【2024年】化学物質管理者とは?選任義務化の背景や資格、役割について詳しく解説

【2024年】化学物質管理者とは?選任義務化の背景や資格、役割について詳しく解説

執筆者

産業看護職兼ライターとして活動しています!

2017年に4年生大学を卒業し、看護師として循環器・呼吸器の急性期病棟に就職しました。最先端の治療を行なう医療機関のため、重症の患者様が入院されることも多く、状態の変化が激しいため、チームの一員として患者様の看護や治療の補助にあたり、時には命に関わる救命処置を行なうこともありました。

その中で、入退院を繰り返す患者様を多く見てきたため、退院後の患者様の生活や地域での医療と福祉に興味を持ち、地域包括支援センターの保健師として勤務しました。

忙しくも充実した毎日を過ごしていましたが、私自身が神経系の難病を患ったため、保健師を退職したのち、「今の自分にできることは何か」を考え、産業看護職兼ライターとしての仕事を始めることになりました。

2021年からライターとして活動を始め、産業保健分野を中心に、法律に基づく企業の法令遵守項目や産業保健活動の内容について、80本以上の記事を執筆しています。
記事を読んだ方がすぐに活用・実践できるような内容になるよう、意識して作成しています。

ライターの仕事は、文章を書く楽しさと知識が深まる嬉しさがあるので、今後も経験を重ね、産業保健分野の専門家として、「読んでよかった」と感じていただける文章を目指していきます。

趣味はストレッチ、家計管理、野球・サッカー観戦、ゲームです。どうぞよろしくお願いします!

監修者

働く人の心身の健康管理をサポートする専門家です。従業員の皆さんと産業保健業務や面談対応から健康経営優良法人の取得などのサービスを通じて、さまざまな企業課題に向き合っています。私たちは、企業経営者・人事労務の負荷軽減と従業員の健康を実現するとともに、従業員に対する心身のケア実現を通じ、QOL向上と健康な労働力人口の増加への貢献を目指しています。

  • 「化学物質管理者とは具体的にどのような人のこと?」
  • 「なぜ化学物質管理者の選任が義務化されたのか?」
  • 「化学物質管理者の選任義務があるのは、どのような事業場?」

本記事では、上記のような疑問はもちろん、化学物質管理者の概要から具体的な職務、選任後に行なうルールについて解説します。

本記事を読んでいただくことで、化学物質管理者の押さえておくポイントを把握できますので、化学物質にかかわる事業者や担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。

なお、本記事は厚生労働省が公表している「化学物質管理者講習テキスト」「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」の資料を参考に作成しています。

化学物質管理者とはどういう人を指す?

化学物質管理者とは「事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理するもの」と定義されています。危険性や有害性のある化学物質は労働災害や労働者の健康を害するリスクがあるため、取り扱う事業場ではリスクアセスメントを実施し、適切に対策を講じる必要があります。

そのような化学物質を取り扱う事業場において、化学物質管理者は表示や通知、リスクアセスメントの実施や記録、ばく露低減対策、労働災害発生時の対応、労働者への教育などを行ないます。

つまり、化学物質管理者は化学物質の取り扱いを行なうための知識や経験などの能力を持っている者といえます。

化学物質管理者の選任は義務?

2024年4月より、事業場の労働者数にかかわらず、リスクアセスメントが必要な化学物質を製造、または取り扱うすべての事業場で化学物質管理者の選任が義務付けられます。その際、事業場の状況に応じて複数人選任することも可能です。

なお、一般消費者の生活の用に供する製品のみを扱う事業場(例:医薬・医薬部外品、化粧品、農薬、粉状または粒状にならない製品、密封されている製品、食品など)では選任の対象外です。

出典:化学物質等の危険有害性等の情報伝達について|厚生労働省

化学物質管理者の選任が義務付けられた背景

時代とともに化学物質の管理体制は整備されてきましたが、近年は国の法律で定められている規則のみを守ればOKという流れになっている現状があります。

そのため、措置が義務付けられている物質以外の化学物質に対する企業・事業場ごとの対策が取りづらい・取られていないことが背景の一つとして挙げられます。

化学物質の管理に係る課題について

厚生労働省の資料には管理の課題について、以下の内容が挙げられています。
・特定化学物質障害予防規則等に基づく作業環境測定の結果が、ただちに改善を必要とする「第3管理区分」と評価された事業場の割合が増加傾向であること
・リスクアセスメントの実施率は50%強であり、実施しない理由は「人材がいない」、「方法がわからない」などが多いこと

