ブラック産業医の特徴(1)企業と結託して不当解雇を行なっている
ブラック産業医の特徴の1つ目は、企業と結託して不当解雇を行なうということです。企業と労働者との間で中立な立場でなければならない産業医が、企業側に立ち、労働者に不当な行為を働くということは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
産業医はあくまでも中立な立場
産業医は、従業員がメンタルヘルス不調などで休職している場合、復職にあたって面談を実施し、該当する従業員の復職可否を中立な立場で判定しなければなりません。しかし面談の結果、従業員が復職できる状態であったとしても、企業側の指示を受けて、従業員を自然退職や解雇に追い込むケースがあります。このような産業医がブラック産業医と呼ばれ、問題となっています。
産業医が企業の利益を追求するあまりに、働けなくなる可能性がある従業員を退職へ追い込むケースや、企業側が復職してほしくないと判断した場合に、産業医に対して復職不可の意見書を書くように依頼するケースなどが挙げられます。
ブラック産業医が不当な解雇に手を貸すことで、企業は貴重な人材を失うことになってしまいます。また、働ける状態にある従業員が退職してしまえば、従業員の採用や育成に費やした経費の回収もできません。
解雇された従業員は精神的なダメージを受け、仕事を失うことによって生活が困窮する可能性もあります。不当な解雇に手を貸すブラック産業医は、このように企業にも従業員にも悪影響をもたらすのです。
独立性と中立性が求められる産業医は、あくまでも医学的な観点から意見を述べるのが仕事です。企業側の一方的な考えや意向を反映した判断をすることは、あってはなりません。
過去には従業員から訴えられた例もある
過去に、産業医の復職判断に納得できなかった従業員が、訴訟を起こした事例があります。従業員の復職を不当に認めなかったとして、産業医に賠償命令が下されたケースもあります。これらの事例では、産業医が一度も職場巡視をしていなかったことや、主治医との意見交換をしていないといった行為、産業医による暴言など、客観性や公平性を欠いた態度や発言が問題になっています。
訴訟に発展するような事態を避けるためにも、産業医が「復職を認めない」という判断をする場合は、客観性や公平性のある根拠を明確にしておく必要があります。
理解しておきたい「疾病性」「事例性」の違い
産業医が業務を正しく遂行するために大切なポイントは、「疾病性」と「事例性」という2つの言葉の違いを理解し、それぞれの観点から従業員の状態を確認することです。
「疾病性」とは、病気や症状に関する内容です。「ウイルス性胃腸炎」「風邪」などの病名がつくものや、「胃がもたれる」「毎晩眠れない」などの症状が疾病性にあたります。疾病性についての判断を下せるのは一般の医師のみで、産業医の立場では疾病性についての断定はできないため注意が必要です。
対する「事例性」は、疾病によってもたらされる業務上の弊害のことを指します。具体的には、疾病が原因で「業務に集中できない」「欠勤や遅刻が多い」といった客観的な事実のことです。産業医と企業は、事例性の影響を最小限にすべく、全面的にサポートすることが求められます。
産業医は、事例性による悪影響を少なくするため、従業員本人と企業に解決策を提示します。不明な点があれば、必要に応じて企業へのヒアリングや主治医への問い合わせも行ないます。そのうえで復職不可との意見書を書く場合は、従業員本人と産業医との意思疎通がしっかりとできていることが重要です。意思疎通がスムーズにできなかった場合、前述した訴訟などに発展するリスクがあります。
つまり、産業医には産業医学の知識、疾病性と事例性を分けて考える力、従業員・企業・主治医・従業員の家族など、多方面と協調する能力などが必要です。
ブラック産業医の特徴(2)産業医の職務を怠っている
ブラック産業医の特徴の2つ目は、産業医としての職務を怠っていることです。産業医に必要な役割や立場を理解することなく職務にあたっていては、企業にとっても従業員にとってもマイナスになります。
産業医の名義貸しは違法行為
産業医の名義貸しは違法行為にあたります。産業医には、衛生委員会への参加、職場巡視、健康診断結果の確認や健康相談、ストレスチェック、メンタルヘルス不調者への面談など、従業員の健康や安全を守るためのさまざまな職務があります。しかし、残念ながらこれらの職務を行なわないブラック産業医がいるのも事実です。
月に一度職場巡視を行なうことは産業医の義務であり、名義貸しにより職場巡視を行なわなければ、違法行為となり、罰則が科せられます。
そもそも名義貸し状態に気付かないケースも
産業医本人や企業の人事労務担当者が産業医の職務について理解していないと、気付かないうちに名義貸し状態に陥いる場合もあります。
