 -
【3】産業医の職務と、事業者が負う義務、選任義務違反の罰則 -
【4】2019年4月施行の改正と、令和8年8月施行の辞任等の報告義務化
産業医に関する法律は、労働安全衛生法・施行令・規則の3つに分かれている
労働安全衛生法上の産業医とは、事業者が選任し、労働者の健康管理等を行う医師です。
産業医に関する定めは、労働安全衛生法(法律)、労働安全衛生法施行令(政令)、労働安全衛生規則(省令)の3つに分かれています。法律が選任を義務づけ、政令が選任が必要な事業場の規模を定め、規則が選任の期限や人数、職務、情報の提供などの具体的な内容を定める、という役割分担です。

(図:産業医に関する法律は3つに分かれている)
(編集部作成)
労働安全衛生法は、第1条で、労働災害の防止のための危害防止基準の確立などを通じて、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的に掲げています。産業医に関する定めは、この法律の第13条などに置かれています。
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の 明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と 健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
産業医に関する主な条文を、法令ごとに条文順で整理すると次のとおりです。条文の表現に沿って要約しており、各条文の詳細は、以降の章で確認できます。
| 法令 | 条文 | 産業医に関する定めの内容 |
|---|---|---|
| 労働安全衛生法 | 第13条 | 産業医の選任(第1項)、産業医の要件を厚生労働省令で定めること(第2項)、産業医に対する情報の提供(第4項)、産業医の勧告と事業者の尊重(第5項)、勧告を受けた事業者の衛生委員会等への報告(第6項) |
| 労働安全衛生法 | 第18条・第19条 | 衛生委員会・安全衛生委員会の委員に、産業医のうちから事業者が指名した者を含めること(第18条第2項第3号、第19条第2項第3号) |
| 労働安全衛生法 | 第101条第2項 | 産業医の業務の内容などの、労働者への周知 |
| 労働安全衛生法 | 第120条 | 第13条第1項に違反した場合の罰則(第1号) |
| 労働安全衛生法施行令 | 第5条 | 産業医の選任が必要な事業場の規模(常時五十人以上の労働者を使用する事業場) |
| 労働安全衛生規則 | 第13条 | 選任の期限(十四日以内)、選任後の報告、専属の産業医の選任、二人以上の選任、辞任・解任時の衛生委員会等への報告、辞任等の所轄労働基準監督署長への報告 |
| 労働安全衛生規則 | 第14条 | 産業医の職務(第1項)、産業医の要件(第2項) |
| 労働安全衛生規則 | 第14条の2 | 事業者が産業医に提供する情報と、その提供の時期 |
| 労働安全衛生規則 | 第14条の3 | 産業医の勧告に関する事業者の意見聴取、勧告の内容等の記録と保存、衛生委員会等への報告の時期と事項 |
| 労働安全衛生規則 | 第14条の4 | 事業者が産業医に与える権限 |
| 労働安全衛生規則 | 第15条 | 産業医の巡視の頻度と、頻度を緩和できる例外 |
| 労働安全衛生規則 | 第98条の2 | 産業医の業務の内容などを周知する事項と方法 |
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はじめて法令義務対応に取り組む方へ向けて、法制度の解説から事業所が行わなければならないことをまとめて解説しております。
3層のうちどの条文を確認すべきかは、確認したい内容によって変わります。法令全体の位置づけは労働安全衛生法に関する記事で、規則の条文は労働安全衛生規則に関する記事でも確認すると良いでしょう。詳しくは、あわせてご覧ください。
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産業医の選任は、労働安全衛生法第13条を根拠に事業場ごとに行う
事業者は、労働安全衛生法第13条第1項に基づき、政令で定める規模の事業場ごとに産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければなりません。選任の対象となる規模、必要な人数と専属の要否、50人未満の事業場の扱い、産業医の要件、選定時の確認点を順に確認できます。選任の手順・費用・探し方は、産業医の選任義務について解説した記事で扱っています。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業場ごとに産業医を選任しなければならない