出典:化学物質規制の見直しについて|厚生労働省

化学物質による労働災害の8割は、特別化学物質障害予防規則等で規定されていない物質で発生しています。しかし、数万種類ともいわれる物質を国がすべて管理するのは非現実的でしょう。

つまり、国が定める管理のみに従うのではなく、企業・事業場ごとの「自律的な管理体制が整っていないこと」が化学物質の管理に係る現在の大きな課題といえます。

解決のために化学物質管理者が義務化へ

上記の課題解決のために、国は以下のような対策を実施しました。
・化学物質管理の仕組みの見直し
国のGHS分類による危険性・有害性が確認されたすべての物質に対して事業者へ自律的な管理を求める。ただし、特別化学物質障害予防規則等で規定されている管理は従来通り継続する。

化学物質による労働災害防止のための新たな規制について

引用:労働安全衛生法の新たな化学物質規|厚生労働省

・化学物質管理者等の選任義務
自律的な管理のために、事業場規模にかかわらず化学物質管理者や保護具着用管理責任者の選任を義務化する。

・化学物質の危険性・有害性の情報伝達
SDS等の通知方法の柔軟化やSDS等の定期更新、通知事項の追加などを義務化する。

・化学物質管理の水準が一定以上の事業場の個別規制の適用除外
所轄都道府県労働局長が認定した事業場であれば、特定化学物質障害予防規則等の個別規制の適用を除外し、事業者による自律的な管理を行なうことを認める。

その他、ばく露の程度が低い場合における健康診断の実施頻度の緩和や、作業環境測定結果において第3管理区分の事業場に対する措置の強化などを実施しています。

2024年に施行!化学物質管理者の選任義務とは?

化学物質管理者は事業場ごとの自律的な管理を進めるために、今回の法令改正により新たに制度化された職種です。

事業場の規模や業種の要件はなく、リスクアセスメント対象物を製造、取り扱い、譲渡・提供を行なうすべての事業場で化学物質管理者の選任する義務が発生します。これは労働安全衛生規則第12条の5に追記され、2024年4月1日から施行予定となっています。

すでに各都道府県労働局長に対して「​基発0531第9号​労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」で通達されています。これにより改正の趣旨や内容、事業者が行なうべき対応、化学物質管理者の選任と管理内容などについて案内されました。

今回の改正は、規制の対象外であった有害な化学物質をおもな対象として、ばく露の上限となる基準の策定、危険性・有害性情報の伝達の整備拡充等を国が行なうとともに、事業者がばく露防止のための措置を適切に実施する制度を導入する内容となっています。

化学物質管理者の法的位置づけ

化学物質管理者は「事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理するもの」と法的に位置付けられています。具体的な取り組みは以下のとおりですが、すべてを化学物質管理者が行なう必要はなく、事業場内における円滑な実施のための管理を行ないます。(労働安全衛生規則12条の5第1項)

  • 危険性、有害性の確認
  • 表示や通知に関する事項
  • リスクアセスメントの実施、記録の保存
  • ばく露低減対策
  • 労働災害発生時の対応
  • 労働者の教育

また、化学物質管理者の選任時は事業者に対して以下の対応が定められています。

事業場の見やすい位置に当該担当者の氏名を提示し、周知すること(労働安全衛生規則第12条の5第5項)

  • 職務を成し得る権限を与えること(労働安全衛生規則第12条の5第4項)
  • 選任する事由が発生して14日以内に選任すること(労働安全衛生規則第12条の5第3項)
  • リスクアセスメント対象物を製造する事業場では厚生労働省の定める専門的な講習を修了した者のなかから選任すること(労働安全衛生規則第12条の5第3項)

なお、リスクアセスメントの結果、労働者に対してばく露低減対策等で保護具を着用させる事業場は保護具着用管理責任者の選任義務が発生します。(労働安全衛生規則第12条の6)

出典:新たな仕組み|独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所

化学物質管理者の選任資格

化学物質管理者は店舗や工場、営業所等の事業場ごとに選任が必要です。そのため、事業場の労働者のなかから化学物質管理者を担う人材を選ばなければなりません。ここでは、化学物質管理者の選任資格について説明します。

資格要件

化学物質管理者の選任要件は「化学物質の管理に係る技術的事項を担当するために必要な能力を有すると認められる者」であり、特別な資格要件は必要ないため、事業者の裁量に任せられています。

