労働安全衛生法とは?目的や内容、事業者に必要な対応についてわかりやすく解説

労働安全衛生法とは?事業者の義務と責任、重要ポイントをわかりやすく解説

労働安全衛生法は、事業者の責務について規定した、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する目的で制定された法律です。しかし、労働安全衛生法の義務や責任について詳しく把握している方は少ないのではないでしょうか。

本記事では、労働安全衛生法の目的や対象となる方、労働安全衛生施行令・労働安全衛生規則との違い、違反した場合の罰則などをわかりやすく解説しますので、最後までご覧ください。

労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する目的で制定された法律です。

また、その目的を達成するための手段として「労働災害防止のための危害防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進の措置」など総合的、計画的な安全衛生対策を推進しています。

労働安全衛生法が制定された背景

労働安全衛生法は、労働基準法から派生した法律です。

1947年に労働基準法が制定され、さまざまな業種に対応した労働安全衛生に関する法規制が定められましたが、高度経済成長期の日本では、技術革新に安全対策が追いつかず、年間6,000人を超える労働災害死亡者が発生していました。

そうした背景から、労働者の安全や健康を守り、労働災害を予防するため、当時の労働省と専門家により労働安全衛生法令の整備を行ない、1972年に労働安全衛生法が制定されました。

しかし、時代の流れとともに労働者の働き方や職場環境は変化します。企業は、労働者の安全と健康を確保するために、そのときの状況に応じた政策を行なっていく必要があります。そのため、労働安全衛生法は、頻繁に改正および追加が行なわれています。

※既存の内容をもとに、労働安全衛生法が制定された背景について、200字程度説明を追記してください。

労働安全衛生法の目的

労働安全衛生法の目的は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を作り上げることです。事業者は、労働安全衛生法で定められている労働災害防止措置を講じるとともに、労働条件の改善や、快適な職場環境の整備を行なわなければなりません。

労働者の安全と健康を守る具体的な手段として、「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進の措置」などの実施が求められます。

労働安全衛生法は改正が多く行なわれており、直近では「職長等に対する安全衛生教育の対象事業種拡大」や「一人親方等や労働者以外の人に対する措置義務」などが、2023年4月1日に施行されています。

労働安全衛生法の対象者とは?

労働安全衛生法の対象となるのは、事業を営み、労働者を雇用する者である「事業者」と、事業者に雇用され、賃金を支払われる者である「労働者」です。

ただし、労働安全衛生法における労働者の定義は、「労働基準法第九条に規定する労働者」とされています。そのため、同居の親族のみを使用する事業または事務所に使用される者、および家事使用人は、労働安全衛生法の適用外です。

また、労働基準法は陸上労働者を対象としているため、原則として海上で働く船員には適用されません。船員には特別法である「船員法」が適用されますが、労働基準法の原則や定義に関する総則・罰則を定めた規定などは適用されます。

さらに、2023年4月1日には「船員法施行規則等の一部を改正する省令」が施行され、常時50人以上の船員を使用する船舶所有者には、産業医制度やストレスチェック制度の導入などが義務化されました。

労働安全衛生法と労働基準法の違いについて

労働安全衛生法は、労働基準法から労働安全衛生に関して分離する形で制定され、どちらも労働者を守るという観点は同じですが、目的が異なります。そのため、事業者は両者の違いを正しく理解する必要があります。

目的の違いとしては、労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することに対して、労働基準法は、労働条件について最低基準を定め、労働者を守るという点です。

以下は、労働安全衛生法と労働基準法の違いを要約した内容になります。

労働安全衛生法 労働基準法
対象者 労働者 労働者
定める目的 労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する 労働条件について最低基準を定め、労働者の権利を守る
定める内容 職場の安全基準や健康管理、労働災害の予防、労働環境の改善など 賃金、労働時間、休日、有給休暇などの規制による労働者の権利
罰則の有無 罰則有り 罰則有り

たとえば、労働基準法においては、割増賃金や労働時間、休日などの規制の対象にならない管理監督者も、過重労働を抑制します。

一方、労働安全衛生法においては、労働者の健康を守るために、客観的記録による労働時間の把握が求められます。

労働安全衛生法に関連した法律や規則とは?

