上記のような疑問はありませんか?
「安全配慮義務」という言葉は、企業経営に携わる方なら耳にする機会が多いはずです。内容を詳しく知らないまま安全配慮義務を怠ると、労働者の命が失われる最悪の事態に発展する可能性も否定できないため、注意が必要です。
そこで本記事では、安全配慮義務の意味や違反時の罰則、実際に起きた例、法律違反を防ぐために企業がすべき対策などについて、徹底解説します。
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そもそも「安全配慮義務」とは?
安全配慮義務とは、労働者の健康と安全を守るように必要な配慮を行うことを使用者に定めた義務です。
安全配慮義務については、企業と従業員の労使関係を対等に保つための法律である「労働契約法」において、下記のように規定されています。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法第5条における「必要な配慮」は、従業員の職種や業務内容、作業環境などによって異なるため、個々の従業員の状況に応じた対応が求められます。
過重労働への対策や業務災害の防止はもちろんのこと、妊産婦や障害のある従業員に対する配慮なども、安全配慮義務に含まれます。
「労働基準法や労働安全衛生法に違反していなければ大丈夫では?」と思う方もいるかもしれませんが、これらの法律を遵守しているだけでは、安全配慮義務を十分に果たしているとはいえない可能性があります。
企業には、日頃から従業員に起こり得る災害を予測したうえで、その災害を防ぐための対策を講じることが求められているのです。
また、安全配慮義務は原則として、事業場の規模や従業員の雇用形態などに関わらず発生します。パートタイムや有期雇用の従業員、派遣社員などに対しても、企業側は安全配慮義務を負います。
安全配慮義務制定の背景
安全配慮義務が制定された背景は「陸上自衛隊事件(昭和50年2月25日最高裁第3小法廷判決)」や「川義事件(昭和59年4月10日最高裁第3小法廷判決)」などの事件が挙げられます。
これまで安全配慮義務を明文化する規定は存在していませんでした。しかし、どちらの事件も雇用する側が職場における危険を未然に排除、または低減し、従業員が安全に勤務できるように配慮する義務(安全配慮義務)がある、と最高裁で示されました。
その後も国や民間企業に対する安全配慮義務が問われる判例が積み重なったことで、平成20年、労働契約法第5条に安全配慮義務が明文化されるに至りました。
安全配慮義務違反に罰則はある?
安全配慮義務違反について、現状では罰則に関する規定は設けられていません。しかし、企業が安全配慮義務に違反した場合には、従業員やその家族から、多額の損害賠償を請求されるおそれがあります。
安全配慮義務違反によって訴訟が起きた場合、判決の根拠となるのは民法です。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
企業側の不法行為責任や使用者等の責任、債務不履行責任などを根拠に、安全配慮義務違反が認められた事例は数多く存在しており、なかには1億円を超える賠償額の支払いを命じられた企業もあります。
安全配慮義務違反の事例
労働者の不調や健康障害のリスクを把握していながら、適切な対応をとらなかった場合には、安全配慮義務違反を問われて訴訟問題になるケースが少なくありません。
ここでは、実際にあった安全配慮義務違反の事例を2つ紹介します。
安全配慮義務違反の事例(1)電通事件
電通事件とは、過重労働による企業の安全配慮義務違反が認められた事例です。
2年目の若手社員Aは、長時間労働が常態化していたことが原因でうつ病の罹患や自殺に至ったとして、家族が企業に損害賠償を請求しました。
最高裁の判決では、「上司は長時間労働によるAの健康状態の悪化を認識していたにもかかわらず、負担軽減の措置をとらなかったことに過失がある」とみなされ、企業に対し、民事損害賠償義務を認めました。
この裁判は、労働者が過重労働により自殺に至った、という因果関係を最高裁が初めて認めた裁判として、重要な意味を持っています。
安全配慮義務違反の事例(2)山田製作所事件
山田製作所事件とは、長時間労働および昇格にともなう業務負担の増大による自殺との因果関係や予見可能性等について検討された事例です。
長時間労働とリーダー昇格による心身への負担から自殺に至ったとして、家族が企業に対して損害賠償を請求しました。一審で熊本地裁は、企業に約7,400万円の損害賠償を命じましたが、企業側は不服として控訴し、取り消しを求めました。
二審の福岡高裁では、業務と自殺の因果関係、企業側の安全配慮義務違反の有無(予見可能性があったか)、従業員の性格や家族の対応などによる賠償金額の減額事由の考慮等について、再検討されました。
そして最終的に、業務と自殺との因果関係や企業側の安全配慮義務違反が認められ、減額するような要素もないと判断されました。企業側は上告しましたが受理されず、損害賠償が確定しました。
安全配慮義務違反の判断基準
安全配慮義務違反のおもな判断基準は下記の3つです。
- 「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」に取り組んでいるか
- 従業員の傷病との因果関係はあるか
- 予見可能性(帰責性)はあるか
ここでは、それぞれの基準について詳しく解説します。
①「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」に取り組んでいるか
安全配慮義務を遵守するためには具体的な状況に応じた対策が必要です。そのための軸となるのが「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」です。
業務遂行にあたり使用者が労働者の心身の健康に配慮する義務のことです。過重労働対策や健康診断とストレスチェックの実施、産業医の選任などがあり、身体面だけではなく精神面への配慮が求められます。
