ラインケアとは?
ラインケアとは、職場におけるメンタルヘルス対策の一環で、管理監督者が行なうものです。管理監督者とは、労働者を指揮して業務を遂行させたり、労働者の健康に配慮したりする立場にある人のことを指します。
ラインケアは、厚生労働省が示すメンタルヘルスケアの一つ
ラインケアは、厚生労働省が2006年3月に策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によって示されている、4つのメンタルヘルスケアのうちの一つです。
事業場におけるメンタルヘルス対策では、以下4つのケアが継続的かつ計画的に行なわれることが重要です。
1.セルフケア
労働者がメンタルヘルスやストレスに対して正しく理解し、自身でストレスに気付いたり対処したりすることです。
2.ラインによるケア
労働者の心の健康を守るために、管理監督者による職場環境の把握や改善、労働者からの相談対応、休職者の職場復帰支援などを行ないます。
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
衛生管理者や産業医といった産業保健に関わる職種が行なうケアで、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施できるよう支援するものです。
4.事業場外資源によるケア
医療機関や産業保健総合支援センター、従業員支援プログラム(EAP)の実施機関といった、事業場外の機関や専門職を活用する方法です。
ラインケアで得られるメリット
事業場内でラインケアを実施することにより、下記のようなメリットが得られます。
生産性が向上する
心身の不調を抱えながら業務にあたっていると、業務効率やモチベーションが低下しやすくなります。そこで、適切なラインによるケアによって部下の疲労やストレスが軽減されれば、生産性の向上につながるでしょう。
離職率が低下する
ラインによるケアでは、部下の様子を日頃から気にかけておき、相談しやすい環境を整えておく必要があります。
労働者が「いつも気にかけてくれている」「何かあれば相談できる」と感じられる環境であれば、部下との信頼関係が深まり、休職や離職を未然に防げる可能性が高まるでしょう。
安全配慮義務違反を防ぐ
安全配慮義務とは、労働者の安全や健康を守り、心身の負担が大きくならないよう配慮することです。
メンタルヘルスに不調を抱える部下にラインケアを適切に実施することは、安全配慮義務の遵守にもつながります。
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適切なラインケアには、監督者向けの研修実施が有効
ラインケアを適切に実施するためには、自社におけるメンタルヘルス対策の方針や体制、メンタルヘルス不調を予防する方法などについて、管理監督者が正しく理解しておく必要があります。
メンタルヘルスケアに関する基礎的な知識や技術の習得には、管理監督者向けの研修を受けることが効果的です。
事業場内に産業保健スタッフがいる場合には、社内でラインケア研修を受けられる可能性があります。社内でのラインケア研修が難しい場合には、厚生労働省が提供するe-ラーニングや、外部機関が実施する研修を活用するとよいでしょう。
迅速なラインケアが必要!メンタルヘルス不調者に見られる兆候
メンタルヘルス不調を未然に防ぐためには、部下の様子を注意深く観察し、「いつもと様子が違う」という点にいち早く気付くことが重要です。
メンタルヘルスに不調をきたす前兆には、下記のような様子があります。
- 表情が険しく、顔色がさえないように見える
- 元気がなく、疲れているように見える
- 身だしなみが整っておらず、頭髪や衣類が不潔である
- 遅刻や早退、欠勤が増えたり、無断欠勤したりしている
- 業務に集中できていない様子がある
- 業務上のミスや事故が目立つ
- 会話が少なくなり、報告や相談に来なくなる
- ネガティブな発言が聞かれる
- 時間外労働や休日労働が増えている
- 出勤時に酒臭いなど、タバコや飲酒の量が増えた様子がある
部下の勤怠や業務中の様子、職場内外での行動からいつもと違う雰囲気を感じ取った場合には、まず声をかけて話を聴いてみましょう。
部下の異変にいち早く気付くには、日頃からコミュニケーションを積極的に図り、普段の様子を知っておくことが大切です。また、部下との信頼関係が築けていないと、こちらから声をかけても悩みを打ち明けてもらえない可能性があります。
ラインケアを迅速に進めるためにも、普段から部下との良好な関係づくりを意識しておきましょう。
部下からメンタルヘルス不調に関する相談をされた場合の対処法
