産業医を目指したいと思っても、何から始めればよいのか分からず、手が止まっていませんか。
産業医になるには、医師免許に加えて、労働安全衛生規則で定める要件を満たす必要があります。要件を満たす方法には、医師会の基礎研修の修了、産業医科大学の講座の受講、労働衛生コンサルタント試験への合格などがあります。
ただし、医師免許だけでは産業医にはなれません。また、方法によって窓口や日程が異なります。たとえば、研修を修了しただけでは、日本医師会の認定産業医(日本医師会が認定する産業医)として認定されるわけではなく、別に申請の手続きがあります。この記事では、産業医の要件、3つの方法、認定産業医の登録申請と更新までの流れをご紹介します。
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この記事でわかること
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【1】産業医の要件(労働安全衛生規則に定められた5つの要件) -
【2】産業医になる3つの方法(医師会の基礎研修・産業医科大学の講座・労働衛生コンサルタント試験) -
【3】認定産業医の登録申請の手順と、更新の条件
産業医とは、事業者が選任し、労働者の健康管理等を行わせる医師
産業医は、事業者が医師のうちから選任(選んで任命すること)し、労働者の健康管理その他の厚生労働省令(国が定める細則)で定める事項を行わせる者です。この仕組みは、労働安全衛生法第13条第1項に定められています。
条文では、「労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項」を「労働者の健康管理等」と呼んでいます。事業者は、一定の規模の事業場(事業を行う場所)ごとに、医師のうちから産業医を選任しなければなりません。
産業医の仕事の中身は、産業医の役割と面談を解説した記事で詳しく解説しています。
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産業医になるには、医師免許に加えて、労働安全衛生規則で定める要件を満たす必要がある
産業医になるには、医師免許に加えて、労働安全衛生規則で定める要件を満たす必要があります。医師であれば誰でも産業医になれるわけではなく、規則に定められた要件のいずれかを備えた医師から、産業医が選ばれます。
産業医の要件は、労働安全衛生法第13条第2項に基づき、厚生労働省令で定められています。その省令にあたるのが労働安全衛生規則第14条第2項で、第1号から第5号までの5つの要件が並んでいます。
5つの要件は、次のとおりです。
第1号の研修を行う機関として、厚生労働省の資料では日本医師会と産業医科大学が示されています。どの要件で満たすかによって、受ける研修や試験の窓口が変わります。
産業医の養成研修を修了した医師の数はどのくらい?
産業医の要件を満たす医師が、実際にどれくらい出ているのかは、厚生労働省が年度ごとの数を公表しています。次の表は、平成24年度から平成27年度までの、日本医師会の研修と産業医科大学の研修の修了者数、および産業医科大学の卒業生の数です。
| 年度 | 日本医師会の研修の修了者(人) | 産業医科大学の研修の修了者(人) | 産業医科大学の卒業生(人) |
|---|---|---|---|
| 平成24年度 | 1,662 | 901 | 94 |
| 平成25年度 | 1,687 | 630 | 92 |
| 平成26年度 | 1,691 | 1,017 | 98 |
| 平成27年度 | 2,401 | 996 | 101 |
出典:厚生労働省「現行の産業医制度の概要等」。掲載されているデータは、平成27年度までです。
日本医師会の研修の修了者は、どの年度も産業医科大学の研修の修了者を上回り、平成27年度は2,401人でした。産業医科大学の卒業生は、いずれの年度も92人から101人でした。
産業医になる方法には、医師会の基礎研修・産業医科大学の講座・労働衛生コンサルタント試験がある
産業医になる方法は、医師会の基礎研修、産業医科大学の講座、労働衛生コンサルタント試験の3つに整理できます。医師会の基礎研修は、日本医師会と都道府県医師会が実施します。産業医科大学の講座には、集中講座と基本講座があります。労働衛生コンサルタント試験は、保健衛生の区分に合格すると、労働安全衛生規則第14条第2項第3号の要件に当たります。

(図:産業医になる3つの方法)
(編集部作成)
医師会の基礎研修で50単位以上を取得する
日本医師会の認定産業医制度では、基礎研修で50単位以上を取得することが必要です。1時間の研修を1単位と数え、前期研修・実地研修・後期研修の3つに分かれています。内訳は、日本医師会の認定産業医の手引(令和5年10月)に示されています。
前期研修は、総論(2単位)、健康管理(2単位)、メンタルヘルス対策(1単位)、健康保持増進(1単位)、作業環境管理(2単位)、作業管理(2単位)、有害業務管理(2単位)、産業医活動の実際(2単位)の8項目です。8項目の研修は、それぞれの単位の修得が必要です。
実地研修は、主に職場巡視などの実地研修や、作業環境測定実習などの実務的な研修です。
基礎研修会は、日本医師会と都道府県医師会が実施します。前期・実地・後期の合計で50単位以上が必要なため、働きながら受ける場合は、研修の日程に合わせて受ける時期を組み立てることになります。
産業医科大学の産業医学基礎研修会集中講座を受ける
