そもそも「ワークライフバランス」とは?
ワークライフバランスは、年齢や性別、職業などに関わらず、すべての人が仕事とプライベートを充実させながら、幸せに生きていくための概念です。
ワークライフバランスの意味
ワークライフバランスとは、直訳すると「仕事と生活の調和」を意味します。しかし、ワークライフバランスの本来の意義は、仕事と生活を調和させることで、人生をより幸福なものにすることにあります。
とはいえ、仕事とプライベートの適切な時間配分や、仕事への取り組み方などは、人それぞれです。また、ライフステージの変化によって、仕事とプライベートのバランスが変わっていくこともあるでしょう。
そのため、画一的な内容ではなく、一人ひとりの労働者が活き活きと働きながら、仕事以外の生活も充実させられる施策こそが、本当に価値のあるワークライフバランスへの取り組みだといえます。
ワークライフバランスが注目される背景
日本でワークライフバランスが注目されるようになった背景には、下記のような社会状況があります。
働き手が不足している
近年の日本では働き手が足りていないことから、既存の働き手を定着させる施策の一つとしてワークライフバランスが注目されています。
少子高齢化による生産年齢人口の減少や、団塊世代の一斉退職によって労働力が不足しているうえ、高齢の家族を介護するために働き方を変えたり、仕事を辞めたりする方もいます。
厚生労働省が公開した資料によると、2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率が38%台の水準にまで上昇すると予測されており、働き手不足がより深刻化することが危惧されています。
そのため、今いる働き手に長く働いてもらうための施策として、ワークライフバランスに取り組む企業が増えています。
共働き世帯が増加している
女性の社会進出が進んでいることや賃金の減少などにより、共働き世帯が増加していることも、ワークライフバランスに注目が集まる要因の一つです。
しかし、「夫が働き、妻が専業主婦として家庭や地域で役割を担う」といった役割意識はいまだ根強く、男女ともに仕事と家庭を両立しやすい環境であるとは言い難い状況です。
ただ、今後も共働き世帯が増加する可能性は高いと考えられており、仕事と家事、育児、介護などを両立しやすい働き方が求められています。
長時間労働者が多い
ワークライフバランスが求められる背景には、長時間労働者が多いという日本の現状も関係しています。世界的に見ると、日本の男性は労働時間が極端に長く、家事や育児にあまり参加できていません。
さらに近年では、メンタルヘルス不調による労災請求件数が増加傾向にあることからも、長時間労働の是正が社会課題となっています。
労働者の心身の健康を確保しながら、プライベートも充実させられる職場環境を整えるためにも、企業におけるワークライフバランスの実現への積極的な取り組みが求められているのです。
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章について
「国民全体の仕事と生活の調和」が日本社会を持続可能で確かなものにするために必要不可欠である、として、国は平成19年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定しました。
仕事と生活の調和が実現した社会について、憲章では下記のように定義されています。
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
さらに憲章では、仕事と生活の調和が実現した社会として、具体的に以下の3つを挙げています。
就労による経済的自立が可能な社会
健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
多様な働き方・生き方が選択できる社会
また、憲章とともに「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定し、官民を問わず社会全体でワークライフバランスの実現に取り組む動きが進んでいます。
ワークライフバランスを実現させるメリット
ワークライフバランスを実現させることは、労働者と企業の双方にさまざまなメリットをもたらすことから、経営戦略の一つとしても注目されています。
ここでは、代表的なメリットとして以下の3つを挙げます。
ワークライフバランスのメリット(1)従業員のモチベーションが上がる