ラインケアの重要性はわかっていても、メンタルヘルス不調を抱える部下への対応に悩む管理監督者の方は多いはずです。部下からメンタルヘルス不調について相談されたら、下記の方法のいずれかで対応するとよいでしょう。
まずは部下の話をしっかりと聴く
まずは部下の話を傾聴することが大切です。傾聴とは、相手に興味や関心を持っていることを表情や態度で示し、相手の立場に立って考えながら話を聴くことを意味します。
先入観を持たずに、「自分が部下の立場だったらどうだろうか」といった視点で、聞き役に徹しましょう。また、話を肯定的に受け入れることで、きちんと話を聴いていることを態度で示せるため、部下は安心して自分の気持ちを話すことができます。
ストレスの原因を取り除く
部下の話をもとに、何がストレスや疲労の原因になっているのかを把握できたら、管理監督者は職場環境の改善に努めましょう。
メンタルヘルス不調を引き起こす要因は、人によってさまざまです。例えば、仕事におけるストレスが強くなるのは、仕事における裁量権や周囲からの支援が少ないとき、仕事の要求度が大きいときだといわれています。
その他、部署内の人間関係や職場環境がストレスになり、メンタルヘルス不調を引き起こしている可能性もあります。
必要に応じて、産業医や医療機関への受診を勧める
部下のストレスや疲労が強く、心身に不調をきたしていたり、業務を続けていくことが難しいと感じたりする場合には、産業医への相談や医療機関の受診を勧めましょう。
ただし、本人が拒否する場合には、相談や受診を強制してはいけません。
「周囲に迷惑をかけたくない」「忙しくて相談や受診に行く暇がない」と感じている人もいるため、業務を調整して受診のための時間を確保したり、業務時間内で産業医に相談できるよう配慮したりしましょう。
同意が得られれば、本人の代わりに管理監督者が産業医に相談することも可能です。
ラインケアを行なう際の4つの注意点
メンタルヘルス不調を抱える部下のなかには、「周囲から甘えだと思われるのではないか」「悩みを人に相談するのは抵抗がある」と感じている人もいます。ラインケアの実施にあたっては、下記の4つの点に注意して対応しましょう。
話を聴く場所に配慮する
部下と話すときには、安心して話せるよう話を聴く場所に配慮します。他の労働者に話が聞こえる可能性のある場所は避けて、リラックスして話せる静かな環境を整えましょう。
落ち着いて話ができるよう、話を聴く時間やタイミングを図ることも大切です。
部下への接し方、言葉の選び方に気を付ける
部下の話を聴くときには、表情や言動に注意しましょう。相手の話に興味や関心を持って、話が終わるまで積極的に聴く姿勢をとることが大切です。話の内容を批判したり、ミスを責め立てたりするような発言は避けます。
また、ポジティブに物事をとらえるよう説得したり、周囲の労働者と比較して努力を促したりすると、相手がプレッシャーに感じてしまう場合があります。励ますよりも、「困りごとを一緒に解決していこう」という姿勢を見せましょう。
話の内容について確認したいときや、今後の対応について検討したいときには、話したいことを部下が十分に話せたか確認してから行ないます。
個人情報は厳重に取り扱う
部下と面談中に話した内容については、本人の許可なく他者に伝えてはいけません。産業医や人事労務スタッフなど、第三者に個人情報を提供する場合には、その理由を本人に説明して同意を得る必要があります。
相談内容を記録したり、書面で情報提供したりする場合にも、取り扱いには十分注意して個人情報の漏洩を防ぎましょう。
復職した部下への対応も忘れない
休職していた部下が復職するときには、「周囲にどう思われているのか」「与えられた仕事をこなせるだろうか」といった不安や緊張を感じています。
休職前と同じような働き方をするのは難しいことを理解したうえで、必要に応じて業務内容や量、勤務時間を調整しましょう。
また、復職した部下に対して配慮すべきことを情報共有したうえで、周囲の労働者の理解を得ておくことも大切です。復職者の健康に留意しながら、少しずつ休職前の状態に戻れるようサポートしましょう。
まとめ
管理監督者には、部下のメンタルヘルス不調を未然に防いだり、休職者の復職を支援したりするラインケアの実施が求められます。
メンタルヘルス不調を抱える部下から相談があった場合には、話を傾聴したうえでストレス要因の改善に努めましょう。
不調を抱える部下への対応に悩むときには、ラインケアに関する研修を受けたり、産業医に相談したりすることが有効です。
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