ただし、リスクアセスメント対象物(労働安全衛生法第57条の3でリスクアセスメントの実施を義務付けられている危険・有害物質)を製造する事業場では、厚生労働大臣が示す内容にしたがった専門的講習を受けていなければなりません。

事業場の状況に応じて、化学物質管理者を何名か選任し、職務を分担することも可能です。その場合は、職務の抜け落ちがないように十分な連携を取りましょう。

なお、リスクアセスメント対象物は2024年4月時点で896物質(今後も順次追加予定)であり、職場の安全サイトなどで確認できます。

一方で、リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場では、専門的講習等の受講は必要ありません。

しかし、専門的講習では専門的な知識だけではなく、自律的な管理のための危険性・有害性の情報伝達やリスクアセスメントに関する内容が含まれているため、すべての化学物質管理者の受講が望ましいでしょう。

化学物質管理者選任後のルールとは?

化学物質管理者は他の職務との兼任が認められていますが、それぞれの職務と適切な範囲で行なう必要があります。また、事業場内における十分な連携が必要なため、労働者のなかから選任するのが望ましいでしょう。

労働安全衛生規則第12条の5に基づき、化学物質管理者の選任は、選任すべき事由が発生してから14日以内に選任しなければなりません。なお、選任後に労働基準監督署へ届け出る必要はありません。

たとえ数名の事業場であっても要件を満たせば選任する義務が発生します。未選任の状態で化学物質等による労働災害が発生すると法律上の罰則を科される可能性が高いため、必ず速やかに選任しましょう。

また、事業者は選任した化学物質管理者に職務を遂行するための必要な権限を与えなければならないため、相応の権限を持っている役職者から選任するのが望ましいでしょう。具体的な職務・管理内容は後述するため、必ず確認してください。

選任後は、選任した化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい場所へ掲示し、関係労働者に対する周知が必要です。

化学物質管理者に求められる役割・職務内容

化学物質管理者の職務は、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理することです。
職務には、大きく分けて以下の2つがあります。

  1. 譲渡・提供先に対する自社製品の危険性や有害性の情報伝達に関すること
  2. 自社の従業員の安全や健康に関すること

労働安全衛生規則第12条の5で明記しており、より具体的な内容は化学物質管理者講習テキストに記載されています。

【職務内容1】ラベル・SDSの確認および実施後の作業管理を行なう

職務内容1は、「1.譲渡・提供先に対する自社製品の危険性や有害性の情報伝達に関すること」にあたります。

事業者はリスクアセスメントの対象物を含む自社製品をGHSにしたがって分類し、ラベル表示・SDS(安全データシートの略語)の交付を行ないますが、化学物質管理者はその作業の管理(ラベル表示やSDSの内容の適切性の確認など)を担います。

化学物質管理者のGHS分類に関する知識や経験が乏しい場合は、外部の事業者に委託することができます。ただし、分類結果やラベル表示・SDSの内容に間違いがないかどうかは最終的に事業者が判断しなければなりません。

【職務内容2】リスクアセスメントの推進や実施状況を管理する

化学物質管理者は、事業者のリスクアセスメント推進と実施状況を管理します。具体的には以下のような内容が挙げられます。

  • リスクアセスメントを実施すべき物質の確認
  • 取り扱い作業場の状況確認(当該物質の取扱量、作業者数、作業方法、作業場の状況など)
  • リスクアセスメント手法(測定や推定、業界・作業別リスクアセスメント・マニュアルの参照など)の決定や評価
  • 労働者に対するリスクアセスメントの実施や結果の周知

なお、リスクアセスメントの技術的な部分については、事業場内外の専門家や機関を活用して、相談や助言、指導などを受けても構いません。

「職場のあんぜんサイト」に業種・作業別リスクアセスメント実施支援システム作業別モデル対策シートが公表されているので、併せてご参照ください。

【職務内容3】労働者に対するばく露防止対策および実施・管理を行なう

事業者は、リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置を実施しなければなりません。化学物質管理者はばく露防止措置(代わりの物質の使用、装置等の密閉対応、局所排気装置または全体換気装置の設置、作業方法の改善、保護具の使用など)の選択・実施について管理します。

リスクアセスメントの結果、作業場や作業について改善が必要だと判断された場合、事業者は労働者へのばく露を最小限度にするために対策を講じなければなりません。また、すべての労働者のばく露が濃度基準値以下となるように措置を実施します。

仮に、工学的な対策がすぐにできない場合は個人用保護具の着用が必要です。このような職務は詳細なリスクアセスメントが必要となるため、事業場内外の専門家から助言を受けるのが望ましいでしょう。