使用者が労働者に対して快適で安全な職場環境の提供のために配慮する義務です。労働者が安全に使用できるような機械のメンテナンスや導入・教育、作業環境における有害因子の除去・低減、職場のいじめやパワハラ防止措置などが挙げられます。
②安全配慮義務とケガ・病気に因果関係はあるか
安全配慮義務違反かどうかを判断する際には、従業員のケガや病気と企業の義務との間に因果関係があるか、という点も重要な基準となります。この安全配慮義務は、身体的なケガだけでなく、精神的な不調についても対象に含まれます。
例えば、長時間労働によって従業員がうつ病などのメンタルヘルス不調を発症した場合や、整備が不十分な機械を使用させた結果として従業員がケガを負った場合などは、企業の管理状況と健康被害の間に因果関係が認められる可能性があります。
③予見可能性(帰責性)はあるか
予見可能性とは、企業が従業員のケガや病気を事前に予測できた可能性を指します。安全配慮義務違反を判断するうえで、この予見可能性の有無は重要な基準です。
例えば、高所作業の現場でヘルメットや命綱の準備・着用を徹底せず、安全対策を怠った場合や、上司によるハラスメント被害の相談を受けていながら職場環境の改善や被害防止策を取らなかった場合などが挙げられます。
企業が健康被害の危険性を事前に把握できる状況にありながら、適切な対応を怠った結果、発生した傷病は「予見可能であった」と判断され、安全配慮義務違反に問われる可能性が高まります。
安全配慮義務の適用範囲となる従業員
安全配慮義務は自社の正社員以外も適用範囲です。雇用形態にかかわらないのはもちろん、労働契約を直接結んでいない労働者も対象に含まれます。適用範囲となる従業員は以下のとおりです。
- 直接労働契約を結んでいる従業員
- 派遣社員
- 自社で働いている下請け会社の従業員
- 海外勤務者 など
自社で働いているすべての従業員に対して安全配慮義務は適用されると認識したうえで、それぞれの状況にあわせた必要な配慮を行うことが大切です。
メンタルヘルス対策と安全配慮義務
安全配慮義務のなかには、メンタルヘルス対策も含まれます。メンタルヘルス対策とは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために行う、各種取り組みのことを指します。
メンタルヘルスに不調をきたした労働者に対しては、職場環境の現状把握や改善などを行い、休職した場合には職場復帰しやすいようにサポートする必要があります。
メンタルヘルス不調が疑われる労働者や、すでにメンタルヘルス不調を訴えている労働者に対して、企業側が何の対策も講じなかった場合には、安全配慮義務違反に問われる可能性があるのです。
安全配慮義務の遵守を怠った場合のリスク
社内で十分なメンタルヘルス対策を行わず、安全配慮義務の遵守を怠った場合は、企業側にさまざまなリスクが生じます。
例えば、労働者や家族から慰謝料を請求されたり、訴訟を起こされたりすることで、企業の社会的信用が低下するでしょう。
過重労働やハラスメントなどが社内で起こっているとわかれば、企業に対する労働者の信頼も失われます。「労働者の健康や安全を守ってくれない会社だ」と判断されれば、退職者の増加につながるかもしれません。
さらに、新しい人材の確保が難しくなることも考えられるため、安全配慮義務違反によって企業の存続そのものが危ぶまれるおそれもあります。
安全配慮義務を守るために企業が取り組むべきこと7選
労働者に対する安全配慮義務を遵守するためには、企業としてどのような対策をとればよいのでしょうか。ここでは、企業がとるべき7つの対策を紹介します。
ストレスチェックを実施する
ストレスチェックとは、労働者の精神的負担の程度を把握するために行う簡単な検査のことです。労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、1年以内ごとに1回のストレスチェック実施が義務付けられています。
実施したストレスチェックの結果は労働者本人へ通知されます。企業側は労働者に対して、どの程度のストレスが蓄積されているかを把握させるとともに、積極的にストレスに対するセルフケアを行うことを勧めましょう。
また、ストレスチェックで高ストレス状態と判断された労働者がいた場合、面接指導の対象者である旨が該当の労働者に通知されます。そして、高ストレス者から面接を希望する申し出があった際には、医師による面接指導を実施しなければなりません。
【あわせて読みたい関連記事】EAP(従業員支援プログラム)を活用する
従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)とは、メンタルヘルスに不調を抱える従業員をサポートするための仕組みです。
EAPには、企業内の産業保健スタッフなどによる「内部EAP」と、メンタルヘルスサービスを提供する外部機関による「外部EAP」があります。常駐する産業保健スタッフがいない企業では内部EAPの実施が難しいため、外部EAPを活用するのがよいでしょう。
ハラスメント防止対策を行う
厚生労働省が発表した「令和3年度過労死等の労災補償状況」によると、精神障害での支給決定のなかで最も件数が多かったのが、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」というケースでした。
ハラスメントに関する相談件数は年々増加しており、令和元年にはパワハラ対策が「改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)」として法制化され、企業側にパワハラ防止対策の実施などが義務付けられました。
企業はこの法令に則り、ハラスメントの予防や解決などに関する規定を設けたり、社内に相談窓口を設置したりするなどして、ハラスメント防止対策を徹底する必要があります。

ハラスメント相談窓口の設置できていますか?パワハラ防止法への対応策に悩んでいる中小企業の担当者必見。ハラスメント相談窓口の使い方や役割から相談しやすい窓口の運用までをまるっと解説!