なかには、労働基準監督署が企業を調査した際に、初めて違法な状態に気付いたというケースもあります。このような事態にならないよう、産業医・人事労務担当者ともに、産業医の職務を正しく理解し、産業医としての職務が遂行されているか、確認しておきましょう。
ブラック産業医の特徴(3)守秘義務を守らない
ブラック産業医の特徴の3つ目は、産業医として守らなければならない守秘義務を守らないということです。産業医が守秘義務を守らなければ、従業員は安心して産業医による面談や健康相談を受けることができません。
従業員の情報を守る意味
労働安全衛生法第105条によって、労働者の同意がない限り、産業医は労働者の健康管理情報を企業側に伝えてはならないと定められています。パワハラやセクハラなどの事案に関して、当事者の承諾なく情報を漏らすことも、守秘義務違反に該当します。
従業員は、産業医が守秘義務を守ることにより、安心して産業医面談やストレスチェックを受けることができます。しかし、守秘義務が守られなければ、安心して面談を受けることはできず、従業員の安全や健康が守られません。守秘義務が守られなかったことで、従業員がストレスを抱えてしまうことにもつながります。
産業医が守秘義務を守ること、そして企業は産業医に守秘義務があることについて従業員にしっかりと周知することが大切です。
守秘義務と報告義務の違いを理解しよう
産業医には、守秘義務と同時に報告義務も課せられています。相反する2つの義務についても、きちんと理解しておくことが必要です。
守秘義務とは、業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならないという義務であり、医師としての守秘義務は刑法第134条に定められています。産業医としての守秘義務については、前述したとおりです。
一方、産業医に課される報告義務とは、労働者に健康上の問題があることを知ったときには、事業者にこれを指摘・報告する義務のことであり、従業員が安全で健康に働けるように労働環境を整備する「安全配慮義務」を果たすための義務です。
産業医に課される2つの義務のうち、基本的に優先されるのは守秘義務です。報告義務が生じるのは、危険を排除するなど必要最小限の事態に限定されています。原則、可能な限り従業員本人の同意を得ることを基本としていますが、次のような場合では同意がなくても健康管理上の情報を企業側に報告することができます。
- 同意を得ることが困難であり、開示することが労働者に明らかに有益である場合
(例)労働者が自傷行為におよぶ可能性が高い場合など - 開示しないと公共の利益を著しく損なうことが明らかな場合
(例)健康診断の結果、伝染病が発覚し、ただちに対応しなければ他の労働者に健康被害が生じる可能性がある場合など
ただし、以上のような場合でも報告が許される情報の内容や報告先は、事業者が健康配慮措置を講じるための必要最小限にとどめておく必要があります。労働者の血液検査結果の詳細な数値、疾病の具体的な診断名、セクハラやパワハラの具体的な当事者名などの情報は、健康配慮措置のために必ずしも必要ではあるとはいえません。
報告義務が生じる事案でも、可能な限りまずは労働者本人に説明し、同意を求めることが大切です。同意を得ることができなくても、可能な限り相談者が特定されないようにするなどの配慮を怠らないようにしましょう。
ブラック産業医の放置はNG!気を付けるべきポイントを解説
もし企業にブラック産業医がいた場合、そのまま放置しておくと、従業員に裁判を起こされるリスクや、法律違反で罰金を科せられるおそれがあります。
訴訟や罰則により「ブラック産業医を雇用していた企業」というイメージが広がってしまうと、以降の経営や人材の採用に悪影響がおよぶ可能性もあるでしょう。また、労働者が産業医への信用をなくすことは、企業の産業保健活動全般にとって良くありません。
つまり、産業医選びの失敗は、さまざまなトラブルの原因になり得るということです。企業は産業医のあり方についてよく理解し、産業医は職務や立場、役割を自覚し、中立的で適切な判断を下すことが重要です。
まとめ
産業医は企業と従業員の中立な立場であることが大前提です。しかし、ブラック産業医は、従業員を退職に追い込む行為や、守秘義務を守らないなどの違反行為を行なう、名義貸しなどによって定められた職務を遂行しないなど、企業にも従業員にも悪影響をおよぼします。
産業医は誰でも良いわけではありません。企業は、産業医を選任する際に相談機関などを利用するなどして、良い産業医を選任することが重要です。選任後においても、もしブラック産業医だと判明したのであれば、そのまま放置せずに、適切に対処することも必要です。
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