労働安全衛生法と類似したものに、「労働安全衛生施行令」や「労働安全衛生規則」があります。いずれも、労働者の安全や健康を守ることを目的としている点では同じですが、以下のような違いがあります。

  • 労働安全衛生法:法律(国会が定めるもの)
  • 労働安全衛生施行令:政令(内閣が定めるもの)
  • 労働安全衛生規則:省令(各大臣が定めるもの)

政令や省令は、最も効力がある法律に反することはできません。さらに、3つのなかでは省令が最も細かい細則(細かな事柄まで取り決めた規則)です。

労働安全衛生法に基づいて、事業者が実施すべきこと

ここからは、労働安全衛生法に基づき、事業者が講じるべき措置について説明します。事業者は、労働者の安全や健康を守るために、以下の6つを実施しなければなりません。

ストレスチェック・健康診断の実施

事業者は、ストレスチェックや健康診断など、労働者の安全と健康を守るための対策を行なわなくてはなりません。

医師による健康診断や労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行なうことは、労働安全衛生法第66条に定められています。

常時使用する労働者数が50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施は努力義務ですが、労働者の心身の健康を守るためにも、できる限り実施することが望ましいでしょう。

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安全衛生教育の実施

労働者が安全に働けるよう、事業者は安全衛生教育を実施する必要があります。

安全衛生教育の目的は、労働安全衛生法や関係する法令、社内の安全衛生規則などについて教育し、労働災害を防止することです。新しく労働者を雇い入れるときや、作業内容を変更するときなどに実施します。

また、有害物や危険物を取り扱う労働者や、社内の安全衛生管理に携わる労働者などに対しても、安全衛生教育を実施しなければなりません。

労働災害防止のために必要な措置を実施

労働者がケガや病気をしたり、危険にさらされたりすることなく働けるように、事業者は労働災害の防止に努める必要があります。

労働安全衛生法では、作業の特性ごとに事業者の講ずるべき措置を定めています。例えば、機械設備を使用して作業を行なう場合であれば、機械の動作範囲に身体の部位が入らないように、柵や覆いなどを設けなければなりません。

労働安全衛生法で義務付けられている措置を怠った場合、法律違反とみなされ、事業者に罰則が科される可能性があります。

安全衛生委員会(安全委員会・衛生委員会)の設置

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、全業種で衛生委員会の設置義務があります。安全委員会と衛生委員会の両方を設ける必要がある事業場では、それぞれの委員会の代わりに、安全衛生委員会を設置することが可能です。

本件の根拠となる労働安全衛生法の条文は、以下のとおりです。

(安全委員会を設けるべき事業場)
第八条 法第十七条第一項の政令で定める業種及び規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 林業、鉱業、建設業、製造業のうち木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業及び輸送用機械器具製造業、運送業のうち道路貨物運送業及び港湾運送業、自動車整備業、機械修理業並びに清掃業 五十人
二 第二条第一号及び第二号に掲げる業種(前号に掲げる業種を除く。) 百人

(衛生委員会を設けるべき事業場)
第九条 法第十八条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

なお、常時使用する労働者数が50人未満の事業場には、安全委員会や衛生委員会の設置義務はありません。しかし、安全や衛生に関する事項について、関係する労働者の意見を聴くための機会を設けなくてはなりません。

参考:
労働安全衛生法施行令第8条(安全委員会を設けるべき事業場)|e-Gov法令検索
労働安全衛生法施行令第9条(衛生委員会を設けるべき事業場)|e-Gov法令検索

管理者・責任者・産業医などの選任

労働安全衛生法第3章では、事業場内の安全衛生を管理・推進する役職者の選任を義務付けています。業種や事業規模に応じて、総括安全衛生管理者や安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任が必要です。

名称 選任要件
統括安全衛生管理者 常時所定の数以上(※)の労働者を使用する事業場
安全管理者 常時所定の数以上(※)の労働者を使用する事業場
衛生管理者 常時50人以上の労働者を使用する事業場
安全衛生推進者
衛生推進者
常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場
産業医 常時50人以上の労働者を使用する事業場