労働時間を把握する
労働安全衛生法では、「時間外労働や休日労働が月80時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合」には、医師による面接指導の実施が義務付けられています。
長時間労働はメンタルヘルス不調の要因となることが多いため、労働者の時間外労働や休日労働の実態は正しく把握しておきましょう。
産業医に相談する
産業医とは職場の健康管理を担う医師のことで、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。安全配慮義務違反を防ぐためには、労働衛生の専門知識を有する産業医との連携が重要です。
労災防止対策を行う
労災防止対策とは、労働安全衛生法などに基づき、企業が労働災害(業務上のケガや病気)を未然に防ぐために講じる措置を指します。
具体的な対策例は、以下のとおりです。
- 機械の動作範囲に柵や覆いを設置し、身体の接触を防ぐ
- 火災や爆発の危険がある現場では換気を徹底する/火気を使用しない
- 事業場全体を総点検し、転倒危険箇所や原因を洗い出して対策する
- 通路の幅を広げてグリーンベルト化し、安全性を明確に確保する など
こうした取り組みは、従業員の安全を確保し、労災発生を防ぐために不可欠です。
安全衛生教育を実施する
安全衛生教育とは、労働者が安全に働くための知識や技能を身につけ、労働災害を防止することを目的とした取り組みのことです。労働安全衛生法に基づき、事業者が実施することが義務付けられています。
これらは事業者(会社)が主体となって実施しなければなりません。適切な安全衛生教育は、労働者が危険を予測・回避する力を高め、事故の発生を減らすだけでなく、安全で安心な職場環境の実現という企業の社会的責任を果たすうえでも重要です。
安全配慮義務は自然災害にも適用される
企業の安全配慮義務は、地震や台風などの自然災害時にも適用されます。裁判例でも「災害時であっても義務は免れない」と明確にされており、「想定外だった」という理由で責任を免れることはできません。
そのため、急な災害に備えて日頃から準備しておくことが大切です。
- 災害時の避難手順や役割分担を定めた対応マニュアルを作成し、従業員に周知徹底する
- 安否確認や避難指示を迅速に行うため、緊急時の連絡体制を整備する
- ハザードマップで危険箇所を把握し、それに基づいた避難訓練を実施する
安全配慮義務違反で訴えられた場合に企業に求められる対応
安全配慮義務違反で訴えられると、企業は多大なリスクや負担を抱えることになります。ここでは、安全配慮義務違反で訴えられた際に企業が取るべき対応について解説します。
- 事実確認まず社内で事実をしっかり確認します。勤務実績や業務日報、関係者へのヒアリングを行い、状況を客観的に把握します。
- 労災保険労災事故が発生した場合は、労災保険による対応が必要です。所定の請求書を労働基準監督署へ提出し、療養補償給付や休業補償給付などを申請します。
- 民事訴訟労災保険で補えない慰謝料などについて損害賠償を求められ、民事訴訟に発展することがあります。弁護士への相談や裁判所への出頭など、専門的な対応が必要となります。
産業医の稼働実態に要注意
産業医を選任していれば安心、というわけではありません。産業医が企業を訪問していないなど、稼働実態を把握していないと企業側の違反リスクが高まるため注意が必要です。
近年、問題視されているのが「名義貸し産業医(名ばかり産業医)」です。名義貸し産業医とは、産業医として選任されているものの、実際にはほとんど稼働していない、もしくは十分な責務を果たしていない産業医のことを指します。
産業医が業務を適切に行なっていない場合は労働安全衛生法違反とみなされ、社会的信用を失うリスクがあります。
【あわせて読みたい関連記事】まとめ
安全配慮義務は、労働者の安全や健康を守るために職場環境を整えることを義務付けるものであり、事業者には労働者一人ひとりに合わせた配慮が求められます。
罰則規定はありませんが、必要な配慮を怠って労働者に健康障害などが生じると、安全配慮義務違反とみなされます。その場合、多額の損害賠償請求をされたり、社会的信用を失ったりするおそれがあるでしょう。
労働者の健康を守るためには、労働衛生の専門家である産業医と連携し、ストレスチェックの実施、ハラスメント防止、長時間労働の是正、災害時の安全確保などを含む安全配慮義務を遵守することが大切です。
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