【職務内容4】労働災害が発生した場合の訓練や計画を定め管理する

化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合に対応を行ないます。つまり、実際に労働災害が発生した際の対応や労働災害を想定した応急措置等の訓練の内容および計画の策定を実施します。

労働災害の発生または発生が考えられる場面(死傷病者の発生、有害物質への高濃度ばく露または汚染など)の対応を事前にマニュアル化し、スムーズに対応できるように化学物質管理者や他の担当者の役割を分担します。

マニュアル化の例は以下のとおりです。

  • 避難経路の確保
  • 救急措置等の確認や担当者の選定
  • 危険有害物の除去や除染作業
  • 緊急時等の連絡網や手段の整備
  • 搬送先予定の病院との連携
  • 労働基準監督署長による指示が出された場合の対応 など

【職務内容5】リスクアセスメント結果の記録・保存管理および労働者への周知を行なう

化学物質管理者は厚生労働省が提供している「化学物質管理者が行う記録・保存のための様式(例)」などを参考に、リスクアセスメントの結果や前項までの内容を記録・保存します。

化学物質管理者の記録は労働災害の発生や管理が適切に行なわれていないと判断された際に重要な書類となり、労働基準監督署へ提出を求められることがあるため、必ず作成・保管しましょう。

また、化学物質管理者はリスクアセスメント結果(特定した危険性または有害性、見積もったリスクなど)の労働者への周知管理も行ないます。周知方法は以下のとおりです。

  • 各作業場の見やすい場所に常時提示または備え付ける
  • 書面を労働者に交付する
  • 磁気ディスク、光ディスク、その他の記録媒体に記録し、各作業場に労働者が記録内容を常時確認できる機器を設置する

化学物質管理者が行う記録・保存のための様式(例)

引用:化学物質管理者講習テキスト|厚生労働省

【職務内容6】ばく露防止措置の実施確認および、労働者のばく露状況や作業、意見聴取の記録・保存ならびに労働者への周知を行なう

事業者はリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置を以下のような方法を用いて最小限度にしなければなりません。

  • 代替物等を使用する
  • 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気措置を設置し、稼働する
  • 作業の方法を改善する
  • 有効な呼吸用保護具を使用する

また、リスクアセスメント対象物以外の物質も労働者が暴露される濃度を上記の方法などで最小限度にするよう努めます。

このような措置の内容や労働者のばく露状況、意見聴取等の記録は、1年を超えない期間ごとに定期的に記録を作成し、3年間保存します。ただし、リスクアセスメント対象物であり、かつ、がん原性のある物質の場合は30年間保存しなければなりません。

【職務内容7】労働者に対する教育計画の策定および効果確認・周知を行なう

化学物質管理者は、【職務内容1~4】を遂行するにあたり、労働者に対する必要な教育の実施における計画の策定や教育効果の確認などを管理します。なお、教育の実施においては、外部の教育機関等を活用することも可能です。

雇い入れ教育等のうち、特定の業種では一部教育項目の省略が認められていました。しかし、2024年4月よりこの省略規定を廃止し、危険性・有害性のある化学物質を製造、取り扱うすべての事業場で必要な教育を行なうことが義務付けられます。

厚生労働省では化学物質管理に関する社内安全衛生教育用eラーニング教材を公表しているため、こちらもご参照ください。

化学物質管理者の今後

自律的な管理を目的とした新たな制度ですが、化学物質数は現在も増加しており、使用形態も多様化しているため、化学物質管理者の役割はますます重要視されるでしょう。

複数人で職務を分担することも可能ですが、小規模事業場の場合はひとりで担うことも考えられます。

どちらの場合であっても、化学物質管理者の職務遂行には専門的な知識と経験が必要となるため、十分なリスクアセスメントと対策を講じるために、外部の専門家を適切に活用することが大切です。

また、事業者は化学物質管理者が必要な知識や技能を身につけるための機会を与え、事業場ごとの個別性を取り入れた「真の自律的な管理」を遂行できる化学物質管理者を育成することが求められます。

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まとめ

2024年4月より、リスクアセスメント対象物を製造、取り扱い、譲渡・提供するすべての事業場で化学物質管理者の選任が義務化されます。

リスクアセスメント対象物は今後も追加予定です。事業場内で化学物質を使っている場面はないか、一般消費者の生活用に提供される製品のみを取り扱っているのかなど、適宜見直しを行ない、選任が必要になった場合は速やかに対応しましょう。