仕事とプライベートのバランスがとれると、従業員の心身の健康が保たれ、仕事に対するモチベーションも上がっていきます。家事や育児、趣味、地域活動などに十分な時間を割けるようになることで、生活への満足度が高まって仕事に対する意欲も向上するからです。
ワークライフバランスの実現によって生産性が向上し、働き方を効率化して経営コストを削減できれば、企業の売上アップにもつながるでしょう。
ワークライフバランスのメリット(2)人材が定着しやすくなる
ワークライフバランスの実現は、従業員の会社に対する満足度を高め、離職率を低下させます。多様な働き方の選択肢を提示することで、出産や育児、介護などを理由に退職を検討していた方も、家庭の状況に合わせて無理なく仕事を続けられるようになるでしょう。
また、離職率が低下することで、会社は新たな従業員の採用や育成にかかるコストを減らすこともできます。例えば、女性従業員が出産するケースであれば、出産後も就業を継続するほうが、新たな人材を採用するよりも企業にかかる費用負担が少ないといわれています。
このように、ワークライフバランスによる人材の定着は、従業員・会社の双方にとって大きなメリットといえるのです。
ワークライフバランスのメリット(3)企業の評価が高まる
ワークライフバランスを推進することは、社会における企業の評価を高めることにもつながります。
- 従業員一人ひとりの幸せを大切にする会社
- ライフステージの変化に合わせて働ける先進的な会社
- 離職率が低く、安心して長く働ける会社
このような社会的イメージが浸透することで、多くの求職者から選ばれる就職先としての地位を確立したり、優秀な人材を確保しやすくなったりするのです。
ワークライフバランス実現のための5つの取り組み
ワークライフバランスを実現するには、仕事とプライベートを両立させるための課題を明確にし、これまでの働き方を見直したり、新たな支援制度を導入したりする必要があります。
ここでは、企業におけるワークライフバランスの実現のための方法について、代表的な5つの取り組みを紹介します。
ワークライフバランスの取り組み(1)福利厚生を充実させる
仕事と生活の両立や、従業員のキャリアアップを支援するための取り組みとして、福利厚生の充実が挙げられます。
具体的には、「レジャー施設や宿泊施設、スポーツクラブなどの利用料金を補助する」「子育て中の従業員向けに、ベビーシッターや保育施設の利用料金を補助する」といった方法があります。
業務上必要な資格を取得する従業員に対して、書籍購入費やセミナー受講料を補助するのもよいでしょう。
福利厚生にかかる費用は、一定の要件を満たせば経費として計上できるため、企業にとっては節税効果が得られるというメリットもあります。
ワークライフバランスの取り組み(2)残業時間を減らす
労働時間の長さが課題となっている企業であれば、まずは残業時間や休日出勤を減らすための取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。
長時間労働は、単にプライベートの時間が少なくなるということだけではなく、心身の健康に悪影響をおよぼし、最悪の場合は過労死につながることもあります。
「業務内容に無駄がないか見直す」「ノー残業デーを設ける」「不要不急の残業は禁止する」といった取り組みにより、強制的に労働時間を減らすのが効果的です。
そうした指示に対して従業員から不満の声が上がることも予測されるため、「会社としての取り組みであるとトップが示す」「経営陣や管理職で意思統一をしておく」といった事前準備も必要になるでしょう。
ワークライフバランスの取り組み(3)テレワーク制度を導入する
テレワーク制度を導入することで、従業員の通勤による負担を減らし、家族と過ごす時間や自己啓発の時間を増やすことができます。
テレワークは、遠方から通勤している方はもちろん、仕事と育児、介護を両立している方にとってもメリットが大きい働き方です。
介護をしている従業員であれば、業務開始前後や休憩時間を使って、病院への送迎や施設での面会などができます。子育て中の従業員であれば、家事や子どもの世話にかける時間を増やせるでしょう。
テレワーク制度の導入は、経営コストの削減や事業継続性の確保にもつながるため、企業側にとってもメリットが大きい取り組みだといえます。
ワークライフバランスの取り組み(4)有給休暇を取得しやすくする
有給休暇を取得しやすくするのも、ワークライフバランスの取り組みとして効果的です。