産業医の選任が必要になるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。選任の対象かどうかは企業全体ではなく、事業場ごとの労働者数で判断します。この規模は、労働安全衛生法施行令第5条が次のように定めています。
第五条 法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。
厚生労働省のサイトに掲載された資料「産業医ができること」は、この人数要件は事業場単位であり企業単位ではないこと、短時間労働者や契約社員などの雇用者のほか、自社に派遣されている労働者も含むことを解説しています。
選任の期限は、労働安全衛生規則第13条第1項第1号が次のように定めています。
一 産業医を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。
産業医を選任したときは、同条第2項により、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。報告の期限は「遅滞なく」とされ、同項に日数の定めはありません。事業場が複数ある企業では、事業場ごとに常時使用する労働者数を数え、選任すべき事由が発生した日から14日以内の選任と、その後の報告までを管理しておくと、期限を守りやすくなります。選任の手順や必要書類の詳細は、従業員50人以上の事業場の対応を解説した記事をご覧ください。
必要な産業医の人数と専属の要否は、事業場の労働者数で決まる
必要な産業医の人数と専属の要否は、事業場で常時使用する労働者数によって決まります。常時50人以上の事業場は1名以上、常時3,000人を超える事業場は2名以上の選任が必要です。専属の産業医が必要になるのは、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場、または有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場です。専属とは、その事業場に専属の産業医を選任することをいいます。
区分ごとの内容を表にまとめると、次のとおりです。
| 常時使用する労働者数 | 必要な産業医の人数 | 専属の要否 |
|---|---|---|
| 50人未満 | 選任義務なし | 該当しない(選任義務がないため) |
| 50人以上1,000人未満 | 1名以上 | 嘱託でも差し支えない(有害業務に常時500人以上を従事させる事業場は専属が必要) |
| 1,000人以上3,000人以下 | 1名以上 | 専属が必要 |
| 3,000人を超える | 2名以上 | 専属が必要 |
人数と専属の根拠は、労働安全衛生規則第13条第1項第3号・第4号です。常時3,000人を超える事業場で2人以上を選任する定めは、同項第4号に次のとおり置かれています。
四 常時三千人をこえる労働者を使用する事業場にあつては、二人以上の産業医を選任すること。
人数や専属の区分は、厚生労働省の資料「産業医について~その役割を知ってもらうために~」と、厚生労働省のよくある質問(産業医について)でも説明されています。事業場の労働者数が増えて区分が変わる場合は、専属や複数名の選任が必要になるため、人数を継続的に把握しておくことが望ましいです。詳しくは、産業医の選任人数を解説した記事と専属産業医について解説した記事もご覧ください。
専属産業医が必要になる有害業務の範囲は、規則第13条第1項第3号に列挙されている
有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、事業場全体の労働者数が常時1,000人未満であっても、専属の産業医の選任が必要です。該当する業務は、労働安全衛生規則第13条第1項第3号に次のとおり列挙されています。
三 常時千人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時五百人以上の労働者を従事させる事業場にあつては、その事業場に専属の者を選任すること。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、びよう鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、ひ砒素、黄りん、ふつ弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、ひ砒素、黄りん、ふつ弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
