長時間労働対策の一環として、勤務間インターバル制度が努力義務化された
2019年4月、働き方改革関連法が施行され、多様で柔軟な働き方を個人が選択できる環境の整備が進んでいます。くわえて、年休取得や時間外労働の上限など、多方面での法改正の動きが活発化してきました。
そんななか、長時間労働対策の一環として、「勤務間インターバル制度」が注目を集めています。
勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度とは、前日の業務終了時間から次の日の業務開始時間まで、一定以上の休息時間(インターバル時間)を設ける制度のことです。
従来の長時間労働対策といえば、「残業をしない」「休日労働や深夜の時間外労働を削減する」など、「働く時間」に対してアプローチするものが大半でした。
しかし、勤務間インターバル制度は「休む時間」に着目し、業務と業務の間に十分な休息時間を確保することで、長時間労働による健康障害を防ぐことを目的としています。
EUではすでに勤務間インターバル制度が浸透しており、すべての労働者に対して、24時間につき、原則11時間以上の休息時間を確保しなければならないことが、法律で義務付けられています。
努力義務化は2019年4月から
勤務間インターバル制度は、日本でも徐々に広まりつつあります。2019年4月、働き方改革関連法の施行にともない労働時間等設定改善法が改正され、勤務間インターバル制度が事業者の努力義務となりました。
2022年現在、勤務間インターバル制度はあくまでも「努力義務」であるため、違反しても罰則などはありません。しかし、労働者の心身の健康を守り、企業の永続的な繁栄を実現するためにも、ぜひこの機会に導入を検討してみましょう。
勤務間インターバル制度を導入する手順
勤務間インターバル制度は、どのような流れで進めればよいのでしょうか。本章では、勤務間インターバル制度を導入する際の手順について解説します。
労働者の労働時間を正確に把握する
勤務間インターバル制度を適切に運用するには、労働者の労働時間の把握が必要不可欠です。就業規則で定められた労働時間のほか、時間外労働、休日労働、通勤時間なども確認します。
さらに、終業時間と翌日の始業時間のインターバルはどの程度取れているのか、インターバルが取れていない労働者にはどのような理由があるのかなどを調査します。タイムカードをはじめとした各種データの集計や、労働者本人・上司からの聞き取りなどを行ない、現状を把握したうえで、自社で勤務間インターバル制度を導入できるのか検討しましょう。
インターバル時間を決める
次に、インターバル時間の設定を行ないます。インターバル時間を検討する際には、通勤時間や睡眠時間、生活時間なども考慮する必要があります。
インターバル時間は原則、すべての労働者に対して一律で設定することが望ましいとされています。そこでまずは、「最低限確保したい時間」をインターバル時間として設定し、自社の状況に合わせて拡大していくなどして、少しずつ調整しましょう。
ただし、勤務形態や働き方は個々の労働者によって異なる場合もあるため、特定の労働者には「異なるインターバル時間を設ける」「複数のインターバル時間を設定する」など、柔軟に対応するのも一案です。
いずれの場合にも、「労働者が十分な休息を取れるか」という観点でインターバル時間を設定することが重要です。
就業規則の見直しをする
勤務間インターバル制度の基本的なルールが定まったら、次に就業規則の整備を行ないます。勤務間インターバル制度を「新制度」として明確に位置付け、全労働者を対象に確実に実施しましょう。
勤務間インターバル制度を円滑に運用するためには、社内への周知も必須です。勤務間インターバル制度を導入する背景や目的を労働者にしっかり理解してもらえるよう、ポスターの提示や社内研修などを積極的に行ないましょう。
長時間労働を削減!勤務間インターバル制度を導入するメリット
勤務間インターバル制度の導入は、事業者・労働者の両方にメリットがあります。ここでは、勤務間インターバル制度の導入で得られるメリットを3つ紹介します。
労働者の集中力、生産性、モチベーションが向上する
インターバル時間の確保は、労働者の集中力、生産性、モチベーションの向上に大きく貢献します。十分な休息時間を確保したうえで、私生活を楽しむ余裕が生まれれば、仕事への向き合い方もおのずと変化するからです。
「働くときはしっかり働き、休むときはしっかり休む」といった仕事とプライベートのメリハリが生まれ、最適なワーク・ライフ・バランスを実現できるでしょう。
労働者の健康維持に役立つ
インターバル時間が短くなると、ストレス反応が高くなり、疲労感も残ることが明らかになっています。そこで勤務間インターバル制度を導入することで、休息、疲労回復のための時間が確保され、労働者の心身の健康を守ることにつながります。
勤務間インターバル制度は、過重労働による健康障害やメンタル不調の予防にもなるため、過労死防止対策としての効果も期待できるでしょう。
離職率が低下する
インターバル時間を十分に確保することで、労働者は休息をしっかりとることができ、プライベートも充実させられるでしょう。そうなれば、働きやすく魅力的な企業としての評価が高まり、離職率の低下が期待できます。
離職率の低下につながるだけでなく、採用活動の際に「労働者の健康を守るための制度を積極的に導入する企業」として良いイメージが伝わり、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
長時間労働はなくならない?勤務間インターバル制度の注意点
長時間労働対策のために勤務間インターバル制度を導入したにも関わらず、一向に長時間労働がなくならない、というケースもあります。そういった事態を避けるために、制度導入時に注意すべきポイントについて紹介します。
無理なインターバル時間を設定しない
無理なインターバル時間を設定すると、かえって労働者の負担が大きくなる可能性があります。先述したとおり、全社一律のインターバル時間を意識しつつも、職種ごとの働き方や勤務実態に合わせて、柔軟に設定することが大切です。
また、インターバル時間が適切か適宜確認しながら時間の調整を行ない、現場の実情をもとに運用していくことが求められます。
制度の形骸化に注意する
勤務間インターバル制度を全社的に導入しても、業務などの都合によって、ルールを守らない労働者もいるでしょう。労働者の状況に合わせた個別の対応も必要ですが、例外を多く作ってしまうと、制度自体が形骸化してしまうおそれもあります。
例外規定を設けるのは、「やむを得ないと判断された場合のみ」に限り、制度が形だけのものにならないよう、十分に注意して運用しましょう。
残業が続く場合は仕事量を調整する
インターバル時間を守ろうとした結果、かえって残業が続いてしまうこともあります。例えば、時間外労働後、インターバル時間を確保するために翌日の始業時間を遅らせたことで、仕事が終わらずその日も時間外労働をしてしまっては本末転倒です。
インターバル時間を守ることで残業が続く場合は、そもそも人員が足りているのか、仕事量が多すぎないか、といった点をチェックする必要があるでしょう。
まとめ
今回は、長時間労働対策の一つである、勤務間インターバル制度について解説しました。勤務間インターバル制度を適切に運用することで、労働者の健康維持、生産性アップが期待できます。
ただし、無理なインターバル時間を設定したり、制度を形骸化させたりしないためには、産業医などの産業保健スタッフと適宜連携し、制度を自社にあった形にブラッシュアップしていくことが大切です。
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