産業医と産業看護職2名体制/長時間労働者の面談対応から不調の再発予防までケア
どこからが長時間労働?目安となる3つの基準
長時間労働の話題でよく疑問にあがるのが、「そもそも長時間労働の定義は?」「どこからが長時間労働?」といった具体的な基準についてです。
結論を述べると、長時間労働に明確な基準はありません。したがって、以下の3つの基準をひとつの目安に考えるとよいでしょう。
長時間労働の基準(1)36協定の基準
1つ目は、労働基準法第36条(36(サブロク)協定」の基準です。労働時間に関しては、労働基準法第32条に基づいた上限があり、「1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない(休憩時間を除く)」と定められています。これを法定労働時間といいます。
企業側が繁忙期などで法定労働時間を超えて労働させたい場合は、労働者と36協定を締結する必要があります。36協定とは「時間外・休日労働に関する協定届」のことです。この届出を行なうことで、月45時間・年360時間までなら、法定労働時間を超えて労働させることができます。
ただし、特別な事情があったり、労使が合意していたりする場合でも、以下を超えてはいけません。
- 年720時間以内
- 2~6ヵ月平均で80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
また、36協定の原則である月45時間を超えることができるのは、年間6ヵ月までとなっています。
長時間労働かどうかを判断する際には、36協定の「月45時間・年360時間」を目安とするとよいでしょう。
長時間労働の基準(2)労災認定の基準(過労死ライン)
2つ目は、労働災害として認定される、いわゆる「過労死ライン」の基準です。長時間労働は深刻な健康被害をもたらすリスクがあるため、厚生労働省は危険度が高いレベルの長時間労働を過労死ラインとして定めています。
厚生労働省の定める過労死ラインは以下のとおりです。
- 発症前1ヵ月間に約100時間の時間外・休日労働が認められる場合
- 発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、月約80時間超の時間外・休日労働が認められる場合
つまり、時間外労働が月に80時間以上を超えると長時間労働と判断される可能性があります。
長時間労働の基準(3)精神疾患に関する労災認定基準
3つ目は「精神疾患の発症による労働災害認定」の基準です。長時間労働は、精神障害発症の原因になる可能性があります。そのため、厚生労働省は精神疾患発症を引き起こす可能性のある長時間労働の評価として、以下のような例を挙げています。
- 発病直前の1か月間におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合
- 転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合
あくまで目安ではありますが、上記のような働き方は長時間労働と判断される可能性が高いことを認識しておきましょう。
【長時間労働の基準】休憩時間の取り扱いはどうなる?
長時間労働について考える際に知っておきたいのが、です。休憩時間の取り扱いを誤ると、違法行為と判断されるケースがあるため注意が必要です。ここでは、企業としての休憩時間の取り扱い方法と注意点を解説します。
休憩時間は労働時間に含まれるのか
休憩時間は労働時間に含まれません。労働基準法第34条において、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならないと定められています。
そのため、法定労働時間(1日8時間・週40時間という労働時間の上限)の計算をする際には、休憩時間を除いて計算しなければいけません。
休憩時間はどのように取るべきなのか
先述したとおり、休憩時間は労働時間に含まれないため、賃金は支払われません。そのため、使用者は労働者に「自由な休憩時間」を与えなくてはならないと定められています(労働基準法第34条第3項)。
仮に、休憩時間中に電話対応や来客対応などをした場合、その時間は労働時間として取り扱い、別途休憩を与えなければならないことを押さえておきましょう。そのほか、ランチミーティングへの強制参加やトラブルへの対応などを休憩時間に行なった場合も、「自由な休憩時間」とはいえません。
なお、労働基準法では休憩時間を「分割」して与えることに関しては明記されていないため、分割して休憩を取ることは問題ないとされています。
休憩なしで仕事をさせても良いのか
休憩時間なしで仕事をさせる場合は、労働時間を6時間以内にしなければなりません。業務時間が6時間を超える場合、休憩なしで仕事をさせると法律違反となり、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります(労働基準法第119条)。
また、労働時間が6時間を超える場合の休憩時間は、労働時間中に取らなくてはなりません(労働基準法第34条)。
業務が始まる前や業務がすべて終わってからなど、労働時間の前後に休憩時間を取ることは認められず、「労働時間の途中」に与えなければならないため注意しましょう。
長時間労働者には面談実施が必要!労働時間の基準とは?
長時間労働は労働者の健康に害をもたらす可能性が高いため、長時間労働者への面談実施が必要です。ここでは、面談実施の概要や対象となる労働者の基準、面談実施において事業者が行なうべきことを説明します。
長時間労働者への面接実施の概要
長時間労働による疲労の蓄積は、脳・心臓疾患や精神障害との関連性が認められています。労働者の健康障害の発症を防ぎ、健康的に働き続けることができるよう、事業者は長時間労働者に対して、医師(できる限り産業医が望ましい)による面談を実施しなければなりません。
対象となる長時間労働者の基準
厚生労働省が定める、面談の対象となる「長時間労働者」の定義は以下のとおりです。
- 労働者:1ヵ月あたりの時間外・休日労働が80時間超、かつ疲労の蓄積がある者
(面談は本人の申出により実施)。
※月80時間を超える時間外・休日労働を行なった者については、申出がない場合も面談を行なうよう努める必要がある。また、月45時間を超える時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認められた者に対しては、面接指導などの措置を講じることが望ましい。 - 研究開発業務従事者:上記(労働者)の基準に加えて、1ヵ月あたりの時間外・休日労働が100時間を超えた者。
- 高度プロフェッショナル制度適用者:1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた場合、その超えた時間について、1ヵ月あたり100時間を超えた者。
労働時間の把握・情報提供
長時間労働者に対して必要に応じた対応を行ない、健康障害を防ぐために、事業者は、労働者の1ヵ月あたりの労働時間・健康管理時間を正しく把握しなければなりません。労働者の自己申告制ではなく、タイムカードを用いるなどして、労働者の始業・終業時刻を正確に確認しましょう。
事業者が行なうべき措置については、厚生労働省によるガイドラインで提示されています。
労働時間は、産業医が労働者の健康管理を行なうために必要な情報でもあります。正確な労働時間を把握した結果、面談対象者となる労働者がいた場合は、必要な情報を速やかに産業医に提供しましょう。
まとめ
今回は、長時間労働の具体的な目安や休憩時間の取り扱い方法のほか、医師(産業医)による面談実施の概要について解説しました。
長時間労働は労働者の健康を脅かす危険な働き方です。そのため、事業者には、労働時間の適切な把握や医師(産業医)への情報提供、面談実施など労働者を守るための対応が求められます。
しかし、実際に長時間労働者が発生した際や産業医の面談が必要となった際に、「何から手をつけたらいいのかわからない」「そもそも産業医がいないので、面談ができない」といった悩みを抱える企業担当者の方も多いかもしれません。
そのようなケースでおすすめしたいのが、「リモート産業保健」のサービス利用です。
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