産業医学基礎研修会集中講座は、産業医科大学が開く、労働安全衛生法上の産業医の資格が得られる研修会です。修了すると、日本医師会への申請により、日本医師会認定産業医の資格も得られます。
令和8年度の集中講座は、次のとおり開催されました。令和8年度分の申込の受付は終了しています。
日程や申込期間は年度ごとに変わります。令和9年度以降の受講を考えるときは、産業医科大学の集中講座のページで最新の案内を確認できます。
北九州の集中講座とは別に、産業医科大学と日本医師会が共同で開く、日本医師会認定産業医制度基礎研修会があります。産業医科大学の案内では「東京集中講座」の名称で紹介されていますが、令和8年度の会場はつくば国際会議場(茨城県つくば市)です。第1クールは令和8年12月7日(月)から12日(土)、第2クールは令和9年2月14日(日)から19日(金)で、受付はすでに終了しています。
この研修会では、先着順で受け付けた1,280名の中から、産業医活動を1年以内に始める人を優先して640名を抽選で決める仕組みでした。基礎研修50単位を修了した医師には、日本医師会への申請により、日本医師会認定産業医の認定証が交付されます。
集中講座の修了者は、修了認定書を使って、認定産業医の新規申請ができます。申請は、修了認定の日から5年以内に1回限りです。
産業医科大学の産業医学基本講座を受ける
産業医科大学の産業医学基本講座は、開催地ごとに期間が決められた講座です。令和8年度は、産業医科大学(北九州市)と東京の2か所で開催されました。
集中講座の日程が月曜から土曜までなのに対し、基本講座は北九州でも東京でも1か月以上にわたって開かれます。開催期間の長さの面で、2つの講座には違いがあります。東京の会場は、産業医科大学の東京事務所(東京都千代田区)またはJR神田駅近辺です。
全授業科目の履修認定を受けた人には、産業医学基本講座修了認定書(産業医科大学産業医学ディプロマ)が授与されます。あわせて、規定に基づく講習を修了した人としての修了証も授与されます。
基本講座の修了者も、集中講座と同じく、修了認定の日から5年以内に1回限り、認定産業医の新規申請ができます。詳しい開催案内は、産業医学基本講座のページに掲載されています。
労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)に合格する
労働衛生コンサルタント試験は、保健衛生の区分に合格すると、労働安全衛生規則第14条第2項第3号の産業医の要件に当たります。試験の区分は、労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタント規則で保健衛生と労働衛生工学の2つに分かれており、産業医の要件に当たるのは保健衛生です。
医師は、この規則により、筆記試験の一部が免除されます。厚生労働大臣が指定する法人が行う講習を修了した人は保健衛生の全科目、それ以外の人は保健衛生のうち労働衛生一般と健康管理が免除されます。
筆記試験の全科目が免除される講習は、次の3つです。安全衛生技術試験協会の資格紹介に掲載されています。
注意したいのは、産業医研修である認定産業医研修会や基礎研修会は、免除の対象に含まれないことです。認定産業医の認定証も、免除の資格を示す書類にはなりません。
3つの方法の違いを比べる
3つの方法を、実施や案内をする機関、受講や受験の形、日程や申込の目安で比べると、次の表のとおりです。令和8年度の日程には終了したものも含まれるため、次の年度の日程は各機関の公式ページで確かめる必要があります。
| 方法 | 実施・案内する機関 | 受講や受験の形 | 日程や申込の目安 |
|---|---|---|---|
| 医師会の基礎研修 | 日本医師会、都道府県医師会 | 基礎研修50単位以上(前期14単位以上、実地10単位以上、後期26単位以上) | 日程は、日本医師会雑誌や全国医師会産業医部会連絡協議会のホームページなどに掲載 |
| 産業医科大学の集中講座 | 産業医科大学 | 令和8年度は北九州国際会議場で2クール開催。受講料は160,000円(税込) | 令和8年度は、第1クールが7月27日から8月1日、第2クールが8月3日から8月8日。申込は4月1日から4月7日 |
| 産業医科大学の基本講座 | 産業医科大学 | 令和8年度は北九州市と東京で開催 | 令和8年度は、北九州市が4月7日から5月20日、東京が6月2日から10月15日 |
| 労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分) | 安全衛生技術試験協会 | 保健衛生の区分に合格する。医師は筆記試験の一部が免除される | — |
方法によって、必要な期間と受けられる時期が異なるため、受けたい講座や取りたい資格と、確保できる期間を照らし合わせて選ぶことになります。
認定産業医の登録申請は、研修修了後に都道府県医師会へ書類を提出して行う
認定産業医の登録申請は、研修を修了したあとに、所属の都道府県医師会へ書類を提出して行います。医師会員でない医師は、勤務地の都道府県医師会が提出先です。
産業医の法令上の要件は、労働安全衛生規則第14条第2項の各号に定められています。認定産業医は、日本医師会が認定する制度です。認定産業医の登録申請は、日本医師会の認定を受けるための手続きです。
医師会の研修による場合の流れは、厚生労働省の資料に整理されています。日本医師会または都道府県医師会が研修を実施し、受講した単位は、日本医師会が交付する産業医学研修手帳にシールを貼って記録します。研修をすべて修了した人が日本医師会に申請し、日本医師会が「日医認定産業医」として認定します。