自社の事業場の業務がこの列挙に該当するかを確認し、該当する業務に常時従事する労働者数が500人以上かどうかを事業場ごとに数える必要があります。該当の判断に迷う場合は、産業医または産業保健の専門家に確認しましょう。
常時使用する労働者が50人未満の事業場では、医師等による健康管理が努力義務とされている
常時使用する労働者が50人未満の事業場には、産業医の選任義務はありません。一方で、労働安全衛生法第13条の2第1項は、事業者に対し、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるように努めることを求めています(努力義務)。厚生労働省令で定める者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する保健師です(労働安全衛生規則第15条の2第1項)。
小規模事業場が使える公的な支援として、地域産業保健センターがあります。東京都港区の例として、港地域産業保健センターのご案内(港区医師会)には、一度登録すると、次の6つのサービスを無料で受けられると記載されています。
利用には、事業所としての登録が必要です。相談対応には回数の制限があり、1事業場あたり2回まで、労働者1人あたり2回までとされています。ここで紹介した内容は東京都港区の例です。地域産業保健センターの運営主体、申込方法、提供内容は自治体や地区医師会によって異なる場合があるため、事業場の所在地の最寄りの地域産業保健センターに確認しましょう。回数に制限があるため、継続的な健康管理の体制は別に検討しておくことが望ましいです。
50人未満の事業場の対応は、従業員50人未満の事業場の対応を解説した記事でも確認すると良いでしょう。
産業医になれるのは、医師のうち厚生労働省令で定める要件を満たす者である
産業医になるには、医師であることに加えて、厚生労働省令で定める要件を満たす必要があります。要件は労働安全衛生規則第14条第2項に定められており、その内訳は次のとおりです。
1つ目の研修について、厚生労働省の資料「産業医の育成及び研修について」は、講義40時間以上および実習10時間以上の研修で、厚生労働大臣が指定する者(日本医師会等)が行うものを修了することが求められていると説明しています。産業医の候補となる医師が、どの要件で産業医になっているかは、選任の前に確認しておくことが望ましいです。
要件の詳細は、産業医の要件や研修を解説した記事もご覧ください。
産業医を選定するときは、法令上の要件を満たしているかを最初に確認する
産業医を選定するときの最初の確認点は、候補の医師が産業医の要件(労働安全衛生規則第14条第2項)を満たしているかどうかです。要件を満たしたうえで、自社の事業場に合うかどうかを、次の実務上の点から確認します。
探し方・費用・契約の詳細は、中小企業の産業医に関する記事、産業医の違いを解説した記事、産業医関連の書類の記入例を解説した記事でも扱っています。
産業医の切り替えによって、法令業務への対応が変わった例もあります。リモート産業保健の導入事例(製造業、2023年10月31日更新)では、ある製造業の企業が契約していた産業医(定期健康診断を実施する検診機関)が、休職・復職者への就業判定の依頼に対応しておらず、労働基準監督署から指摘を受けました。職場巡視も行われていませんでした。産業医を切り替えた後は、隔月の産業医の訪問、安全衛生委員会への参加、職場巡視、定期健康診断結果の意見聴取に合わせた従業員面談が行われるようになっています。
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産業医の職務は、労働安全衛生法第13条と規則第14条などで定められている
産業医の職務は、労働安全衛生法第13条を根拠に、労働安全衛生規則第14条・第15条などで具体的に定められています。職務の列挙、巡視、衛生委員会との関係の3点に分けて確認できます。なお、産業医が行う職務と、事業者が整えるべき義務は区別されます。勧告の尊重や情報の提供といった事業者側の義務は、産業医の職務とは別の項目として定められています。
産業医が行う職務は、規則第14条第1項に列挙されている
産業医が行う職務は、医学に関する専門的知識を必要とする事項として、労働安全衛生規則第14条第1項に列挙されています。条文の表現に沿って表に整理すると、次の9事項です。
| 号 | 産業医の職務(規則第14条第1項) |
|---|---|
| 第1号 | 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置 |
