労働安全衛生法では常時50人以上の事業場に産業医の選任義務がありますが、産業保健師の配置を義務づける規定はなく、置くかどうかは企業の判断に委ねられています。産業医だけで日常の健康相談や保健指導まで手が回らないと感じつつも、看護師との違いや必要な人数、コストに見合うかを判断できず、検討が止まっている人事労務担当者も少なくありません。本記事では、産業保健師の定義と産業医との4つの違いを整理したうえで、具体的な仕事内容、企業規模別に必要な人数の目安、選任するメリットと設置時の注意点までを、公的統計を交えて解説します。
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この記事でわかること
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【1】産業医と産業保健師の4つの違い(選任義務・業務内容・資格・働き方) -
【2】産業保健師の主な仕事内容 -
【3】企業規模別に必要な人数の目安(公的統計) -
【4】選任するメリットと設置時の注意点
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産業保健師とは?企業で働く保健師の位置づけ
産業保健師とは、企業に勤務し労働者の健康管理を担う保健師を指します。
保健師助産師看護師法第2条は、保健師を「厚生労働大臣の免許を受けて保健指導を行う者」と定めています。また同法第29条により、保健師でない者が「保健師」の名称を用いることも認められていません。
保健師には、代表的な例として、企業に勤務する産業保健師のほか、保健所などで働く行政保健師、病院に勤務する保健師、学校に配置される学校保健師などが挙げられます。本記事で扱う「産業保健師」は、このうち企業・事業場に勤務する保健師を指します。
産業医と産業保健師の4つの違い
産業医と産業保健師は、いずれも企業の健康管理に関わる専門職ですが、法律上の位置づけや業務範囲、資格、働き方において明確な違いがあります。ここでは代表的な4つの違いを表で整理します。
| 比較項目 | 産業医 | 産業保健師 |
|---|---|---|
| 選任義務 | 常時50人以上の事業場に選任義務あり | 法令上の選任義務なし(配置は任意) |
| 業務内容 | 健診結果に基づく意見形成、面接指導、職場巡視など | 健康相談、保健指導、ストレスチェックの実施者など |
| 資格 | 医師(労働安全衛生規則の定める要件を満たす医師) | 保健師(国家資格。名称独占・業務独占) |
| 働き方 | 非常勤で定期訪問する形態が多い | 常勤の従業員として社内に常駐するケースが多い |
産業医と産業保健師の違い(1)選任義務
産業医の選任義務は労働安全衛生法第13条に規定されていますが、対象となる事業場の規模(常時50人以上)は同条ではなく、労働安全衛生法施行令第5条に定められています。
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。
一方、産業保健師の配置を義務づける規定は現行法にはなく、企業の判断で配置するかどうかを決めることになります。選任義務の詳しい要件は、産業医の選任義務の記事でも解説しています。
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産業医の選任義務とは?対象事業場・50人以上の条件・罰則をわかりやすく解説
産業医と産業保健師の違い(2)業務内容
産業医は医師としての専門的知見に基づき、健康診断の結果を踏まえた意見形成や職場巡視など、事業者への助言・指導を中心に担います。一方、産業保健師は労働者に近い立場から健康相談や保健指導などの実務を担う役割です。厚生労働省の指針でも、産業医や衛生管理者、保健師などを事業場内産業保健スタッフとして位置づけ、役割分担のうえで連携する体制づくりを求めています。
産業医と産業保健師の違い(3)資格
産業医は医師でなければならず、労働安全衛生規則が定める研修等の要件を満たす医師のうちから選任されます。一方、産業保健師は保健師助産師看護師法に基づく国家資格である保健師です。同法により、保健師でない者は「保健師」の名称を用いて保健指導を行うことができず、名称独占・業務独占の資格です。
産業医と産業保健師の違い(4)働き方
産業医は非常勤で定期的に事業場を訪問する形態が一般的で、複数の事業場を掛け持ちするケースも少なくありません。一方、産業保健師は常勤の従業員として社内に常駐し、日常的な健康管理業務を担うケースが多く見られます。ただし、事業場の規模や契約形態によって実態は異なるため、自社に合った体制については産業医とも協議のうえで決めることが望ましいでしょう。
産業保健師の主な仕事内容
産業保健師は、産業医と連携しながら、企業における日常的な健康管理業務を幅広く担っています。健診結果のフォローから、ストレスチェックの実施、衛生委員会の運営支援まで、業務範囲は多岐にわたります。主な仕事内容は次のとおりです。
- 健康相談――
労働者からの日常的な健康相談への対応 - 健康診断後のフォロー――
健診結果に基づく保健指導 - ストレスチェックの実施――
実施者として調査票の集計や高ストレス者への対応 - 衛生委員会の運営支援――
資料作成や進行のサポート - 職場巡視――
産業医と連携した作業環境の確認 - 健康セミナーの企画・実施――
労働者向けの啓発活動
このうちストレスチェックの実施者については、労働安全衛生規則第52条の10で保健師が明記されています。
法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。一 医師 二 保健師 三 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