「従業員の有給休暇の日数が残っているけれど、なかなか取得させられない」という企業は少なくありません。実際、労働者の約半数は「周囲に迷惑がかかる」「休暇取得後に多忙になる」といった理由で、年次有給休暇を取得することにためらいを感じているのが現状です。
仕事をチームで行なう体制に変更したり、時間単位の年次有給休暇制度を導入したりするなど、従業員が有給休暇を取得しやすい環境を整える必要があるでしょう。
ワークライフバランスの取り組み(5)育児との両立を支援する
仕事と子育ての両立を支援するのも、従業員のワークライフバランスの実現に有効な方法です。
令和4年10月、育児・介護休業法が改正され、産後パパ育休(出生時育児休業)の創設や、育児休業の分割取得が可能になるなど、国も育児との両立支援を推進しています。
企業としての具体的な支援方法としては、「女性だけではなく、男性も育児休業を取得しやすくする」「柔軟な働き方ができるよう、フレックス制度や時短勤務を導入する」といった取り組みが挙げられます。
また、「子どもの入院のための期限をつけない休暇を認める」「子どもの学校行事などに使える家庭教育サポート特別休暇を設ける」など、企業独自の方法で仕事と子育ての両立を支援しているケースもあります。
ワークライフバランスの取り組み、企業事例を紹介
ワークライフバランスの実現に向けた具体的な取り組みについて、ここでは3つの企業の例を紹介します。
いずれの企業も、ワークライフバランス推進に向けたさまざまな取り組みが評価され、国や自治体からの表彰や認定を受けています。
ワークライフバランスの企業事例(1)第一生命保険株式会社
第一生命保険株式会社では、「ダイバーシティ&インクルージョン」を実現するため、「両立支援制度の充実」と「柔軟な働き方の推進」を2本柱として、ワークライフバランスの推進に取り組んでいます。
同社では、内勤職員の職員満足度が低下したことをきっかけに、女性従業員から意見を聴き取り、仕事と家庭、育児を両立させるための支援関連施策を大幅に改訂しました。
妊娠・出産・育児に関わる制度としては、「マタニティ休暇」「産前・産後休暇期間の給与を全額支給」「育児サービス経費補助」といった取り組みを行なっています。また、病気治療や不妊治療との両立を支援する制度や、介護のためのサポート休暇を設けるなど、従業員の状況に合った両立支援制度を利用できる環境を整えています。
柔軟な働き方を推進するため、総労働時間の縮減や休暇取得の推進などにも力を入れており、その取り組みは多岐にわたるようです。
ワークライフバランスの企業事例(2)株式会社長野銀行
株式会社長野銀行では、女性行員の能力を最大限発揮できる仕事と環境の整備を目的として、2015年に「女性活躍推進チーム」を設置しました。さらに、女性行員たちからの意見やアイデアをもとに、ワークライフバランスの改善や、女性のキャリア形成に向けた環境整備に取り組んでいます。
具体的な取り組み例としては、「短時間勤務制度の適用対象を小学3年生の子にまで拡充する」「パートタイマーを正行員に積極登用する」といったことがあり、女性行員が復職後も自信を持って長く働けるようになったといいます。
ワークライフバランスの企業事例(3)株式会社タバタ
スポーツ用品の製造や販売を行なう株式会社タバタでは、労働時間の短縮や長期連続休暇の取得などによって、従業員の余暇時間を創出してきました。
同社では、連続2週間の夏季休暇を取得できるほか、勤務5年毎に取得できる「リフレッシュ休暇制度」や、従業員本人が年間を通じて最も大切な日を記念するための「記念日休暇制度」を設けています。
これらの取り組みの結果、年次有給休暇の取得率は80%を超え、従業員からは「長期休暇で普段行けない場所に行くことができ、モチベーションの向上につながった」「休む人の担当分を担うことで、仕事全体への理解が進み、仕事の効率がアップした」といった声が聞かれています。
まとめ
ワークライフバランスの実現は、労働者と企業にさまざまなメリットをもたらし、働き手の減少や少子高齢化といった社会課題の解決につながることが期待されています。
他企業の取り組みなども参考にしながら、自社のワークライフバランスの推進に着手してみてはいかがでしょうか。
自社だけでは具体的に何をしたらいいかわからないという企業には、「リモート産業保健」の利用をおすすめします。リモート産業保健では、健康経営優良法人取得支援サービスや職場のメンタルヘルスサポートなどを通じて、貴社のワークライフバランスの実現をお手伝いします。
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