| 第2号 | 面接指導(法第66条の8第1項等)及び法第66条の9の必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく措置 |
| 第3号 | 心理的な負担の程度を把握するための検査の実施及び面接指導の実施並びにその結果に基づく措置 |
| 第4号 | 作業環境の維持管理 |
| 第5号 | 作業の管理 |
| 第6号 | 前各号のほか労働者の健康管理 |
| 第7号 | 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置 |
| 第8号 | 衛生教育 |
| 第9号 | 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置 |
面接指導は労働安全衛生法第66条の8第1項に基づくものです。同じ第14条には、職務のほか、産業医の要件(第2項)、総括安全衛生管理者への勧告と衛生管理者への指導・助言(第3項)、勧告等を理由とする解任その他不利益な取扱いの禁止(第4項)などが定められています。
職務の範囲は、厚生労働省の資料「産業医について~その役割を知ってもらうために~」や「産業医ができること」でも説明されています。産業医の役割の全体像は、産業医の役割と面談を解説した記事もご覧ください。
産業医は職場を定期的に巡視し、その頻度は規則第15条で定められている
産業医は、少なくとも毎月1回、作業場等を巡視しなければなりません(労働安全衛生規則第15条)。ただし、条件を満たす場合は、頻度を少なくとも2か月に1回とすることができます。
頻度を緩和できる条件は、産業医が事業者から、毎月1回以上、次のいずれかの提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときです。
2か月に1回の頻度を採るには、情報を毎月1回以上産業医へ提供する体制と、同意の手続を整えておくことが前提になります。巡視の進め方は、産業医の職場巡視を解説した記事もご覧ください。
産業医と衛生委員会の関係は、労働安全衛生法第13条と第18条で定められている
産業医と衛生委員会の関係は、労働安全衛生法第13条と第18条に定められています。衛生委員会の委員には、産業医のうちから事業者が指名した者を含めます(第18条第2項第3号)。安全衛生委員会の委員も同様です(第19条第2項第3号)。
勧告に関しては、事業者が、産業医の勧告を受けたときに、勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会または安全衛生委員会に報告しなければなりません(第13条第6項)。報告をする者は事業者です。一方、産業医は、衛生委員会または安全衛生委員会に対して、労働者の健康を確保する観点から必要な調査審議を求めることができます(労働安全衛生規則第23条第5項)。
委員会の運営や議事録の詳細は、衛生委員会と産業医の役割を解説した記事をご覧ください。
産業医を選任した事業者には、勧告の尊重や情報提供などの義務がある
産業医を選任した事業者には、産業医の勧告を尊重することや、必要な情報を提供することなどの義務があります。勧告の尊重と措置の記録・報告、情報の提供の2点を、条文の順に確認できます。これらの義務に違反した場合の罰則は、別に定められています。
事業者は産業医の勧告を尊重し、勧告の内容と講じた措置を記録して衛生委員会等に報告する
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができ、事業者はその勧告を尊重しなければなりません(労働安全衛生法第13条第5項)。
勧告に関する手続は、労働安全衛生規則第14条の3に、次のとおり定められています。
報告先は衛生委員会または安全衛生委員会で、報告をする者は事業者です。勧告の実務の流れや、勧告が守られない場合の扱いは、産業医の勧告の流れを解説した記事をご覧ください。
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事業者は産業医が職務を行うために必要な情報を提供しなければならない
事業者は、産業医が職務を行うために必要な情報を提供しなければなりません(労働安全衛生法第13条第4項、労働安全衛生規則第14条の2)。提供する情報の範囲は、規則第14条の2第1項に、次の3つとして定められています。
- 既に講じた措置、または講じようとする措置の内容に関する情報(これらの措置を講じない場合は、その旨及びその理由)
- 1か月当たり80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間に関する情報