ストレスチェックの実施体制について詳しくは、ストレスチェック実施者の要件の記事もご覧ください。
企業に産業保健師は何人必要か?従業員規模別の配置状況
産業保健師を何人配置すべきかは、企業の規模によって目安が異なります。日本看護協会が実施した調査から、事業場規模別の配置人数の中央値を見てみましょう。
事業場の産業保健師等の合計人数(中央値)は、事業場の規模が「50人未満」で1人、「50人以上~500人未満」で1人、「500人以上~1000人未満」で2人、「1000人以上~3000人未満」で3人、「3000人以上」で8人であった。
なお、この人数集計の対象はn=792です(調査全体の回収数n=915とは集計対象が異なります)。
事業場の産業保健師等の合計人数が「1人」と回答した者は34.6%であった。「2人以上」は、事業場の全労働者数の規模との間で正の相関が見られ、全労働者数が1000人以上の事業場では約9割を占めていた。
この結果から、従業員数が1,000人を超えるあたりから、複数名体制が一般的な水準になっていることがわかります。自社の規模でどの程度の体制が必要かは、上記の目安を参考にしつつ、最終的には産業医にも相談しながら判断することをおすすめします。
産業保健師を選任する4つのメリット
産業保健師を選任することで、産業医だけでは対応しきれない日常的な健康管理体制を強化できます。前章で見た配置人数の目安も踏まえ、実際にどのような効果が期待できるのか、代表的な4つのメリットを紹介します。
- 産業医だけでは対応しきれない日常的な健康相談に、常勤の立場で対応できる
- 健康診断結果のフォローアップ体制を強化できる
- メンタルヘルス不調への初期対応を厚くできる
- 産業医と事業者との情報伝達をスムーズにできる
産業看護職全般の業務内容については、産業看護師の役割の記事でも紹介しています。
産業保健師を設置する際の注意点
産業保健師の設置を検討する際は、守秘義務への対応と設置コストという、事前に押さえておきたい注意点が2つあります。
産業保健師にも守秘義務が課せられている
産業保健師も、労働安全衛生法第105条に基づく守秘義務の対象になり得ます。ただし、条文に「保健師」という語そのものは明記されておらず、健康診断やストレスチェックなど特定の実施事務に従事した者を対象とする包括規定です。保健師がストレスチェックの実施者(労働安全衛生規則第52条の10)である場合に、この包括規定の対象に含まれるという間接的な適用構造になっています。
第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
設置コストの発生と外部サービスの活用
産業保健師を自社で雇用する場合、給与に加えて社会保険料や採用・教育のコストが発生し、採用から実働までに一定の期間もかかります。人員の確保が難しい場合は、外部の産業保健サービスを活用し、必要な支援を月額固定の料金で受ける選択肢もあります。自社雇用と外部活用のどちらが適切かは、対応させたい業務範囲や予算によって異なるため、比較したうえで判断することが望まれます。産業医の費用相場については産業医の費用・料金相場、外部委託の探し方については産業医紹介サービスの選び方の記事でも解説しています。

(図:産業保健師導入までの4ステップ)
(編集部作成)
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産業保健師と産業看護職の違い
産業保健師と産業看護職は、いずれも企業で働く看護職ですが、両者を分ける結論は保健師免許の有無です。産業保健師は保健師免許を持つ者を指し、看護師免許のみを持つ産業看護職とは、名称の使用や業務範囲について法的な位置づけが異なります。両者の資格の違いや業務内容の詳細は、産業看護師の仕事内容や産業看護師の役割の記事で詳しく解説しています。
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よくある質問
ここでは、産業保健師の役割や産業医との違い、外部サービスの活用方法など、人事労務担当者からよく寄せられる質問をまとめました。導入を検討する際の判断材料としてご活用ください。
- Q,産業保健師の役割は?
- A
労働者の健康相談や保健指導、産業医と事業者の橋渡しなど、企業における日常的な健康管理を担います。
- Q,産業医と産業保健師の違いは?
- A
産業医は医師で選任義務がありますが、産業保健師は保健師免許を持つ者で、配置は任意です。
- Q,産業保健師と産業看護師は同じですか?
- A
異なります。保健師免許を持つ者が産業保健師、看護師免許のみを持つ者が産業看護職です。
- Q,産業保健師を社内に置かず対応する方法はありますか?
- A
外部の産業保健サービスと契約し、必要な範囲の支援を受ける方法があります。
- Q,企業規模に応じた必要人数の目安は?
- A
日本看護協会の調査では、事業場規模が大きいほど配置人数の中央値が増える傾向が見られます。最終的な体制は、産業医の意見も踏まえて決定することをおすすめします。
まとめ
本記事では、産業保健師の定義や産業医との4つの違い、主な仕事内容、企業規模別に必要な人数の目安、選任するメリットと注意点を解説しました。産業医だけでは手が回らない日常的な健康管理を強化したい場合、産業保健師の配置や外部の産業保健サービスの活用は有効な選択肢です。リモート産業保健では、産業医と産業看護職の2名体制による支援を月額3万円〜のプランで提供しており、産業医面談やストレスチェック、衛生委員会の支援など、人事労務担当者の産業保健業務を幅広くサポートしています。
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