(※)業種により選任が必要な事業場の規模は異なる

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快適に働ける職場環境の整備

事業者は、労働者が快適に働けるよう、作業環境を適切に整えなければなりません。

疲労やストレスが生じにくい快適な職場環境を作ることは、労働者のモチベーションを高めたり、休職や離職を防止したりすることにもつながります。

職場環境の整備には、温度や湿度などの管理によって作業環境を快適な状態に保つことや、作業姿勢の改善や筋力負荷への補助によって、作業方法を改善することなどが挙げられます。

人事労務担当者必見!「健康診断」の実施義務について

労働安全衛生法第66条では、労働者の健康保持のため、事業者に対して健康診断を行なうことを義務付けています。また、労働者は事業者が実施する健康診断を受けなければなりません。

事業者に実施が義務付けられている健康診断には、一般健康診断や特殊健康診断などがあります。

一般健康診断

一般健康診断には、以下の5種類があります。

  • 雇入時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 給食従業員の検便

対象となる労働者や実施時期は、健康診断の種類ごとに異なります。

特殊健康診断

事業者は、特定の有害業務に従事する労働者に対して、特殊健康診断を実施しなければなりません。具体的には、有機溶剤や石綿、放射線、特定化学物質などを取り扱う有害業務に常時従事する労働者に対して、6ヵ月以内ごとに1回の特殊健康診断を行ないます。

その他、特定の有害業務に従事する労働者を新たに雇い入れるときや、配置替えを行なうときにも、原則として特殊健康診断の実施が必要です。

労働安全衛生法の法律違反と罰則まとめ

労働安全衛生法を遵守しなかった場合の罰則については、労働安全衛生法第12章に定められています。法律違反と罰則のおもな例については、以下のとおりです。

罰則の例 法律違反の例 罰則の根拠となる法律
50万円以下の罰金 衛生管理者や産業医などの未選任 労働安全衛生法
第120条
安全・衛生委員会の未設置
安全衛生教育の未実施
6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金 安全衛生のための特別教育の未実施 労働安全衛生法
第119条
作業環境測定の未実施
3年以下の懲役または300万円以下の罰金 許可のない危険物および有害物の製造・輸入・譲渡・提供・使用 労働安全衛生法
第116条
5年または7年以下の懲役 特定業務に従事する特定機関の役員・職員による賄賂の収受・要求・約束 労働安全衛生法
第115条の3
5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金 業務上必要な注意を怠ったことによる死傷 刑法
第221条

労働災害などにより事業者が処罰されれば、企業の社会的信用は低下し、経営に大きな損失を与えます。仮に刑事罰や行政処分を受けなかった場合でも、労働者やその家族などから損害賠償請求を受ける可能性があるでしょう。

【2023年4月施行】化学物質に関する改正

厚生労働省は、労働安全衛生法の新たな化学物質規制を2023年4月に制定しました。

国内で製造・使用される化学物質は、危険性や有害性がともなう物質が多く存在し、化学物質を原因とする労働災害は、年間約450件発生していることから、新たな化学物質規制の制度が導入されました。

化学物質による労働災害防止のための新たな規制について

引用:化学物質による労働災害防止のための新たな規制について|厚生労働省

制度のおもな内容としては、「労働者のばく露防止」「化学物質を扱う労働者の保護具使用」「ラベル・SDS通知・リスクアセスメント実施対象物質の増加」が挙げられます。

まとめ

労働安全衛生法は、労働災害を防止し、事業場における労働者の安全や健康を守るための法律です。事業者には、健康診断や安全・衛生委員会の設置、衛生管理者や産業医の選任といった責務が課されています。

法律に違反して労働災害が発生すれば、事業者は罰則が科されるだけではなく、損害賠償を請求されるおそれもあります。会社と労働者の双方を守るためには、事業者が果たすべき義務をしっかりと理解して、法律を遵守する必要があるのです。

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