- これらのほか、労働者の業務に関する情報であって、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの
提供の時期は、同条第2項に定められています。1つ目の情報は医師または歯科医師からの意見聴取を行った後、遅滞なく、2つ目の情報は超えた時間の算定を行った後、速やかに、3つ目の情報は産業医から提供を求められた後、速やかに行います。実務では、労働時間の算定を担当する部署と、産業医への提供経路をあらかじめ決めておくと、提供が円滑になります。条文の趣旨と施行の経緯は、厚生労働省の通達「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行等について(基発1228第16号)」でも確認すると良いでしょう。
産業医を選任しなかった場合は、労働安全衛生法第120条の罰則の対象になる
産業医を選任すべき事業場で、産業医を選任しなかった場合は、罰則の対象になります。労働安全衛生法第120条第1号は、第13条第1項の規定に違反したときは、当該違反行為をした者を50万円以下の罰金に処すると定めています。罰則の種類は罰金で、上限額は50万円です。
罰則の対象になるのは、第13条第1項の選任義務に違反した場合です。選任義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場について、事業場ごとに生じます。罰則の対象になりうるため、事業場ごとの労働者数と、選任・報告の状況を継続的に確認しておくことが望ましいです。
産業医に関する主な法改正には、2019年の権限強化と令和8年の辞任等の報告義務化がある
産業医に関する主な法改正は、2019年4月に施行された働き方改革関連法による産業医・産業保健機能の強化と、令和8年8月に施行された辞任等の報告義務化です。令和3年3月には、情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する通達も出されています。各改正の内容は、面接指導の基準、独立性・中立性の強化、業務内容の周知、辞任等の報告、情報通信機器の活用の順に整理できます。

(図:産業医に関する主な法改正)
(編集部作成)
面接指導の対象となる時間外・休日労働の基準は、2019年の改正で月80時間超になった
面接指導の対象となる時間外・休日労働の基準は、2019年4月施行の改正を経て、月80時間超が現行の基準になっています。具体的には、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合のその超えた時間が1か月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者が対象です(労働安全衛生規則第52条の2第1項)。2019年4月の施行は、働き方改革関連法(平成30年法律第71号)の附則第1条が、平成31年4月1日から施行すると定めています。
改正前の基準について、平成27年11月版の厚生労働省のマニュアルは、次のように記しています。
第66条の8の規定に基づく長時間労働者(時間外・休日労働時間(※)が1月当たり100時間以上の者で疲労の蓄積が認められる者)
引用:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル(厚生労働省)
改正前の基準は、このマニュアルの記載によります。
面接指導は、労働安全衛生法第66条の8第1項に基づき、事業者が医師による面接指導を行う制度です。要件に該当する労働者の申出により行い(規則第52条の3第1項)、事業者は労働者から申出があったときは、遅滞なく面接指導を行わなければなりません(同条第3項)。労働時間の算定と申出の受付の流れを、あらかじめ決めておくと、申出に遅滞なく対応しやすくなります。通達は基発1228第16号で確認すると良いでしょう。面接指導の進め方は、長時間労働と面接指導を解説した記事と産業医面談の流れを解説した記事をご覧ください。
2019年の改正で、産業医の独立性・中立性を高める仕組みが加わった
2019年4月施行の改正では、産業医の独立性・中立性を高める観点から、産業医の辞任・解任時の報告の仕組みが加わりました。厚生労働省の通達(基発1228第16号)は、産業医の身分の安定性を担保し、職務の遂行の独立性・中立性を高める観点から、事業者は、産業医が辞任したとき、または産業医を解任したときは、その旨とその理由を衛生委員会等に報告しなければならないこととされた、と記しています(労働安全衛生規則第13条第4項)。