申請できる期限は、基礎研修の最終受講日から5年以内で、申請は1回限りです。日本医師会の手引は、50単位を修了したあと、できる限り速やかに申請するよう案内しています。産業医科大学の基本講座・集中講座の修了者は、修了認定の日から5年以内に1回限り申請できます。審査・登録料は10,000円です。
提出する書類は、認定産業医新規申請書、医師免許証の写し、産業医学研修手帳(Ⅰ-1)の3つです。産業医学研修手帳(Ⅰ-1)は、基礎研修50単位以上のカリキュラムを修了したことが証明されているもので、産業医科大学の産業医学基本講座修了認定書や、産業医学基礎研修会集中講座修了認定書などでも提出できます。医師会員の場合は、医師免許証の写しは不要です。
申請を受けた都道府県医師会長は、申請者の基礎研修の受講状況などを審査したうえで、日本医師会長に申請します。日本医師会長は、都道府県医師会を通じて申請された医師について審査を行い、認定して認定証を交付します。認定の有効期間は5年です。

(図:認定産業医の登録申請の流れ)
(編集部作成)
認定産業医の制度の位置づけは、認定産業医と他の産業医の違いを解説した記事で詳しく解説しています。
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認定産業医は5年ごとに更新が必要
認定産業医は、5年ごとに更新申請をします。更新に向けて、認定証を取得してからの5年間に、生涯研修を20単位以上修得する必要があります。生涯研修も、1時間の研修を1単位と数えます。
20単位の内訳は、更新研修が1単位以上、実地研修が1単位以上、専門研修が1単位以上で、合計20単位以上です。
更新申請の提出書類は、認定産業医更新申請書と、産業医学研修手帳(Ⅱ-1)などです。産業医学研修手帳(Ⅱ-1)は、生涯研修20単位以上のカリキュラムを修了したことが証明されているものです。審査・登録料は10,000円で、所属の都道府県医師会(医師会員でない医師は勤務地の都道府県医師会)に提出します。
WEB研修会で取得した単位のうち、更新時に使えるのは、20単位のうち最大5単位以内です。WEB研修会の対象は更新研修と専門研修のみで、実地研修は対象外です。そのため、WEB研修だけで20単位をそろえることはできません。
更新を含め、認定産業医の制度全体と他の産業医との違いは、認定産業医と他の産業医の違いを解説した記事で解説しています。
企業が選任する産業医も、法令の要件を備えた医師でなければならない
産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について、厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならないと、労働安全衛生法第13条第2項に定められています。この条文は、企業が選任する産業医にも当てはまります。そのため、企業が産業医を選ぶときも、医師であることに加えて、要件を備えているかどうかが前提になります。
産業医の選任義務の内容は、産業医の選任義務を解説した記事で詳しく解説しています。
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まとめ
産業医になるには、医師免許に加えて、労働安全衛生規則第14条第2項に定める要件を満たす必要があります。方法は、医師会の基礎研修で50単位以上を取得する、産業医科大学の講座を受ける、労働衛生コンサルタント試験の保健衛生区分に合格する、の3つです。研修を修了したあと、日本医師会の認定産業医として認定されるには新規申請をして審査を受け、認定後は5年ごとの更新で生涯研修20単位以上が必要です。日程や申込期間は年度ごとに変わります。
産業医の資格に関するよくある質問
産業医の資格について、よくある3つの質問に答えます。
- Q,産業医の資格は、どのくらいの期間で取得できる?
- A
取得にかかる期間は、方法によって異なります。令和8年度は、産業医学基礎研修会集中講座が7月27日から8月8日にかけての2クール(各クールは月曜から土曜まで)、産業医学基本講座が北九州市で4月7日から5月20日、東京で6月2日から10月15日の開催でした。医師会の基礎研修は50単位以上を取得する形で、労働衛生コンサルタント試験は保健衛生の区分への合格が必要です。日程は年度ごとに変わります。最新の案内は各機関の公式ページに掲載されています。
- Q,産業医になるには医師免許が必要?
- A
産業医になるには医師免許が必要です。根拠は2つあります。1つ目は、産業医が医師のうちから選任されると、労働安全衛生法第13条第1項に定められていることです。2つ目は、医師法第17条が、医師でなければ医業をしてはならないと定めており、医業を行えるのは医師に限られることです。
- Q,産業医の研修の開催情報や申込時期は、どこで確認できる?
- A
基礎研修会は、日本医師会と都道府県医師会が実施しています。日程などは、日本医師会雑誌や全国医師会産業医部会連絡協議会のホームページなどに掲載され、同協議会に登録したメールアドレス宛にも研修会の情報が届きます。産業医科大学の講座は、集中講座のページと基本講座のページが公式の案内です。申込時期は年度によって変わります。最新の開催案内は、上記の雑誌やページに掲載されます。
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