過労死の認定基準とは?2021年の改正内容、労災防止対策を紹介

過労死 認定基準

そもそも「過労死」の定義とは?

事業場において、過労死を発生させない職場環境の整備は、責任をもって取り組むべき課題の一つといえるでしょう。そこでまずは、過労死の認定基準を正しく理解するために重要となる、過労死の定義と過労死ラインについて解説します。

過労死とは?

過労死とは、長時間労働、連続勤務などが原因で、脳・心臓疾患を引き起こし死亡すること、また、業務による強い心理的負担から精神障害を引き起こした結果、死亡に至ることをいいます。

過労死等防止対策推進法第2条によると、死亡には至らなくとも、業務における強い負荷による脳血管疾患や心臓疾患、精神障害などの疾患も含めて、「過労死等」と定義しています。

過労死ラインとは?

「過労死ライン」とは、労働災害として認められる一つの基準のことをいいます。

時間外・休日労働時間が月45時間を超えて長くなるほど、業務と健康障害との関連性が強まることがわかっています。

そのため、発症前の1ヵ月間に時間外・休日労働が約100時間、または発症前2ヵ月~6ヵ月の間に時間外・休日労働が1ヵ月あたり約80時間超となる場合は、業務と健康障害の関係性が強いとされています。

この、時間外・休日労働時間の目安を「過労死ライン」として理解し、超えないように注意する必要があります。ただし、労働時間だけで労働災害認定の有無の評価をするわけではありません。

次の項で詳しく説明しますが、労働時間以外の要因も労働災害の要素として評価されるため、しっかり確認しておきましょう。

【2021年9月改正】過労死ライン(労災認定基準)見直しのポイント

2021年9月、約20年ぶりに「脳・心臓疾患の労災認定基準」が改正され、働き方の多様化や職場環境の変化、最新の医学的知見を踏まえた内容になりました。本章では、今回の改正で見直されたポイントについて説明します。

「労働時間以外の負荷要因」も含めて評価されるようになった

一定以上の時間外労働は健康障害に関わる危険性が高いため、これまでの労災認定基準でも明記されていました。

しかし、改正後は時間外労働の上限を超えていなくても、労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化され、負荷要因に対する基準の強化が行なわれました。

なお、負荷要因とされる項目は、以下のとおりです。

  • 拘束時間の長い勤務
  • 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
  • 出張の多い勤務
  • 作業環境(温度環境・騒音)

出典:厚生労働省『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

「労働時間以外の負荷要因」について内容の見直しが行なわれた

今回の改正において、労働時間以外の負荷要因として、新たに以下の項目が追加されました。

  • 休日のない連続勤務
  • 勤務間インターバルが短い勤務
    (勤務間インターバルとは、就業から次の勤務の始業までのこと)
  • その他事業場外における移動を伴う業務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 身体的負荷を伴う業務

例えば、勤務間インターバルが短く、睡眠時間が十分に確保できない場合、長時間労働と同様に脳・心臓疾患が発症するリスクが高くなります。

勤務間インターバルが短い勤務では、睡眠時間が十分に確保されない場合があることが想定されるため、負荷要因として追加されました。

出典:厚生労働省『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

業務と発症の関わりについて明確な例が示された

「業務と発症の関連性が強い」とはどのようなケースを指すのか、改正後は具体的に例示されました。

具体的には、以下のようなケースで「短期間の過重業務」があったと認められます。

  • 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
  • 発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合

また、以下のようなケースでは、「異常な出来事」が関与したケースと認められます。

  • 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
  • 事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合
  • 生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
  • 著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合
  • 著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合

出典:厚生労働省『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

「重篤な心不全」が対象疾病として追加された

改正前は、不整脈が一義的な原因となった心不全症状等については、対象疾病の「心停止(心臓性突然死を含む)」として取り扱うこと、とされていました。

しかし、心不全は心停止とは異なる病態であるため、改正後は新たに「重篤な心不全」が追加されました。なお、「重篤な心不全」には不整脈によるものも含まれています。

出典:厚生労働省『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

労災を防止するには?事業主が実施すべき過労死対策を紹介

ここまで労災基準の改正内容について説明しましたが、事業主として最も重要なのは「労災を防止する」ことです。そこで最後に、事業主が実施すべき過労死対策を紹介します。

労働時間の削減

法律では時間外労働・休日労働の上限が定められていますが、実際はサービス残業や従業員の自己申告などで、正確な把握ができていない場合があります。

まずは、時間外労働・休日労働時間の実態を把握し、適正な労働時間となるように取り組むことから始めましょう。事業主や管理監督者だけではなく、従業員にも労働時間の適切な管理の必要性や時間外労働への取り組みについて、しっかり理解してもらうことが大切です。

その一環として、労働基準法の周知をはじめ、従業員に法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合に必要となる「時間外労働協定(36協定)」の周知を行なうとよいでしょう。

勤務間インターバル制度の導入

勤務終了後から翌日の出社までの時間が短すぎると、生活時間や睡眠時間を確保しづらく、結果的に疾患の発症につながるリスクを高めるおそれがあります。

そこで取り組みたいのが、勤務間インターバル制度の導入です。勤務間インターバル制度とは、終業時間から翌日の始業時間までの間に一定時間以上の休息を設ける制度のことをいいます。

2019年4月から勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務となっているため、できる限り導入していくことが望まれます。

2022年現在、勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業事業主へ助成金があるため、これから導入する企業は確認しておくとよいでしょう。

参考:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)

ハラスメントの防止

過労死の事例のなかには、長時間労働とパワーハラスメントが同時に起きて、自殺に至るケースもあります。労災を防止するためにも、ハラスメント対策は必要不可欠です。

2022年4月から、パワーハラスメント防止対策に取り組むことはすべての事業主の義務となりました。職場における必要な措置を講じて、過労死等の重大な労災を未然に防止しましょう。

ストレスチェックの導入

精神疾患の発症を予防するには、従業員がメンタルヘルス不調にいち早く気付き、セルフケア、医療機関への受診といった適切な対応を、速やかにとることが重要です。ストレスチェックを実施することで、従業員が自身のストレスに気付くきっかけを作ることができます。

ストレスチェックを実施する際には、高ストレス者と判定された従業員が、産業医をはじめとする産業保健スタッフに、自身の問題について気負わず相談できるような環境を整えましょう。

また、ストレスチェックで得られた個々の結果を、部署や課などの単位で集団分析し、職場環境の改善に役立てることが重要です。

ワーク・ライフ・バランス実現のための環境づくり

過労死を防止するためにも、事業主はワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができる職場環境づくりを目指しましょう。

具体的な取り組みとしては、長時間労働の是正、有給休暇の取得促進や休暇制度の充実、在宅勤務やフレックスタイム制の導入、短時間勤務制度の導入などが挙げられます。

従業員が仕事と生活を両立できるよう、事業主が配慮すれば、個々の状況に合わせた働き方を実現でき、結果的に過労死の防止にもつながります。

まとめ

今回は、過労死の定義や、2021年に改正された労災認定の基準について解説しました。

しかし、過労死や労災防止対策に取り組む企業担当者のなかには、「ストレスチェックを実施しても効果があるのかわからない」「心身の不調がみられる従業員がいるが、適切な対応がわからず困っている」と悩む方も少なくないでしょう。

そのような場合は、エス・エム・エスの「リモート産業保健」を活用して、産業保健業務を効果的に行なうことをおすすめします。

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