同じ通達は、第1「産業医・産業保健機能の強化」の中で、次の事項も解釈の対象としています。
通達が独立性・中立性を高める観点として明記しているのは、辞任・解任時の報告です。権限と情報提供は、同じ「産業医・産業保健機能の強化」の項目として位置づけられており、その内容は事業者の義務としても条文に定められています。
2019年の改正の背景は、厚生労働省の産業医制度の在り方に関する検討会報告書や、産業医の機能強化を解説した記事で確認すると良いでしょう。
産業医の業務内容などは、事業者が労働者に周知しなければならない
産業医を選任した事業者は、産業医の業務の内容などを、労働者に周知しなければなりません(労働安全衛生法第101条第2項)。周知は、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法で行います。
周知する事項は、労働安全衛生規則第98条の2第2項に、次の3つとして定められています。
周知の方法は、規則第98条の2第1項が引用する第23条第3項各号に、次のとおり挙げられています。
通達(基発1228第16号)は、周知の方法として、掲示等のほか、書面で労働者に通知すること、イントラネット等により労働者が電子的にアクセスできるようにすることなどが適当であると記しています。産業医を交代したときは、周知する内容を更新しておくことが望ましいです。
産業医の辞任等の報告が、令和8年8月から義務化されている
産業医の辞任等の報告は、令和8年8月1日から義務化されています。事業者は、産業医の辞任、解任または退任(辞任等)があった場合に、所轄労働基準監督署長へ、当該産業医の氏名および辞任等の年月日等を遅滞なく報告しなければなりません(労働安全衛生規則第13条第5項)。報告義務の内容は、次の表のとおりです。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 施行日 | 令和8年8月1日(令和8年4月28日公布) | 基発0428第4号 |
| 報告が必要になる事由 | 産業医の辞任、解任または退任(辞任等) | 基発0428第4号 |
| 報告先 | 所轄労働基準監督署長 | 基発0428第4号 |
| 報告期限 | 遅滞なく | 基発0428第4号、規則第13条第5項 |
| 報告事項 | 辞任等のあった産業医の氏名、辞任等の年月日などの所定の事項 | 基発0428第4号、規則第13条第5項 |
| 報告の方法 | 原則として電子申請(当分の間、経過措置として書面でも可) | 基発0428第4号 |
| 対象となる事業場 | 産業医の選任義務がある事業場。50人未満になったことで選任義務がなくなった場合の辞任等は、報告は義務付けられていないが、行うことが望ましい | 基発0428第4号 |
| 報告が不要になる場合 | 新たな産業医の選任と、前任の辞任等を同時に報告した場合(後任者の選任に係る第2項の報告をもって代えることができる) | リーフレット、規則第13条第5項 |
産業医の交代を検討するときは、次の点を確認しておくことが望ましいです。
根拠となる通達は基発0428第4号、周知用のリーフレットは産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょうで確認すると良いでしょう。
産業医の職務の一部は、留意事項を守れば情報通信機器を用いて実施できる
産業医の職務の一部は、通達に示された留意事項を守れば、産業医として選任された事業場以外の場所から、情報通信機器を用いて遠隔で実施して差し支えないとされています。令和3年3月31日付けの通達(基発0331第4号)が、その留意事項を示しています。
通達は、遠隔で実施できる職務の一覧を示すものではなく、職務ごとの留意事項を示しています。共通事項は、次の4点です。
職務ごとの留意事項は、次のとおりです。
| 職務 | 関係する条文 | 通達の留意事項 |
|---|---|---|
| 面接指導 | 規則第14条第1項第2号・第3号 | 平成27年9月15日付け基発0915第5号に基づく留意事項を遵守する。面接指導を実施する医師が必要と認める場合は、直接対面により実施する |
| 作業環境の維持管理及び作業の管理 | 規則第14条第1項第4号・第5号 | 規則第15条の定期巡視の際は、実地で作業環境や作業内容等を確認する必要がある。産業医が追加的に実地で確認する頻度を検討することが適当である |
| 衛生教育 | 規則第14条第1項第8号 | 遠隔で実施する際は、令和3年1月25日付けの通達に基づき実施する |
| 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置 | 規則第14条第1項第9号 | 原則として、事業場において産業医が実地で作業環境等を確認する。報告書等を確認する等により、実地での確認は不要であると判断した場合は、この限りではない |
| 定期巡視 | 規則第15条 | 少なくとも毎月1回(規則第15条で定める条件を満たす場合は少なくとも2か月に1回)、産業医が実地で実施する必要がある |
| 安全衛生委員会等への出席 | - | 情報通信機器を用いてオンラインで開催される安全衛生委員会等へ出席する際は、令和2年8月27日付け基発0827第1号に基づく |
通達は、産業医が、独立性及び中立性をもって職務を行うことができるよう、必要な情報の提供を事業者に求めることができるとしています。また、遠隔で実施することが適当でないと認める職務は実地で現場を確認し、事業者は産業医が効果的な活動が行えるよう配慮することを求めています。どの職務を遠隔で行うかは、通達の留意事項と産業医の判断に基づいて決めることになります。根拠は、情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する通達(基発0331第4号)で確認すると良いでしょう。オンラインでの面談の留意点は、産業医面談のオンライン実施を解説した記事と産業医のオンライン面談を解説した記事もご覧ください。
産業医に関する法令は、e-Gov法令検索と厚生労働省の資料で確認できる
条文の原文はe-Gov法令検索で、制度の解説は厚生労働省の資料で確認すると良いでしょう。産業医に関する法令を確認するときに使える主な資料は、次のとおりです。資料名のリンクから、各資料を直接開けます。
| 資料名 | 発行元・発行年月 | 分かること |
|---|---|---|
| 労働安全衛生法 | e-Gov法令検索(昭和四十七年法律第五十七号) | 産業医の選任、勧告、罰則などの条文の原文 |
| 労働安全衛生法施行令 | e-Gov法令検索(昭和四十七年政令第三百十八号) | 産業医の選任が必要な事業場の規模(第5条) |
| 労働安全衛生規則 | e-Gov法令検索(昭和四十七年労働省令第三十二号) | 産業医の選任の期限・人数・専属、職務、要件、情報の提供、巡視などの条文の原文 |
| 産業医について~その役割を知ってもらうために~ | 厚生労働省(平成22年1月) | 産業医の選任、要件、職務(勧告、毎月1回の巡視を含む) |
| 産業医ができること | 労働者健康安全機構(平成31年3月。厚生労働省のサイトに掲載) | 産業医の職務、健康診断、治療と仕事の両立支援、ストレスチェックと面接指導、職場巡視、衛生委員会、情報管理 |
| 産業医制度の在り方に関する検討会報告書 | 厚生労働省(平成28年12月) | 産業医の位置づけや役割、小規模事業場の労働衛生管理体制等の検討結果 |
産業医に関する法令対応は、次の6項目で自社の状況を確認できる
産業医に関する法令対応は、選任・職務・事業者の義務・法改正に対応する6つのチェック項目で、自社の状況を点検できます。当てはまらない項目や判断に迷う項目があれば、産業医に相談したうえで、必要な対応を検討してください。
- 事業場ごとに、常時使用する労働者数を確認する
- 産業医の選任の要否と人数、専属の要否を確認する
- 選任した産業医が、法令上の要件を満たしているかを確認する
- 職場巡視と衛生委員会への関与の体制を確認する
- 勧告・情報提供に対応する体制を確認する
- 辞任等の報告に対応する体制を確認する
まとめ:産業医に関する法令対応は、事業場の規模と法改正に合わせて確認する
産業医に関する法令対応は、次の3点に整理できます。
- 産業医に関する定めは、労働安全衛生法(法律)、施行令(政令)、規則(省令)の3層に分かれている
- 選任が必要になるのは常時50人以上の労働者を使用する事業場で、人数と専属の要否は、事業場の労働者数で決まる
- 2019年4月施行の改正と、令和8年8月施行の辞任等の報告義務化を、自社の対応と照らして確認する
すでに産業医と契約している企業や、地域産業保健センターなどの公的な支援を使える小規模事業場では、その枠組みで対応できる場合もあります。一方、産業医の選任・交代や法令対応の体制づくりに不安がある場合は、リモートで産業医と産業看護職の支援を受けられる外部の産業保健サービスに相談する選択肢もあります。
産業医と産業看護職の2名体制による支援で、産業医面談やストレスチェック、衛生委員会の支援に対応し、従業員の健康をサポートします。産業医の選任・交代を検討している人事労務担当者の方に向けて、体制構築と産業保健業務の負荷軽減を考える1冊です。



